193 / 254
185話 切られた火ぶた
しおりを挟む
第二王子であるマルケオスが敵の襲来に出向き1刻が過ぎた頃。
ウィッシュタニア玉座の間では襲撃に備えた兵士達が、未だ訪れない敵へある者は不安を抱え、ある者は功名に胸を躍らせながらも緊張していた。
だが緊張状態で待ち続けるには1刻という時間は長く、ましてや襲撃が予見され配置についてからは既に4半日が経過している。
その間もずっと緊張と待機を強いられ続けていた兵士達にとって、勇者襲撃の報で一度は心を引き締められるも、そこからの1刻は心をすり減らし、緊張が弛緩するには十分な時間と言えよう。
そして〝第二王子の戻らぬ理由〟や、〝襲撃者はもう来ないのでは?〟といった憶測があちらこちらで囁かれ合
った。
「なんだその浮ついた態度は! 敵はいつ攻めて来るかもわからんのだぞ!」
国の英雄にして軍の支柱とも言うべき老将ヴィクトルが、そんな浮足立った男達を見かねて叱咤する。
「つまんないよー。ランペール様ぁ、本当にそいつ来んのぉ?」
黒い肌に目と口元を白く塗った異世界の女が、第一王子であるランペールの腕に縋り、甘えた声で尋ねてくる。
その仕草にランペールが苛立ちから眉間にシワを寄せるも、それを見たヴィクトルに念話で注意され、直ぐに顔から険を隠す。
「あぁ、必ず来るさ。ルージュは敵が来たら直ぐに知らせてくれさえすれば良い」
「了解、あーしはそいつとエンカウントしたら魔法で排除ればいいだけっしょ?」
「あぁその通りだ。頼りにしているよ、私のルージュ」
「え、えへへ……」
ランペールはこれまでの人生で一度も発したことの無い甘い声で囁き微笑むと、身長差で先程のランペールの顔を見逃した少女が甘えて縋りつく。
先月呼び出し逃亡した女勇者と違い簡単に懐く少女に、ランペールは扱いの容易さに内心でほくそ笑む。
しかし、ランペール自身この状況に苛立ちを募らせていた。
「あ、ランペール様の笑顔ヤバっ。良いが深すぎてマジテンション上がるー」
「ルージュにそう想われるのは光栄だよ」
まるで猿の頭を撫でて餌付けしているようだ。
これが今後毎日続く日課になるのかと思うとウンザリする。
愚弟二人に愚王にそしてこの猿と、私の周りにはろくでも無い奴が多すぎる。
ドゴォォォォォォン!!
唐突な爆発音が城を揺らすと、続けざまに何度も音と振動が続く。
「何事だ!?」
止まる事のない爆発音が響く中、ランペールが周囲に叫ぶ。
兵や騎士が念話で各所に状況を確認する念話を飛ばしている。
「ルージュ、どうなっている?!」
「わかんないー!? サーチ――なんだっけ? それにもなにも出ないの!」
役に立たない警報装置にランペールが顔を歪めて舌打ちするが、爆発音に驚く少女にはそれに気付く余裕が無かった。
『伝令! 第一物見の塔の屋上からの法撃を確認!』
『伝令! 1階訓練場にて侵入者が暴れております! 至急増援を願います!』
『伝令! 中庭から城への攻撃を確認! 反撃を開始します!』
爆発音が20に差し掛かった辺りで、念話での報告が続々と上がる。
「何をしている、早くこの爆発を止めよ!」
「殿下、一騎当千の近衛騎士を鎮圧に向かわせましょう」
「わかっている!」
老将の進言にランペールが苛立ちを言葉でぶつけると、傍に控える近衛騎士団長へ顔を向ける。
「バレンティン、人選を行え! 至急鎮圧に当たらせろ!」
「御意」
白い甲冑の中年男性が、恭しく頭を垂れた。
ウィッシュタニア玉座の間では襲撃に備えた兵士達が、未だ訪れない敵へある者は不安を抱え、ある者は功名に胸を躍らせながらも緊張していた。
だが緊張状態で待ち続けるには1刻という時間は長く、ましてや襲撃が予見され配置についてからは既に4半日が経過している。
その間もずっと緊張と待機を強いられ続けていた兵士達にとって、勇者襲撃の報で一度は心を引き締められるも、そこからの1刻は心をすり減らし、緊張が弛緩するには十分な時間と言えよう。
そして〝第二王子の戻らぬ理由〟や、〝襲撃者はもう来ないのでは?〟といった憶測があちらこちらで囁かれ合
った。
「なんだその浮ついた態度は! 敵はいつ攻めて来るかもわからんのだぞ!」
国の英雄にして軍の支柱とも言うべき老将ヴィクトルが、そんな浮足立った男達を見かねて叱咤する。
「つまんないよー。ランペール様ぁ、本当にそいつ来んのぉ?」
黒い肌に目と口元を白く塗った異世界の女が、第一王子であるランペールの腕に縋り、甘えた声で尋ねてくる。
その仕草にランペールが苛立ちから眉間にシワを寄せるも、それを見たヴィクトルに念話で注意され、直ぐに顔から険を隠す。
「あぁ、必ず来るさ。ルージュは敵が来たら直ぐに知らせてくれさえすれば良い」
「了解、あーしはそいつとエンカウントしたら魔法で排除ればいいだけっしょ?」
「あぁその通りだ。頼りにしているよ、私のルージュ」
「え、えへへ……」
ランペールはこれまでの人生で一度も発したことの無い甘い声で囁き微笑むと、身長差で先程のランペールの顔を見逃した少女が甘えて縋りつく。
先月呼び出し逃亡した女勇者と違い簡単に懐く少女に、ランペールは扱いの容易さに内心でほくそ笑む。
しかし、ランペール自身この状況に苛立ちを募らせていた。
「あ、ランペール様の笑顔ヤバっ。良いが深すぎてマジテンション上がるー」
「ルージュにそう想われるのは光栄だよ」
まるで猿の頭を撫でて餌付けしているようだ。
これが今後毎日続く日課になるのかと思うとウンザリする。
愚弟二人に愚王にそしてこの猿と、私の周りにはろくでも無い奴が多すぎる。
ドゴォォォォォォン!!
唐突な爆発音が城を揺らすと、続けざまに何度も音と振動が続く。
「何事だ!?」
止まる事のない爆発音が響く中、ランペールが周囲に叫ぶ。
兵や騎士が念話で各所に状況を確認する念話を飛ばしている。
「ルージュ、どうなっている?!」
「わかんないー!? サーチ――なんだっけ? それにもなにも出ないの!」
役に立たない警報装置にランペールが顔を歪めて舌打ちするが、爆発音に驚く少女にはそれに気付く余裕が無かった。
『伝令! 第一物見の塔の屋上からの法撃を確認!』
『伝令! 1階訓練場にて侵入者が暴れております! 至急増援を願います!』
『伝令! 中庭から城への攻撃を確認! 反撃を開始します!』
爆発音が20に差し掛かった辺りで、念話での報告が続々と上がる。
「何をしている、早くこの爆発を止めよ!」
「殿下、一騎当千の近衛騎士を鎮圧に向かわせましょう」
「わかっている!」
老将の進言にランペールが苛立ちを言葉でぶつけると、傍に控える近衛騎士団長へ顔を向ける。
「バレンティン、人選を行え! 至急鎮圧に当たらせろ!」
「御意」
白い甲冑の中年男性が、恭しく頭を垂れた。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる