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第20話:お花見会

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《ファルマ学園お花見会》

“ファルマの街の花”にも認定されている花が、春になると満開になる。
その時期に合わせて行われる、学園の恒例行事だ。

 ファルマは大都市でありながらも、緑が豊かな場所。
 元々ここは数百年前までは、森林地帯であったという。

 この地に人類の存亡をかけた大都市計画によって“学園”が建設。
周囲に計画的に街が、代々増設されていったのだ。

 人類の天敵である妖魔ヨームは、人の手のかかった清潔感を嫌う。
 そのためファルマの街のいたる所には、公共の水場や公園が設置されていた。
 
 また街の壁の内側にも、今だ未開発な森林部分ある。
そのためファルマは自然が豊かな街なのだ。

 この街を初めて訪れた、異国の旅人は感動する。
ファルマが文化と緑が見事に調和した街だと。

 
 そんなファルマの中でも、お花見ができる最大規模の場所がある。

 それは学園の敷地内にある《花丘フラワー・ヒル》だ。
 広大な敷地内にある丘は、少し小高い場所にあり植物の生息に適していた。
 
 更には眼下に、ファルマの美しい街を一望できる。
学園の敷地内にあるために、一般の市民は入ることはできない場所だ。

 そのため学園内の者にとって、“フラワー・ヒル”は最高のお花見会のスポット。
 
そんな“フラワー・ヒル”で、今年も年に一度のお花見会が行われようとしていた。



「マリアンヌ様、本日のドレスも素敵でございましたわ」

「いえいえ、ヒドリーナ様も素敵ですわ」

 私はヒドリーナ様さんと、いつもの令嬢会話をしながら、馬車に揺られていた。
 
 馬車の行く先は“フラワー・ヒル”。
学園の敷地内にある、本日のお花見会のメイン会場だ。

 今日は週に一回の休息日。
全ての授業や訓練はお休みだ。
 
 ちなみに今日の私は気合いが入っている。

朝もいつもよりも少しだけ早く起床。
髪の毛のセットや、化粧を入念におこなってきた。
 
あと事前に選んでおいたドレスも最終確認しておいた。
 
 むむむ……あれ?
 なんかお腹周りが、少し苦しくなってきたぞ。

どうして?
 
 はっ、そうか!

 そういえば昨夜の夕食が大好きなお肉料理だった。
それで、ついついお替わりしちゃったんだ。

仕方がないので気合を入れて、腹を引っ込ませておこう。

よし、カロリーを消費するために、ヒドリーナさんと、もっとお話をしよう。

「お花見会、楽しみですわね、ヒドリーナ様」

「ですわね! 噂によると会場には、王室御用達の限定紅茶やパティシエ特製の焼き菓子、それに生演奏や歌会などあるようですわ」

「まあ、それは素敵!」

 情報通なヒドリーナさんと、馬車の中で雑談タイム。
今向かっている、お花見会の話を聞く。
 
 ヒドリーナさんの情報によると、会場には色々と催しがあるらしい。

 学園専属のスタッフによる野外カフェ。
花々に囲まれた麗しの歌会など、楽しそうなイベントが盛り沢山。

 あっ、ちなみに皆がイメージしているような『お酒を飲んでのお花見会』とはちょっと違う。

 何しろ私たちは貴族であり令嬢。
 ビールや日本酒をガバガバ飲んで、酔っ払って騒ぐなんて出来ない。

あくまで貴族らしく優雅に、花を愛でる会なのだ。

「あと、マリアンヌ様。やはり一番の見どころは“ファルマの花”の美しさでございます! 大陸でも有数の美しい花……という話です」

「それは楽しみでございますわ」

 “ファルマの花”と言うのは、この街の特有の品種の花らしいだ。
 何でも先人たちが苗を入手して、品種改良と植樹を繰り返してきた美しい花だという。

(“ファルマの花”かー)

 あっ、別に花に興味がない訳じゃないよ。
私は花も大好きだし。
 
でもさー、この世界に転生してから、なんか心がパッとしないんだよね、何となく。

 それにお花見の“花”に関しては、私はちょっとうるさい。
 これは前世の記憶が原因かもしれない。

 私の前世の生まれ育った街は、地方の城下町で日本有数の花見の名所であった。
 江戸時代から現存する城内には、二千本を超える花が植樹され、春になると純白の薫る花が街を覆い尽くすの。

 ああ……アレは本当に感動的な光景だったなー。

 でも、こうして別の世界に来て、あの花を二度と見られない。

 これが原因かな?
ウキウキなはずの春になったけど、私の心のどこかにポッカりと穴が空いている感じなのは。

「お嬢さま、もうすぐ“フラワー・ヒル”に着きます」

 馬車の御者席にいる、若執事ハンスの声が聞こえる。
 どうやらお花見の会場に、たどり着いたようだ。

「窓を開けてみましょう、マリアンヌ様」

「ええ、“ファルマの花”とはどんなお花なのか、楽しみですわ」

 馬車の両側にある小窓を開けて、外の光景を確認する。
 
 うーん。外の心地よい風が、入り込み気持ちがいい。

そして風に乗り、かぎ覚えのある香り。
一片の花びらが、馬車の私の手元に流れてきた。

 あれ、この香りは?
それにこの花弁の形と色は?

(そんな……まさか……“ファルマの花”って……)

 目に入ってきた、予想外の純白の光景に、思わず声が出そうになる

 学園の“フラワー・ヒル”には、見事な雑木林は立ち並んでいた。

 西欧なこの世界で、その光景はどこか異質であった。

――――でも日本人である私にとっては懐かしく、見覚えのある光景だった。

染井吉野ソメイヨシノの花……だ)

異世界“ファルマの花”……それはなんとサクラの花であったのだ。
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