幼なじみ

さり

文字の大きさ
1 / 1

はじめまして

しおりを挟む



 3歳の頃、石につまずいて転んだ僕は、ごちんと打った頭が、2倍になった。

「コト──!」

 おかあさんの悲鳴を聞きながら倒れた僕は、頭のなかをぐるんぐるん回る誰かの人生にびっくりする。

 ……これって……僕……?

 いや、僕はコトという名前の、3歳の男の子で……でも、このおじさんのことも、僕のことみたいに感情までぜんぶわかる……ということは、もしかして、前世の記憶?

 ゲームが大すきで、魔法が大すきで、ファンタジーが大すきで、オンライン小説が大すきで、まあどこにでもいそうな感じで生きて……死んだ記憶はあまりない。

 よたよた歩いて、もしょもしょ話していた、どこにでもいる3歳児が、前世の記憶が復活したら直角お辞儀ができるような社会経験のある中身に!

 ……中身はアラサー? いや、転生して3歳になったんだから、若作りは止めよう! ちょっと加齢臭が気になるお年頃なアラフォー……アラフィフだったか? なんかその辺だったと思う。たぶん。

 3歳の僕は、自己主張がそんなに激しいほうではなかったらしく、前世の僕とうまく融合できたらしい。まあおんなじ僕だしね。融合できなくて分離とかの小説もたくさん読んだから、そこはすんなりいってよかったよ。

 前世の僕は、ゲームとオンライン小説に命を捧げていたので、生活はさみしい感じだった。あんまり思いだしたくない。

 恋人? 伴侶? 何それおいしいのな感じで生きて死んで異世界転生来た! ら勇者だろう! だめでもまあ悪役令息とか、その辺かなと思ったけど、村人Aだった。

 いや、わかんないけど。

 頭を打って寝かせてもらった寝室の感じが村人Aだよ。

 でも突然きらきらした人が現れて
「あなたが勇者に選ばれました!」
 とか言ってくれないかなーと、期待!
 魔法がある世界っぽいよ。ここはやっぱりモブでも俺TUEEじゃない?

 わくわくした3歳の僕は、きらきらな使者を待とうとして止まった。

 ……これって、前世のときに突然空から降ってきた、めちゃくちゃ可愛い女の子が
「あなたのことが、すきなの!」
 とか言ってくれる幻想を見ていたのと同じ感じじゃないか?

 天から羽の生えた、とびきり可愛い女の子が降ってくることは、なかった。

「実はあなたはファンタジー世界の王国のご落胤なのです!」

 きらきらの使者が迎えに来てくれることは、なかった。


 ゲームやオンライン小説みたいに、都合のいい展開も、都合のいい可愛い女の子も、降って来ない──!

 アラフォー、いやアラフィフ? 半世紀近く生きた僕は、学んだのだ。

 幻想を胸にいだいて生きすぎると、さみしい生活が降ってくる。


 勇者じゃなく村人Aに生まれ変わったということは、前世を反省して、今世は地に足をつけて生きなさいということじゃないだろうか?

 天から降ってくる可愛い女の子じゃなく、身近にいる女の子を大切にして、できたらきゃっきゃうふふして、薔薇色の生活を送りましょうとか、そういうことじゃないか!?

 走馬灯のように巡った前世の記憶と反省をもとに、新たな僕は爆誕した。

 堅実な村人Aとして立派に生きてやるぜ!




 とは言ってもまあ、3歳だ。できることはたかが知れている。

 この世界には魔法がある。スキルもあって、ダンジョンもあって冒険者もいて、魔王がたまに現れて、魔王が現れるときには勇者も現れるというお約束なファンタジー世界だ。

 しかし近年魔王は現れていないらしい。平和だいじ。

 3歳の僕は、まず状況を把握しようとリサーチをはじめた。


「おかーさん、僕が住んでる村の名前は?」

「まあまあ、コトちゃん、お勉強する気になったの? えらいわねえ」

 頭をなでてくれるお母さんは、ほめてのばすタイプだ! やさしい!

「ここはロタ村っていうのよ」

 とってもやさしそうなお母さんだが、ちょっとメタボが心配なので、ダイエット計画を勧めようとひそかに決意する。産後のあれというには僕もう3歳だからね。言い訳できないからね。

「国の名前は?」

「ロンゼ王国よ。まあまあの王さまの、まあまあの国ねえ」

 にこにこしながら、おかあさん、まあまあ辛口!

「魔法はどんなのが使えるの?」

「そんなことにも興味あるの! コトちゃん、天才かしら!」

 母が息子に甘すぎる件について。



 3歳の僕が懸命にリサーチしたところによると、僕が住んでいるのはロタ村、ロンゼ王国の辺境に位置する。

 この世界は6柱の精霊によって守られた世界だという。

 炎、風、水、地、光、闇、魔法はこの6属性が使えて、たいていの人には魔力があり、何かひとつの属性の魔法が使えるらしい。

 10歳になると、精霊殿に行って、どの精霊から加護を受けているのか、確かめてもらう。

 加護を授けてくれた精霊の魔法が使えるようになるらしい。


「おぉお、魔法!」

「楽しみねえ。おあかさんは地、おとうさんは水だから、どちらかじゃないかしら」

 にこにこしてくれるお母さんに、僕はちょっとがっかりした。

 ……なんとなく、炎がかっこよくない? 主人公っぽくない?

 地って、思いっきりモブの匂いがするよ──!

 ……ごめん、おかあさん。



 ちょっと反省した僕は、今世の目的『身近な女の子を大切にする』を全うしようと、よたよた家を出た。

 半世紀近く生きた記憶があると、ちっちゃい手足と、よちよち加減にびっくりする!

 よれよれしながら家を出た僕は、ちっちゃな村という名が、過疎で人口が少ないだけで広大な村だということに気づく頃には、へばりそうになっていた。

「……ぜー……ぜー……ひ、広すぎだろ……!」

 仕方なく木陰で休んでいたら、大樹の影に隠れるようにして、こちらを見ている子に気づいた。

 3歳の僕の記憶を検索してみたが、覚えていないみたいだ。


「はじめまして? 僕、コトです。3歳です」

 手を差しだしたら、じいっと手を見つめられた。

 髪が、もしゃもしゃしてる。
 手足が棒きれみたいに細い。

 まあ、お世辞にも『かわいいね!』とは言えない陰気な感じの、同い年くらいのお子さまだった。


 しかし、半世紀近く生きて、何のご縁もなかった男の嗅覚をなめるな──!

 ぱっと見、男の子に見える感じだけれど、たぶん、きっと、女の子だ!

 身近な女の子、発見だよ!
 





しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...