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最終章「理由」
強さの理由
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「……いきます」
夏目さんが小さな呟きと共に、美月さんの懐へと跳躍する。それでも距離を取ろうとしない美月さんだったのだが――
「なっ!?」
驚きの光景に、僕は思わず声をあげてしまった。夏目さんの渾身のなぎ払いを、持っていた弓の木の部分(正式には足付節というらしい)で受け止めたのだ。
美月さんが無造作に弓を振るうと、夏目さんは後方に飛んで着地した。
「あら、あなたは驚かないのね。勇気君みたいに、叫び声をあげてくれると思ってたのに。つまらないわ」
黙ったままの夏目さんは、再び美月さんの元へ、じりじりと近づいていく。互いの距離がちょうど棒一本くらいになった時、再び夏目さんが動いた。
繰り出される高速の突き、払い、けさ切り。並の人間なら反応すら出来ないほどの三段攻撃を、美月さんは躱し、受け止め、弾き返す。
驚くべきは、遠距離武器の弓でそれをやってのけたということだ。
「わかったと思うけど、あなたの攻撃は私には通じない。以前の私とは、根本的に違うからね」
美月さんは薄く笑った後、後方へと跳躍した。
距離にして10メートルほど飛んだだろうか。夏目さんとの距離が空いたことで、美月さんは射撃体勢を取る。直後打ち出される矢を、夏目さんはかろうじて回避した。
「いつまで耐えられるかしら? 矢はまだまだあるんだからね!」
美月さんは夏目さんにも劣らない速度で、周囲を旋回しつつ矢を放つ。腕にルンを集中していれば受け止めたことは理解出来るが、あの移動速度は異常というしかなかった。
「……よっ。ちょっと隣、ええか?」
その時、不意に武志君が横へとやってきて、僕に挨拶した。驚く僕をよそに、武志君はその場に座り込んだ。
「ちょっと武志君! なんでそっちにいるのよ! あなた、私の味方でしょう!?」
「自分の番がきたらちゃんと戦うわ。勝ち抜き戦を決めたのは美月、お前やろうに。ちょっとくらいケチケチすんなって」
遠目でこちらを見ていたらしい、美月さんは不満の声をあげたが、さすがにこっちを注視するほどの余裕はないらしい。
距離を詰めようとする夏目さんの攻撃を捌きつつ、距離をとろうと動いていた。
「武志君、一体美月さん……どうしちゃったの?」
「簡単なことや。俺らのチームは二人しかおらんからな。いなくなったお前の分のルンをあいつが持ってるってだけや」
アッサリ言われたが、本当だとしたら大変なことだ。けどそれならば美月さんの常人離れした動きにも納得がいく。
「頭にルンを集中してるお前やったらわかるやろ。頭のルン値が高くなれば、感覚も鋭敏になる。夏目ちゃんの攻撃を見て止められるくらいにはな」
僕は美月さんの余裕の理由を知った。合計500の夏目さんとは、単純に二倍の戦力ということになる。
その時、美月さんが後方に跳躍して、大きく距離を取った。
「理解したみたいね。今の私のルン値、見せてあげましょうか?」
そう言って彼女は、自分のおでこをトントンと指で叩いた。そうして表示されたディスプレイを僕たちへと向けた。
*********************
ネーム:ミヅキ
ルン:1010
---------------
頭:150
胴体:10+100矢筒
右手:10
左手:200+300弓
右足:120
左足:120
--------------
*********************
「ありがとう勇気君。バトルロイヤルであなたが頑張ってくれたおかげで、私はここまで強くなれた。本当、感謝してるわ」
「そ、そんなの……反則じゃないのか!?」
僕は叫んだが、翔君が隣でため息をつく。
「運営が認めたということは、それがルールなんだよ。ただし……」
翔君は右腕をダブルタップして銃を取り出す。そしてそのまま一歩前へと出た。
