セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

文字の大きさ
上 下
25 / 29
魔物外交編

青龍降臨

しおりを挟む
 カチ、カチ。
 ペダルは、国王に続き、大臣までも撃ち殺そうとしたが、ビームが出ない。
「故障か?」焦りだすペダル。
 遂に励起レーザー用バッテリーが切れたらしい。

 大臣は、今だとばかりに、ペダルに飛びかかり、押し倒して殴りかかる。

 ギグは、慌てて倒れたギネ国王の許に掛けって抱きかかえる。
「父上、怪我はありませんか?」
「ああ、火傷した様に痛いが、問題ない」
 万が一に備え、全員、防弾チャッキを着用していた。

 俺はトカゲ兵士を片手で首吊りし、もう片方で耳栓をしながら話しかけた。
 兵士は空しく何度も引き金を引き続ける。
「なんで一人も眠らないんだと思ってますか? この銃はリラックスしている者にしか効かないんですよ。残念でした」
 俺は彼の銃を奪うと、彼を投げ飛ばす。

「大臣も早く耳栓をして!」

 全員が耳栓をしたのを確認してから、アテーナに音響攻撃の開始を命じた。

 国王、大臣、キキの三人は、頭が痛そうに手で頭を抱え始める。耳栓をしていても、逆位相音で、キャンセルしている訳ではないので、耳鳴りと頭痛が起きるのだ。
 でも失神しないだけまし。おそらく外は全員、失神している。外で待機していた三十人の兵士には悪いが、こうなってしまったからには仕方がない。

「また広域催眠魔法か。何も対策せずにいるとでも思ったか」
 口元から血を流しながら、ペダルが立ち上る。何と耳にはヘッドフォンの様な耳当てを付けている。
 そして、テントにリザードマンの兵士達が雪崩込んで来た。全員、同じ様な耳当てをしている。
 全員を失神させて、ヘリオスに逃げ込む予定でいたが、これでは逆に仲間の兵士三十人を失神させただけに終わる。完全に計算が狂った。

 だが、こっちには優秀なアテーナがいる。想定外でも適切な対処手段を繰り出してくれた。

 次の瞬間、ドンというマッハ越えの衝撃音が聞え、強風と共にテントが吹っ飛び、偵察艇が姿を現した。
 慌てて偵察艇を見上げるリザードマン達。
【三秒後に閃光弾を使い視力を奪います。その間に退避を。3、2、1】
 セシルは隣のキキの目を手で覆い、ギグは国王を、そして俺は大臣の許に駆け寄り、彼の目を覆った。

 ピカッ。眼を瞑っていても、目の前が真っ白になる程の強烈な閃光。

「走るぞ」
 俺達、八人は全速力で視力を奪われた兵士たちの合間を縫って、ヘリオスへと向かう。
 俺達は三十人の横たわる味方兵士を横目に走る。三十人もの鬼人を運ぶのは不可能なので、そのまま、置き去りにしていく。でも、ヘリオスに付いたら、捕獲ネットで彼らを回収する予定だ。

 オルグ族は身体能力が高いので、国王も大臣も、それなりの速度で走ってついてくる。だが、キキだけはどんどん遅れていき、着いて来れない。
 そこに矢が飛んで来た。視力が戻ってきたリザードマンが、矢を放ち始めたのだ。
 俺が戻ろうとすると、ギグの方が一早く彼女に走り寄り、彼女を背負った。
 普段、キキから逃げ回ってるが、やはり彼女を愛しているのは間違いない。
 俺が殿しんがりとなって、飛んでくる矢を、手で叩き落としながら走る。
 アテーナも偵察艇を操り、敵の軍勢に雷撃を当て、護衛してくれた。
 これで、矢の心配もない。間も無く弓の射程外にでるし、ヘリオスは目の前だ。
 
