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チュートリアル
陣形を崩せ!
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「何真っ先に逃げ出しとんねん! ビビりすぎやろ!」
「戦いの経験なんてないんだし、しょうがないでしょう! あなただって闇雲にバット振り回してただけじゃない!」
「動き早いんやから、しょうがないやろ! 臆病者よりマシや!」
僕は言い争いを行う二人の様子を、ため息交じりに眺めていた。
僕たちが今いるのは待機ルーム。初めてとなるチーム戦、相手は鎌鼬三匹だった。
素早い動きと大きな鎌を持っているのが特徴の、日本の妖怪だ。
今回の戦闘フィールドは「森」。前回とは異なり、敵と離れた位置に出現し、相手と遭遇次第戦闘スタート。
結果は大体想像つくと思うんだけど……突っ込んでいった合田君が先頭の鎌鼬に転ばされ、二匹目にバッサリとやられた。
夢野さんはその場から離れようとしたところを追いつかれ、背中から切られた。
僕はというと、呪文の詠唱に入ろうとする間に接近されてそのまま……という感じだ。
三度ほど挑戦はしたものの、今のところ勝利への糸口さえ掴めない。
三位一体の連携攻撃と、何より高速で動くスピードが厄介な難敵だった。
「と、とにかく作戦を練ろうよ! ケンカしても何の解決にもならないからさ!」
僕は宥めたが、二人とも腕組んだままフンッとそっぽ向いてしまった。
合田君は何となくわかるが、夢野さんも案外負けず嫌いだったらしい。
(僕が上手くやれればいいんだけど、呪文っていうのも案外万能じゃないんだな……)
僕自身の能力についても、わかったことがいくつかある。
1.対象呪文が書かれているページを開いていなければ発動出来ない
2.詠唱を間違えると発動出来ない
3.ルンが不足している呪文は発動出来ない(極大呪文は特に消費が大きい)
こんな感じでとにかく制限が多い。何より厄介なのは、この世界において「フレンドリーファイア」(仲間への攻撃)が有効であるということ。
乱戦時に攻撃範囲が広い呪文は、味方も巻き込んでしまう。
これに上記の制限を加えると、撃てる魔法は対単体の基本魔法くらいだった。
「とにかく相手の動きを止めなきゃ。僕の魔法じゃ遠くから撃っても避けられるし、近くだと詠唱が間に合わないんだ」
「つってもなぁ。あいつらの攻撃パターン、単純やけど強力や。二体目の鎌に気を取られてると、一体目に足すくわれてまう。いくら俺でも、三体同時は無理やで」
問題はそこだ。鎌鼬は基本的に三体まとまって動く。魔法で一掃出来れば理想だが、それが出来ない理由は先に述べた通り。
鎌鼬の攻撃方法は、まず一体目が持っている木の枝で足を払って転ばせる。そこを二体目が大きな鎌で切りつけてくるという二段攻撃。
縦一列に並んでいるので、後列には攻撃を当てにくい。仮に当てたとしても、三体目が持っている薬で回復されてしまうため、一撃ないし短時間で倒す必要があった。
「まず一体目の足を止めよう。夢野さん、戦いが始まったら木陰に隠れて様子見てて。僕たちが鎌鼬を引き付けるから、一体目の足を狙って動きを止めて欲しいんだ」
「……わかった。やってみる」
牽制兼盾役になっている一体目を引きはがせれば、鎌鼬の陣形は崩れる。そしてその役は、夢野さんが適任だろう。
「合田君は一体目が隊列から離れたら、二体目の相手をして欲しいんだ。三体目は攻撃手段を持ってないみたいだから、残り一体になったら接近して魔法をぶちかます。合田君は一対一なら負けないと思うし、回復役を倒せれば一気に有利になると思うんだ」
「オッケー、ナイスアイディア! それでいこうで!」
どうやら合田君にも異論はないらしい。作戦が決まった僕らは同時に頷くと、五度目となる鎌鼬との対戦に挑んだ。
そして場は戦闘フィールドの森へと移る。
僕たちはまず、周囲に鎌鼬がいないことを確認しながら、充分に動くことができる広めの場所に移動。
そこで夢野さんは後方の木陰に身を隠すと、僕たちに対して目配せをした。
「よっしゃいくで! イタチども、俺はここや! かかってこいや!!」
合田君はバットをグルグル回しながら、大きな声で叫んだ。
幸運にも鎌鼬は正面にいたらしく、二十メートルほど前方から、高速な動きで近づいてくる姿が目に映る。
僕と合田君は腰を落とすと、同時に迎撃態勢を取った。
「夢野さん、今だ!!」
鎌鼬との距離が十メートルほどの詰まった時に、僕の合図に従い夢野さんが矢を放つ。
打ち出された矢は、先頭の鎌鼬の右足に見事命中し、転倒させた。
続く二体目が僕に向けて大きな鎌を振るったが、キンという金属音と共に静止。