「二人分のルンを持つということは、二人を相手にするようなものだ。ならばここで僕が乱入したとしても……文句は言わないよね」
翔君が銃を構えた時、夏目さんがちょうど美月さんと直線上に入って立った。彼女は小さく首を横に振ると、再び踏み込んでいった。
「どうして夏目さん……」
僕だって二人がかりで戦うことに抵抗はある。だけどこの場合はやむを得ないだろう。
夏目さんが一人で戦おうとする理由が、僕には理解出来なかった。
「……戦いの勝敗を決めるのは、ルンだけやない」
その時、僕の隣で座り込んでいた武志君がポツリと呟く。たぶん、僕だけに聞こえるように言っているのだろう。そんな彼を、僕は横目で見た。
「以前、美月が言うてたな。俺は独特の勘を持ってるから強いって。そんな俺でも夏目ちゃんには負けた。理由はなんやと思う?」
答えがわからない僕は、首を振るしかなかった。武志君はカカカと笑うと、話を続けた。
「考えてみいや。あの時の彼女は頭にルンが『1』しかなかったんやで? ということは、視力も聴力も最低な状態や。けど俺と美月の攻撃を完璧に捌いて見せた。そんな真似が出来た理由は一つ。ずば抜けた『集中力』や」
武志君の言葉を聞きながら、僕は美月さんと夏目さんの戦いを眺めてみた。確かに美月さんの攻撃は夏目さんに一発も当たっていない。
美月さん自身もそのことに気づいているのか、チッと舌打ちした。
「なんで……当たらないのよ!」
美月さんが夏目さんに向けて、矢を乱射する。一発一発がとてつもない速度で放たれるも、やっぱり夏目さんには当たらない。その動きは、まるでどこに飛んでくるか予め知っているかのようだ。
「俺が天才な理由は、一瞬につぎ込む集中力にある。時速130~140kmで飛んでくる球を見極めて打ち返す。これが出来るのは一流の打者だけやからな。けどあの子の凄いところは、集中力を持続できるところ。だからこそ俺は負けを認めたんやけどな」
純粋な速度では劣る夏目さんだが、飛んで逃げる美月さんとの距離を徐々に詰めていく。
足を滑らせ態勢を崩した美月さんに、鋭い一撃を放つ。
その一撃は美月さんの右腕を直撃すると、後方へと弾き飛ばした。
「こ、こんな……バカな!」
美月さんの右腕がだらりと下がる。ルンが切れて動かなくなったのだろう。夏目さんは白杖を突きつけたまま、囁いた。
「……負けを認めてください。勝負はつきました。その右手では弓を支えられないでしょう」
「ま、まだ終わったわけじゃないわ!」
美月さんは再び後方に跳躍すると、引き抜いた矢を口へと咥えた。右柳さんとの戦いで見せた曲射だ。
問題はその向き。美月さんの弓は、僕たちの方に向けて引き絞られていた。
美月さんの狙いに気づいたのか、夏目さんが美月さんと僕たちとの間に割って入る。それを見た美月さんは、ニヤリと笑った。
直後、夏目さんの前方の地面が大きくえぐられる。美月さんの狙いは、初めから夏目さんの前方の地面だったらしい。
衝撃で飛ばされた土と石が、夏目さんの身体を打つ。さすがの彼女も、全てはよけきれなかったらしく、衝撃で倒れ込んでしまった。
「バカね。仲間の助けになんて入ろうとしなければ、今の一撃も避けられたでしょうに。結局あなたは、その甘さで負けるのよ!」
左腕と左足のルンがなくなったのか、動かない足を引きずりながら何とか立ち上がる。その様子を見て、僕と翔君が助けに入ろうとしたのだが――
「来ないでください!」
それを止めたのは、夏目さんだった。白杖で動かない左足を支えながら、懸命に前を見る。
視線の先にいる美月さんは、既に次の射撃姿勢に入っていた。
そのまま彼女は――夏目さんに向けてトドメの一撃を放った。
「夏目さん!」
僕が叫んだ瞬間、彼女の姿がその場から消失する。見ると夏目さんは斜め上空へと飛び上がっていた。
一瞬早く杖で地面をつき、跳躍していたらしい。
「こ、この!」
さすがに次射が間に合わないと思ったのか、美月さんは咄嗟に防御態勢を取った。夏目さんは空中で姿勢を整えながら、そのまま杖を美月さんに向かって振り下ろす。
強烈な一撃は、持っていた弓を真っ二つに折ると、彼女はそのまま着地した。
