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第二話 おばさん冒険者、特命依頼を受ける
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「なぁ、さっきの見ただろ? 膝使わなくても討伐に参加できんだよ!」
「あれはアリスの防御壁の中だからだ。何もないところで囲まれたらどうすんだよ!」
「それは普通に拳でさぁ」
「それじゃダメだろ!? また膝やられたらどうすんだよ!」
列の先頭のリックと、後方のサダイズの大声での会話だ。
(なんだか、逆になっちゃいました……)
余計なことをしたんじゃないか、とリーナはおろおろする。
今、パーティを続けたいと言っているのはサダイズで、辞めるべきと言っているのはリックだった。
(サダイズさんもやっぱり冒険者を辞めたくなかったんですよね)
リーナの提案で球を投げて闇騎士を倒したことで、サダイズはまだ続けられると考えたようだった。
それでリックと揉めている。
「内輪の話で、すみませんね」
ダウトがラリーに謝ると、
「いやぁ、お互い様ですよ」
と、昨日うっかり罠を発動させて誰よりも迷惑をかけたテリーが答えた。
お前が言うか? という微妙な空気がその場に流れたのは当然だ。
――リーナたちは闇騎士がいた部屋の調査を終わらせ、次の隠し部屋に向かっている。
残されていた薬物や器具は、記録を取った後、ラリーが持ってきたマジックバッグに入れた。証拠品は持ち帰って詳しく調べるそうだ。
「もう! 何なのよ! うるさいわね!」
アリスの叫びが響いた。
それで、リックとサダイズの大声が止まった瞬間、テリーが「あっ!」と叫んだ。
「こんなところに、八股蔦が!」
テリーは止める間もなく、壁に生えている蔦のツルを引っ張った。
「あ!」
「え?」
「またなの!?」
ががががっと重い音を立てて、蔦があった壁が動く。
「隠し部屋ですか!?」
壁がずれた向こうはやけに明るい部屋だった。
床が一面緑だ。
「これは! 魔封風負草!」
駆け込もうとするテリーをビリーが慌てて止めた。
「魔封風負草って違法薬物の原料じゃないですか! まさかここでも育ててたんですか?」
「いや、犯人の供述にはなかったんですが……」
ラリーが答えたとき、奥から何かが飛び出してきた。
「闇鎧鼠だ!」
ダウトが言うやいなや、アリスが隠し部屋に駆け込んだ。
「アリス! 何やってんだよ!」
リックもアリスを追う。
闇鎧鼠は金属でできた鼠だ。闇騎士の鼠版と言えるか。一抱えくらいあり、普通の鼠はもちろん、他の鼠系魔物と比べても大きい。
(違法薬物の原料があるってことは、もしかして、この鼠もおかしな行動をするんでしょうか?)
「あんたたちはそこに残ってなさい!」
アリスはリーナたちを囲む防御壁を出した。
「おい! 俺も」
「鼠しかいなそうだから、あいつらだけで十分だろ」
サダイズをダウトが止める。
「リーナ、何か投げるもんねぇのか?」
「ありませんよぉー」
鼠は数は多そうだけれど、アリスもリックも一発で仕留めているから、どんどん減っている。
出てきたそばから吹っ飛ばされるため、鼠が異常行動を取っているかどうか確認する隙もなかった。
ガチャンガチャンと鎧の音が響く中、
「前と後ろで大声で言い争いして、イライラするのよ! そういうのは、帰ってからやりなさいよ!」
アリスは鼠をリックに向けて蹴る。
それを避けたリックは、「俺のせいじゃねぇよ!」と怒鳴る。
「何なのよ! いい大人が子どもみたいに!」
「うるせぇ! ガキで悪いか!?」
リックもアリスに向けて鼠を蹴った。
(鼠にとっては完全に八つ当たりですよね?)
