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守ってあげたい
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すっかり情報端末の扱いに慣れたフェリクスは、あらゆる項目を見ては、学習していた。
これまで知らなかった、歴史や世界情勢の話は、彼にとって興味深いものと言えた。
情報端末には、遥かな昔の話として、かつて隣人だった老婆に聞いた「神々」の話も収められていた。
天より降り立ち、人間たちの中に、その血と力を残していった「マレビト」と呼ばれる神々――フェリクスは、伝承の中に、自分が聞いていなかった話を見つけた。
――神々の中には、人間を滅ぼし、「楽園」を我がものとせんとする悪神もいた。白い髪と肌に赤い目、そして光の翼を持った、美しい悪神の手から人間たちを守る為に、神々は戦い、勝利した……
「――有名な、お話ですね」
セレスティアが言った。
「小さい頃、美しいのに、人間を滅ぼそうとする悪い神の話を初めて聞いた時は、とても恐ろしかったです」
「それも、事実が元になっているのだろうか」
「実際に『異能』が存在している以上、元になった出来事は、あったかもしれませんね」
「なるほど……『悪神』というのは、何かの比喩かもしれないしな」
次に、フェリクスは、画面の「近年の出来事」と記された項目に触れてみた。
画面の中で一際目立つように配置された「人工衛星の打ち上げ」という項目が、目に留まった。
「衛星って、星の周りを回る、更に小さな星のことでしょう?人工、と呼ぶのは、人の手で作られたものだから……ですか?」
セレスティアが、首を傾げて言った。
「惑星の重力と遠心力が釣り合う軌道上に、人工物を打ち上げたのが人工衛星という物だ。記事によれば、打ち上げは、君が引きこもっていた間のことらしいから、情報が伝わっていなかったようだな」
答えながら、フェリクスは、なぜ自分が、そのようなことを知っているのかと疑問に思った。
更に記事を読み進めていくと、一枚の画像が現れた。
帝国の打ち上げた人工衛星から送られた画像だった。
今まさに自分たちが棲む、「楽園」と呼ばれる惑星の姿だ。
海の青に、陸地の緑や黄色みを帯びた部分が入り混じり、ところどころに白い雲がかかった様は、宝石のようだと、フェリクスは思った。
そして、彼はセレスティアを見た。
「君の瞳を見た時、この惑星のように美しいと思った」
フェリクスの言葉に、彼女は、薄らと頬を染めた。
「だが……自分が、この惑星の姿を、どこで見たのかは覚えていないんだ」
帝国内であれば、画像や映像を使った情報伝達も簡単にできるが、それ以外の、遠隔受像機すら存在しない地域では、このように鮮明な惑星の画像を見る機会は稀だろう。
眉根を寄せるフェリクスの顔を、セレスティアが、心配そうに覗き込んだ。
「気分でも、悪いのですか?」
「いや……ずっと、違和感はあった……俺は、皆が当たり前に知っていることを知らなかったり、かと思えば、どこで得たものか分からない知識を持っていたり……自分自身のことは何も分からないというのに」
「…………」
「……生きる為だけに毎日を過ごしていた時は忘れかけていたが、自分が何者か分からないことに気付くと、いつ崩れてもおかしくない、不安定な場所に立っている気持になるんだ」
フェリクスは嘆息した。
不意にセレスティアが立ち上がったかと思うと、座っているフェリクスの後ろに歩いてきた。
そのまま、セレスティアはフェリクスの肩に腕を回して、彼を背後から包み込むような格好になった。
服の布地越しに、彼女の熱く柔らかな身体の感触が伝わり、フェリクスは、不安に波立っていた胸の中が、徐々にだが鎮まっていくのを感じた。
「私は、悔しいです」
セレスティアの滑らかな頬が、フェリクスの頬に触れる。
「あなたが苦しんでいるのに、私は、何もしてあげられない……でも、あなたが過去に何者だったとしても、私が知っている、そして大切に思っているのは、今のあなたですよ」
「何も……などということはない。君が、こうして傍にいてくれると、俺も、心強い」
そう言って、フェリクスは目を伏せた。
