上 下
25 / 39
第三章「真意」

開眼

しおりを挟む
 草木に身を隠していた僕だが、相手は迷わずこちらに接近してくる。どうやら僕の位置は既に把握されているらしい。

「あそこにいるぞ! 逃げられないようにまずは周りを囲むんだ!」

 合図と共に、周囲に取り囲む中高生男子三人組。

 手にはそれぞれ鎌、ナックルダスター、鞭を所有している。顔ぶれにも見覚えがある。確か序盤戦で武志君にやられていた人達だ。

「俺、こいつ知ってるぜ! 呪文唱えて魔法を撃つ中二病だ! 間髪入れずに同時にかかれば、俺達でも倒せる!」

 年下に中二病呼ばわりされると、さすがの僕もちょっと恥ずかしい。

 確かにそうかもしれないけど、口に出さなくてもいいだろうに。ルンの割り振りも工夫してないようなので、恐らく下位ランカーなのだろう。

 僕は敵の初動を見逃さないよう集中しながら、相手から動くのを待った。


 うち一人が飛び出すと、残り二人もこちらに向かって突進してきた。直後、僕は突き出した右手から、ファイアーボールを放った。

「なっ!?」

 僕の攻撃に不意をつかれた三人は、回避することが出来ずに直撃を受けた。二人は消失したが、うち一人はまだルンが残っているようで、弾き飛ばされた拍子に地面に尻もちをついた。

「な、なんで!? お前……詠唱しないと魔法打てないんじゃないのかよ!?」
「詠唱はしたよ? 速すぎてわからなかっただけじゃない?」

 これこそが頭にルンを集中した時の最大の利点。元々詠唱は小声で囁いても魔法の発動は可能。早口で唱えれば詠唱時間を短くすることは出来るのだが、そのためには口を早く動かせないといけない。

 そこでルン値補強による表情筋の強化だ。これにより僕は、『ほぼ無詠唱』状態を実現するに至ったわけだ。

「気づかない速度での詠唱!? そ、そんなのチートじゃねえか!!」

「そんなことはないよ。ちゃんと弱点も……って、説明する必要はないか。とりあえずトドメだけど、魔法力が勿体ないから」

 僕はいつでも詠唱に入れるように右手でけん制しながら、相手に近づく。そして相手が拳を振るおうとするより早く、頭突きを叩き込んでやる。

 ゴォン! という大きな音と衝撃。ルンを失った相手はそのまま消失した。

「というわけで、頭突きも立派な武器になるんだよね……って、聞こえてないか」



 この戦闘(主に頭突き)音が、戦闘開始のゴングとなった。これにより、新たにこちらに近づいてくる敵影が2つ。手にはそれぞれブーメランと苦無くないを持っている。

 近接武器ではないが、それなりに近づく必要があるのか、周囲の木陰に身を隠しながら、徐々に接近しているようだ。

(さて、どうしようかな。こちらから打って出れないことはないけど……)

 頭に集中している分、僕の両足のルンは10程度しかない。瞬間移動テレポートによる奇襲も出来なくはないが、多くのルンを消耗してしまう。恐らく今度の相手も下位ランカー。魔法力を温存出来るに越したことはない。

 僕が考えていると、敵の傍を駆け抜ける新たな影。その人物の攻撃を受けたのか、僕を狙っていた相手はその場から消失した。

「……すみません、お待たせしました」
「ううん。ありがとう。助かったよ」

 現れたのは右手に白杖を持つ女の子――夏目さんだった。



 僕はまず、夏目さんに翔君の言葉をそのまま伝えた。すると夏目さんは少しだけ考えた後、こちらに向き直った。

「失格になった元2位のチームについては、私も興味があります。考えられるのは、ゲームの内情に踏み込みすぎたか、そもそもゲームに入れなくなったか……。ですが前者なら、私達の時と同様にまず警告が入ると思うんです」

「なるほど。ということは、そのチームは何らかの要因にて、ゲームに参加出来なくなったってことかい?」

 僕の問いに頷く夏目さん。どうやら僕の考えは当たっていたらしい。

「だから皇城さんは、失格になったチームメンバーの特定を考えたのでしょう。その人達から話を聞ければ、何故ログイン出来なくなったのか、その要因がわかるかもしれません。つまりそれは……」

「スリーピングフォレストの参加システムを、特定できるってことか!」

 なるほど。これで翔君が全滅を口にした理由も、何となくわかってきた。

 基本的にこのゲームは参加者情報を開示しないように、制限がかかっている(僕たちの顔写真が公開された時も、名前は未表記だった)。

 現在のバトルロイヤルに参加している=元2位のチームではない。つまり参加メンバー全員を把握すれば、必然的にいないメンバーがわかる。

 僕たちは既に一度全チームとの対戦を済ませているので、全てのチームを倒した後に僕たち三人の情報を合わせれば、特定できる可能性は充分あると言えるだろう。

「そうとなれば、やられないように頑張るしかないね。夏目さん、僕と一緒に戦ってくれる……かい?」
「勿論ですよ。頑張りましょう!」

 僕の躊躇いがちの問いに、夏目さんはニコリと微笑んでくれる。僕は照れを隠すように、別の話題を振ってみることにした。

「そういえば、以前夏目さんから聞いた話。試してみたよ。ありがとう」
「あ、よかった。頭にルンを集中させる方法……上手くいったんですね」

 夏目さんが以前色々試した時、頭にルンを集中させると視力や聴力が強化されるのを知ったという。

 人間の感覚の大半は頭に集まっているため、それだけでも有利なのだが、代わりに思い通りに身体を動かせなくなる。


 だけど僕なら、移動はある程度補助魔法でカバーできるし、表情筋強化により高速詠唱も可能になるのではないか? そう考えた彼女は僕に貴重な情報をくれたのだ。

「一応伝えておきますと、今回私は右腕に全てのルンを集めてはしていません。多めには振ってはいますが、せいぜい左腕の分くらいです。バトルロイヤルですから、事故が起こりにくいようにと……」

「うん、それで間違いないと思うよ。大丈夫、夏目さんの補助は僕がこなすから」
「はい。お願いします」

 至近距離で向かい合って頷く僕と夏目さん。そこでふと、僕は疑問を抱いた。

(僕たちはいいとして、翔君はどうやって一人で戦うつもりなんだろう……)
しおりを挟む

処理中です...