99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

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第7話:フラグのためなら

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乙女ゲーム内に転生した私、侯爵令嬢マリアンヌ=バルマンは、今とても窮地に陥《おちい》っていた。

無事に回避したはずの、自分の死亡フラグ。
その強制イベントに、私はまき込まれてしまったのだ。
 
本当は遠くから強制イベントを、傍観しているつもりだった。
でも後ろから押されて、喧嘩のど真ん中に出ちゃったのだ。

うっ……前に出たのは、たった三歩だけだった。

でも、その三歩が、今さまに私の運命を大きく変えようとしている。

とにかく私は今、かなり際どい状況にいたのだ。

  ◇


「あの方は……マリアンヌ様よ」

「あのバルマン侯爵家のマリアンヌ様よ……」

「きっと、この場の仲介に、名乗り出たのね……」

「さすがマリアンヌ様ですわ……」

野次馬の令嬢と騎士たちは、期待の眼差しを私に向けてくる。
この騒ぎの仲裁を期待しているのだ。


え……、そんな目で見られても、困る。
何でみんな私マリアンヌに、こんなに期待をしているの? 

やっぱり位の高い侯爵家の令嬢だからかな?

でも中身の私には、仲裁の技術も話術もない。
私は日本の普通の子なんだよー。

 テレビの大岡越○みたいに、万事平等に真の悪を罰し正しき者を救う! 
 なんて出来ないんだからね。

だから、そんなに期待しないでよ。


「アナタ……誰ですか?」

うっ、主人公ジャンヌちゃんに、また質問されちゃった。

 彼女の大きな瞳は、真っ直ぐに私を見つめてくる。
 凄くキラキラした瞳。
正義感に溢れ、この世界の平和を必ず取り戻す……そんな決意が秘めた瞳だ。

 うわー、お願い、そんな純粋な瞳で、この薄汚れた心の私を見ないでー。
 
「アナタも私の敵なの?」

あっ……やばい。

私が返事を出来ずにいたら、ジャンヌちゃんは口調を変えてきた。
 明らかにこちらを警戒している。
  
このままだと、ジャンヌちゃんに敵認定されてしまう。

そうなると私の死亡フラグは、最大値まで高まる。

三年後に待っているのは私の悲しい未来。
ジャンヌちゃん成敗され、死亡しちゃう未来の私だ。

 ゲームでは分岐によっては、ジャンヌちゃんの必殺技"聖なる浄化の炎”で、ラスボ化したマリアンヌは炎上しちゃうはずよね。

 あたしゃ、嫌だよー。
生きたまま燃えたくないよー。

 ここで大死亡フラグが立つのだけは、絶対に回避しないと。

なにかゲームから応用できないかな……

あっ、そうだ。
あのセリフ使ってみよう!

よし、いくぞ。

「ふう……私が今まで無言だったのだは、呆れて言葉が出てこなかったからですわ。よろしくて、ジャンヌ様? それにヒドリーナ様も?」

「な、なにをおっしゃるのですか、マリアンヌ様⁉」

ヒドリーナさんは私のことを、味方だと思っていた。
だから私の言葉の意味が分からず、混乱している。

「呆れて……?」

ジャンヌちゃんはこっちを見つめたまま、私の次の言葉を待っている。

よし、最初の掴みは、いい感じだ。

次に私は周囲の野次馬に、視線を向けていく。

「この場にいる皆さん今、私は呆れているのです! 傍観している、皆さんに対してもです!」

「「「え……」」」

 マリアンヌの厳しい言葉に、野次馬たちはシーンとなる。
誰も私の言葉の真意に気が付いていない。

だから答えを欲するかのように、全員が私の方に注目していた。
 
「皆さんに、お聞きします。私たち乙女な指揮官、そして騎士の皆さまは、今なぜ、この場にいらっしゃるのですか? 遠き自らの故郷を離れ、このファルマ学園に集まっているのですか?」

「「「……」」」

私マリアンヌの問いかけに、誰もが自分に問いかけていた。

なぜ自分たちは、この学園に入学したのか?

