1 / 1
お試し
しおりを挟む
月が輝く深夜。部屋を抜け出した私は闇に紛れながら先を急いだ。青いドレスは走りづらく、自慢の長いブロンドヘアを見る方はいないけれど、そんなことはどうでもいい。
「今夜はどうなるでしょうか」
それから数分後、私はある場所の前に立った。誰にも知られていない私達だけの秘密。それを楽しむために。
「私です」
「合言葉は?」
中から低い声が聞こえてくる。合言葉、そんなのは決まっている。
「“私達の推しは、最高です”」
「よし、入ってくれ」
学園の裏庭の掘っ立て小屋の木製のドアがゆっくり開く。魔法で灯されたランタンの明かりのみで照らされた室内には秘密を共有する仲間のアーサー様が座っていた。明かりに照らされたダークブルーの短髪は今夜も綺麗で、騎士らしく引き締まった肉体を包む鎧は銀色に輝いている。
「こんばんは、アーサー様」
「こんばんは、アンジェリカ嬢。では、早速始めようか」
「ええ。私達の“推し活”を」
お互いに魔道具に入れてきた紙束や魔映機で撮った写真を取り出していく。アーサー様の自信満々な態度からするに、今夜は中々の物があるようだ。
「では、本日はどちらから披露しますか?」
「昨晩は俺からだったからな。今夜はアンジェリカ嬢からでいいだろう」
「かしこまりました。では……参ります!」
私は広げた写真の中から一枚を手に取る。
「私は、まずはこちらを見せます!」
「これは……トレイル王子がフローラ嬢に手を繋がれて照れていらっしゃる写真!? 普段は余裕があるご様子で公務も勉学もこなしていらっしゃるトレイル王子がフローラ嬢に照れさせられているだと……!?」
金髪の爽やか系の男性と短い栗色の髪の女性の写真をアーサー様が驚きながら手に取る。これだけでも火力は高い。けれど、ここは畳み掛ける方がいい。
「加えてフローラ嬢は、この直前にご自身も照れていらっしゃいました。ですが、トレイル王子の照れている姿が見たかったフローラ嬢は、意を決して自分から手を繋ぎに行ったのです。頭の中で考えている事が口に出ているとも知らずに。そしてトレイル王子もその後は耳まで真っ赤になっていましたよ」
「ぐっ、ぐあぁっ……!」
アーサー様が尊さからひざをつく。しっかりと写真を机の上に丁寧に置いている辺りは流石だ。
「今夜はまだまだ序の口です。さあ、アーサー様の手札にはこれ以上のものはありますか?」
「……はは、たしかに中々の物が来た。だが、俺も何もせずに今日を過ごしてきたわけではないのだ!」
アーサー様が立ち上がる。かなりのダメージでライフポイントは削ったはずなのにまだ立ち上がるとは。流石はアーサー様の近衛騎士といったところだろうか。
「俺が出すのは……これだ!」
「こ、これはっ……!」
「トレイル様がフローラ嬢に不意打ちで口づけをなさった瞬間だ!」
その瞬間、尊さが私のライフポイントに大きなダメージを与える。
「あっ、ああぁっ!」
「これは今夜の切り札だ。フローラ嬢とトレイル様が裏庭のベンチで談笑なさっていた際、近くの花に目を奪われていたフローラ嬢を不意に呼んだかと思ったら顔を向けた瞬間に口づけ。その後、顔を真っ赤にするフローラ嬢を見ながらトレイル様が微笑む。どうだ、ここまでの流れは!」
「さっ、最高過ぎます……!」
なんだそれは。萌えの権化か。こんなのは暴力だ。尊さの暴力が過ぎる。こんなの、語彙力が下がってしまう。
「で、ですが……私も負けられません! さあ、まだまだいきますわよ!」
「望むところだ、アンジェリカ嬢! あなたは敵国の令嬢だが、同じ人達を愛する同士。推し活仲間だからな!」
「ええ!」
ひょんな事から見つけた推し活仲間。お互いに推しのカップリングは逆だけど、それでもアーサー様は私にとって立派な同士。前世では見つけられなかった最高の戦友だ。
「では、士気を高めるためにまた合言葉を言いましょう! その後に推し活バトル再開です!」
「わかった!」
私達は笑いあってから声を揃えた。