「そんな……私の弓が!!」
間髪入れずに、夏目さんは地面についた杖を支柱に回転。勢いのままに美月さんの右足を払う。
衝撃で浮かされた美月さんの左足に向けて、強烈な突きを放つ。
ドン! という大きな音と共に吹き飛ばされた美月さんは、そのまま後方のフェンスへと激突した。
残った左腕がクッションになったのか、かろうじて消失は免れたようだ。
「ふ……ざけないでよね! どうして胸を突かなかったのよ! 今の一撃で倒せたはずでしょう!!」
両足ともルンを失った美月さんは、もはや立ち上がることが出来なかった。その様子を見て、夏目さんは大きく息を吐き出す。
「手を抜いたわけではありません。その目で見てて欲しかったのです。この後の戦いを……」
夏目さんは足を引きずって僕たちの元へと戻ってくる。横を通り抜けた時、武志君は呟いた。
「……ありがとな夏目ちゃん。感謝するで」
夏目さんは、そこで限界が来たのか。フラついて倒れそうになった。咄嗟に武志君が支えたが、彼は肩を貸しながら夏目さんを僕たちの元へと連れてきてくれた。
「これで初戦は俺らの負けやな。二戦目は当然俺が出るけど……勇気、相手してくれんか?」
「ぼ、僕!?」
「そらそうやろ。それともお前はあれか? この状態の夏目ちゃんにまだ戦えっちゅーんか?」
武志君は僕に夏目さんの身体を預けた。僕はそのまま夏目さんを座らせると、武志君の方へと向き直る。
「実を言うとな。お前とは一回、本気でやりあってみたかってん。だから俺はこっち側についたんや」
「武志君……」
武志君は僕に握った右拳を差し出した。僕は同様に握り込んだ拳を前へ突き出す。
両拳がコツンと当たった後、僕と武志君は同時に距離を取る。
そして再び向き直ると、互いの武器を取り出した。
「正々堂々! 結果は恨みっこなしや! いくで勇気!!」
バットを構えて叫ぶ武志君は、清々しいくらいいつも通りだった。
熱血とはほど遠い僕だけど、この挑戦だけは受けないといけない――。
何故だかそんな気にさせられたのだ。
「うん、いくよ……武志君!!」
夏目さんが小さな呟きと共に、美月さんの懐へと跳躍する。それでも距離を取ろうとしない美月さんだったのだが――
「なっ!?」
驚きの光景に、僕は思わず声をあげてしまった。夏目さんの渾身のなぎ払いを、持っていた弓の木の部分(正式には足付節というらしい)で受け止めたのだ。
美月さんが無造作に弓を振るうと、夏目さんは後方に飛んで着地した。
「あら、あなたは驚かないのね。勇気君みたいに、叫び声をあげてくれると思ってたのに。つまらないわ」
黙ったままの夏目さんは、再び美月さんの元へ、じりじりと近づいていく。互いの距離がちょうど棒一本くらいになった時、再び夏目さんが動いた。
繰り出される高速の突き、払い、けさ切り。並の人間なら反応すら出来ないほどの三段攻撃を、美月さんは躱し、受け止め、弾き返す。
驚くべきは、遠距離武器の弓でそれをやってのけたということだ。
「わかったと思うけど、あなたの攻撃は私には通じない。以前の私とは、根本的に違うからね」
美月さんは薄く笑った後、後方へと跳躍した。
距離にして10メートルほど飛んだだろうか。夏目さんとの距離が空いたことで、美月さんは射撃体勢を取る。直後打ち出される矢を、夏目さんはかろうじて回避した。
「いつまで耐えられるかしら? 矢はまだまだあるんだからね!」
美月さんは夏目さんにも劣らない速度で、周囲を旋回しつつ矢を放つ。腕にルンを集中していれば受け止めたことは理解出来るが、あの移動速度は異常というしかなかった。
「……よっ。ちょっと隣、ええか?」
その時、不意に武志君が横へとやってきて、僕に挨拶した。驚く僕をよそに、武志君はその場に座り込んだ。
「ちょっと武志君! なんでそっちにいるのよ! あなた、私の味方でしょう!?」
「自分の番がきたらちゃんと戦うわ。勝ち抜き戦を決めたのは美月、お前やろうに。ちょっとくらいケチケチすんなって」
遠目でこちらを見ていたらしい、美月さんは不満の声をあげたが、さすがにこっちを注視するほどの余裕はないらしい。
距離を詰めようとする夏目さんの攻撃を捌きつつ、距離をとろうと動いていた。
「武志君、一体美月さん……どうしちゃったの?」
「簡単なことや。俺らのチームは二人しかおらんからな。いなくなったお前の分のルンをあいつが持ってるってだけや」
アッサリ言われたが、本当だとしたら大変なことだ。けどそれならば美月さんの常人離れした動きにも納得がいく。
「頭にルンを集中してるお前やったらわかるやろ。頭のルン値が高くなれば、感覚も鋭敏になる。夏目ちゃんの攻撃を見て止められるくらいにはな」
僕は美月さんの余裕の理由を知った。合計500の夏目さんとは、単純に二倍の戦力ということになる。
その時、美月さんが後方に跳躍して、大きく距離を取った。
「理解したみたいね。今の私のルン値、見せてあげましょうか?」
そう言って彼女は、自分のおでこをトントンと指で叩いた。そうして表示されたディスプレイを僕たちへと向けた。
*********************
ネーム:ミヅキ
ルン:1010
---------------
頭:150
胴体:10+100矢筒
右手:10
左手:200+300弓
右足:120
左足:120
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「ありがとう勇気君。バトルロイヤルであなたが頑張ってくれたおかげで、私はここまで強くなれた。本当、感謝してるわ」
「そ、そんなの……反則じゃないのか!?」
僕は叫んだが、翔君が隣でため息をつく。
「運営が認めたということは、それがルールなんだよ。ただし……」
翔君は右腕をダブルタップして銃を取り出す。そしてそのまま一歩前へと出た。
「二人分のルンを持つということは、二人を相手にするようなものだ。ならばここで僕が乱入したとしても……文句は言わないよね」
翔君が銃を構えた時、夏目さんがちょうど美月さんと直線上に入って立った。彼女は小さく首を横に振ると、再び踏み込んでいった。
「どうして夏目さん……」
僕だって二人がかりで戦うことに抵抗はある。だけどこの場合はやむを得ないだろう。
夏目さんが一人で戦おうとする理由が、僕には理解出来なかった。
「……戦いの勝敗を決めるのは、ルンだけやない」
その時、僕の隣で座り込んでいた武志君がポツリと呟く。たぶん、僕だけに聞こえるように言っているのだろう。そんな彼を、僕は横目で見た。
「以前、美月が言うてたな。俺は独特の勘を持ってるから強いって。そんな俺でも夏目ちゃんには負けた。理由はなんやと思う?」
答えがわからない僕は、首を振るしかなかった。武志君はカカカと笑うと、話を続けた。
「考えてみいや。あの時の彼女は頭にルンが『1』しかなかったんやで? ということは、視力も聴力も最低な状態や。けど俺と美月の攻撃を完璧に捌いて見せた。そんな真似が出来た理由は一つ。ずば抜けた『集中力』や」
武志君の言葉を聞きながら、僕は美月さんと夏目さんの戦いを眺めてみた。確かに美月さんの攻撃は夏目さんに一発も当たっていない。
美月さん自身もそのことに気づいているのか、チッと舌打ちした。
「なんで……当たらないのよ!」
美月さんが夏目さんに向けて、矢を乱射する。一発一発がとてつもない速度で放たれるも、やっぱり夏目さんには当たらない。その動きは、まるでどこに飛んでくるか予め知っているかのようだ。
「俺が天才な理由は、一瞬につぎ込む集中力にある。時速130~140kmで飛んでくる球を見極めて打ち返す。これが出来るのは一流の打者だけやからな。けどあの子の凄いところは、集中力を持続できるところ。だからこそ俺は負けを認めたんやけどな」
純粋な速度では劣る夏目さんだが、飛んで逃げる美月さんとの距離を徐々に詰めていく。
足を滑らせ態勢を崩した美月さんに、鋭い一撃を放つ。
その一撃は美月さんの右腕を直撃すると、後方へと弾き飛ばした。
「こ、こんな……バカな!」
美月さんの右腕がだらりと下がる。ルンが切れて動かなくなったのだろう。夏目さんは白杖を突きつけたまま、囁いた。
