氷の薔薇は愛に目覚める~婚約破棄された令嬢と救国の王子~

イアペコス

文字の大きさ
30 / 68

氷解の兆し 9

しおりを挟む
しかし、エリザベスは、いくら自分が努力し、誠意を尽くしても、村人たちとの間に、まだ、目にはっきりと見えるわけではないが、しかし確かに、そして頑として存在する、分厚く、そして冷たく、そして容易には打ち破ることのできない、身分と境遇の違いからくる氷の壁があることを、痛いほどに、そして時には絶望的なまでに感じていた。彼女は、彼らにとって、まだ、どこか遠い、自分たちとは住む世界の違う、手の届かない存在である「王都から来た、お綺麗で、お優しい、しかしやはりお貴族様」であり、そして、あの忌まわしい、そしてセンセーショナルな夜会の記憶と共に、面白おかしく、そして悪意を込めて語り継がれる「婚約者を裏切った、追放された悪女」という、不名誉で、そしてあまりにも重い過去のレッテルが、完全に剥がれ落ち、忘れ去られたわけでは、決してなかった。
そして何よりも、彼女は、自分自身が、まだ、この、貧しく、無知で、そして時には卑屈でさえある村の人々を、そして、この、荒涼として未来の見えない土地で、新しい人生を、彼らと共に、そして彼らのために始めようとしている自分自身を、心の底から、何の疑いも、何の躊躇いもなく、完全に信じきれていないことも、自分自身の心の奥底にある、まだ癒えない傷のように、痛いほどに感じていた。

彼女は、この村の人々と、本当の意味で、魂のレベルで深く心を通わせ、彼らと、喜びも、悲しみも、そして怒りさえも全て分かち合い、そして共に手を取り合って、このエルム村を、彼らにとって、そして自分自身にとっての、かけがえのない真の故郷として再興するためには、まだ、何か決定的に重要な、そして言葉では言い表せない何かが、自分の中に、そして彼らとの関係の中に、足りない、と感じていた。それは、論理や、計算や、あるいは一方的な施しではなく、心と心の、魂と魂の、何の隔たりもない、直接的で、そして温かい触れ合いと、それによって自然に生まれる、言葉を超えた、深く、そして揺るぎない絆だったのかもしれない。

そんなある、特に冷え込みが厳しく、窓の外では、雪がまるで白い悪魔の軍勢のように、猛烈な勢いで吹き荒れ、家々を震わせるような、嵐の夜のことだった。エリザベスは、山のように積み上げられた、専門家たちからの、難解な専門用語と数字だらけの調査報告書や、村の再興計画に関する、あまりにも膨大で複雑な様々な資料と、まるで孤独な戦いを挑むかのように格闘し、ランプの、今にも消え入りそうに揺れる、か細く頼りない灯りの下で、時間を、そして自分自身の疲労さえも完全に忘れて、一心不乱に作業を続けていた。心身ともに、もはや限界に近いほどに疲れ果て、重くなったまぶたが、自然と落ちてきそうになった、まさにその時だった。ふと、荒れ狂う風の、まるで獣の咆哮のような音に混じって、何やら人の気配が、そして微かな話し声がするのに気づき、警戒しながら、音を立てないようにそっと窓の外に目をやった。雪明かりの中に、ぼんやりと、自分の館の、粗末で、そして嵐のせいでガタガタと不気味な音を立てている木の扉の前に、いくつかの、寒さに身を縮こませた、小さな人影が集まっているのが、かろうじて見えた。
こんな、全てを飲み込みそうな嵐の夜に、一体誰が、何の用で?まさか、盗人か、あるいは、何か良からぬ企みを持った者たちか?一瞬、エリザベスの背筋に、冷たいものが走った。しかし、すぐに、彼女は、自分のその猜疑心を恥じた。この村の人々が、そんなことをするはずがない、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

処理中です...