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はじめまして
しおりを挟む3歳の頃、石につまずいて転んだ僕は、ごちんと打った頭が、2倍になった。
「コト──!」
おかあさんの悲鳴を聞きながら倒れた僕は、頭のなかをぐるんぐるん回る誰かの人生にびっくりする。
……これって……僕……?
いや、僕はコトという名前の、3歳の男の子で……でも、このおじさんのことも、僕のことみたいに感情までぜんぶわかる……ということは、もしかして、前世の記憶?
ゲームが大すきで、魔法が大すきで、ファンタジーが大すきで、オンライン小説が大すきで、まあどこにでもいそうな感じで生きて……死んだ記憶はあまりない。
よたよた歩いて、もしょもしょ話していた、どこにでもいる3歳児が、前世の記憶が復活したら直角お辞儀ができるような社会経験のある中身に!
……中身はアラサー? いや、転生して3歳になったんだから、若作りは止めよう! ちょっと加齢臭が気になるお年頃なアラフォー……アラフィフだったか? なんかその辺だったと思う。たぶん。
3歳の僕は、自己主張がそんなに激しいほうではなかったらしく、前世の僕とうまく融合できたらしい。まあおんなじ僕だしね。融合できなくて分離とかの小説もたくさん読んだから、そこはすんなりいってよかったよ。
前世の僕は、ゲームとオンライン小説に命を捧げていたので、生活はさみしい感じだった。あんまり思いだしたくない。
恋人? 伴侶? 何それおいしいのな感じで生きて死んで異世界転生来た! ら勇者だろう! だめでもまあ悪役令息とか、その辺かなと思ったけど、村人Aだった。
いや、わかんないけど。
頭を打って寝かせてもらった寝室の感じが村人Aだよ。
でも突然きらきらした人が現れて
「あなたが勇者に選ばれました!」
とか言ってくれないかなーと、期待!
魔法がある世界っぽいよ。ここはやっぱりモブでも俺TUEEじゃない?
わくわくした3歳の僕は、きらきらな使者を待とうとして止まった。
……これって、前世のときに突然空から降ってきた、めちゃくちゃ可愛い女の子が
「あなたのことが、すきなの!」
とか言ってくれる幻想を見ていたのと同じ感じじゃないか?
天から羽の生えた、とびきり可愛い女の子が降ってくることは、なかった。
「実はあなたはファンタジー世界の王国のご落胤なのです!」
きらきらの使者が迎えに来てくれることは、なかった。
ゲームやオンライン小説みたいに、都合のいい展開も、都合のいい可愛い女の子も、降って来ない──!
アラフォー、いやアラフィフ? 半世紀近く生きた僕は、学んだのだ。
幻想を胸にいだいて生きすぎると、さみしい生活が降ってくる。
勇者じゃなく村人Aに生まれ変わったということは、前世を反省して、今世は地に足をつけて生きなさいということじゃないだろうか?
天から降ってくる可愛い女の子じゃなく、身近にいる女の子を大切にして、できたらきゃっきゃうふふして、薔薇色の生活を送りましょうとか、そういうことじゃないか!?
走馬灯のように巡った前世の記憶と反省をもとに、新たな僕は爆誕した。
堅実な村人Aとして立派に生きてやるぜ!
とは言ってもまあ、3歳だ。できることはたかが知れている。
この世界には魔法がある。スキルもあって、ダンジョンもあって冒険者もいて、魔王がたまに現れて、魔王が現れるときには勇者も現れるというお約束なファンタジー世界だ。
しかし近年魔王は現れていないらしい。平和だいじ。
3歳の僕は、まず状況を把握しようとリサーチをはじめた。
「おかーさん、僕が住んでる村の名前は?」
「まあまあ、コトちゃん、お勉強する気になったの? えらいわねえ」
頭をなでてくれるお母さんは、ほめてのばすタイプだ! やさしい!
「ここはロタ村っていうのよ」
とってもやさしそうなお母さんだが、ちょっとメタボが心配なので、ダイエット計画を勧めようとひそかに決意する。産後のあれというには僕もう3歳だからね。言い訳できないからね。
「国の名前は?」
「ロンゼ王国よ。まあまあの王さまの、まあまあの国ねえ」
にこにこしながら、おかあさん、まあまあ辛口!
「魔法はどんなのが使えるの?」
「そんなことにも興味あるの! コトちゃん、天才かしら!」
母が息子に甘すぎる件について。
3歳の僕が懸命にリサーチしたところによると、僕が住んでいるのはロタ村、ロンゼ王国の辺境に位置する。
この世界は6柱の精霊によって守られた世界だという。
炎、風、水、地、光、闇、魔法はこの6属性が使えて、たいていの人には魔力があり、何かひとつの属性の魔法が使えるらしい。
10歳になると、精霊殿に行って、どの精霊から加護を受けているのか、確かめてもらう。
加護を授けてくれた精霊の魔法が使えるようになるらしい。
「おぉお、魔法!」
「楽しみねえ。おあかさんは地、おとうさんは水だから、どちらかじゃないかしら」
にこにこしてくれるお母さんに、僕はちょっとがっかりした。
……なんとなく、炎がかっこよくない? 主人公っぽくない?
地って、思いっきりモブの匂いがするよ──!
……ごめん、おかあさん。
ちょっと反省した僕は、今世の目的『身近な女の子を大切にする』を全うしようと、よたよた家を出た。
半世紀近く生きた記憶があると、ちっちゃい手足と、よちよち加減にびっくりする!
よれよれしながら家を出た僕は、ちっちゃな村という名が、過疎で人口が少ないだけで広大な村だということに気づく頃には、へばりそうになっていた。
「……ぜー……ぜー……ひ、広すぎだろ……!」
仕方なく木陰で休んでいたら、大樹の影に隠れるようにして、こちらを見ている子に気づいた。
3歳の僕の記憶を検索してみたが、覚えていないみたいだ。
「はじめまして? 僕、コトです。3歳です」
手を差しだしたら、じいっと手を見つめられた。
髪が、もしゃもしゃしてる。
手足が棒きれみたいに細い。
まあ、お世辞にも『かわいいね!』とは言えない陰気な感じの、同い年くらいのお子さまだった。
しかし、半世紀近く生きて、何のご縁もなかった男の嗅覚をなめるな──!
ぱっと見、男の子に見える感じだけれど、たぶん、きっと、女の子だ!
身近な女の子、発見だよ!
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