アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)

くまのこ

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追跡者(挿し絵有り)

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 振り向いたフェリクスの目に入ったのは、彼から七、八歩離れた辺りに立つ、細身の青年だった。
 緩く波打った黄金おうごん色の髪に、すみれ色の瞳……整ってはいるが、どこか冷たさを感じさせる容貌と、きらびやかな意匠の衣服は、青年の背後に広がる荒れ地には、明らかに不似合いなものだ。



「おや。気配を消していたつもりだったんだけど」
 青年は、口元に薄い笑みを浮かべ、一見ゆったりと佇んでいるだけだった。
 しかし、フェリクスには、彼に僅かな隙も感じられなかった。
皇帝守護騎士インペリアルガード……?!」
 青年を見たアーブルが、青ざめた顔で呟いた。
皇帝守護騎士インペリアルガード、とは?」
「帝国の、皇帝の身辺を守るのが役割の連中だよ。全員が『異能いのう』で、例え話なんかじゃなく一騎当千って言われてる……俺も、なまで見るのは初めてだ」
 フェリクスの問いかけに、アーブルが早口で答えた。
「君、詳しいね。もしかして、帝国出身者かい? まぁ、どうでもいいや」
 青年が、けだるげに髪をかき上げながら言った。
「そこの方……ウェール王国の王女、セレスティア殿とお見受けします。僕は、アルカナム魔導帝国の皇帝守護騎士インペリアルガード、グスタフ・ベルンハルトと申します。何か誤解されているようですが、僕はセレスティア殿を保護する為に来たのですよ」
 青年――グスタフの言葉に、セレスティアが怯えた表情を見せた。
「保護だと? 彼女の家族を皆殺しにした者たちの言うことなど、信用できる訳ないだろう」
 フェリクスは、セレスティアを庇うように、自分の背後に隠した。
「僕は、ウェール侵攻には参加していなかったから、その辺の事情は知らないよ。だが、『智の女神』様が、セレスティア殿を生かした状態でお連れするようにと仰せなのでね。だから、彼女に危害を加えるようなことはしないよ」
 艶然と微笑むグスタフを前に、フェリクスは自分の中の警戒心が最大になるのを感じた。
「アーブル、彼女を頼む」
 フェリクスは、セレスティアをアーブルのほうへと押しやった。
 次の瞬間、アーブルが、セレスティアの身体を軽々と肩に担ぎ上げ、弾かれたように走り出す。
 迷わずアーブルたちを追いかけようとするグスタフの前に、フェリクスは立ち塞がった。
「お前の相手は俺だ」
 グスタフが、軽く舌打ちして後退する。
「この僕を止めるか……王女には『異能いのう』の同行者がいると思ってはいたけど、まさか二人もいたとはね」
 一方、フェリクスは、アーブルたちが逃げた方向を見やり、彼らが目視で確認できない距離まで移動したことを確かめた。
 ――これでいい。アーブルが、俺の意図を瞬時に理解してくれて助かった……
 と、フェリクスは鳩尾みぞおちに爆発的な衝撃を受けたかと思うと、自分の身体が宙を舞っているのに気付いた。
 フェリクスがアーブルたちの位置を確認しようとした、僅かな隙をついて、グスタフが、その鳩尾みぞおちに拳を叩き込んだのだ。
 一瞬、アーブルたちに気を取られていたとはいえ、自分が全く反応できなかったことに、フェリクスは驚愕していた。
 彼にとって、初めて経験する「異能いのう」の者による攻撃だった。
 受け身すら取れずに地面を転がるフェリクスは、グスタフが自分に背を向けるのを見た。
 ――奴に、アーブルたちを追わせる訳にはいかない!!
 殴られた鳩尾みぞおちの痛みに顔をしかめながら、フェリクスは素早く立ち上がると、背中を見せていたグスタフに、跳躍して組み付いた。
「馬鹿なッ?! あれを受けて、立ち上がれるだと?! 異能いのうの者ですら、数時間は動けないのが当たり前なのに……ッ!」
 組み付いてきたフェリクスを振りほどこうとするグスタフの声からは、先刻までの余裕が消え、苛立ちと焦りの色が入り混じる。
 個人差こそあるものの、身体能力に優れた「異能いのう」の身体からだは、常人を遥かに超える力を振るっても耐えられる丈夫さを持つ――そう、アーブルから聞いていたことを、フェリクスは思い出していた。
「どうやら、俺は、そこそこ頑丈らしいな」
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