2度目の結婚は貴方と

朧霧

文字の大きさ
3 / 35

騎士団の飲み会

しおりを挟む
 ここは宮殿の敷地内にある騎士団棟。宮殿と目と鼻の先であるが棟内には団員の宿舎もある。

二階にある団長執務室の扉を勢いよく入ってきたこの男、副団長のジルベルトだ。まだまだ執務は終わらないのに終業間際に何を言うかと思ったら…。

「団長、これから酒を飲みに行こう!」

この男は調子良い性格をしているが、頭の回転が早いし部下の扱いも上手い。
更に自分の血縁関係であることが疑問に思う。

「団長、たまには部下達と交流を深めて飲みに行こうよ。部下と話をすることは重要だよ?」

だいたい上司が参加したら部下達は気持ちよく話したり飲んだりできないのではないだろうか。全く、なぜ俺を誘うのか分からない。

「お前らだけで行ってこい。団員には美味い酒でも飲ませてやれ」

机上に銀貨と銅貨の入った袋を出してジルベルトに持たせようとする。

「何言ってんのかなぁ。日頃、ゆっくり話ができない部下がたくさんいるから交流するんだよ。憧れの団長と」

ジルベルトはなかなか引かない。

「はぁぁ…、俺が参加して楽しいか?」

「もちろん、じゃあ決まりね。後で来るから仕事を終わらせておいて」

ジルベルトは軽い足取りで去っていった。仕方ない、たまには参加するかと腹を括る。

俺はレオナード・フィン・ブルーベル、25歳。ブルーベル侯爵家、男3人兄弟に生まれ嫡男である。
14歳までは王都にある学園に通い卒業後、騎士団に入団した。嫡男であるが騎士になることを厳格な父はしばらく認めていなかったが、兄弟がいたおかげで黙認するようになった。貴族としての入団はせずに平民と同じ入団試験を受けて雑用から訓練まで同じように過ごした。

幸いなことに身長も平均よりかなり高く鍛えれば鍛えるほど筋肉も付き、剣術に関しても幼い頃から鍛えていた為騎士として順調に成長していった。

1年が経つとジルベルトが入団してきて驚いた。ジルベルトは分家の子爵家次男でかなり女性に好まれる容姿をしている。体付きは標準だが線が細く見え、金髪に薄い茶色の瞳、顔立ちは中性的で性格も明るい。
体付きも大きく、茶色の髪と瞳、厳つい顔立ちの自分とは正反対である。
見た目で騎士になるわけではないが、なぜ騎士の道を選ぶのが疑問であった。

「ジル、成績も良かったし文官の道に行くんじゃなかったのか?」

「うん、それもあったんだけどレオといる方が楽しそうだからさ」

「…そんな理由じゃ続かないぞ」

「えっ? レオが騎士になりたいってずっと聞いてたからちゃんと鍛えていたよ。心配するな」

「それならいいけどな。人のせいにするなよ」

こうして共に騎士団で鍛錬を重ね、前団長の厳しい指導をこなしていった。
20歳になる頃には、王族の視察同行や盗賊の討伐など様々な任務経験を経て前団長と副団長が退位する際、23歳で団長に就任した。ちなみにジルベルトも同様に副団長に就き現在の状況となった。

「団長、迎えにきたから早く終わりにして行くよ」

ジルベルトが早速迎えにきたので仕方なく仕事を終わらせることにする。よく利用する酒場へ先に団員が行き待っているらしく渋々と着いて行く。

「店はどこだ?」

「噴水広場の近くにあるラモン亭だよ。あそこの店は料理が美味しいから団員達でよく利用するんだ」

騎士団棟からも比較的近い場所にあり安堵する。これなら少し飲んで過ごしたら残った仕事をしに帰っても大丈夫そうだ。

「お待たせ、団長を連れてきたよ!」

ジルベルトが先に入店すると、日勤を終わらせた独身者ばかりの団員6名がいた。

乾杯をし、料理をつまみながら酒を飲む。ジルベルトの話術で場は盛り上がり程よく酔ってきた頃、団員達は緊張から解放される。

「団長、僕は団長にずっと憧れてて。一生団長だけに付いていくので恋人なんて作りません!」

「作らないんじゃなくて相手にされずに作れないんだろ? お前と団長を一緒にするな」

「そ、そんなぁ。出会いがないだけですよ。団長は毎日お忙しいのに恋人と会ったりしているんですか?」

段々と男同士のくだらない会話に盛り上がっていく。

「俺は婚約者もいないし恋人もいないが仕事も忙しく鍛錬もあるから必要ない。嫡男だからいずれは結婚を親が決めると思うが今のところ何も言われていない。兄弟が爵位を継げば煩わしいこともなくなるんだがなぁ。お前達はそんなに結婚したいのか?」

「「「「したいですぅ!」」」」4名が頷き2名は若すぎて結婚なんて考えていないようだ。

「そうか、お前達は自由に恋愛できるだろう? 俺からしてみたら羨ましいよ。だから相手を良く見て結婚するんだな」

「何を言ってんだか…。レオは縁談も絵姿すら見ないで断っているくせに結婚する気なんて全くないだろ。そろそろおじさんなんだから早く決めた方がいいよ」

「ジル、お前だってそうだろう。1歳しか変わらないんだからお前もおじさんだろうが」

こんなくだらない話をしていたのだが、ふと後ろの客の話が耳に入ってきた。

浮気、婚約、結婚などの言葉が飛び出して女性の一人が泣き、連れの女性と男性が慰めているようだ。最初は話の内容まで入ってこなかったが後ろの客側に座る4名は他国での話や虫の話に手を止めて固まった。

「どうしましたか? 団長も副団長も」

ジルベルトが先に反応した。

「いや、後ろの客がさぁ…。話の内容がそれはもう刺激が強くて」

「何の話ですか?」

「それが男の浮気やら本能? とか色々」

後ろの客側に座ってない団員が様子をうかがう。

「なんだ、まだ10代みたいな感じですよ?」

「えっ、10代? それにしても人生経験が豊富な感じの内容なんだよ。なぁ、レオ」

「あぁ、そうだな。人には理性? があって考える力があるんだから男の浮気は仕方ないなんていいわけだと。それに他国の話だが嫉妬した女性が男性を亡き者にした後に性器を本に挟んで持ち歩いていたとか虫の世界では交尾が終わると雌が雄を食べるとか…。本当に10代が話す内容には思えんな」

向かいに座っていた団員達はそのような話は初めて聞いたと口を揃えて言った。

「まぁ、要するに浮気なんてする奴は駄目だと言いたいんだろう。そうだよな、ジル? お前も女性から色目を使われるから気をつけろよ」

「何? レオ。僕は女性には誠実に接してるけど一人に決められないだけです」

「そういう奴が一番危ないんだ。全く」

「えぇっ、副団長、恋人がいるなら誰か紹介してくださいよ。もちろん貴族以外の女性で」

「おう! 恋人はいないが良い娘がいたら紹介してやるぞ」

そんな話しているうちに後ろの客が帰るようだ。ふらふらと歩いていた女性が端にいる団員にぶつかりもう一人の女性から謝罪を受ける。その時に思わず女性の顔を全員で見てしまった。まだ幼さも残った10代の女の子で容姿も平凡ではあるが礼儀は正しい。

丁寧に謝罪する彼女に団長の俺は気にしなくてもよいと伝えると「ありがとうございます」と笑顔で返された。その笑顔になぜか胸が騒ぎ視線を逸らしてお酒に逃げた。

それと同時に親が決める政略結婚に何の感情もなく当たり前のように思っていたことに違和感を感じた…。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...