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不可視の飛行体
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「これから何が起きるか、私にも見当がつきません。臨戦態勢を整えてください」
ミロシュの言葉に、リューリは驚いた。
臨戦態勢を整えたほうがいい、という「進言」ではなく、整えろ、という命令にも等しい言い方から、彼が最悪の状態を想定していると分かる。
「承知した」
国王テオドールは、ミロシュの言葉に一切の疑問を差し挟むことなく答えた。
「ヴィクトール、非戦闘員の避難指揮を頼む。それと戦闘員を戦闘配置につけてくれ。人員の選別と担当の割り振りは任せる」
「了解だ!」
テオドールに声をかけられ、ヴィクトールが足早に部屋を出て行った。
「ギルベルトは、現時点で国内全ての通信可能な場所に状況を伝えて、非常事態に備えるよう言ってくれ。この前完成した、通信用の魔導回線が使える筈だ」
「分かりました!」
兄に続いて、ギルベルトも部屋を出た。
「場所を変える時間も惜しいな。ここを指令室にしよう。通信用の魔導具をここに」
テオドールは、侍従たちへ、てきぱきと様々な指示を出している。
一方で、ミロシュは画面越しに兵団長を励ましながら対応していた。
「ただちに魔法防御壁を王都全域に展開して。『魔素』の集積に時間がかかる? 魔導炉の出力を一時的に上げるんだ。私の指示通りにやれば大丈夫だから。それと市街地の状況を見られるように準備をしておいて」
「私に、できることはないか?」
リューリは、傍らに立つジークとローザの顔を見上げた。
「リューリちゃんは、ここにいてくれ。君は切り札の一つでもあるからね」
ジークが、そう言って微笑んだ。それは相手を安心させようとする為の表情だと、リューリにも分かった。
そこに、黒ずくめの御庭番衆が一人、音もなく現れた。
「ジーク様、我々も市街地で敵の襲撃に備えます。姿を晒すことになりますが、非常事態ゆえ」
「俺も行こう」
ジークの言葉に、御庭番衆の男は首を振った。
「ジーク様は引退されたことになっている御方。現場は、現頭領の私にお任せください。城内の守りをお願いします」
「……分かった。頼んだぞ」
ジークが頷くと、御庭番衆の男は、再び音もなく姿を消した。
「何も考えずに飛び出していくだけでよかった若い頃が懐かしいよ」
呟いたジークの手を、ローザが、そっと握った。
やがて、王都の市民たちに非常事態と避難の必要を知らせる警告音が響き始めた。
周囲の様子が一変したことで不安になったのか、幼いマリエルは泣き出しそうになるのを堪えている様子で、父であるフレデリクにしがみついている。そんな娘の背中を、フレデリクは宥めるように無言で撫でていた。
「ハルモニエの全ての街や村には、戦時に備えて国民たちが隠れる為の避難所を作ってあるのですが……実際に使う時が来てしまうとは」
ローザが言って、小さくため息をついた。
と、通信用の画面から緊迫した声が響いた。
「監視中の飛行体から、新たな魔素の反応……小型で多数の飛翔体が王都に接近中、駄目です、市街地北部に着弾します!」
「まずいな、防御壁の展開が途中だ」
ミロシュが舌打ちすると同時に、市街地の方向から、重量のある物体が硬いものに衝突するかのような轟音が複数聞こえた。
「市街地の映像、回します」
通信用の画面に、市民の多くが避難し人影の消えた大通りが映し出された。
石畳のあちこちには、たった今飛んできた何か――ひと抱えほどはありそうな金属と見られる球体が、めり込んでいる。
突然、球体の表面に幾つもの突起が浮き上がったかと思うと、見る間に数本の脚のようなものが生え、甲虫を思わせる姿に変形した。
