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シーズン5-ビージアイナ決戦編
109-清々しいまでのタコ殴り
しおりを挟む「高速艦隊、そのまま降下! その後、各自散開、ランダムな対象に旋回し継続攻撃!」
ペガサス、ウェーブライナー、アロー、クルセイダーの混合艦隊が、ビージアイナ艦隊へと突撃する。
人間の手によって操作されている砲撃では、それぞれをオーロラが操る高速艦隊に攻撃を充てることはできず、接近を許してしまった艦隊に待っていたのは、無慈悲な精密射撃であった。
「艦長、どうされますか!?」
「落ち着け、敵は攻撃後撤退する筈! その背を撃て!」
だが、艦隊にとって全く予想外の事が起きた。
フリゲート艦隊は、艦隊を通過後、それぞれが統率を失ったようにバラバラに動き出したのだ。
『ダメだ、当たりません! くっ、シールドが――――ビージアイナ万歳!』
フリゲート艦隊による攻撃はその後五分間続く。
そして、
「事前のルートに従い三グループに別れて各個離脱!」
『了解』
高速艦隊は三つに分かれて離脱し、ワープアウトする。
完全に混乱した指揮系統の艦隊の周囲に、長射程艦がワープし打撃を加える。
「ユリシーズ、天空騎士団に出撃を命じろ」
『了解。天空騎士団は総員出撃せよ』
ユリシーズから、エインハージとクロスアームの編隊が出撃する。
どちらも、単純な火力に長けた艦載機である。
『うぉおおお、シン様の為に!』
『どちらかといえば家族の為に!』
戦闘機に対して迎撃を行いたいビージアイナ艦隊だったが、カノープスとエクサシズムによる遠距離挟撃を受け、思うように攻撃が行えない。
普段の軽戦闘仕様とは違い、今回は全ての機体がミサイルを装備している。
『第二編隊、攻撃開始!』
『続いて、第三編隊、1番ミサイル発射!』
地球製の戦闘機用ミサイルとは比較にならない威力を持つミサイルが放たれ、直撃した大型艦の横っ腹に大穴を開ける。
そこに別の編隊が襲い掛かり、射撃を加えて機関部の誘爆を誘い、轟沈させる。
そして...
『な、何だこの機体は!』
『速すぎる、捕捉できな、うわぁあああっ!』
戦場を凄まじい速度で駆け抜ける一機の戦闘機が、シールドのなくなったフリゲート艦隊の間をすり抜け、的確な射撃で沈めていた。
その名はスワロー・エッジ。
ルルの乗る戦闘機である。
対空砲火の雨霰を、その圧倒的な超速度で振り切り、残像を発生させながら飛ぶ。
「凄い...!」
それを、機内のルルは楽しげな目で見ていた。
怖くて行わなかった、フルスロットルでの戦闘機動。
だがそれは、スラスターとSWDの併用による神速の機動。
『お姉ちゃん! 四時の方向から高速誘導ミサイル! このままだと、味方の編隊に直撃するよ!』
「分かったわ...覚醒っ!」
SWDがオーバードライブ状態になり、ルルは慣性制御によるGの抑制上限を超えた速度の世界へと足を踏み入れる。
余りにも速度が速すぎるせいで、ルルの覚醒...短時間とはいえ、身体能力と思考能力を大幅に増大させるそれを使わなければ、制御不能に陥る一手である。
だがそれは、大いなる効果を齎した。
「あの機体は一体なんだ!? まるで瞬間移動ではないか!」
ハーマン艦長の叫びは尤もであろう。
一機の戦闘機が、戦場の端から端まで一瞬で移動し、直後ミサイルが爆発し、また元の場所へと戻ったのだから。
「分かりません、速度が速すぎてスキャンが出来ません!」
「ええい、囲んで叩け!」
『そうはさせないっ!』
スワロー・エッジに攻撃が集中するが、突如現れた重爆撃機レイザー・ストリームの編隊が、フリゲート艦隊に向けてボムを投射する。
ボムの連続爆発により、フリゲート艦隊の中央部が消し飛び、全体の密度が低下することとなった。
『全機離脱!』
『あとは俺らに任せな!』
エインハージ編隊がレイザー・ストリーム編隊の撤退を支援するように動き、両編隊が一瞬交差する。
同時に、シンの指示が飛ぶ。
『長射程艦隊は、直ちにワープアウト! ワープ妨害艦は再度突入して妨害フィールドを構築! 高速艦隊、再突入ののち離脱せよ! イシュタル、ハイパーリンク含めシンビオシス、ガウェイン艦隊ワープ開始! 到着後ドローンを展開して畳み掛けろ!』
指示を受けて長射程艦隊がワープで離脱、その穴を埋めるようにしてワープインしてきた高速艦隊とワープ妨害艦隊が同時に突入し、ランダム軌道で離脱する。
撹乱行為で敵の指揮系統に混乱を与え、そこにイシュタルとハイパーリンクというドローン指揮に長けた艦船が突入し、遅れてやってきたシンビオシスが、フリゲート艦に対して攻撃を行い始めた。
『軽戦闘機はフリゲート艦隊ではなく、大型艦隊へスイッチ! 重爆撃機は一度帰投し、爆雷を装填ののちウィング隊形でリーダー機にアンカー、攻撃と同時に離脱して帰投、これを繰り返すこと!』
そして、ネムの指示もまた天空騎士団へと届き、天空騎士団の面々はフリゲートから離れ、大型艦隊に攻撃を始める。
「船体破損率62%! もう、持ちません!」
「第三砲塔大破! 火器管制システムに妨害をかけられてます! システムに異常発生、ウイルスです!」
「一体...何なのだ...!」
ハーマン艦長は絶望を通り越して微笑んでいた。
清々しいまでのタコ殴りである。
そして同時に、悟る。
「数だけではだめだ、こいつらには...知謀と強く速い船で無ければ...勝てない!」
「...機関部に被弾! 艦長、離艦を推奨します!」
「...仕方あるまい、使用可能な脱出艇を利用して、脱出せよ!」
軽戦闘機による集中砲火を浴びたクーデルハイドは、出発前の姿とは全く異なる様相を呈していた。
それでも何とかハーマン艦長は脱出艇を使い、真っ先に離脱する。
自分が先に離脱すれば、部下たちも遠慮なく逃げられるうえ、逃げられるところまで逃げれば通信で詳細の報告もできる。
安堵したハーマンだったが、直後。
「な、何だ...?」
脱出艇は粉々になり、ハーマン艦長含め数人は宇宙へと放り出された。
遠くなっていく意識の中で、艦長は呟いた。
「この...悪魔共め...」
こうして旗艦クーデルハイドは艦長の後を追うように撃沈され、残党艦隊も遅れて到着した妨害艦隊によって動きを封じられた上で集中砲火の中轟沈する事となったのだった。
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