 そう思った途端、突如ヘリオスの背後に、塵が集まり出し、徐々に巨大な形を成して行く。
 次第にその影がハッキリとした形となり、何も無かった空間に巨大なドラゴンが現れた。
 全長二十五メートルのヘリオスよりずっと大きく、身長五十メートルはありそうな化け物。ゴジラの様な体型で、蝙蝠の様な翼が生えた様な形をしているドラゴンだ。
「これが青龍神じゃないか。ロシナントで崇められてると言ってたし」とガスパ。
【ほう、そこの異世界人は、童を知っておるのか。偉大なる童を神龍様と崇めるがよい】
「また神か。神が相手じゃ、勝ち目はないぞ」
【安心せい。そちらの命は取らぬ。ただ、この船はこの世にあってはならぬもの。童自ら処分することとした故、そこで見ているがよい】
 そう言うと、その化け物が、ヘリオスに空手チョップを振り下ろす。
 だが、ヘリオスの超鋼装甲は堅い。
【ううっ、痛い】
 青龍神は、顔をしかめ、手を押さえる様に痛がり、蹲りやがった。まるで、コメディーアニメ。
 それでも、彼女もまた神だ。玄武神程でないにしろあれだけの大きさ。恐ろしく強い存在に違いない。
 この神がついていたから、今日のペダルは強気だった。

「神龍様、御願いです。話を聞いて下さい。私達は戦いを好みません。戦を仕掛けているのは、ロシナント王国の方なんです。どうか、私達を見逃してくれませんか。直ちに、その船で、この場を離れますので」
【その願いは聞けん。民が争おうが、誰が悪かろうが、童は関与せぬこと。そちらの問題よ。ただ、この船は危険すぎる。そのまま見逃す訳にはいかん。その為に、態々ここまで来たのだからな】
 そう言って、タラップ部に指を掛けて、ヘリオスを引っくり返した。
 船内に残してきたロキが、慌てて逃げ出して来て、セシルの胸元に飛び込む。
【良くも、童に痛い思いをさせおって、こうしてやる。この野郎、この野郎】
 彼女はヘリオスの腹の部分を、踏み潰す様に、何度も蹴り続けた。神というが、まるで子供。

 でも、次第にヘリオスも装甲パネルがポロポロと剥がれ落ち、凹みまで出来始める。
 子供の様な神でも、神は神。神には勝てないということだ。

 そこに偵察艇が突っ込んで来て、レーザー砲を放った。レーザー砲は偵察艇が装備する兵器の中で最大の破壊力を誇る。しかもあのレーザービームは最大出力のもの。下手するとヘリオスの甲板ですら貫通しかねない破壊力がある。
 それがものの見事に胸元に命中し、青龍神は「うおお」と痛そうに呻き声をあげた。

【よくも童の柔肌に傷をつけおったな】
 だが、当った箇所には、傷一つ付いていない。三百キロワットのレーザー砲ですら、傷一つ与えられれないとは、飛んでもない化け物だ。
 なにが柔肌だと言いたいが、青龍神は蠅を払うように偵察艇を撃墜しようとし始めた。
 素早くその攻撃を躱す偵察艇。人間が乗っていたら、完全に失神しているほどのフル加速で、方向転換して、少しずつヘリオスから青龍神を遠ざけていく。
 その間に、ヘリオスはいったん浮上し、体勢を立て直す。
【破損箇所多数。出入り口も破損し、タラップを展開できません。格納庫からは収容可能ですが、暫らくはその場で待機していて下さい】
 そういって、ヘリオスは遥か上空へと飛び去って行った。

【小賢しい蠅め。童を愚弄するか】
 青龍神は、遂に翼を広げ、空中へと飛びあがった。
「うそだろう。あの図体をあの翼で持ち上げられるなんて、ありえない」
 ケビンは正論を言うが、神は何でもありだ。
 そして、その口に光が集まり始める。
 やはり期待を裏切らない展開。ドラゴンと言えばドラゴンブレス。あれはきっと、必殺技のドラゴンブレスを吐く為のチャージ処理なのだろう。
 俺は、アニメでも見ている様な気分で、ワクワクしていた。

 偵察艇は高速で飛びまわり、狙いを付けらない様にする。
 そして、青龍神の背後に、ヘリオスが音もなく急降下してきて、ぴたりと静止して真横を向いた。
 背後から、電磁投射砲レールガンでも放つつもりらしい。
 そして、予想通りに砲が顔を出し、轟音と共に火を噴いた。
 だが、その瞬間、青龍神が忽然と姿を消す。そして超音速の砲弾ははるか先の山を木端微塵に粉砕していた。
 青龍神は何処だと探すと、ヘリオスの真後。今まさにドラゴンブレスを吐く体勢だった。
 だが、それに気づいたヘリオスも、緊急退避。シールドも同時展開して、何とか直撃を免れた。
 だが、物凄い轟音と地響きがして、砂塵が舞いあがる。シールドでコースが変わったドラゴンブレスが、地面に当ったのだ。
 宇宙から打ち出した超高高度砲撃のクレータなんて可愛い程の巨大クレータができ、そこがどろどろの溶岩地帯へと変わっていた。
 直撃していたら、ヘリオスですら大破していのは間違いない。
【既に中破しました。シールドを突破して、艦底部に穴が空きました】
 やはり必殺技と呼ぶにふさわしい威力だ。

 ヘリオスは修理の為か、フル加速で上昇して行き、再び一時戦線離脱した。

【同時攻撃とは、厄介だな。先ずはこの煩い蠅から確実に仕留めておくか】
 そういって、再び口に光が集まり始める。
 だが、偵察機は機体は小さいし、俊敏性だけならヘリオスより上。ヘリオスは安全面から8Gまでしか出せないが、偵察機はなんと15Gと言う飛んでもない加速度が出せる。
 如何に威力が凄くても、当らなければ意味が無い。
 そう思って見ていたら、今度のドラゴンブレスはかなりの広角攻撃。ビーム状のブレスだけでなく、放射状のブレスとを吐き分けられれる器用さを備えていた。
 そのため、偵察機も躱しきれず、僅かにその拡散ビームを浴びてしまった。
 何とか直撃は免れ、シールド展開もしたので、撃墜には至らなかったが、機体表面が融解している。しかも何処か故障したのか、さっき程の俊敏性が無くなっている。
 それでも、亜音速で素早く青龍神の目の前を飛びまわり、彼女を誘導して俺達から遠ざける。
 ある程度我々の許から引き離すと、音速越えの速度でこっちに空に飛んできて、上空でぴたりと停止し、何かを落とすと、再び、青龍神の許に飛び去った。

【兵士に手加減したのは失敗でした。電撃の麻痺から醒めて、奴らが襲ってきます。もうこの機で守る事は困難ですので、自分達で身を守って下さい】
 確かに敵兵たちの大群が、再び動き出し、こちらに向かって走って来ている。
 ヘリオスに逃げ込めない現状では、彼等と戦わざるを得ないということになる。
 落ちて来たのは、魔法の杖と電撃銃とレーザー銃とスタン棒だった。
「我は素手でも戦える。その武器はお主等が使え」
 ギグは素手のまま、独り敵に向かって走り出す。
 失明した者、まだ失神したままの者等も多くいて、駆け寄って来ている兵士達は五、六十人と言うところだが、国王、大臣、キキを守る戦いが始まった。

 俺はレーザー銃を、ガスパは電撃銃を手に、ギグの後を追う。
 シオンとケビンには、三人を守る様にその場で待機してもらった。

 刀剣や槍を手に、襲いくる兵士の群れの中に、素手で果敢に飛び込んでいくギグ。
 俺とガスパは、ギグの背後から援護射撃する。誰も殺さない積りでいるが、一撃で動きを止める為には、出力を高め設定するしかない。中には死んでしまう者もでそうだが、今の状況ではやむを得ない。
 