割り込んできた合田君が、金属バットで鎌の一撃を止めたのだ。
「スラッガーの動体視力なめんなよ! おらぁ!!」
合田君はすかさず鎌鼬の腹を蹴り飛ばすと、衝撃で弾かれた鎌鼬をすかさず追いかける。
そして僕は、既に詠唱の準備に入っていた。
「……風の精霊よ。大気を切り裂く轟音を響かせよ! ウインドカッター!!」
直後、僕の前方の空間が大きく歪む。
不意を突かれた三体目は回避する間もなく、僕が作り出した風の刃にて、その身体を引き裂かれた。
三体目が消失したのを確認した僕は、すぐに周囲の様子を確認。
合田君は二体目と近接戦闘中。それを見た一体目が加勢しようしたが、夢野さんの牽制射撃により阻害されていた。
「はっ! なんぼ大きな鎌でも、この金属バット様は切れんで! なんせガキの頃にもろた、プロ野球選手の特注バットやからな!」
合田君がよくわからない理由を述べながら、戦っている。その様子を見る限り、彼にはまだ余裕がありそうだ。
僕は咄嗟に夢野さんに加勢すべきと判断した。
「合田君! ここは任せるよ! 僕は夢野さんと一緒にもう一体を倒す!」
「おお! 任せとけや!」
加勢が困難と判断したのか、一体目は狙いを夢野さんに変更したようだ。
彼女に向かって走り出した矢先、僕は右手を鎌鼬の背に向けた。
「風の精霊よ。大気を切り裂く轟音を響かせよ! ウインドカッター!!」
僕は再び風の刃を放ったが、距離があったためか、跳躍により躱されてしまう。
しかし夢野さんは、既に上空に向けて弓を構えていた。
「本当は撃ちたくなんてないけれど……ごめんなさい」
彼女は眉を顰めた後、引き絞った矢を放つ。
飛来する矢は見事に鎌鼬の眉間を貫くと、落下。息絶えた一体目はそのまま消失した。
「よし、これで残りは一体!」
僕と夢野さんは同時に合田君の方へと向き直る。するとその時、パキンと割れるような金属音が鳴る。
見ると、合田君の振りぬいたバットが、鎌鼬の鎌を叩き折ったところだった。
「あの世に行っても覚えとけ。俺が天才スラッガー……合田 武志さまや!!」
態勢を崩した鎌鼬に、合田君の渾身の一振りが炸裂。
衝撃で粉砕された鎌鼬は直後、その場から消失した。
出現した【You Win!】の文字を見て、僕は思わずガッツポーズしてしまった。
「やったね合田君! さすがだよ!」
「……へっ、お前には負けるわい。風の精霊よ! なんちゃらやっけ?」
合田君がカカカと豪快に笑うのを見て、急に恥ずかしくなった僕は、赤面してしまうのだった。
「戦いの経験なんてないんだし、しょうがないでしょう! あなただって闇雲にバット振り回してただけじゃない!」
「動き早いんやから、しょうがないやろ! 臆病者よりマシや!」
僕は言い争いを行う二人の様子を、ため息交じりに眺めていた。
僕たちが今いるのは待機ルーム。初めてとなるチーム戦、相手は鎌鼬三匹だった。
素早い動きと大きな鎌を持っているのが特徴の、日本の妖怪だ。
今回の戦闘フィールドは「森」。前回とは異なり、敵と離れた位置に出現し、相手と遭遇次第戦闘スタート。
結果は大体想像つくと思うんだけど……突っ込んでいった合田君が先頭の鎌鼬に転ばされ、二匹目にバッサリとやられた。
夢野さんはその場から離れようとしたところを追いつかれ、背中から切られた。
僕はというと、呪文の詠唱に入ろうとする間に接近されてそのまま……という感じだ。
三度ほど挑戦はしたものの、今のところ勝利への糸口さえ掴めない。
三位一体の連携攻撃と、何より高速で動くスピードが厄介な難敵だった。
「と、とにかく作戦を練ろうよ! ケンカしても何の解決にもならないからさ!」
僕は宥めたが、二人とも腕組んだままフンッとそっぽ向いてしまった。
合田君は何となくわかるが、夢野さんも案外負けず嫌いだったらしい。
(僕が上手くやれればいいんだけど、呪文っていうのも案外万能じゃないんだな……)
僕自身の能力についても、わかったことがいくつかある。
1.対象呪文が書かれているページを開いていなければ発動出来ない
2.詠唱を間違えると発動出来ない
3.ルンが不足している呪文は発動出来ない(極大呪文は特に消費が大きい)
こんな感じでとにかく制限が多い。何より厄介なのは、この世界において「フレンドリーファイア」(仲間への攻撃)が有効であるということ。
乱戦時に攻撃範囲が広い呪文は、味方も巻き込んでしまう。
これに上記の制限を加えると、撃てる魔法は対単体の基本魔法くらいだった。
「とにかく相手の動きを止めなきゃ。僕の魔法じゃ遠くから撃っても避けられるし、近くだと詠唱が間に合わないんだ」
「つってもなぁ。あいつらの攻撃パターン、単純やけど強力や。二体目の鎌に気を取られてると、一体目に足すくわれてまう。いくら俺でも、三体同時は無理やで」
