29 / 39
第三章「真意」
自主性の尊重
しおりを挟む
「夢をジャックされた……か。面白い話だが、どうにも現実味がないな」
僕はスリーピングフォレストについて父さんに聞いてみたが、あいにく一蹴されてしまった。確かにそれはそうだろう。信じてもらえないと思って、僕は今までこの話を切り出さなかったのだから。
ただ、今日に限ってはこれで終わるわけにもいかない。
「信じられないかもしれないけど、本当の話なんだ。このゲームに参加するためには、スマホが必要ってこともわかってる。僕たちはただ、こんなことになってしまった原因を知りたいだけなんだよ」
「……お前、その話をどこで?」
僕の発言に、父さんの顔色が変わる。顎に手を当て、何やら考えてこんでいる様子だ。
「スマホが必要……か。そこまで気づいているなら、どうやら話さないといけないらしい」
僕自身半信半疑だったが、父さんは本当に何か知っているらしい。
「二週間くらい前か。スーツ姿の男女が私の元を尋ねてきた。要件は現在開発中のゲームに参加し、データを取らせてほしい、と。ただ、参加するのは私ではなく子供の勇気だと言ったんだ」
「それで父さんは承諾したの? 僕に確認も取らずに?」
話の内容から、尋ねてきたのは運営のメンバーに違いない。ただ、知らない場所で勝手に決められていたということが、僕には納得いかなかった。
「勿論、最初は断ったさ。せめて本人の承諾が必要だと言ったら、『リアルなデータが取りたいので、本人にはこのことは告げないで欲しい。安全面は保証するし、充分な謝礼は払う。それでも引き受けていただけないなら、あの事故の詳細を世間に公表するしかない』と言われてしまったのでな……」
僕は絶句するしかなかった。「あの事故」とは、僕が翔君を巻き込んでしまった交通事故のこと。何故か運営はそのことを知っていて、脅しの材料に使ったらしい。
「翔君の事故については、示談になったと聞いている。実際に話をしたのは翔君のお父さんと、事故を起こした当人らしい。その場にいなかったので詳しくは知らないが、私の一存で結果を変えてしまうわけにはいかなかった。お前にもこれ以上精神的負担をかけたくなかったしな」
僕は以前夏目さんから聞いた、翔君の病室での一件を思い出していた。
確か病室にいた男性一人が、その場にいた相手にスリーピングフォレストに協力してもらうように要請したと言っていた。
今の話と合わせると、病室にいたのは「翔君のお父さん」と「事故を起こした運転者」ということになる。
「父さん。その示談のことだけど、翔君のお父さんと話していた相手っていうのは、具体的に誰だかわかる?」
今の僕たちには「内通者」の問題がある。今までの情報から判断するに、一番可能性が高いのは、その人ではないかと思ったのだ。
「残念ながらそこまでは聞いていない。詳細を公表しないための示談だろうし。我々が踏み込む部分でもないだろう」
「そうか。そりゃそうだよね……」
「話を戻そう。ゲーム参加を承諾した私に、彼らはSIMカードと小型の受信機のようなものを渡した。『SIMカードは子供のスマホに差し込み、受信機は寝室の枕に仕込んで欲しい。そうすれば参加条件は整うから』と」
枕の件は初耳だったが、これでゲームへの参加方法はハッキリした。今後参加を拒否するなら、今刺さっているSIMカードを抜いてしまえば良いだろう。
ただこの点については、皆に相談してからの方がいいかもしれない。
「話せることはこのくらいだが……他に何か質問はあるか?」
「……今は思いつかないけど、そもそもなんで話してくれる気になったの?」
「依頼を受けた時に言われたんだよ。『子供に夢の話をされても、基本シラを切ること。ただし、参加方法など何かしらの具体的な情報を提示された場合は、関与を認めて話してあげてほしい』とな」
なるほど。だから父さんはこの話をしてくれる気になったということか。
「理由はわかったけど、なんでそんなことを……」
言いながら気づいた。翔君のお父さんは「考えて実行することを一番大事にしている」って。更にいえば、ピエロも「調べるのは勝手だけど」と言っていた。
そこから考えるに、運営側は僕たちの自主性を尊重している……ということか?