球体たちは虫そのものの如く這い回り始めた。その動きは思いの外速い。
更に、彼らは本体から白く輝く光線を発射し、周囲にある何もかもを無差別に破壊し始めた。
「あれは……自動人形、なのか」
「大きさと動きから見て、指示された行動をとるだけの自動人形だね。あれだけの火力を持つ魔導具を開発しているとは、何もかもが想定外だな、全く」
リューリの呟きに、ミロシュが険しい顔で頷いた。
「市民の避難状況は?」
テオドールが、運び込まれた通信用魔導具から問いかけた。
「八割がた避難所に収容済みです。自動人形たちには近くにいた騎士団および魔法兵団の者たちが対処に当たっています」
「つまり、まだ逃げ遅れている人がいるんだな」
返答を聞いたアデーレが、剣を手にした。
「ウルリヒ、奴らを潰しに行こう。君の転移の魔法で運んでくれ」
「もちろんだ。僕の傍に来て」
ウルリヒが、分かっているとばかりに言った。
「俺も行くぞ!」
声を上げたバルトルトを、アデーレは制止した。
「城内が手薄になるのは不味いです。父上、ローザ様たちを頼みます」
「……ちゃんと帰ってこいよ」
心配そうな顔のバルトルトに見送られ、アデーレとウルリヒは転移の魔法で市街地へと向かった。
壁に浮かべられている通信画面は、市街地で騎士団や魔法兵団、そして普段は人前に姿を現すことのない御庭番衆までが、球体自動人形と戦っている様を映し出している。
球体自動人形は、ただひたすらに周囲にある何かを破壊するのみで、高度な判断は不可能らしい。一旦、その行動様式を把握した人間には敵わず、彼らは次々と潰されていく。
「魔法防御壁の展開完了しました!」
魔法兵団本部からの報告に、一同は僅かに安堵したものの、更に続く言葉が、再び緊張を生んだ。
「敵飛行体、王都までの距離、約半里、なおも接近中!」
「認識阻害魔法を解除した模様、視認が可能になりました! こ、これは……こんな……?!」
状況を伝える緊迫した声で通信画面に目を向けたリューリは、そこに映し出されている現実離れした光景に息を呑んだ。
ミロシュの言葉に、リューリは驚いた。
臨戦態勢を整えたほうがいい、という「進言」ではなく、整えろ、という命令にも等しい言い方から、彼が最悪の状態を想定していると分かる。
「承知した」
国王テオドールは、ミロシュの言葉に一切の疑問を差し挟むことなく答えた。
「ヴィクトール、非戦闘員の避難指揮を頼む。それと戦闘員を戦闘配置につけてくれ。人員の選別と担当の割り振りは任せる」
「了解だ!」
テオドールに声をかけられ、ヴィクトールが足早に部屋を出て行った。
「ギルベルトは、現時点で国内全ての通信可能な場所に状況を伝えて、非常事態に備えるよう言ってくれ。この前完成した、通信用の魔導回線が使える筈だ」
「分かりました!」
兄に続いて、ギルベルトも部屋を出た。
「場所を変える時間も惜しいな。ここを指令室にしよう。通信用の魔導具をここに」
テオドールは、侍従たちへ、てきぱきと様々な指示を出している。
一方で、ミロシュは画面越しに兵団長を励ましながら対応していた。
「ただちに魔法防御壁を王都全域に展開して。『魔素』の集積に時間がかかる? 魔導炉の出力を一時的に上げるんだ。私の指示通りにやれば大丈夫だから。それと市街地の状況を見られるように準備をしておいて」
「私に、できることはないか?」
リューリは、傍らに立つジークとローザの顔を見上げた。
「リューリちゃんは、ここにいてくれ。君は切り札の一つでもあるからね」
ジークが、そう言って微笑んだ。それは相手を安心させようとする為の表情だと、リューリにも分かった。
そこに、黒ずくめの御庭番衆が一人、音もなく現れた。
「ジーク様、我々も市街地で敵の襲撃に備えます。姿を晒すことになりますが、非常事態ゆえ」
