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三の姫
四十四、東宮
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(え、縁談?!)
予想だにしていなかった出来事に、葵は思わず声を失う。
固まっている葵とは裏腹に、父はこれまで一度も見たことがない、満面の笑みを浮かべている。こんな上機嫌の父は見たことがない。初めて見る光景に、葵の頭の中はさらに混乱を極めた。
(どこの誰と、私が縁談——?!)
まずは、相手が誰かだ。
葵の元まで話が上がってくるということは、両親はこの縁談にかなり乗り気だ。相手の方もそれだけ高貴な方なのだろう。葵の意向は、そこに入る余地があるのだろうか。期待半分、諦め半分で父にたずねた。
「と、ところで父上。お相手の方はどなたなのでしょう?」
扇を持つ自分の手は震えていた。
父の隣に座っている母も、いつものように穏やかな笑みを浮かべている。
父が勝手に決めた縁談だろうが、母から見ても良い縁談だということだ。
葵はごくりと唾をのんだ。
「お相手だがな——東宮さまじゃ」
「と、と、と、東宮さまっ?!」
絶叫にも近い悲鳴が葵の喉からほとばしった。
まさか、この国で2番目に偉いお方との縁談が持ち上がっていたなんて——。 あまりの衝撃に、何もいえなかった。
たしかに、左大臣家の姫君の代わりに東宮妃になりたいと考えたこともあった。しかし、それはただの思いつきだ。本当に自分が東宮妃になるとは思ってもいないからこそ言えたことだ。
頭が真っ白になる。
「葵も知っておるだろう。左大臣家の姫君の話だ」
すっと、笑顔から真顔になった父が厳かに言う。
「は、はい。存じております」
「東宮さまは深く深く落ち込まれておってな。なんとかお慰めできないかと、熟考に熟考を重ねた結果じゃ」
本当に熟考していたら、新しい妃をあてがうという思考にはならないはずだが……。とは言っても、父が本気でこの家のこと、葵のことを考えた結果だとわかるからこそ、頭が痛い。
「ち、父上。すこしだけ考える時間をいただけませんか?」
息も絶え絶えに言うと、父ははて?と首を傾げた。きっと、葵が首を縦に振るとばかり思っていたのだろう。
「あまりに恐れ多いことですので、すこしだけ考える時間が欲しいのです」
「しかしなぁ。明日にでも輿入れのために話を進める予定だったのじゃ」
「……は?」
父の面前であることも忘れて、葵は口をぽかんと開けた。
(明日にでも……?!)
頭中将と会う予定だってある。
昨日の今日で、はい結婚します、だなんて受け入れられるはずがなかった。
東宮妃になるということは、自分の息子が将来の帝になる可能性だってあるということになる。一気に肩に重りがのしかかったような気分になった。
「まぁまぁ。葵もすこし混乱しているのよ。すこしだけ、時間をあげてはどう?」
父を取りなしてくれたのは、これまで口をつぐんでいた母だった。母の助太刀にここぞとばかりに乗った葵は、父への挨拶もそこそこに自室へと帰るのだった。
予想だにしていなかった出来事に、葵は思わず声を失う。
固まっている葵とは裏腹に、父はこれまで一度も見たことがない、満面の笑みを浮かべている。こんな上機嫌の父は見たことがない。初めて見る光景に、葵の頭の中はさらに混乱を極めた。
(どこの誰と、私が縁談——?!)
まずは、相手が誰かだ。
葵の元まで話が上がってくるということは、両親はこの縁談にかなり乗り気だ。相手の方もそれだけ高貴な方なのだろう。葵の意向は、そこに入る余地があるのだろうか。期待半分、諦め半分で父にたずねた。
「と、ところで父上。お相手の方はどなたなのでしょう?」
扇を持つ自分の手は震えていた。
父の隣に座っている母も、いつものように穏やかな笑みを浮かべている。
父が勝手に決めた縁談だろうが、母から見ても良い縁談だということだ。
葵はごくりと唾をのんだ。
「お相手だがな——東宮さまじゃ」
「と、と、と、東宮さまっ?!」
絶叫にも近い悲鳴が葵の喉からほとばしった。
まさか、この国で2番目に偉いお方との縁談が持ち上がっていたなんて——。 あまりの衝撃に、何もいえなかった。
たしかに、左大臣家の姫君の代わりに東宮妃になりたいと考えたこともあった。しかし、それはただの思いつきだ。本当に自分が東宮妃になるとは思ってもいないからこそ言えたことだ。
頭が真っ白になる。
「葵も知っておるだろう。左大臣家の姫君の話だ」
すっと、笑顔から真顔になった父が厳かに言う。
「は、はい。存じております」
「東宮さまは深く深く落ち込まれておってな。なんとかお慰めできないかと、熟考に熟考を重ねた結果じゃ」
本当に熟考していたら、新しい妃をあてがうという思考にはならないはずだが……。とは言っても、父が本気でこの家のこと、葵のことを考えた結果だとわかるからこそ、頭が痛い。
「ち、父上。すこしだけ考える時間をいただけませんか?」
息も絶え絶えに言うと、父ははて?と首を傾げた。きっと、葵が首を縦に振るとばかり思っていたのだろう。
「あまりに恐れ多いことですので、すこしだけ考える時間が欲しいのです」
「しかしなぁ。明日にでも輿入れのために話を進める予定だったのじゃ」
「……は?」
父の面前であることも忘れて、葵は口をぽかんと開けた。
(明日にでも……?!)
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昨日の今日で、はい結婚します、だなんて受け入れられるはずがなかった。
東宮妃になるということは、自分の息子が将来の帝になる可能性だってあるということになる。一気に肩に重りがのしかかったような気分になった。
「まぁまぁ。葵もすこし混乱しているのよ。すこしだけ、時間をあげてはどう?」
父を取りなしてくれたのは、これまで口をつぐんでいた母だった。母の助太刀にここぞとばかりに乗った葵は、父への挨拶もそこそこに自室へと帰るのだった。
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