99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

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第31話:ジーク様の秘密

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昼休み時間、静かな中庭の外れ。

「少し私の話をしてもいいか、マリアンヌ?」

「えっ……ええ、もちろんでございます」

 ジーク様は自らの生い立ちを、静かに語ってくれた。



 今から十数年前、ミューザス王国での出来ごと。
“とある貴族”のめかけであった一人の女性は、自分が妊娠したことに気が付く。

……『お暇をちょうだいいたします……』

だが彼女は身分が低い。
急病を理由に、その貴族の前から姿を消す。

嫉妬深い正室に、お腹の子もろとも殺されないように逃げたのだ。

……『今日から、小屋が、私たちの家よ……愛しの我が子よ』

 彼女はお腹に赤子を抱えたまま、田舎に移り住んだ。
わずかな蓄えとともに、静かに貧しく暮らしていく。

月日は流れる。

赤子……ジーク様は無事に産まれる。
だが母一人子一人の田舎暮らしは、貧しく辛かった。

……『誰も恨んではいけません、ジーク。人を愛し、想い、いたわるのです……』

貧しくとも、優しく気丈な母との二人の暮らし。
自分にとって、人生で一番に幸せな時間だった。

そう語るジーク様の瞳は、これまで見たことがないほど優しく澄んでいる。

「だが“とある貴族”は、私たちのことを嗅ぎ付けてきたのだ」

 ジーク様の目つきが急に、鋭く変わる。

“とある貴族”は数年の歳月をかけ、わざわざジーク様親子を探しあてきたのだ。
そこまで固執するのには理由があった。

貴族と正妻との間に、騎士と乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーの才能がある子が、産まれなかったからだ。

焦ったその貴族は、ジーク様の母親のことを思い出す。
不審だった彼女の身辺を調査して、追跡隊を送り出していたのだ。

類まれな騎士の才能を有していた子供。
ジークフリードの存在は、こうして見つかってしまったのだ。

……『お迎えに参りました、ジークフリード様』

情報を手に入れた貴族は、騎士団を辺境の村に派遣。
幼いジークフリードを強制的に、実子として迎え入れたのだ。

ではなぜ、そこまで貴族が実子の才能にこだわるのか?

 この大陸では名のある貴族の家には、騎士か乙女指揮官の才能ある跡取りが、必ず必要なのだ。
 
この世界の支配階級の、貴族の権力は強大。
なぜならば彼らには人類脅威である妖魔を、打ち倒す責務と力があるからだ。

その為に貴族の跡取りには、必ず戦う才能が必要とされていたのだ。
だから実子に才能がなければ、それこそ大問題になる。

 部下である騎士団の信頼を、勝ち取り束ねるは出来ない。
隣国やライバルである他家にも、付け入る隙を与える。

『妖魔に対し力なき貴族は、貴族にあらず』という言葉があるのだ。

そして険しい顔のジークの様の話は続く。

「“とある貴族”は強引に母上を人質にして、私に対して取り脅してきた。一人前の騎士となり、家のために尽くせと」

愛する母を人質に取られてしまった。

だからジーク様はファルマ学園に入学した。
自らの本当の身分を隠しながら、最強の騎士になるために。

「私は必ず、母上を奪い返す……あの憎き男から」

 今は従っているふりをジーク様はしていたのだ。
 屈辱に耐えながら、誰よりも強い騎士になるために。

宿敵を打倒し、母上を取り戻すために、人生を賭けていたのだ。

こうしてジーク様の話は終わる。



「長くなってすまないな、マリアンヌ」

「い、いえ、大丈夫でございます」

 ジーク様の瞳は、とても寂しそうだった。
 同時に強い意志も宿っている。

自分の想いを最後まで貫こうとする、男の顔だ。
 
「なぜ、こんな話を、お前に話したのか、自分でも分からない。すまぬ、忘れてくれ。私の作り話だったと」

 その言葉と表情から、真実だと私は直感した。

(ジーク様……)

 まさかの告白であった。

 自分がプレイしていたゲームでも、ジーク様の過去はここまで深く、ストーリーは語られていなかった。

 そして過酷なジーク様の運命に、胸が苦しくなっていた。
 
何故なら“とある貴族”は隣国ミューザス王国の国王。
大国の最高権力者であるミューザス国王を、ジーク様はたった一人で倒そうとしているのだ。

 常識で考えたら不可能な計画。
"蟻が巨像に挑む”よりも愚かな行為だ。
 
失敗したらジーク様は、間違いなく処刑。
仲間も全て処刑されるだろう。

――――ああ、そうか!
 