問題はそこだ。鎌鼬は基本的に三体まとまって動く。魔法で一掃出来れば理想だが、それが出来ない理由は先に述べた通り。
鎌鼬の攻撃方法は、まず一体目が持っている木の枝で足を払って転ばせる。そこを二体目が大きな鎌で切りつけてくるという二段攻撃。
縦一列に並んでいるので、後列には攻撃を当てにくい。仮に当てたとしても、三体目が持っている薬で回復されてしまうため、一撃ないし短時間で倒す必要があった。
「まず一体目の足を止めよう。夢野さん、戦いが始まったら木陰に隠れて様子見てて。僕たちが鎌鼬を引き付けるから、一体目の足を狙って動きを止めて欲しいんだ」
「……わかった。やってみる」
牽制兼盾役になっている一体目を引きはがせれば、鎌鼬の陣形は崩れる。そしてその役は、夢野さんが適任だろう。
「合田君は一体目が隊列から離れたら、二体目の相手をして欲しいんだ。三体目は攻撃手段を持ってないみたいだから、残り一体になったら接近して魔法をぶちかます。合田君は一対一なら負けないと思うし、回復役を倒せれば一気に有利になると思うんだ」
「オッケー、ナイスアイディア! それでいこうで!」
どうやら合田君にも異論はないらしい。作戦が決まった僕らは同時に頷くと、五度目となる鎌鼬との対戦に挑んだ。
そして場は戦闘フィールドの森へと移る。
僕たちはまず、周囲に鎌鼬がいないことを確認しながら、充分に動くことができる広めの場所に移動。
そこで夢野さんは後方の木陰に身を隠すと、僕たちに対して目配せをした。
「よっしゃいくで! イタチども、俺はここや! かかってこいや!!」
合田君はバットをグルグル回しながら、大きな声で叫んだ。
幸運にも鎌鼬は正面にいたらしく、二十メートルほど前方から、高速な動きで近づいてくる姿が目に映る。
僕と合田君は腰を落とすと、同時に迎撃態勢を取った。
「夢野さん、今だ!!」
鎌鼬との距離が十メートルほどの詰まった時に、僕の合図に従い夢野さんが矢を放つ。
打ち出された矢は、先頭の鎌鼬の右足に見事命中し、転倒させた。
続く二体目が僕に向けて大きな鎌を振るったが、キンという金属音と共に静止。
割り込んできた合田君が、金属バットで鎌の一撃を止めたのだ。
「スラッガーの動体視力なめんなよ! おらぁ!!」
合田君はすかさず鎌鼬の腹を蹴り飛ばすと、衝撃で弾かれた鎌鼬をすかさず追いかける。
そして僕は、既に詠唱の準備に入っていた。
「……風の精霊よ。大気を切り裂く轟音を響かせよ! ウインドカッター!!」
直後、僕の前方の空間が大きく歪む。
不意を突かれた三体目は回避する間もなく、僕が作り出した風の刃にて、その身体を引き裂かれた。
三体目が消失したのを確認した僕は、すぐに周囲の様子を確認。
合田君は二体目と近接戦闘中。それを見た一体目が加勢しようしたが、夢野さんの牽制射撃により阻害されていた。
「はっ! なんぼ大きな鎌でも、この金属バット様は切れんで! なんせガキの頃にもろた、プロ野球選手の特注バットやからな!」
合田君がよくわからない理由を述べながら、戦っている。その様子を見る限り、彼にはまだ余裕がありそうだ。
僕は咄嗟に夢野さんに加勢すべきと判断した。
「合田君! ここは任せるよ! 僕は夢野さんと一緒にもう一体を倒す!」
「おお! 任せとけや!」
加勢が困難と判断したのか、一体目は狙いを夢野さんに変更したようだ。
彼女に向かって走り出した矢先、僕は右手を鎌鼬の背に向けた。
「風の精霊よ。大気を切り裂く轟音を響かせよ! ウインドカッター!!」
僕は再び風の刃を放ったが、距離があったためか、跳躍により躱されてしまう。
しかし夢野さんは、既に上空に向けて弓を構えていた。
「本当は撃ちたくなんてないけれど……ごめんなさい」
彼女は眉を顰めた後、引き絞った矢を放つ。
飛来する矢は見事に鎌鼬の眉間を貫くと、落下。息絶えた一体目はそのまま消失した。
「よし、これで残りは一体!」
僕と夢野さんは同時に合田君の方へと向き直る。するとその時、パキンと割れるような金属音が鳴る。
見ると、合田君の振りぬいたバットが、鎌鼬の鎌を叩き折ったところだった。
「あの世に行っても覚えとけ。俺が天才スラッガー……合田 武志さまや!!」
態勢を崩した鎌鼬に、合田君の渾身の一振りが炸裂。
衝撃で粉砕された鎌鼬は直後、その場から消失した。
出現した【You Win!】の文字を見て、僕は思わずガッツポーズしてしまった。
「やったね合田君! さすがだよ!」
「……へっ、お前には負けるわい。風の精霊よ! なんちゃらやっけ?」
合田君がカカカと豪快に笑うのを見て、急に恥ずかしくなった僕は、赤面してしまうのだった。
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