『“私達の推しは、最高です”!』
「今夜はどうなるでしょうか」
それから数分後、私はある場所の前に立った。誰にも知られていない私達だけの秘密。それを楽しむために。
「私です」
「合言葉は?」
中から低い声が聞こえてくる。合言葉、そんなのは決まっている。
「“私達の推しは、最高です”」
「よし、入ってくれ」
学園の裏庭の掘っ立て小屋の木製のドアがゆっくり開く。魔法で灯されたランタンの明かりのみで照らされた室内には秘密を共有する仲間のアーサー様が座っていた。明かりに照らされたダークブルーの短髪は今夜も綺麗で、騎士らしく引き締まった肉体を包む鎧は銀色に輝いている。
「こんばんは、アーサー様」
「こんばんは、アンジェリカ嬢。では、早速始めようか」
「ええ。私達の“推し活”を」
お互いに魔道具に入れてきた紙束や魔映機で撮った写真を取り出していく。アーサー様の自信満々な態度からするに、今夜は中々の物があるようだ。
「では、本日はどちらから披露しますか?」
「昨晩は俺からだったからな。今夜はアンジェリカ嬢からでいいだろう」
「かしこまりました。では……参ります!」
私は広げた写真の中から一枚を手に取る。
「私は、まずはこちらを見せます!」
「これは……トレイル王子がフローラ嬢に手を繋がれて照れていらっしゃる写真!? 普段は余裕があるご様子で公務も勉学もこなしていらっしゃるトレイル王子がフローラ嬢に照れさせられているだと……!?」
金髪の爽やか系の男性と短い栗色の髪の女性の写真をアーサー様が驚きながら手に取る。これだけでも火力は高い。けれど、ここは畳み掛ける方がいい。
「加えてフローラ嬢は、この直前にご自身も照れていらっしゃいました。ですが、トレイル王子の照れている姿が見たかったフローラ嬢は、意を決して自分から手を繋ぎに行ったのです。頭の中で考えている事が口に出ているとも知らずに。そしてトレイル王子もその後は耳まで真っ赤になっていましたよ」
「ぐっ、ぐあぁっ……!」
アーサー様が尊さからひざをつく。しっかりと写真を机の上に丁寧に置いている辺りは流石だ。
「今夜はまだまだ序の口です。さあ、アーサー様の手札にはこれ以上のものはありますか?」
「……はは、たしかに中々の物が来た。だが、俺も何もせずに今日を過ごしてきたわけではないのだ!」
アーサー様が立ち上がる。かなりのダメージでライフポイントは削ったはずなのにまだ立ち上がるとは。流石はアーサー様の近衛騎士といったところだろうか。
「俺が出すのは……これだ!」
「こ、これはっ……!」
「トレイル様がフローラ嬢に不意打ちで口づけをなさった瞬間だ!」
その瞬間、尊さが私のライフポイントに大きなダメージを与える。
「あっ、ああぁっ!」
「これは今夜の切り札だ。フローラ嬢とトレイル様が裏庭のベンチで談笑なさっていた際、近くの花に目を奪われていたフローラ嬢を不意に呼んだかと思ったら顔を向けた瞬間に口づけ。その後、顔を真っ赤にするフローラ嬢を見ながらトレイル様が微笑む。どうだ、ここまでの流れは!」
「さっ、最高過ぎます……!」
なんだそれは。萌えの権化か。こんなのは暴力だ。尊さの暴力が過ぎる。こんなの、語彙力が下がってしまう。
「で、ですが……私も負けられません! さあ、まだまだいきますわよ!」
「望むところだ、アンジェリカ嬢! あなたは敵国の令嬢だが、同じ人達を愛する同士。推し活仲間だからな!」
「ええ!」
ひょんな事から見つけた推し活仲間。お互いに推しのカップリングは逆だけど、それでもアーサー様は私にとって立派な同士。前世では見つけられなかった最高の戦友だ。
「では、士気を高めるためにまた合言葉を言いましょう! その後に推し活バトル再開です!」
「わかった!」
私達は笑いあってから声を揃えた。
『“私達の推しは、最高です”!』
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる