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第二章 魔女国の居候
シンシアの研究
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庭の薬草畑は、一見したところ何も変わったところはなかった。
「あなたが屋敷全体を治癒したとき、私はたまたまここにいたの。薬草にかかった治癒力はそのまま吸い込まれるように消えたわ」
「治癒されて元気になったってことか?」
「きちんと世話しているんだから、もともと元気よ。失礼ね」
シンシアは手近な薬草から葉っぱをちぎって、魔道具に載せた。時計の真ん中に器が乗ったような形だ。
葉っぱを載せてすぐに針が動く。
「普通はこの目盛りの二あたりなのに、治癒がかかった薬草は五まであるのよ」
「この魔道具は?」
「薬効を測る魔道具」
そっけなく答えて、シンシアは手前に植えられた薬草を指差した。
「どれだけ治癒力を取り込むのか確認したいから、この一本にだけ治癒をかけてちょうだい」
一方的な要求にティムは苦笑しつつ、その示された薬草に治癒をかける。
先ほど剣にかけたように、金の粉はどんどん吸い込まれていく。それが止まったところでティムは治癒をやめる。
「これ以上は吸い込まないみたいだな」
シンシアは無言で葉っぱを摘んで魔道具に載せる。ティムも横から覗き込んだ。
「まあ!」
「おー、針が一周回った!」
シンシアが弾んだ声で、
「この薬草を使えばアンジェリーナのレシピが試せるかもしれないわ!」
「アンジェリーナのレシピ?」
「薬効が十二以上の薬草が必要なんだけれど、泉の水を与えたり交配したりしても八以上にはならなかったのよ。アンジェリーナは治癒力を使って薬草を育てていたのね」
珍しく笑顔で話すシンシアにティムは考える。
満杯まで治癒力を込めたのはまだ一本だけだ。シンシアの実験にはティムの協力が欠かせないはず。
(これは交渉できるかもしれない)
「俺が薬草に治癒をかける代わりに、アンジェリーナの薬の作り方を教えてくれないか?」
「別にいいわよ」
断られる覚悟で提案したのに、あっさりと承諾されて、ティムは拍子抜けしてしまう。
「え、いいのか? 始祖のレシピなんだろ。門外不出とか、魔女にしか作れないとか、そういうのないの?」
「ないわよ」
シンシアは面倒そうに片手を振る。
「アンジェリーナの時代のほうが、人間との交流が盛んだったんだから、とっくに伝わっているわよ」
「そうなのか」
「あなたがそう言うなら、聖女がいる人間の国でもアンジェリーナの薬は作っていないのね?」
「少なくとも、うちの国では作っていないと思う」
作っていたなら、薬草に治癒をかける仕事は間違いなくティムの担当だっただろう。
「教会に薬草畑はなかったし、聖女と薬師は関わらないからなぁ。他国で作ってるかどうかまでは知らないけど」
「そう。……まあ、人間の国のことはどうでもいいわ」
シンシアは話を戻す。
「それで、あなたに作り方を教えたら、薬草に治癒をかけてくれるわけ?」
「ああ」
ティムはうなずいてから、ふと思いつく。
「あ! その薬って俺でも作れるのか?」
「そんなこと私がわかるわけないじゃない。材料が違うだけで、作り方も道具も普通の薬と同じよ」
「うーん、俺、薬作ったことないからなぁ」
(処方の仕方はトルコフ先生に習ったけど)
そう思いながら、ティムは首を捻る。
「私は作り方を教えるだけよ。あなたが作れなくても知らないわ」
シンシアは腕組みすると、つんとあごを上げる。
「了解。それでいいよ」
ティムは「交渉成立だな」と手を打つと、薬草畑の畝一つ分に治癒力を広げる。
そのままいっぱいになるまで治癒力を注いだ。
「この畝の薬草は治癒かけ終わったから」
「は? 今やったの?」
「うん、そう。あとは明日でいいか? 明日一日あれば全部終わると思う」
唖然とした顔のシンシアがおかしくて、ティムは笑った。
シンシアに教えてもらった結果、アンジェリーナの薬はティムにも作れた。
「作れたには作れたけど、シンシアが作った薬のほうが質がいいな」
薬の品質検査の魔道具を見ながら、ティムは唸る。シンシアは勝ち誇った顔をしていた。
(薬師はやっぱり技術職なんだな……)
初めて入ったシンシアの研究室は、どことなく砦の医務室のようで懐かしい。
本棚ももちろんあるが、器具が仕舞われたガラス戸棚や薬種棚があるのがシェリルの研究室とは違う。また、シェリルの研究室に窓はなかったが、こちらにはあった。
部屋の真ん中にある大きな机は、天板に大理石が使われている。机上には薬作りの道具が整然と並んでいた。
厨房のような流し台と水の魔道具があり、ここで洗浄などもできるようになっていた。
シンシアの研究室は薬作りに特化しているようだ。彼女の手際も薬師級だ。
「シンシアはずっと薬の研究をしてるのか?」
「まだ三十年くらいよ」
「三十年で『まだ』?」
「ヴェロニカは二百年くらい薬の研究をしてたもの」
「そんなに? シンシアはヴェロニカから引き継いだんだな。代々引き継ぐのか?」
結界の魔道具は、数百年ごとに思い出したように改良されていた。――不具合が出て必要にかられたときにだけ改良していたのかもしれない。
ティムの質問にシンシアは胸を張る。
「私は特別よ。ヴェロニカから引き継いでほしいって頼まれたんだもの!」
「へー」
シェリルがヴェロニカを慕っているなら、シンシアは尊敬しているといったところか。
魔女に血縁上の親子関係はないと聞いたが、心情的な親子関係はあるのではないか、とティムは考える。
(シェリルとシンシアが三か月違いで生まれたんだから、ヴェロニカは二人同時に子育てしたってことだよな)
赤子一人でも大変なのは、孤児院で知っている。主に世話していたのはシスターだが、年上の子どもはもれなく交代要員になっていた。
(皆で面倒みても大変なのに、ヴェロニカ一人でなんて……。ん? もしかして毛玉が手伝ったりしたのか? 毛玉はなんでもできるもんな)
――魔女の子育てがティムの予想と少し違っていたとわかるのは、もうしばらくあとのことだ。
ティムがそんなことを考えている間に、シンシアはできた薬を棚にしまう。
「その薬ってどうするんだ? 人間の国に売るのか?」
「いえ、実験に使ったりサンプルとして保存したりするだけよ」
ティムは自分で作った薬を見つめる。
シンシアの薬より品質は劣るが、アンジェリーナの薬は材料の時点で薬効が高いため、ティム作でも通常の薬より高品質だった。
「これ、骨折が治るくらいの効果があるよな?」
「そうね」
「国に送ったらダメか?」
(これを国に送れたら、施療院の仕事が楽にならないかな)
ティムが尋ねると、シンシアは少し考えてから、
「あなたが自分で作ったものなら、好きにすれば?」
「え、いいのか? ありがとう!」
礼を言ったティムに、シンシアは「私の手を煩わせないなら何でもいいわよ」と視線を逸らす。
「薬草は好きに使っていいか? あ、自分で使う分は自分で世話するからさ」
「勝手にして。――きちんと片付けてくれるなら、ここにある器具も使っていいわよ」
「おー、助かる。ありがとう!」
――そんな話をした翌日。
ティムが庭に出ると毛玉が何匹も飛んできた。そして、毛玉に案内された場所に行くと、新しい薬草畑ができており、薬草も植えられている。
「え? なんだ、これ? 俺用の畑? お前らが作ってくれたの?」
毛玉はぴょんぴょん跳ねる。
「お前ら、すげーな! 本当に何でもできるのな!」
ありがとう、と大感激しながら、ティムは屋敷ごと治癒をかけた。
そして、今さら基本的なことに気づいた。
(治癒をかけた薬草を送って薬師に作ってもらったほうが、俺が作った薬を送るよりいいんじゃないのか?)
「俺は聖女。薬師じゃねぇもんなぁ」
シンシアにも、シェリルとヴェロニカにも許可をもらって、ティムはハーゲン王国に薬草を送ることにした。
::::::::::
ハーゲン王国。王の執務室。
「王太子殿下に魔女国から連絡があったようです。転移魔道具で荷物も届いています」
近衛騎士から報告を受けた王は、にやりと笑う。
「ティム・ガリガを派遣して間違いなかったな」
魔女国から聖女派遣の打診があったとき、宰相たちが何やら画策しているのは知っていたが、ティム・ガリガで問題ないと思ったから王は彼らに任せたのだった。
祖国に連絡を取ったり物を送ったりできるなんて、予想通り、ティムは早々に魔女たちの信頼を得たらしい。
「せっかく神秘の魔女国を探れるのだ。使えない令嬢を送っても意味がない。その点、ティムは何も指示しなくともヴィンセントの助けになろうとする」
「ええ。聖女のときは、殿下に教会の内部情報を提供していたようですしね」
近衛騎士がうなずいた。
「あやつはティムを手元に置いておきたかったようだがな」
ティムの治癒力は、国境の街モナオのころから、王も把握している。ヴィンセントが北国境伯領に行きたがるから、何が目的か当然調べた。
ヴィンセントが己の側近にティムを引き込もうとしているのを知って、王は黙って見守ることにしたのだが……。
(寸前で教会に取られたときは、悠長に構えているからだ、とヴィンセントを笑ったものだ)
ティムの存在や計画を王が知っていたことに、ヴィンセントは嫌な顔をしていたが、それもまたおかしかった。
今回は面と向かって反対されたが、ヴィンセントの希望は却下し、王はティムの魔女国行きを決めた。
ヴィンセントだって本当はティムが適任だとわかっていただろう。
「さて、ティムは我が国に何をもたらしてくれるのか。ヴィンセントが聖女や王太子妃の件をどう収めるのか。楽しみだな」
そう言って、王は呵呵と笑った。
「あなたが屋敷全体を治癒したとき、私はたまたまここにいたの。薬草にかかった治癒力はそのまま吸い込まれるように消えたわ」
「治癒されて元気になったってことか?」
「きちんと世話しているんだから、もともと元気よ。失礼ね」
シンシアは手近な薬草から葉っぱをちぎって、魔道具に載せた。時計の真ん中に器が乗ったような形だ。
葉っぱを載せてすぐに針が動く。
「普通はこの目盛りの二あたりなのに、治癒がかかった薬草は五まであるのよ」
「この魔道具は?」
「薬効を測る魔道具」
そっけなく答えて、シンシアは手前に植えられた薬草を指差した。
「どれだけ治癒力を取り込むのか確認したいから、この一本にだけ治癒をかけてちょうだい」
一方的な要求にティムは苦笑しつつ、その示された薬草に治癒をかける。
先ほど剣にかけたように、金の粉はどんどん吸い込まれていく。それが止まったところでティムは治癒をやめる。
「これ以上は吸い込まないみたいだな」
シンシアは無言で葉っぱを摘んで魔道具に載せる。ティムも横から覗き込んだ。
「まあ!」
「おー、針が一周回った!」
シンシアが弾んだ声で、
「この薬草を使えばアンジェリーナのレシピが試せるかもしれないわ!」
「アンジェリーナのレシピ?」
「薬効が十二以上の薬草が必要なんだけれど、泉の水を与えたり交配したりしても八以上にはならなかったのよ。アンジェリーナは治癒力を使って薬草を育てていたのね」
珍しく笑顔で話すシンシアにティムは考える。
満杯まで治癒力を込めたのはまだ一本だけだ。シンシアの実験にはティムの協力が欠かせないはず。
(これは交渉できるかもしれない)
「俺が薬草に治癒をかける代わりに、アンジェリーナの薬の作り方を教えてくれないか?」
「別にいいわよ」
断られる覚悟で提案したのに、あっさりと承諾されて、ティムは拍子抜けしてしまう。
「え、いいのか? 始祖のレシピなんだろ。門外不出とか、魔女にしか作れないとか、そういうのないの?」
「ないわよ」
シンシアは面倒そうに片手を振る。
「アンジェリーナの時代のほうが、人間との交流が盛んだったんだから、とっくに伝わっているわよ」
「そうなのか」
「あなたがそう言うなら、聖女がいる人間の国でもアンジェリーナの薬は作っていないのね?」
「少なくとも、うちの国では作っていないと思う」
作っていたなら、薬草に治癒をかける仕事は間違いなくティムの担当だっただろう。
「教会に薬草畑はなかったし、聖女と薬師は関わらないからなぁ。他国で作ってるかどうかまでは知らないけど」
