キング・デバイス

黴男

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格納庫から飛び出したナユタは、蹲るようにして倒れたブルータルに近づいた。

「もう...無駄よ...」

だが、彼を別の声が止めた。
コックピットから這い出して来たミユキが、絞り出すように言った。

「操縦系に無理させすぎたわ、操縦桿の油圧が完全に潰れてるの」
「関係ありません」

ナユタはブルータルに登っていく。
信じられないものを見たように、ミユキは叫ぶ。

「無理よ! 仮に操縦できたとして、貴方はまだ...」
「だから、関係ないって言ってるだろう! おい、そこのクソ王子!」

ナユタはコックピットのハッチの上で、堂々と佇むバドックⅢに向けて叫んだ。

『なんだい、愚民』
「対戦相手を僕に変更しろ、この勝負は僕が引き継ぐ!」
「どうして!」

ミユキが立ちあがろうとするが、それより前にナユタがコックピットに入った。
ハッチを閉め、操縦桿を握りしめたナユタは、機体の外部スピーカーに音声出力を変更する。

『...名誉をかけた戦いなら、僕が負ければ、貴方の名誉は傷付かない』
「それが...何の関係があるって言うのよ!?」
『僕は、貴方の名誉が僕のために傷付くのが嫌だ、僕はいいんです、何度だって負けられる。恥なんて、僕には痛くも痒くもない!』
「それじゃ意味がないのよ! 私は貴方の為に!」
『聞いてください、先輩! 僕は...貴方の為なら、何度だって...何度だって負けてやる』

コックピットの中で、ナユタは涙を流していた。
色々な想いが入り混じった涙を。
それでも、直感という名の閃きが齎した結果に全てを賭けていた。

『この戦いに負ければ、僕は試合中に貴女の機体を奪い取り、あまつさえ負けた恥知らず扱いされるでしょう』
「どうして貴方が...そんな事を」
『理由なんか、必要ない! 貴族なんか知ったことか! ですが...僕は、貴方があんな卑怯な相手に負けるところを見たくありません! だったら、何度だって、僕が貴方の代わりに負けます! 負けるのは得意だから!』

ナユタは叫んだ。
その叫びの最後は掠れていた。
息を整え、そして慎重に相手を睥睨する。

「動いてくれ...頼む...」
『システム認証、完了』

その時。
ナユタが握っていた操縦桿が、唐突に収納された。
そして、ナユタを覆うように、機材が展開されていく。

「な...なんだ!?」
『K I N G D E V I C E』

円周モニターが全てそんな文字に一瞬覆い尽くされると共に、機体が膝を突き、少しずつ起き上がっていく。

「嘘...あり得ない...どうして、どうして貴方が動かせるの、ナユタ!?」
「分かりません!」

ブルータルが立ち上がると同時に、その全身が変形していく。
半球型の頭部が二つに割れて、そのまま肩の装甲へ。
胸部の装甲が開き、ディスプレイのようなインジケーターが迫り出してくる。
背部スラスターの数が展開されて増え、全身の分厚い装甲がそのまま折り畳まれ、ブルータルがスマートな姿へと変わっていく。

『何が...起きた...? その機体に、そんな機能は...』

混乱しているのは、ナユタとミユキだけではなかった。
パトリックもまた、その機体の変形に驚いていた。
だが、驚くべきは別の場所にあった。

『王家の紋章だと...? なぜ、貴族家に下賜されただけのKFAにそんなものが...』

ブルータルの胸部のインジケーターには、王冠を表す紋様が表示されていた。
王家の紋章である。
だが、三つの菱形が組み合わさって王冠を構成するこの紋章、パトリックが持つ事を許されているものには、中央の菱形のみである。
ナユタの乗った機体には、全部で三つ、完成した紋章が表示されている。
これが何を意味するのか?

『関係ない! これで...行ける!』

ナユタがガッツポーズをした時、ブルータルもまた同じようにガッツポーズをする。

『これ...まさか、僕の動きに追随している?』
「...頑張って、ナユタ!」
『ああ!』

その時、ブルータルのコックピットに、別の文字が浮き上がる。

「ブルータルじゃない...? 機体名、TRUE-BLUEトゥルーブルー?」

顎に手を当てるポーズをするトゥルーブルー。
それを見て、ついにパトリックは切れた。

『貴様ァ! 王族である私をここまで愚弄するとは! 嬲り殺してやる!』

放たれたビームの束。
ナユタが咄嗟に防御しようとした時、盾が輝く。
ビームの束が、トゥルーブルーに直撃しようかという時、それらは曲がって明後日の方向へ飛んでいった。

『馬鹿な、湾曲シールドだと!?』
『やってやる...覚悟しろ、パトリック・ジン・ロカルファ!』
『ゴミ虫如きが...私の名を気安く呼ぶなァア!』

ナユタが咄嗟に叫んだ言葉に対して、パトリックは吐き捨てるような咆哮で返したのであった。
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