獣人の番!?匂いだけで求められたくない!〜薬師(調香師)の逃亡〜【本編完結】

ドール

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番外編

後日談:甘えていいのに

 




 ゾディアス様の願望を知ってしまった日から数日後、いつものように目覚めると心の声は聞こえなくなっていた。


 それからしばらくしたある日、いつもと違う景色が目の前にひろがっている。

 調合をするため今日は自分で着替えに来たのだが、リンジェーラの衣装部屋にディミドラの所で見たようなドレスが何着も紛れ込まされていたのだ。
 
 ざっとみても見覚えがないのが10着以上はある・・・。

 恐らくこの前、ゾディアス様が団長に店を聞いて注文したのだろうが・・・。やけに数が多い。

 どれだけ着て欲しい願望が強いのかと、リンジェーラは手にとってまじまじと見た。


 どれもがタイトなものだが、リンジェーラがもともと着ていた服のタイプに似通っており、リンジェーラが好むデザインだった。


 妊婦でなければ着てもいいとさえ思う。しかしリンジェーラは今は妊婦だ。だからゾディアス様が望んだとしても、好きなデザインだろうが、今はやはり恥ずかしさはあるのだ。


 だが、よく見ると腹部は伸縮性がある生地だし、生地が重ねられシルエットが変わるようなタイプもあり、着る妊婦に配慮されていた。


 ハードルが高い際どいものから、露出が少ない低いものと様々な種類があり、この中からなら着てくれる物があるかもしれないと期待されて揃えられているような気がした。

 ゾディアス様が望んでいる服は、この前聞き及んだ通り腹部のシルエットがわかるものなのだろうが、普段きるならやはり人目も気になるため控えたいところだ。

 願望の詳細には、ドレスを脱がせてずっと腹を触っていたいやら口付けていたいなどだったので、ドレスは関係ないのではないかと思ったが、それが叶わないからのドレスなので、やはり妥協する事にする。

 しかし、ゾディアス様は仕事に行っており帰らないため、帰る時間になったら、着替えてよろこばせることに決めた。



 リンジェーラの調合が切りよく終わり、お望みのドレスを着て上から羽織をかけてゾディアス様が帰るのを庭で待った。


 側には娘のベルジェールが走り回り、娘の幼獣精霊が相手をしてくれている。リンジェーラの側には乳母と護衛が控えていて、身重のリンジェーラに寄り添いながら娘が体当たりしないように注意してくれていた。


「あっ、おとうしゃま、かえってきた」
 鼻がきくベルジェールがいち早く気づき、少し距離がある門の方へ向かって、走って行ってしまう。

 もちろん乳母もベルジェールに合わせて、リンジェーラの側からすぐにいなくなりベルジェールの後をしっかり追って行く。乳母は獣人でリンジェーラであればおいつけないベルジェールにもしっかりと対応してくれるのだ。


「おとうしゃま、いっちょに、あしょぼ」
 ベルジェールはゾディアス様に飛びついたようで、ゾディアス様に抱えられて嬉しそうにはしゃいでいる。


 そんな元気いっぱいなベルジェールを片手で相手にしながら、ゾディアス様はリンジェーラを視界にとらえると、足が止まった。


 リンジェーラの姿に釘付けな様子で、ゾディアス様の口元がゆっくり緩み、嬉しそうな笑みを向けられる。心の声が聞こえなくなったのに、リンジェーラにはゾディアス様が感極まっているであろう幻聴が聞こえたような気がした。


「リンジー。ただいま・・・着てくれたんだな。とても、似合っているよ」

 ゾディアス様はじっくりとリンジェーラを眺めながら、視線を逸らさず、ベルジェールを乳母に預けると、リンジェーラの腰に手を回して引き寄せた。


「リンジー、それを着てくれたという事は期待してもいいのか?」

「何を期待しているかは、確認してみないとわかりませんね」
 ゾディアス様の願望は知っているが、心の声が聞こえた事は流石に話せないため、はぐらかすように言った。


「なら、早く2人の時間を作るとしよう」

 そう耳もとで囁かれると、リンジェーラの身体は宙に浮かぶ。逞しい腕にかかえられて、安定感バッチリで揺れも最小限、まるで自分は羽のように軽いのかと錯覚するほどの素早い動きだ。

 ゾディアス様の嬉しそうな顔をチラリとみやりながら、その背後からはベルジェールのぐずる声が聞こえる。けれど今日は、ゾディアス様のためにごめんねと思いながらも振り返らなかった。

