99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します

ハーーナ殿下

文字の大きさ
47 / 57

第46話:開戦

しおりを挟む

 ――――《バルマン攻防戦》初日――――

 妖魔ヨーム兵との戦いは、初日から熾烈しれつを極めた。

「西門への兵の補充を急げ!」

「東からが来るぞ!」

「出し惜しみをするな!」

 バルマンの街を取り囲む妖魔の大軍は、一斉に襲いかかってきた。
戦術も陣形も無く、ひたすら攻撃を繰り返してきたのだ。

「矢じりをたらふく食わせてやれ!」

守備側であるバルマン軍は、連携をもって対抗する。
 強固な城壁の上に弓兵を配置。頭上から容赦なく矢の雨を、妖魔に叩き込む。

有事に備えてある矢数は、バルマンには多い。また食糧を含めて補給線における心配はない。

「今だ! 突撃チャージ!」

 敵の手薄な方角の城門を一次的に開放して、バルマン騎兵は突撃していた。
 バルマン騎士団の奇襲突撃により、下級の妖魔兵は押し潰されていく。
軍馬を使いこなすことは、人類の優位に導いている。

「負傷者は予備兵と交代しろ。敵を休ませるな!」

 連戦が続いていく。
 バルマン家は根っからの軍家ではない。
昔は諜報や調略を代々得意として、帝国軍の裏の貴族として暗躍してきた。

 だがここ数代前のバルマン当主から、その路線は徐々に変更されていた。軍備を増強していったのだ。
実力がありながらも日の目を浴びない騎士を、登用していき重役に置き脇を固めいた。

 また暗殺などの調略を、基本的には禁止。礼節を重んじる侯爵家を目指していた。

……『バルマン軍は卑劣だが、実戦では弱い』

 それは他国他家からのイメージ。
実はこれもある意味で、相手を油断させるための情報操作でもあった。

『バルマン軍は実戦でも強い』

 この戦いを見ていたなら、誰もが認識を改めるであろう。



「エドワード様、妖魔どもが退いていきますぞ!」

「初日は我々の圧勝ですな!」

 熾烈な攻撃を繰り返していた妖魔の大軍。
夕陽が沈むと共に、サッと退いていく。
こちらの攻撃が届かない距離まで退避して、傷を癒すのであろう。
 
 妖魔は人型の人外の存在であるが、無尽蔵で無限ではない。
長時間戦えば疲れも溜まり、傷を負えば死に至る。

人との意思疎通はできないが、妖魔同士では情報伝達の能力がある。
ゆえに退却の時は、さっと退いていくのだ。

「お父様! やりましたわね!」

 私マリアンヌは前線から“司令の間”に戻ってきた。
お父様に喜びの表情をむける。

私は初陣に少しばかり興奮してしいるのであろう。自分でも気がつかないほど、自然と言葉も荒くなっていた。

(それにしても、実戦は本当に、すごかったな……)

私は前線で、バルマン兵を指揮していた。すぐ目の前で妖魔と騎士との、激しい激戦が繰り広げられていた。
 怒声や血肉が飛び交う戦場。あれを見て、平静でいられる初陣兵などいないであろう。

 ふう……深呼吸をして自分自身を落ち着かせる。

「よくやったな、マリアよ。だが本当の戦はこれからだ。油断はするな」

 窓の外に広がる闇夜に、目を細めながらお父様は外を見ている。
闇の先に退いていった、妖魔の影を見ているのであろう。

「何かあるとでもいうのですか?」

 私が実戦を経験するのは、今回が初めて。
机上の空論では、過去の様々な戦術史を学んできた。
 経験はないが知識は豊富。今回の初日の攻防戦は、バルマンが圧勝はとも思えた。
 
