推し活仲間は、近衛騎士様

九戸政景

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 月が輝く深夜。部屋を抜け出した私は闇に紛れながら先を急いだ。青いドレスは走りづらく、自慢の長いブロンドヘアを見る方はいないけれど、そんなことはどうでもいい。
「今夜はどうなるでしょうか」
それから数分後、私はある場所の前に立った。誰にも知られていない私達だけの秘密。それを楽しむために。
「私です」
「合言葉は?」
 中から低い声が聞こえてくる。合言葉、そんなのは決まっている。
「“私達の推しは、最高です”」
「よし、入ってくれ」
 学園の裏庭の掘っ立て小屋の木製のドアがゆっくり開く。魔法で灯されたランタンの明かりのみで照らされた室内には秘密を共有する仲間のアーサー様が座っていた。明かりに照らされたダークブルーの短髪は今夜も綺麗で、騎士らしく引き締まった肉体を包む鎧は銀色に輝いている。
「こんばんは、アーサー様」
「こんばんは、アンジェリカ嬢。では、早速始めようか」
「ええ。私達の“推し活”を」
 お互いに魔道具に入れてきた紙束や魔映機で撮った写真を取り出していく。アーサー様の自信満々な態度からするに、今夜は中々の物があるようだ。
「では、本日はどちらから披露しますか?」
「昨晩は俺からだったからな。今夜はアンジェリカ嬢からでいいだろう」
「かしこまりました。では……参ります!」
 私は広げた写真の中から一枚を手に取る。
「私は、まずはこちらを見せます!」
「これは……トレイル王子がフローラ嬢に手を繋がれて照れていらっしゃる写真!? 普段は余裕があるご様子で公務も勉学もこなしていらっしゃるトレイル王子がフローラ嬢に照れさせられているだと……!?」
 金髪の爽やか系の男性と短い栗色の髪の女性の写真をアーサー様が驚きながら手に取る。これだけでも火力は高い。けれど、ここは畳み掛ける方がいい。
「加えてフローラ嬢は、この直前にご自身も照れていらっしゃいました。ですが、トレイル王子の照れている姿が見たかったフローラ嬢は、意を決して自分から手を繋ぎに行ったのです。頭の中で考えている事が口に出ているとも知らずに。そしてトレイル王子もその後は耳まで真っ赤になっていましたよ」
「ぐっ、ぐあぁっ……!」
 アーサー様が尊さからひざをつく。しっかりと写真を机の上に丁寧に置いている辺りは流石だ。
「今夜はまだまだ序の口です。さあ、アーサー様の手札にはこれ以上のものはありますか?」
「……はは、たしかに中々の物が来た。だが、俺も何もせずに今日を過ごしてきたわけではないのだ!」
 アーサー様が立ち上がる。かなりのダメージでライフポイントは削ったはずなのにまだ立ち上がるとは。流石はアーサー様の近衛騎士といったところだろうか。
「俺が出すのは……これだ!」
「こ、これはっ……!」
「トレイル様がフローラ嬢に不意打ちで口づけをなさった瞬間だ!」
 その瞬間、尊さが私のライフポイントに大きなダメージを与える。
「あっ、ああぁっ!」
「これは今夜の切り札だ。フローラ嬢とトレイル様が裏庭のベンチで談笑なさっていた際、近くの花に目を奪われていたフローラ嬢を不意に呼んだかと思ったら顔を向けた瞬間に口づけ。その後、顔を真っ赤にするフローラ嬢を見ながらトレイル様が微笑む。どうだ、ここまでの流れは!」
「さっ、最高過ぎます……!」
 なんだそれは。萌えの権化か。こんなのは暴力だ。尊さの暴力が過ぎる。こんなの、語彙力が下がってしまう。
「で、ですが……私も負けられません! さあ、まだまだいきますわよ!」
「望むところだ、アンジェリカ嬢! あなたは敵国の令嬢だが、同じ人達を愛する同士。推し活仲間だからな!」
「ええ!」
 ひょんな事から見つけた推し活仲間。お互いに推しのカップリングは逆だけど、それでもアーサー様は私にとって立派な同士。前世では見つけられなかった最高の戦友ともだ。
「では、士気を高めるためにまた合言葉を言いましょう! その後に推し活バトル再開です!」
「わかった!」
 私達は笑いあってから声を揃えた。
『“私達の推しは、最高です”!』
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