「そのガキは、何のために冒険者になったの? 何がしたくてパーティ結成したわけ?」
「ずっとガキのままでいたかったからだよ! 三人でつるんでいたかったんだよ!」
ガシャンっと音を立てて、リックが蹴った鼠が防御壁に当たって跳ね返った。
それが最後の鼠だったようで、部屋の中に立っているのはアリスとリックだけになる。
「三人で一緒にいたいだけなら、何とでもなるじゃない! 討伐や護衛は断って、採取依頼を受ければいいのよ。日帰りで行けるところに三人で行けばいいでしょ?」
「日帰り……? 採取?」
「まだまだ人生は続くのよ。長く楽しく、無理せずに、うまくやっていかないと」
アリスはこちらを振り向いて、防御壁を消した。
ダウトが一歩前に出る。
「それはいいな。『籠目』は採取依頼専門ってことにしよう」
リックとサダイズがダウトを見た。
「リック、お前だって、疲れが取れないって言ってただろ。俺だって、もう若い頃のようにはいかないと思う。何かあってからじゃ遅いのは、俺もお前も同じだろ」
「あ、ああ……」
「俺は『籠目』を辞めたくねぇよ!」
サダイズが訴えると、リックは「あーっ!」と吹っ切るように大声を出した。
「わかったよ! 採取な! 三人でまた白爪蓬でも摘むか!!」
リックがそう言うと、ダウトがぶっと吹き出す。
「それ、最初の依頼だろ」
「リックが間違えて花咲兎の花を摘もうとして、毒被ったやつな!」
サダイズも笑って、隠し部屋の中に入っていった。
「いちいち大きな声を出さないとならないの、何なのよ」
アリスは小声で文句を言いつつも笑顔だ。
リーナも、「まとまって良かったですね!」と笑う。
「ええ、そうね」
と、リーナに笑顔を返したアリスは、くるりと振り返った。
すうっと笑顔が消える。
「テリー! そこに座りなさい!」
「ひぃ! 申し訳ありませんー!」
リーナはそのときのアリスの顔を見て、心に強く誓った。
(アリスおばさんだけは怒らせないようにしましょう!!)
「あれはアリスの防御壁の中だからだ。何もないところで囲まれたらどうすんだよ!」
「それは普通に拳でさぁ」
「それじゃダメだろ!? また膝やられたらどうすんだよ!」
列の先頭のリックと、後方のサダイズの大声での会話だ。
(なんだか、逆になっちゃいました……)
余計なことをしたんじゃないか、とリーナはおろおろする。
今、パーティを続けたいと言っているのはサダイズで、辞めるべきと言っているのはリックだった。
(サダイズさんもやっぱり冒険者を辞めたくなかったんですよね)
リーナの提案で球を投げて闇騎士を倒したことで、サダイズはまだ続けられると考えたようだった。
それでリックと揉めている。
「内輪の話で、すみませんね」
ダウトがラリーに謝ると、
「いやぁ、お互い様ですよ」
と、昨日うっかり罠を発動させて誰よりも迷惑をかけたテリーが答えた。
お前が言うか? という微妙な空気がその場に流れたのは当然だ。
――リーナたちは闇騎士がいた部屋の調査を終わらせ、次の隠し部屋に向かっている。
残されていた薬物や器具は、記録を取った後、ラリーが持ってきたマジックバッグに入れた。証拠品は持ち帰って詳しく調べるそうだ。
「もう! 何なのよ! うるさいわね!」
アリスの叫びが響いた。
それで、リックとサダイズの大声が止まった瞬間、テリーが「あっ!」と叫んだ。
「こんなところに、八股蔦が!」
テリーは止める間もなく、壁に生えている蔦のツルを引っ張った。
「あ!」
「え?」
「またなの!?」
ががががっと重い音を立てて、蔦があった壁が動く。
「隠し部屋ですか!?」
壁がずれた向こうはやけに明るい部屋だった。
床が一面緑だ。
「これは! 魔封風負草!」
駆け込もうとするテリーをビリーが慌てて止めた。
「魔封風負草って違法薬物の原料じゃないですか! まさかここでも育ててたんですか?」
「いや、犯人の供述にはなかったんですが……」
ラリーが答えたとき、奥から何かが飛び出してきた。
「闇鎧鼠だ!」
ダウトが言うやいなや、アリスが隠し部屋に駆け込んだ。
「アリス! 何やってんだよ!」
リックもアリスを追う。
闇鎧鼠は金属でできた鼠だ。闇騎士の鼠版と言えるか。一抱えくらいあり、普通の鼠はもちろん、他の鼠系魔物と比べても大きい。
(違法薬物の原料があるってことは、もしかして、この鼠もおかしな行動をするんでしょうか?)
