私って何者なの

根鳥 泰造

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第四章 この世界の秘密

この世界は……

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「マーガレット。よく無事にここまできたね。嬉しいよ」
 ゲートの先は、豪華な王宮の応接間の様な円形の部屋で、円卓の端に、父が、ひとり腰かけていた。
「その子は、君のフィアンセなのかな」
「違います。僕は師匠の弟子です」
「君には聞いていない。マーガレット、応えなさい」
「違います。彼は私の一番最初にできたチームメイトです」
「そうか。なら、退場してもらおう」
 突然、例のごとくゲートが現れて、その渦と共に、リットは姿を消した。
「どこに飛ばしたの?」
「安心しなさい。今頃、モーリー王国王都の門前近くで、皆と合流している筈だ」
「皆って、十四人全員?」
「残念ながら、一階層で二人亡くなったので、十二人だが、メフィの結界が消えたので、全員安全な場所に移動させておいた」
「お父様、ありがとうございます。それと、恐縮ですが、セージを地下牢から出してもらえませんか」
「それは構わんが、彼はもう寿命で、死を待つ状態だ。会いに行くか?」
 そう言って立ち上がり、再びゲートを開いてくれた。

 ついた先は、地下牢ではなく綺麗な部屋で、壁一面に本棚があって、小さな穴の前に、トレイに乗せられた食事が手つかずに、置いてある。
 その中央の毛布の上に、うずくまる様にして、ケンタウロスのセージが寝ていた。
 どうやら、この地下室に、軟禁されていたらしい。
「セージ、大丈夫なの」
 もう立ち上がる力もないのか、うずくまったままだったが、頭を持ち上げた。
「これは、姫様、大魔王様、御見苦しい所を、ゴホゴホ」
「セージ、無理しないで、横になっていて」
「娘が、どうしても、最後のお別れをいいたいと、ただをこねてな」
「姫様、私ももう二十歳。人間でいえば百歳の老人で、寿命なんです。最後に一目会えたこと、嬉しく存じますが、姫様の魔王就任式を見れないことが、心残りです」
 そう言って、そのまま横になり、塵となって消えてしまった。
「セージ、どういうこと。一人で先に逝かないでよ」
 失意から泣き出したメグに、魔王がそっとその肩に手をおいた。
「そんなに悲しむことはない。博士は、この世界での肉体を失ったが、別の世界で息災にしているよ」
「博士? 別の世界? どういうこと」
「おっと、つい口を滑らせてしまったが、それは明かせない。セージさんから口止めされているのでね。それでは、私の最後の任務を遂行するために、部屋にもどろうか」
 任務とか言い出し、何が何だか分からなかったが、彼についてゲートを潜り、再び、六階層の部屋に戻ってきた。

「お父様、どういうことか、話して。何を隠しているの?」
「仕方がないな。内緒にしろと言われているが、話してあげるよう。そこに座って」
 私が、父と反対の席に腰かけると、父は立て肘して、手を組み、ゆっくりと話し始めた。
「私は、勇者一行として、魔王討伐に赴き、最後に生き残った仲間、オフィリアと二人で、魔王を討ち滅ぼし、新たな魔王となった記憶がある。だが、それも全て、神が準備した造られた記憶だった。この世界は、君が誕生した瞬間から、始まり、それ以前は、何も存在していなかった。この世界は、君だけの為の世界。すべての運命が決められていて、君が父である私を倒し、新たな魔王となって、人間と魔物が平和に暮らしていくと運命づけられているんだ」
「どういうこと。お父様のいう事は、全く理解できない」
「私だって、セージさんから説明を受けても、理解できなかったさ。でも、間違いない事実だ。私の意思で自由に行動できるのは間違いないが、運命を大きく変える様な行動はできないんだ。君を殺す指令を出そうとすると、頭が割れる程痛くなり、その命令を出せなくなる。私たちは、人工知能AI搭載のNPCという生命体なのだそうだ。そして、その制限に掛からず、自由に動けるのは、君とセージさんの二人だけ。セージさんが亡くなった今は、自由に行動できる存在は君だけという事になる」
「さっきから、君、君って、私は父の娘ではないっていうこと?」
「いや、マーガレットは、オフィリアが腹を痛めて産んだ私の子供で間違いない。だが、その精神は、私の娘のものではない。異世界の人格が娘の肉体を奪い取ったんだ」
 確かに、私は山手線の事故で、乗客に押しつぶされて圧死し、前世の記憶を持ったまま、マーガレットとして、転生した。でも、それでは今の話の説明がつかない。
 ここが私のために作られた世界で、全てが決められているだなんて、ゲームの世界みたいじゃない。前世にVRゲームは確かにあったけど、こんなにリアルな仮想現実を造れる技術なんて存在しなかったし、実現できたとしても、少なくとも何十年も掛かる筈。
 どう考えても、ここは異世界の現実で、仮想空間なんかじゃない。