守らなければならない、と思っていた筈のセレスティアに、いつしか守られている、そんな気持ちだった。
これまで知らなかった、歴史や世界情勢の話は、彼にとって興味深いものと言えた。
情報端末には、遥かな昔の話として、かつて隣人だった老婆に聞いた「神々」の話も収められていた。
天より降り立ち、人間たちの中に、その血と力を残していった「マレビト」と呼ばれる神々――フェリクスは、伝承の中に、自分が聞いていなかった話を見つけた。
――神々の中には、人間を滅ぼし、「楽園」を我がものとせんとする悪神もいた。白い髪と肌に赤い目、そして光の翼を持った、美しい悪神の手から人間たちを守る為に、神々は戦い、勝利した……
「――有名な、お話ですね」
セレスティアが言った。
「小さい頃、美しいのに、人間を滅ぼそうとする悪い神の話を初めて聞いた時は、とても恐ろしかったです」
「それも、事実が元になっているのだろうか」
「実際に『異能』が存在している以上、元になった出来事は、あったかもしれませんね」
「なるほど……『悪神』というのは、何かの比喩かもしれないしな」
次に、フェリクスは、画面の「近年の出来事」と記された項目に触れてみた。
画面の中で一際目立つように配置された「人工衛星の打ち上げ」という項目が、目に留まった。
「衛星って、星の周りを回る、更に小さな星のことでしょう?人工、と呼ぶのは、人の手で作られたものだから……ですか?」
セレスティアが、首を傾げて言った。
「惑星の重力と遠心力が釣り合う軌道上に、人工物を打ち上げたのが人工衛星という物だ。記事によれば、打ち上げは、君が引きこもっていた間のことらしいから、情報が伝わっていなかったようだな」
答えながら、フェリクスは、なぜ自分が、そのようなことを知っているのかと疑問に思った。
更に記事を読み進めていくと、一枚の画像が現れた。
帝国の打ち上げた人工衛星から送られた画像だった。
今まさに自分たちが棲む、「楽園」と呼ばれる惑星の姿だ。
海の青に、陸地の緑や黄色みを帯びた部分が入り混じり、ところどころに白い雲がかかった様は、宝石のようだと、フェリクスは思った。
そして、彼はセレスティアを見た。
「君の瞳を見た時、この惑星のように美しいと思った」
フェリクスの言葉に、彼女は、薄らと頬を染めた。
「だが……自分が、この惑星の姿を、どこで見たのかは覚えていないんだ」
帝国内であれば、画像や映像を使った情報伝達も簡単にできるが、それ以外の、遠隔受像機すら存在しない地域では、このように鮮明な惑星の画像を見る機会は稀だろう。
眉根を寄せるフェリクスの顔を、セレスティアが、心配そうに覗き込んだ。
「気分でも、悪いのですか?」
「いや……ずっと、違和感はあった……俺は、皆が当たり前に知っていることを知らなかったり、かと思えば、どこで得たものか分からない知識を持っていたり……自分自身のことは何も分からないというのに」
「…………」
「……生きる為だけに毎日を過ごしていた時は忘れかけていたが、自分が何者か分からないことに気付くと、いつ崩れてもおかしくない、不安定な場所に立っている気持になるんだ」
フェリクスは嘆息した。
不意にセレスティアが立ち上がったかと思うと、座っているフェリクスの後ろに歩いてきた。
そのまま、セレスティアはフェリクスの肩に腕を回して、彼を背後から包み込むような格好になった。
服の布地越しに、彼女の熱く柔らかな身体の感触が伝わり、フェリクスは、不安に波立っていた胸の中が、徐々にだが鎮まっていくのを感じた。
「私は、悔しいです」
セレスティアの滑らかな頬が、フェリクスの頬に触れる。
「あなたが苦しんでいるのに、私は、何もしてあげられない……でも、あなたが過去に何者だったとしても、私が知っている、そして大切に思っているのは、今のあなたですよ」
「何も……などということはない。君が、こうして傍にいてくれると、俺も、心強い」
そう言って、フェリクスは目を伏せた。
守らなければならない、と思っていた筈のセレスティアに、いつしか守られている、そんな気持ちだった。
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