だが誰も答えられない。

だからこそマリアンヌは、言葉を続ける。

「この大地は今、悪しき妖魔ヨームの大軍によって、滅亡の危機にあります。それを打ち倒すために、私《わたくし》たちは、この場に集まったのではないですか? 大事な故郷の者たちを、守るため……想い人を守るために、学園に入学したのではないですか?」

(((そうだ……)))

 誰かが心の中で賛同する。
 
 この世界は未曾有《みぞう》の危機が迫っていた。
 
人や獣の形をした異形の妖魔ヨームの軍勢。
大陸のいたるところに出現し、罪なき人々を襲っていた。

人外なる妖魔は凶暴であり、凶悪だ。
通常の武具が効きにくい、普通の兵士では歯が立たない。
 
 それに対抗できるのは、特殊な力を有した騎士だけ。
 
 そして騎士の潜在的な力を、100%引き出す事が出来るのは乙女な指揮官だけ。
神より選ばれた、乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーだけなのだ。

 騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダー
どちらが欠けても、妖魔ヨームの軍勢には勝てない。

両者が揃い、想いを重ねてこそ、人類の希望の《聖剣》となるのだ。 

「学園の生徒の多くは貴族です。格式や身分の差も、時には大事でありましょう。ですが我々が学園でなすべき事は、本当に大切なことは、もっと他にあります! それは自らを鍛え上げ、大切な仲間を労わり、迫り来る妖魔《ヨーム》に打ち勝つこと……そうでは、ありませんか、皆さま方?」

 マリアンヌの言葉は、この場の全員の胸に突き刺さる。

いや、心に染み渡る。
そう言った方が、正しいのかもしれない。
 
今、この場にいる誰もが、胸を熱くしていた。

自分たちの本来の目的を思い出していた。

騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとしての使命が、魂を熱くしていたのだ。

そんな熱い静寂の中、マリアンヌはテーブルの赤ワインのグラスを手にする。

「世界を救う大義に比べたら、このようなワインの汚れなど、些細ささいなことですわ!」

そして自分自身のドレスに、赤ワイン叩きかける。

「「「マリアンヌ様⁉」」」

野次馬の令嬢たちから悲鳴が上がる。
突然の奇行に、誰もが言葉を失っていた。

だがマリアンヌは構わず、令嬢ヒドリーナさんに近づいていく。

「ヒドリーナ様、これでお揃いでございますわね、私たち。だからお気持ちを直してくださいませ」

「マ、マリアンヌ様……」

ヒドリーナさんも言葉を失っていた。
真っ赤に染まったマリアンヌのドレスを、じっと見つめている。

だが構わずマリアンヌは周囲の令嬢騎士に、視線を向けていく。

「ここにいる皆さま、お聞きください! 私は誓います!」

そして声高々に宣言する。

「このドレスは、今はまだ赤ワインの色。でも必ずや憎き妖魔ヨームどもを駆逐し、その返り血で真っ赤に染めることを! 人々の平和を守るために!」

マリアンヌの声は高く、よく響く。

静まり返っていた会場の、隅々まで響き渡っていた。

そして全ての者の魂にも、強く響いていた。

「それでは皆さま、失礼いたしますわ。オーホッホホホホ……」


 最後はマリアンヌの得意技。
高笑いを響かせながら、会場を後にするのであった。






あ――――っ!

そして会場の外に出て、ふと我に返り叫ぶ。

やってしまった、と心の底から後悔する。

ああ……なんで、あんなことを言っちゃったんだろう。

どうして全員に向かって、あんな啖呵たんかをきっちゃたの、私は?

最初はジャンヌちゃんと間に、負の溝が出来ないように、冷静に頑張っていた。

でも途中から、自分の意識がちょっと変だった。

マリアンヌさんとの意識が混濁して、豪快なセリフが自然と出てしまった感じだった。

あれは、何だんったんだろ?

まぁ、でも言ってしまったものは仕方がない。

ああ……でも何か凄く、空回りしていたよね、私?

最期には興奮しちゃって、途方もないことを宣言もしていたし。

実はゲームでの主人公ジャンヌのセリフを、私は応用するつもりだった。

シナリオの中盤あたりで、騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーが仲たがいするイベントが起きた時。

両者をいさめるために、主人公ジャンヌが使ったセリフだったのだ、私が言ったのは。

でも私が言ったら、なんかゲームの主人公とは雰囲気が違ってしまった。

やっぱり悪役令嬢である私が、言ったのが失敗だったかもしれない。

あんなに目立って、本当にやっちゃったよー。

明日からは本格的な学園生活がスタート

あーーー私はどんな顔で、教室に入っていけばいいの……行きたくないよー。

でも変な死亡フラグが立つといけないから、頑張っていかないと……。




こうして《顔合わせ会》のイベントは無事?に終わり、いよいよ学園生活がスタートするのであった。
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