「それでは、私の最後の任務を始めることにしよう」
 父はそういうと服のポケットから何かを取り出し、口に入れた。
「娘と戦って、殺される運命だったのだが、これ位の自由は許されるみたいだ。ぐほっ」
 父は、大量の血を吐いて、そのまま床に倒れた。
「お父様、しっかりして」
「後の事を宜しく頼む。魔王となって、人間と魔物が共存する世界を作り上げてくれ」
 父は、そうメグに託して、絶命した。

 その後、メグは、父の夢を実現するため、あらたな魔王となった。
 父の遺言が既に魔界の幹部に伝えられていたこともあり、特に揉めることもなく、魔王に着任できた。
 チームの皆に会いたかったけど、許されず、セージが作り出した魔道具を使って、皆の様子を見させてもらった。任意の人に乗り移って、その視線や声が、直接感じ取れる優れもの。
 私は、魔王との一騎打ちに敗れ、死んだことになって、盛大な葬式が行われ、リットは、国のお抱え魔導士となり、残った五人で未だに『オリーブの芽』として活動している。
 私も、時々、こんな執務に追われる生活を抜け出し、みんなと暴れまわりたい気になるけど、常に誰かが私を監視していて、自由が許されない。軟禁されているようなもの。
 でも、父が作ったこの世界は凄い。皆、生き生きと生活していて、揉めて喧嘩したり、騙して陥れたりの犯罪が一つもない。お忍びで視察にでても、直ぐに見つかり、新魔王様と慕ってくる。
 だから、何とか人間との共存を実現したいと、真剣に考え始めたら、人間は愚かにも三国戦争なんて始めてしまった。
 しかも、魔物の森を大軍で進行してきて、魔物達も大量に蹂躙された。
 とりあえず、魔物の森の防衛強化を図ったけど、こんな愚かな人間を見ていると、父が人間を支配したくなった理由も分かる。

 そして、あっという間に七年の月日が流れた。
 その間にメグは、前世の知識をフル活用し、魔界に文明変革をもたらした。学校の開設、病院設立、下水道施設の完備等、この魔界は人間界を遥かに凌ぐ独自の文明を持つことになった。
 また、研究所を造って、新たな道具の開発も命じた。半人半馬のケンタウロスという魔物は、短命だけど、かなり高い知能を持っているのだ。
 彼らに前世の話を聞かせ、こういうものが欲しいと説明すると、必死に研究開発して、それに代わる便利グッツを開発してくれる。
 電池や、無線通信を可能とする魔力石を開発してくれ、それを組み込んだ、携帯電話や、まだ映像発信はまだだけど、国営放送を流せるラジオなんかも普及した。
 そして、二年前、ついに発電機の開発にも成功。今は発電所の建築や、送電線の設置の段階だけど、電気がいきわたる様になれば、掃除機、洗濯機、冷蔵庫等の家電や、電動工具、電車等、電気を基盤とする新たな魔界世界ができる筈。
 人間も、七年にも及んだ虚しい戦争に疲弊し、漸く和平したので、いよいよこの文明の提供を交渉材料にして、人間と魔物の共存への第一歩を踏み出したいところ。
 でも、私はもうだめ。父から引き継いだ夢は、実現できそうもないない。
 メグは、一年程前から、原因不明の奇病にかかり、最近はトイレにすら行けなくなり、ついに寝た切りになってしまったのだ。
 十五歳からの三年間は、本当に楽しかったな。最後に、皆にもう一度会いたいな。
 そんな事を考えて、メグは眠りについた。



 ビー、ビー。
心室細動VFです」
 医療ロボットと、恵の兄の誠司が走ってきて、電気ショック等を施したが、遂に蘇生することはなかった。
「恵も、五十二歳だ。もう少し生きていて欲しかったが、仕方がない」
 女子高生となったばかりの恵は、山の手線路内に落下した大型ドローンによる事故に巻き込まれ、沢山の人間の下敷きになった。なんとか一命はとりとめたものの、植物人間になってしまった。
 脳波もあり、問いかけると脳波も反応するので、意識もあるみたいだが、何時まで経っても目覚めることが無かった。
 そんな娘に何とか充実した日々を送らせたいと、研究者だった父親は、リアルな仮想現実世界を体験できる装置の開発にのりだした。
 道半ばで、亡くなることになったが、ゲーム開発会社に勤務し、人工知能NPC開発に従事していた長男が、会社を辞めて、その後を継いで、その試作機を開発し、実際に人間を使った検証実験を行うところまで、漕ぎ着けた。。
 そして、その装置を装着して一年。十倍速再生なので、仮想世界では十年にあたるが、恵は、メグとして、その仮想現実の世界で、第二の人生を満喫して生きてきたのだ。
「博士、あの世界はどういたしましょう」
「VRMMOとして、契約交渉を始める。そのまま自由に生活させておけ」
 魔王メグも、恵の死とともに、眠ったまま、亡くなっていた。

                       (了)

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