「あんたたちはそこに残ってなさい!」
アリスはリーナたちを囲む防御壁を出した。
「おい! 俺も」
「鼠しかいなそうだから、あいつらだけで十分だろ」
サダイズをダウトが止める。
「リーナ、何か投げるもんねぇのか?」
「ありませんよぉー」
鼠は数は多そうだけれど、アリスもリックも一発で仕留めているから、どんどん減っている。
出てきたそばから吹っ飛ばされるため、鼠が異常行動を取っているかどうか確認する隙もなかった。
ガチャンガチャンと鎧の音が響く中、
「前と後ろで大声で言い争いして、イライラするのよ! そういうのは、帰ってからやりなさいよ!」
アリスは鼠をリックに向けて蹴る。
それを避けたリックは、「俺のせいじゃねぇよ!」と怒鳴る。
「何なのよ! いい大人が子どもみたいに!」
「うるせぇ! ガキで悪いか!?」
リックもアリスに向けて鼠を蹴った。
(鼠にとっては完全に八つ当たりですよね?)
「そのガキは、何のために冒険者になったの? 何がしたくてパーティ結成したわけ?」
「ずっとガキのままでいたかったからだよ! 三人でつるんでいたかったんだよ!」
ガシャンっと音を立てて、リックが蹴った鼠が防御壁に当たって跳ね返った。
それが最後の鼠だったようで、部屋の中に立っているのはアリスとリックだけになる。
「三人で一緒にいたいだけなら、何とでもなるじゃない! 討伐や護衛は断って、採取依頼を受ければいいのよ。日帰りで行けるところに三人で行けばいいでしょ?」
「日帰り……? 採取?」
「まだまだ人生は続くのよ。長く楽しく、無理せずに、うまくやっていかないと」
アリスはこちらを振り向いて、防御壁を消した。
ダウトが一歩前に出る。
「それはいいな。『籠目』は採取依頼専門ってことにしよう」
リックとサダイズがダウトを見た。
「リック、お前だって、疲れが取れないって言ってただろ。俺だって、もう若い頃のようにはいかないと思う。何かあってからじゃ遅いのは、俺もお前も同じだろ」
「あ、ああ……」
「俺は『籠目』を辞めたくねぇよ!」
サダイズが訴えると、リックは「あーっ!」と吹っ切るように大声を出した。
「わかったよ! 採取な! 三人でまた白爪蓬でも摘むか!!」
リックがそう言うと、ダウトがぶっと吹き出す。
「それ、最初の依頼だろ」
「リックが間違えて花咲兎の花を摘もうとして、毒被ったやつな!」
サダイズも笑って、隠し部屋の中に入っていった。
「いちいち大きな声を出さないとならないの、何なのよ」
アリスは小声で文句を言いつつも笑顔だ。
リーナも、「まとまって良かったですね!」と笑う。
「ええ、そうね」
と、リーナに笑顔を返したアリスは、くるりと振り返った。
すうっと笑顔が消える。
「テリー! そこに座りなさい!」
「ひぃ! 申し訳ありませんー!」
リーナはそのときのアリスの顔を見て、心に強く誓った。
(アリスおばさんだけは怒らせないようにしましょう!!)
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