 それにしてもギグは凄い。紛れもなく武術大会で五連覇中の英雄。実際に鬼だが、鬼神の如く、リザードマン兵を血祭りに上げていく。槍を素早く躱し、奴らから奪い取った剣で、一撃のもとに、敵を沈めていく。
 俺達も銃を連射して、次々と倒して行くが、彼等の軍勢が俺らの位置まで押し上げて来た。
 こうなると多勢に無勢。囲まれる様に攻撃される。
 連射して次々と倒しても、彼等も必死。次々と襲ってきて、槍で突かれ、剣で切られる。胴なら全員防弾チョッキで防げるが、足や腕はどうにもならない。
「ぎゃあ」
 ガスパが防具の無い箇所を切られた様で、悲鳴を上げた。
 次の瞬間、一斉にガスパに襲い掛かるトカゲ兵士。
 俺は慌ててガスパの救助に向かう。銃で周囲の敵を打ちながら、群がる兵を投げ飛ばす。
 倒れ込むガスパの身体は切り傷や刺し傷だらけだった。防弾チョッキを着ていても、血が滲み出ている。
「最初に太腿を刺されただけだ。大丈夫だ」
 ガスパはそう言って立ち上がったが、かなり痛そうだ。

 そして、俺も背後から太腿を切られた。鋭利じゃなので、逆に傷口が痛み、顔をしかめる。
 痛みで怯んだ一瞬の隙をついて、一人の兵士が、俺の腕にしがみ付いてきた。
 こうなると銃口を向ける事もできず、銃は無意味になる。
 ガスパも自分を守るので必死で、こっちの事など見ていない。
 仕方なく、俺もギグの様に肉弾戦を始める。
 体力はオルグ族以上なので、ひ弱なリザードマン如き、ぶん投げ、蹴飛ばし、払いのける。
 だが、それでも数は脅威。
 押し倒されて、抑え込まれ、身体を槍や、剣で刺して来た。致命傷にならないまでも、先が身体に刺さり、痛いったらない。
 そして、とどめとばかりに、一人のリザードマンが、俺の剣で首を切ろうとして来た。流石に死を覚悟する。
 一瞬セシルの笑顔が浮かび、剣がゆっくりと振り下ろされてくる様がハッキリと見える。
 でも、もはや身動き一つできない。こんな状態で、精神超加速状態になっても意味が無い。

 そう思った直後、その兵士共々、周囲の敵が吹っ飛んでいった。
 どうやらケビンが、突風魔法を最大出力で放ってくれたらしい。

 周囲の敵が吹っ飛んで、視界か開けたが、その夜空には飛空艇を掴みご満悦の青龍神がいた。
 どうやって掴まれたのかは分らないが、偵察艇も捕まえられてしまった。
 俺は立ち上ると、周囲を警戒しながら、上空の様子を伺う。
 握り潰そうとしているが、偵察艇も外壁強度はあり、簡単には破壊されない。それでも捕まってしまえば時間の問題だ。
 その時、ヘリオスがすっと彼女の背後に廻り込み、電磁気砲の紫のビームを放った。
 電磁気砲は電磁投射砲とは異なり、兵器ではない。電磁気ビームを照射し、当った物体を超振動させ粉々に粉砕する掘削用工具だ。電磁投射砲を放つ時の爆音で回避された事から、今度は無音攻撃可能なこの電磁気砲を使うことにしたらしい。

 その判断は正しく、今度は青龍神に気づかれる事無く、ビームを命中させた。
 そのビームは、彼女の身体を上下に切断する様に横断していく。
「ぐおう」
 神もこれには堪えられなかったらしく、青龍神はきりもみ状に落下してくる。
「ガスパ、ギグ、上だ。逃げろ」
 切られた左足が上手く動かせないが、それでも必死に逃げた。
 ドォンという轟音と共に、激しい砂埃が舞いあがる。
 ガスパもギグもドラゴンの下敷きになるのだけは免れたが、かなりの負傷で血だらけだ。、
 トカゲ族の兵士も気付いて逃げたが、多くが巻き込まれたらしい。残りのトカゲ兵は十体ほどになっていた。
「青龍神も何とかやっつけられたみたいだな。こっちも片づけるぞ」
 そして、彼らの守り神を失って、戦意喪失した敵兵を次々と撃って、全員を倒した。

 漸く、この戦は終わった。
 そう思って一息ついていると、青龍神がもぞもぞと動き始めた。
 青龍神は、あの直撃を食らっても死んではいなかった。神とは無敵の存在なのだ。

 そしてフラフラになりながらその二本の足で、しっかりと立ち上がった。


しおりを挟む

処理中です...