だからこそジーク様は、いつも一人だったのだ。
ゲーム内でも、この現実世界でも、常に孤高で過ごしていたのだ。

誰も自分に巻き込まないように。
過酷ないばらの道を、たった一人で歩んでいこうとしていたのだ。

そして私は気がついた。

ジーク様は孤独を愛し、クールなだけ王子様ではないことを。


――――ジークフリード・ザン・ミューザスは、誰よりも熱い男だったのだ。

大事な母親を愛し、仲間を巻き込まないために、辛い孤高を貫く。
愛深き騎士だったのだ。

「うっ……」

 急に目頭が熱くなってきた。
 感極まって、涙が出てきちゃった。

 これは同情とか悲しみではない。
 ジーク様の語る過去の話から、私まで感情が溢れてきてしまったのだ。

 ハンス……ハンカチを……。
 
あっ、そういえば今ハンスは近くにいない。
私に気を使ってくれて、遠いところに待機しているんだ。
 
どうしよう。

「これを使え」

 そっと私の目の前に、ハンカチが差し出される。
 ジーク様が出してくれたのだ。

「あ、ありがとうございます、ジーク様」
 
「感謝は不要だ。それにしても変な女だな……お前は。他人の為に“月空の涙”を流すなど」

えへへ……涙もろくて申し訳ありません。

ん?
“月空の涙”って何だろう?
初めて聞く。

「我がミューザスでは、乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーが流す涙のことを、そう呼ぶ。どんな高価な宝石よりも、とうとい秘宝として敬称だ」

 そ、そんなお宝だなんて、大層なものじゃないよ、私の涙は。
 どこにでもあるような、普通のしょっぱい涙だし。

「ありがとうございます、ジーク様」

 ジーク様のその言葉で、何か元気が出てきた。
そして胸がドキドキしている。

本当のジーク様のことを知って、乙女な私の胸が高まっていたのだ。
これまで以上にジーク様のファンに、私はなっちゃった。
 
こんな素敵なジーク様のお手伝いを、なんか私もできないかな?

あっ、そうだ!
私も微力ながら手助けしよう。

とりあえず言葉に出してみよう。

「この私もお手伝いいたしますわ。ジーク様の願いを叶える手助けを!」

「バ、バカか、お前は? 相手は普通の貴族ではないんだぞ⁉」

「望むところでございますわ。バルマン侯爵家の名に懸けて、手助けいたします!」

「ふっ……そうか。さすがは幼馴染同士、同じこと言うのだな、ラインとお前は」

「えっ……ラインハルト様が?」

「ああ、前にこの話をした時、ラインも同じだった。『その“とある貴族”をぶっ飛ばすのを、オレ様も手伝ってやる!』と」

 まさかそんな偶然があったのか。
 でも、十分あり得る話だ。

 ラインハルトは優秀だが、疑うことを知らない一直線な漢。

きっとジーク様の辛い覚悟に、あの男の胸も熱くなったのだろう。
目に浮かぶ。

ん?
そうしたらラインハルト精神構造、私は同じということ⁉

いや、天文学的な確率で、きっと偶然、同じセリフを言ったんだよ。

「お前のことを今日から“マリア”と呼ぶ。構わないか?」

 えっ?
それはどういう意味?

「変なうえに、鈍感なのか、私の新しい友人ともは」

えっ……私がジーク様と友だちになった⁉

 なんだ、この素敵な展開は。
 クールキャラであるジーク様が、いきなりデレてきた。

 いや、デレはいなけど、いきなり親密度が上がっている。

 いったい何が、どうなっているのだろう。
自分が知らない内に、ジーク様と友好度は、上昇していたのだ。

ぜんぜん身に覚えがないから、混乱してしまう。

ふう……でも、いっか!

あまり難しいことは、考えないようにしておこう。
ジーク様の問題は国外のことだし、私の死亡フラグに関わる感じでも無さそうだし。

「ありがとう……マリア……」

こうして、ひょんなことからジーク様と、私の距離はちょっとだけ近くなった。



――――この日の後日談。
数か月後……いや数年後なのかもしれない。

一人前になったジークフリードは、祖国ミューザスに帰国。
独裁的なミューザス国王を打倒するために、仲間と共に王都で反旗を翻《ひるがえ》す。

だが相手は強大すぎる最高権力者。
ジークフリードと反乱軍は捕まってしまう。

王都の広場で、ジークフリードの公開処刑がされてしまうことに。

――――だが、そんな時、王都に駆け付ける者たちがいた。

……『ジーク様! 約束通り、助けに参りましたわ!』

……『おい、ジーク、待たせたな! ここからが本番だぜ!』

駆け付けたのはファルマ学園の盟友たち。

真紅のドレスに身をまとった乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーが率いる、精鋭部隊の騎士団だった。

こうしてミューザス国王との激戦が幕を開けたのだ。



でも、そんな死亡フラグ全快の大ごとになるとは、この時の私は知らなかった。
 
(えへへっ……ジーク様から“マリア”呼びか……嬉しいな……えっへへ……)
 
小さな歓喜に、一人で浸っていたのであった。
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