「……負けを認めてください。勝負はつきました。その右手では弓を支えられないでしょう」
「ま、まだ終わったわけじゃないわ!」
美月さんは再び後方に跳躍すると、引き抜いた矢を口へと咥えた。右柳さんとの戦いで見せた曲射だ。
問題はその向き。美月さんの弓は、僕たちの方に向けて引き絞られていた。
美月さんの狙いに気づいたのか、夏目さんが美月さんと僕たちとの間に割って入る。それを見た美月さんは、ニヤリと笑った。
直後、夏目さんの前方の地面が大きくえぐられる。美月さんの狙いは、初めから夏目さんの前方の地面だったらしい。
衝撃で飛ばされた土と石が、夏目さんの身体を打つ。さすがの彼女も、全てはよけきれなかったらしく、衝撃で倒れ込んでしまった。
「バカね。仲間の助けになんて入ろうとしなければ、今の一撃も避けられたでしょうに。結局あなたは、その甘さで負けるのよ!」
左腕と左足のルンがなくなったのか、動かない足を引きずりながら何とか立ち上がる。その様子を見て、僕と翔君が助けに入ろうとしたのだが――
「来ないでください!」
それを止めたのは、夏目さんだった。白杖で動かない左足を支えながら、懸命に前を見る。
視線の先にいる美月さんは、既に次の射撃姿勢に入っていた。
そのまま彼女は――夏目さんに向けてトドメの一撃を放った。
「夏目さん!」
僕が叫んだ瞬間、彼女の姿がその場から消失する。見ると夏目さんは斜め上空へと飛び上がっていた。
一瞬早く杖で地面をつき、跳躍していたらしい。
「こ、この!」
さすがに次射が間に合わないと思ったのか、美月さんは咄嗟に防御態勢を取った。夏目さんは空中で姿勢を整えながら、そのまま杖を美月さんに向かって振り下ろす。
強烈な一撃は、持っていた弓を真っ二つに折ると、彼女はそのまま着地した。
「そんな……私の弓が!!」
間髪入れずに、夏目さんは地面についた杖を支柱に回転。勢いのままに美月さんの右足を払う。
衝撃で浮かされた美月さんの左足に向けて、強烈な突きを放つ。
ドン! という大きな音と共に吹き飛ばされた美月さんは、そのまま後方のフェンスへと激突した。
残った左腕がクッションになったのか、かろうじて消失は免れたようだ。
「ふ……ざけないでよね! どうして胸を突かなかったのよ! 今の一撃で倒せたはずでしょう!!」
両足ともルンを失った美月さんは、もはや立ち上がることが出来なかった。その様子を見て、夏目さんは大きく息を吐き出す。
「手を抜いたわけではありません。その目で見てて欲しかったのです。この後の戦いを……」
夏目さんは足を引きずって僕たちの元へと戻ってくる。横を通り抜けた時、武志君は呟いた。
「……ありがとな夏目ちゃん。感謝するで」
夏目さんは、そこで限界が来たのか。フラついて倒れそうになった。咄嗟に武志君が支えたが、彼は肩を貸しながら夏目さんを僕たちの元へと連れてきてくれた。
「これで初戦は俺らの負けやな。二戦目は当然俺が出るけど……勇気、相手してくれんか?」
「ぼ、僕!?」
「そらそうやろ。それともお前はあれか? この状態の夏目ちゃんにまだ戦えっちゅーんか?」
武志君は僕に夏目さんの身体を預けた。僕はそのまま夏目さんを座らせると、武志君の方へと向き直る。
「実を言うとな。お前とは一回、本気でやりあってみたかってん。だから俺はこっち側についたんや」
「武志君……」
武志君は僕に握った右拳を差し出した。僕は同様に握り込んだ拳を前へ突き出す。
両拳がコツンと当たった後、僕と武志君は同時に距離を取る。
そして再び向き直ると、互いの武器を取り出した。
「正々堂々! 結果は恨みっこなしや! いくで勇気!!」
バットを構えて叫ぶ武志君は、清々しいくらいいつも通りだった。
熱血とはほど遠い僕だけど、この挑戦だけは受けないといけない――。
何故だかそんな気にさせられたのだ。
「うん、いくよ……武志君!!」
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