「俺も行こう」
ジークの言葉に、御庭番衆の男は首を振った。
「ジーク様は引退されたことになっている御方。現場は、現頭領の私にお任せください。城内の守りをお願いします」
「……分かった。頼んだぞ」
ジークが頷くと、御庭番衆の男は、再び音もなく姿を消した。
「何も考えずに飛び出していくだけでよかった若い頃が懐かしいよ」
呟いたジークの手を、ローザが、そっと握った。
やがて、王都の市民たちに非常事態と避難の必要を知らせる警告音が響き始めた。
周囲の様子が一変したことで不安になったのか、幼いマリエルは泣き出しそうになるのを堪えている様子で、父であるフレデリクにしがみついている。そんな娘の背中を、フレデリクは宥めるように無言で撫でていた。
「ハルモニエの全ての街や村には、戦時に備えて国民たちが隠れる為の避難所を作ってあるのですが……実際に使う時が来てしまうとは」
ローザが言って、小さくため息をついた。
と、通信用の画面から緊迫した声が響いた。
「監視中の飛行体から、新たな魔素の反応……小型で多数の飛翔体が王都に接近中、駄目です、市街地北部に着弾します!」
「まずいな、防御壁の展開が途中だ」
ミロシュが舌打ちすると同時に、市街地の方向から、重量のある物体が硬いものに衝突するかのような轟音が複数聞こえた。
「市街地の映像、回します」
通信用の画面に、市民の多くが避難し人影の消えた大通りが映し出された。
石畳のあちこちには、たった今飛んできた何か――ひと抱えほどはありそうな金属と見られる球体が、めり込んでいる。
突然、球体の表面に幾つもの突起が浮き上がったかと思うと、見る間に数本の脚のようなものが生え、甲虫を思わせる姿に変形した。
球体たちは虫そのものの如く這い回り始めた。その動きは思いの外速い。
更に、彼らは本体から白く輝く光線を発射し、周囲にある何もかもを無差別に破壊し始めた。
「あれは……自動人形、なのか」
「大きさと動きから見て、指示された行動をとるだけの自動人形だね。あれだけの火力を持つ魔導具を開発しているとは、何もかもが想定外だな、全く」
リューリの呟きに、ミロシュが険しい顔で頷いた。
「市民の避難状況は?」
テオドールが、運び込まれた通信用魔導具から問いかけた。
「八割がた避難所に収容済みです。自動人形たちには近くにいた騎士団および魔法兵団の者たちが対処に当たっています」
「つまり、まだ逃げ遅れている人がいるんだな」
返答を聞いたアデーレが、剣を手にした。
「ウルリヒ、奴らを潰しに行こう。君の転移の魔法で運んでくれ」
「もちろんだ。僕の傍に来て」
ウルリヒが、分かっているとばかりに言った。
「俺も行くぞ!」
声を上げたバルトルトを、アデーレは制止した。
「城内が手薄になるのは不味いです。父上、ローザ様たちを頼みます」
「……ちゃんと帰ってこいよ」
心配そうな顔のバルトルトに見送られ、アデーレとウルリヒは転移の魔法で市街地へと向かった。
壁に浮かべられている通信画面は、市街地で騎士団や魔法兵団、そして普段は人前に姿を現すことのない御庭番衆までが、球体自動人形と戦っている様を映し出している。
球体自動人形は、ただひたすらに周囲にある何かを破壊するのみで、高度な判断は不可能らしい。一旦、その行動様式を把握した人間には敵わず、彼らは次々と潰されていく。
「魔法防御壁の展開完了しました!」
魔法兵団本部からの報告に、一同は僅かに安堵したものの、更に続く言葉が、再び緊張を生んだ。
「敵飛行体、王都までの距離、約半里、なおも接近中!」
「認識阻害魔法を解除した模様、視認が可能になりました! こ、これは……こんな……?!」
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