 そのかわり、いつもは控えるようにしていた沢山のフルーツで乳母がベルジェールの気を引いてくれる。そしてすぐにベルジェールの声は嬉しそうなものに変わり一安心した。

 ベルジェールにはフルーツ、ゾディアス様にはを与えておけばいいと言われるほど好物には目がない似たもの親子だった。


 そんな抜かりなく準備してのゾディアス様との時間・・・。


 部屋まで連れられ、ソファに下ろされたあとはじっくりと視姦されている。間違いなく・・・視姦というに相応しい視線で、愛でられているのだ。


「ゾディアス様・・・ちょっと、見過ぎです」

「そんな事はない。まだ30分くらいだ。期待に応えて全力で愛でている。まだ見ているだけだから序の口だ」


「まだ・・・」
 本当に見続けられて30分くらいは経過したが、ゾディアス様はずっと見ていられると言いリンジェーラはソファから動けずにいた。

「好きにしていいのだろう?」
 
 ゾディアス様は横からリンジェーラの腹部を優しくなでる。

「そんな事は言ってませんよ。でも、まあゾディアス様のために着たドレスですから、ある程度は許容します」


「そうか、なら、こっちにおいで」

 ゾディアス様はリンジェーラの手を引き、自身の膝の上に誘導した。横向きに座らされて腹部を撫でながら抱きしめられる。だが相変わらずリンジェーラにどうしてほしいかは言わなかった。


「獣人は好きな物への執着がハッキリとわかりますけど、ゾディアス様は隠すのが上手ですよね。団長とは違って」


「そんなことはない。団長がわかりやすいというだけで、別に俺は隠したりはしていない」
 ゾディアス様は心外だという表情でリンジェーラを見た。

「だって、デラが着てたドレス見て、団長にコソコソ話してお店を聞いたりしてましたし、十分隠してると思うわ」


「・・・・・・団長に聞いたのか」

「ゾディアス様の好きな事は私だってわかりますから、聞かなくても団長に何を言ったかなんて想像でわかりますよ」
 バツが悪そうな顔をして、顔を背けたゾディアス様が可愛くなりリンジェーラはそっと頬に手を伸ばす。

「だから衣装部屋にこのドレスが紛れ込んでたら、着て欲しいのもわかるってものです」


「リンジーが嫌がるなら、俺は強要するつもりはなかった」
 ゾディアス様はリンジェーラに嫌われるのが嫌なのか、いつも自分の意見はあまり言わなかった。いつもリンジェーラの望むようにしてくれるのだ。

「でも、本当は私にこのようなシルエットのドレスを着て欲しかったのでしょう?それで獣人の欲をみたしたかった・・・本当はドレスを脱がしてずっと腹部を撫でていたいってのも思っていそうだけど我慢してるでしょ?」


「・・・・・・」

 心の声が聞こえて、団長と比較して、ゾディアス様が随分と欲求を口に出さず抑えている事を知った。

 だからなんだか、我慢させてしまっている事にゾディアス様なりの愛情も感じるのだが、甘えさせてあげれない事が妻としてなんだか寂しく思った。まだ結婚する前の方が素直だったかもしれない。


「ゾディアス様、私に甘えてもいいんですよ?ゾディアス様が望んでいる事をちゃんと口にして下さい。ゾディアス様がいつも私を甘やかして、私を1番に考えてくれているのはわかってますけど・・・私だってたまには旦那様を甘やかしたいです。本当にお願いが無理だったら無理っていいますから、ゾディアス様が考えていることとか教えて下さい」

 リンジェーラはゾディアス様の頬を撫でて耳元でお願いと囁いた。


「・・・・・・だが、リンジーは俺が団長みたいになったら嫌いになるかもしれないだろ」

 ゾディアス様はまだ心配なようで、リンジェーラを見ようとしない。

「団長のように欲望に忠実で、自分本位でデリカシーがない人が嫌いなだけですし、嫌われると気にする貴方のような人が団長みたいになるわけがないわ。だからたまには私にゾディアス様を甘やかさせてちょうだい。今ここで貴方がお願いの一つも言えないようなら私は貴方の妻でいる自信がなくなるかもしれないわ」

 リンジェーラは痺れを切らし、狡いと思いつつもゾディアス様を脅しにかかった。


「本当にリンジーが側にいるだけで満たされてはいるが・・・そんなリンジーが憂いてしまうなら、一つだけお願いしよう」


「一つじゃなくてもいいけど、まぁいいでしょう」


「そうか。なら、名前を呼んでくれ」


「ゾディアス様?」
 名前を呼べだなんて、今までと変わらないのにと不思議に思った。

「そうじゃない。夫に様はいらないだろう」


 だがゾディアス様の要望は、様付けをのけろというようでリンジェーラはまさかのお願いに戸惑った。

「・・・・・・え、ああ、そういう・・・」


「一つ、願いを聞いてくれるのだろう。なら、いいかげん愛称で呼んでくれ。番であるリンジーしか、俺の愛称は呼べないんだ」

「ゾディアス様の愛称って・・・・・・ゾーイ・・・?」

 リンジェーラはなんとなく恥ずかしくなり、少し俯きながら、ゾディアス様の愛称を口にする。

「あぁ、もっと、たくさん呼んでくれ」
 愛称でよばれたゾディアス様は、本当に満足したように照れた笑みをうべて、リンジェーラの至る所に口付けをしてきた。リンジェーラはゾディアス様が甘えてくれて、こちらも満たされた気持ちになるのだった。
 
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