「だと、いいのだがな……」

 それでも窓の外を見る、お父様の目は険しかった。



  ――――《バルマン攻防戦》二日目――――


 お父様の予感は当たってしまった。

 攻防戦は二日。バルマン軍は早くも、劣勢に陥ったのである。

「西門に兵の補充を至急!」

「馬鹿をいうな、東の方が優先であろうが!」

「とにかく急げ!」

 原因は妖魔軍の更なる増員であった。
 昨日よりも更に敵軍は増加。洪水のように、城壁に押し寄せてきたのだ。

広大なバルマン平野を覆い尽さんばかりに、妖魔軍は溢れていた。
更に自分たちの被害を恐れずに、波状攻撃をしてきたのだ。

「くそっ! 上級の妖魔が来るぞ!」

「騎士様に要請を!」

 更に状況を大きく変えたのは、上級妖魔の存在であった。
 人外の脅威をもつ、妖魔の中でも《上級妖魔》厄介な存在。

 上級妖夢に対しては、腕利きの騎士でようやく互角。
普通の兵士たちでは何人集まろうとも、勝てない恐ろしい存在だ。
 
 更には上級妖魔の特殊攻撃を有する。
城門や城壁すらも打ち崩す、破壊力があるのだ。

放っておいたなら一体で、前線を打ち崩す危険な存在。
 そんな上級妖魔を相手は、惜しみも無く投入してきたのだ。

「くっ……まさか……あそこまで戦力を投入してくるとは……」

「それよりも上級妖魔どもだ! ここに残る騎士だけでは、対応しきれんぞ!」

 長かった二日目の攻防が、ようやく終わった。
 初日と同じように、夕陽が沈むと共に、妖魔の大軍はサッと退いていく。

 本当に長く感じた一日だった。
 たった一日で、バルマン軍はボロボロになりつつある。
誰もが傷つき、疲労が蓄積していた。
 
城に残っていたバルマンの騎士や兵士たちは、決して弱くはない。
 だが相手の戦力が、当初の見込みよりも増加していたのだ。
 
 善戦しているバルマン軍に、今のところ死者はそれほど多くはない。
まだ城壁の上からの弓矢や奇襲によって、一方的な戦いを出来ていたからだ。

 だが敵の休む事のない猛攻で、疲労は既にピークに達して危うい。

 仮に城門の一つでも、決壊してしまったら致命的。
一気に妖魔は街中に雪崩れ込み、敗北は決まってしまうであろう。

 つまり援軍が来るまで、街を囲う城壁を、守り切れるか。
それが今回の勝負の生命線なのだ。

「皆さま……」
 
 前線から“司令の間”に戻ってきた、私は思わず言葉を失う。
騎士たちの多くは、傷つき疲労していたのだ。
ある者は肢体を欠損し、またある者は血まみれだった。
 
 数十倍の数で押し寄せてくる大軍を相手に、彼らは身体を張って防いでいた。
 
こんな時に、何て言葉をかけていいのか分からない。
どうすればいいのだろう?

「驚かせしてしまいましたか、お嬢!?」

「貴君が鬼のような形相で、愚痴るからであろうが」

「はっはっは! 面目ない」

 真っ青な表情でいた私に、気を使い騎士は笑顔をつくる。
 そして語ってくれる。この程度の傷は大したことはない、と。
過去の激戦に比べたら屁でもない、と軽口を叩いてくれる。

「皆さま……」

 それは令嬢である自分への、精一杯のやせ我慢かもしれない。
 でも悲観していた私の心は、勇気をもらい晴れた。
みんな、ありがとう。

 そんな中、“司令の間”で幹部会議が開かれる。
議題は明日以降の戦術だ。

「いざとなったら市民の城内に避難。街の外壁を破棄してでも、時間を稼ぐしかあるまい」

「それではバルマンの街が、焦土と化すぞ!」

「それも仕方あるまい!」

 父上と幹部たちは、明日からの策を練っていた。
予想以上の妖魔の増加をふまえて、当初の作戦を修正していく。

 今の頼みの綱は援軍である。
近隣の諸侯軍。遠征に出ているバルマン主力騎士団の帰還。
彼らがバルマンに到達するのは、早くても八日後だ。
 
残るバルマン軍で八日間を、いかに耐え切るか?
今日の作戦会議の課題であり、急務であった。

「さて、どうしたものか……」

「…………」

 具体的な策は出てこない。 

 最終手段は市民を城内に避難させ、街を放棄。バルマン城に籠城する策だった。

 だがそれでも七日ほどの時間しか、稼げないとの予測。
つまり一日足りない。 
 
 まさに詰み状態。
見えてきた絶望に、幹部の誰もが口を開けないでいた。

――――そんな時だった。

「おそれながらエドワード様、進言いたします」

 沈黙の“司令の間”に、新たなる声が響く。

 それは第三者の発言。
作戦会議では発言権すらない、部外者の言葉だった。

「えっ……ハンス?」

 声の主は、私の後ろに控えていた青年。
いつも影のように付き添っている、若執事であるハンスだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...