「どうした?」
「いや、何でもないよ。話してくれてありがとう」
僕は父さんに礼を言った後、自室に戻ることにした。
早速いつも使っている枕を調べてみると、一辺2cmほどの薄い金属片のようなものが出てきた。この大きさならば、言われないと誰も気づかないだろう。
気分的には投げ捨ててやりたかったが、ゲームに参加したくなった際に困るので、一旦そのままにしておく。恐らく他の参加者達も、同様に仕掛けられているのだろう。
(色々わかってはきたけど、残る問題はやっぱり「内通者」だよね。一旦夏目さんに話を聞くべきかな……)
現時点で可能性が高いのが、事故を起こした人物である以上、誰なのかを探るくらいしか思いつかない。とはいえヒントは何もないので、可能性は低いだろうが――
(あ、そういや、まだご飯食べてなかった)
急に空腹感を覚えた僕は、階段を下りて再び一階へと降りるのだった。
僕はスリーピングフォレストについて父さんに聞いてみたが、あいにく一蹴されてしまった。確かにそれはそうだろう。信じてもらえないと思って、僕は今までこの話を切り出さなかったのだから。
ただ、今日に限ってはこれで終わるわけにもいかない。
「信じられないかもしれないけど、本当の話なんだ。このゲームに参加するためには、スマホが必要ってこともわかってる。僕たちはただ、こんなことになってしまった原因を知りたいだけなんだよ」
「……お前、その話をどこで?」
僕の発言に、父さんの顔色が変わる。顎に手を当て、何やら考えてこんでいる様子だ。
「スマホが必要……か。そこまで気づいているなら、どうやら話さないといけないらしい」
僕自身半信半疑だったが、父さんは本当に何か知っているらしい。
「二週間くらい前か。スーツ姿の男女が私の元を尋ねてきた。要件は現在開発中のゲームに参加し、データを取らせてほしい、と。ただ、参加するのは私ではなく子供の勇気だと言ったんだ」
「それで父さんは承諾したの? 僕に確認も取らずに?」
話の内容から、尋ねてきたのは運営のメンバーに違いない。ただ、知らない場所で勝手に決められていたということが、僕には納得いかなかった。
「勿論、最初は断ったさ。せめて本人の承諾が必要だと言ったら、『リアルなデータが取りたいので、本人にはこのことは告げないで欲しい。安全面は保証するし、充分な謝礼は払う。それでも引き受けていただけないなら、あの事故の詳細を世間に公表するしかない』と言われてしまったのでな……」
僕は絶句するしかなかった。「あの事故」とは、僕が翔君を巻き込んでしまった交通事故のこと。何故か運営はそのことを知っていて、脅しの材料に使ったらしい。
「翔君の事故については、示談になったと聞いている。実際に話をしたのは翔君のお父さんと、事故を起こした当人らしい。その場にいなかったので詳しくは知らないが、私の一存で結果を変えてしまうわけにはいかなかった。お前にもこれ以上精神的負担をかけたくなかったしな」
僕は以前夏目さんから聞いた、翔君の病室での一件を思い出していた。
確か病室にいた男性一人が、その場にいた相手にスリーピングフォレストに協力してもらうように要請したと言っていた。
今の話と合わせると、病室にいたのは「翔君のお父さん」と「事故を起こした運転者」ということになる。
「父さん。その示談のことだけど、翔君のお父さんと話していた相手っていうのは、具体的に誰だかわかる?」
今の僕たちには「内通者」の問題がある。今までの情報から判断するに、一番可能性が高いのは、その人ではないかと思ったのだ。
「残念ながらそこまでは聞いていない。詳細を公表しないための示談だろうし。我々が踏み込む部分でもないだろう」
「そうか。そりゃそうだよね……」
「話を戻そう。ゲーム参加を承諾した私に、彼らはSIMカードと小型の受信機のようなものを渡した。『SIMカードは子供のスマホに差し込み、受信機は寝室の枕に仕込んで欲しい。そうすれば参加条件は整うから』と」
枕の件は初耳だったが、これでゲームへの参加方法はハッキリした。今後参加を拒否するなら、今刺さっているSIMカードを抜いてしまえば良いだろう。
ただこの点については、皆に相談してからの方がいいかもしれない。
「話せることはこのくらいだが……他に何か質問はあるか?」
「……今は思いつかないけど、そもそもなんで話してくれる気になったの?」
「依頼を受けた時に言われたんだよ。『子供に夢の話をされても、基本シラを切ること。ただし、参加方法など何かしらの具体的な情報を提示された場合は、関与を認めて話してあげてほしい』とな」
なるほど。だから父さんはこの話をしてくれる気になったということか。
「理由はわかったけど、なんでそんなことを……」
言いながら気づいた。翔君のお父さんは「考えて実行することを一番大事にしている」って。更にいえば、ピエロも「調べるのは勝手だけど」と言っていた。
そこから考えるに、運営側は僕たちの自主性を尊重している……ということか?
「どうした?」
「いや、何でもないよ。話してくれてありがとう」
僕は父さんに礼を言った後、自室に戻ることにした。
早速いつも使っている枕を調べてみると、一辺2cmほどの薄い金属片のようなものが出てきた。この大きさならば、言われないと誰も気づかないだろう。
気分的には投げ捨ててやりたかったが、ゲームに参加したくなった際に困るので、一旦そのままにしておく。恐らく他の参加者達も、同様に仕掛けられているのだろう。
(色々わかってはきたけど、残る問題はやっぱり「内通者」だよね。一旦夏目さんに話を聞くべきかな……)
現時点で可能性が高いのが、事故を起こした人物である以上、誰なのかを探るくらいしか思いつかない。とはいえヒントは何もないので、可能性は低いだろうが――
(あ、そういや、まだご飯食べてなかった)
急に空腹感を覚えた僕は、階段を下りて再び一階へと降りるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる