四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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57話 湖空の魚群

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 身なりを整え土間の入り口から顔を出すと、朝食の準備をしていたローザとククが居た。

「ご主人様、おはようございます」
「おはようクク。ククが台所なんて珍しいね」
「はい、ローザさんのお料理が大変美味しいので、私も作れたらと思いまして」

 どうやらローザから料理を学ぶつもりのようだ。

 リビングではリシアが雑巾掛けの真っ最中。
 俺もリシアのお手伝いがしたいのだが、「家事など一家の大黒柱がすることではありません」とリシアに強く拒まれるため、雑用の類をさせてもらえないでいる。

「ローザ、すまないが朝食にもう一人増えるかもだけど大丈夫?」
「えぇ、御一人でしたら問題ありませんよ」

 にこやかにそう返してくるローザ。
 彼女の笑顔をみると心が和む。

「ご飯までまだ時間はあるよね?」
「ごめんなさい、もう少しかかりますのでお待ちくださいねぇ」
「多少遅れたってローザのペースで作ってくれたらいいから気にしないで。じゃぁ少し出かけてくる。ミネルバ、おいで」

 リビングの隅で羽根を休めていたミネルバを呼び、再び納屋に戻ってきた。

「ミネルバ殿は大きくなられましたな」
「いえ、まだまだです……」
「しかも3種族語を話すほどの出来た娘だよ。そして5番目の奥さんになる」

 生後2日目の女の子に手を出すとか、昨日の俺はどんだけなんだと思わなくもないが、彼女は魔物。魔物はレベルが上がれば知性や肉体的な成長を遂げるモノなので問題はない……はず。

 元の世界の倫理観的に、未だに受け入れ辛いものがあるのは認めるが。

「私もお父様のお嫁さん…」

 そう呟いて嬉しそうに頬を摺り寄せてくるミネルバ。
 愛おしい。

「で、ユニスは今日から加わる6番目の奥さんね」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします……」

 緊張気味に頭を下げるユニスに、ミネルバも変わらず呟くような声で返す。
 さっさと用事を済ませてしまいたいので、二人にはこれからする事を述べ、ユニスに〈大規模PT作成〉のスキルでPT勧誘を出す。

「そのような事が出来るのですか!?」
「出来るかもってのを知ったのがついさっきで、できるかどうかをこれから試すんだよ」

〈ワープゲート〉

 納屋の壁に向かって手を翳してスキルを発動すると、直径3メートルほどの円形の黒い壁が現れ、バチバチと音を立てながら小さな点が広がるように空間が開く。
 その先には見覚えのある湖が広がっていた。

 ……とりあえず入ってみるか。

 恐る恐るそのゲートを潜ると、激しい戦闘の跡が残る湖畔に足を踏み入れた。

「ここはあの時の……」

 俺に続いて足を踏み入れたユニスが驚き声を漏らす。

 彼女が俺を好きになってくれた思い出の地ともいえる場所。

 湖に目を向けると、ドラゴンフライの編隊が向かってきたので、情け無用ファイヤーストームの餌食にする。

 ジョブLvUPを告げるシステムメッセージが10個以上ポップアップしたので、どうやら繋いでいる空間の近くに居るPTメンバーにも経験値が入るようだ。
 実際PTウィンドウを開くと、リシア達のジョブが上がっているのが確認できる。

 これを使えばローザのレベルも上げられるかもしれない。
 その内試してみよう。
 
「とりあえずワープ移動は問題なく出来そうだ」
「すごいものですね……」

 ユニスがひたすら感心する。

「じゃぁ他の実験もやってさっさと切り上げよう。〈サンダーランス〉!」

 前方に手を伸ばしてウィザードの魔法を唱えると、雷で出来た細長い刃が眼前に出現し射出されて。
 飛んでいく雷槍は大体2メートル程で、やばそうな圧力めいたものを感じる。
 
 見た目的にもなかなかカッコいい魔法だな。

 次に先程獲得したスキルポイントを振ってファイヤーブラストを習得すると、同じように手を前に突き出す。

「〈ファイヤーブラスト〉!」

 突き出した手の先から炎の柱が真っ直ぐ伸びて湖の上を直進する。
 
 こっちは砲撃系か。
 直線状の敵をまとめてやれるって意味では、確かに範囲攻撃だな。

 巨刃と砲撃、この2つがウィザードに追加された攻撃魔法の系統だ。
 それと新しく追加された属性〈土〉の〈アーススパイク〉と〈クリエイトアース〉も試してみた。
 アーススパイクは足元から土を固めて作った槍で打ち上げる魔法。
 クリエイトアースは土を自在に操る魔法。

 クリエイトエアやクリエイトウォーターと違って、何もない所から土を生み出しはしないのね。

 こうして一通り新しく覚えた魔法を試してみると、スイカサイズの物体を手で挟むように胸元で両手を合わせ、ファイヤーアローとフリーズアローを同時展開。
 手の間で二つの魔法が合わさり消滅した。

 ……うん、これもトシオ知ってるよ、極大消滅魔法なんてそんな簡単に出来るわけないって。
 漫画に登場する原理とは違うであろう、別の原理が働いている魔法を用いてそのままやったって、まぁ出来る訳が無いわな。
 どうせならファイヤーボール式リアクティブアーマーの様に、科学的に成立している物を魔法で再現した方が、遥かにやり易そうだ。

「お父様、ドンマイです……」
「うん、ありがとね」

〈マルチプルキャスト〉を使った実験に失敗した俺に、ミネルバが察して慰めてくれた。

 優しさが身に沁みる……。

「ですが、今のは対消滅とみてよろしいのでしょうか……?」

 ミネルバは今の現象にそんな印象を持ったようだ。
 
「それっぽいね」

 全く違うエネルギー同士がぶつかり、お互いのエネルギーを消しあったと見ていいのかな。
 てか、対消滅なんて言葉、どこで覚えたの?
 まぁこのまま失敗だけで終わるのも何か癪だし、どうせ失敗するならもう少し試してみようか。

「ついでだし、もう少し試しておくか」

 ミネルバと湖との間にファイヤーボールを出現させた。

「ミネルバ、これに向かってエアロツイスターを使ってくれる?」
「はい、行きます……!」

 ミネルバのエアロツイスターは、風の渦を相手に伸ばし、中に入った敵を高密度の風の刃で攻撃する精霊魔法だ。
 それがファイヤーボールを飲み込むと火球は爆発。
 風の渦は炎をまとって直進するも、炎は直ぐに消えてしまった。

「やっぱファイヤーボールじゃ瞬間的な火力しか出せそうにないな……」
「エアロツイスターに油や小麦粉を混ぜてから火を放つ方が効果的で有効だと思います……」
「だよなぁ……」
「……トシオ殿はいつもこのような修練をされているのですか?」

 ままならない結果に唸る俺達に、呆れた口調で聞いてくるユニスに顔を向けると、呆れているのではなく感心しているようだった。

 むしろ俺の思考にミネルバが普通について来れてるのがすごいんだけど。

「ん~まぁね。ちなみにズワローグ――、ここで戦ったあの化け物やドラゴンフライの時もこんな事をしてたからなんとか勝てたんだけどね」

 無詠唱のファイヤーボールを俺達から少し離れた湖の上に、連続展開して湖面に打ち込み爆発させた。
 
「実は今朝もユニスが来る前にもこんな事をしてた」

 と、今度はファイヤーアローLv5を5連射して湖面の上を魚群の様に遊泳させてみる。
 時に素早く時に優雅に、強弱をつけて大きなうねりと共に早朝の美しい湖面の空を、炎の群れが飛翔した。
 最後にひときわ大きくうねらせて天に昇らせる。

 自分でやっていて感動するくらいに美しかった。

「綺麗……」
「なんと美しい……」
「後でみんなにも見せてあげないとね」

 空に消えた火の魚群を、うっとりしながら観ていたミネルバとユニスを連れて家に戻った。
 ローザにユニスを紹介し、朝食の席で彼女を新たな妻として家に招くことを皆に告げる。
 皆がユニスを快く受け入れたので、朝食後には我が家のルールであるローザの洗礼を受けてもらった。
 それからローザをPTに入れてジョブを設定し、今度は皆を連れて湖面のファイヤーアローショーを披露する。
  
 帰る間際にまたドラゴンフライが出たのでまたもファイヤーストームの餌食にしてローザのノービスが無事カンストした。

「綺麗だったねローザちゃん」
「えぇ、あんなに綺麗なもの、初めて見ましたわ……」
「夜にやったらもっと綺麗かもね」

 喜んでいるリシアとローザにそう告げると、二人が輝きと期待の眼差しでこちらを見つめてきた。

「それは素敵です……!」
「あても観たい!」
「私も観てみたいです……」
「トシオ殿、また是非お願いします!」
「ちー」
「また今度ね」

 全員が食いついて来たので請け負った。

 こんなことでみんなが喜んでくれるなら、それこそ安いものである。
 次はフィローラやレスティー達も連れて来るとしようかな。

 納屋へと通じるワープゲートに全員が入るのを確認し、最後に潜ってゲートを閉じた。
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