「そう。……まあ、人間の国のことはどうでもいいわ」
シンシアは話を戻す。
「それで、あなたに作り方を教えたら、薬草に治癒をかけてくれるわけ?」
「ああ」
ティムはうなずいてから、ふと思いつく。
「あ! その薬って俺でも作れるのか?」
「そんなこと私がわかるわけないじゃない。材料が違うだけで、作り方も道具も普通の薬と同じよ」
「うーん、俺、薬作ったことないからなぁ」
(処方の仕方はトルコフ先生に習ったけど)
そう思いながら、ティムは首を捻る。
「私は作り方を教えるだけよ。あなたが作れなくても知らないわ」
シンシアは腕組みすると、つんとあごを上げる。
「了解。それでいいよ」
ティムは「交渉成立だな」と手を打つと、薬草畑の畝一つ分に治癒力を広げる。
そのままいっぱいになるまで治癒力を注いだ。
「この畝の薬草は治癒かけ終わったから」
「は? 今やったの?」
「うん、そう。あとは明日でいいか? 明日一日あれば全部終わると思う」
唖然とした顔のシンシアがおかしくて、ティムは笑った。
シンシアに教えてもらった結果、アンジェリーナの薬はティムにも作れた。
「作れたには作れたけど、シンシアが作った薬のほうが質がいいな」
薬の品質検査の魔道具を見ながら、ティムは唸る。シンシアは勝ち誇った顔をしていた。
(薬師はやっぱり技術職なんだな……)
初めて入ったシンシアの研究室は、どことなく砦の医務室のようで懐かしい。
本棚ももちろんあるが、器具が仕舞われたガラス戸棚や薬種棚があるのがシェリルの研究室とは違う。また、シェリルの研究室に窓はなかったが、こちらにはあった。
部屋の真ん中にある大きな机は、天板に大理石が使われている。机上には薬作りの道具が整然と並んでいた。
厨房のような流し台と水の魔道具があり、ここで洗浄などもできるようになっていた。
シンシアの研究室は薬作りに特化しているようだ。彼女の手際も薬師級だ。
「シンシアはずっと薬の研究をしてるのか?」
「まだ三十年くらいよ」
「三十年で『まだ』?」
「ヴェロニカは二百年くらい薬の研究をしてたもの」
「そんなに? シンシアはヴェロニカから引き継いだんだな。代々引き継ぐのか?」
結界の魔道具は、数百年ごとに思い出したように改良されていた。――不具合が出て必要にかられたときにだけ改良していたのかもしれない。
ティムの質問にシンシアは胸を張る。
「私は特別よ。ヴェロニカから引き継いでほしいって頼まれたんだもの!」
「へー」
シェリルがヴェロニカを慕っているなら、シンシアは尊敬しているといったところか。
魔女に血縁上の親子関係はないと聞いたが、心情的な親子関係はあるのではないか、とティムは考える。
(シェリルとシンシアが三か月違いで生まれたんだから、ヴェロニカは二人同時に子育てしたってことだよな)
赤子一人でも大変なのは、孤児院で知っている。主に世話していたのはシスターだが、年上の子どもはもれなく交代要員になっていた。
(皆で面倒みても大変なのに、ヴェロニカ一人でなんて……。ん? もしかして毛玉が手伝ったりしたのか? 毛玉はなんでもできるもんな)
――魔女の子育てがティムの予想と少し違っていたとわかるのは、もうしばらくあとのことだ。
ティムがそんなことを考えている間に、シンシアはできた薬を棚にしまう。
「その薬ってどうするんだ? 人間の国に売るのか?」
「いえ、実験に使ったりサンプルとして保存したりするだけよ」
ティムは自分で作った薬を見つめる。
シンシアの薬より品質は劣るが、アンジェリーナの薬は材料の時点で薬効が高いため、ティム作でも通常の薬より高品質だった。
「これ、骨折が治るくらいの効果があるよな?」
「そうね」
「国に送ったらダメか?」
(これを国に送れたら、施療院の仕事が楽にならないかな)
ティムが尋ねると、シンシアは少し考えてから、
「あなたが自分で作ったものなら、好きにすれば?」
「え、いいのか? ありがとう!」
礼を言ったティムに、シンシアは「私の手を煩わせないなら何でもいいわよ」と視線を逸らす。
「薬草は好きに使っていいか? あ、自分で使う分は自分で世話するからさ」
「勝手にして。――きちんと片付けてくれるなら、ここにある器具も使っていいわよ」
「おー、助かる。ありがとう!」
――そんな話をした翌日。
ティムが庭に出ると毛玉が何匹も飛んできた。そして、毛玉に案内された場所に行くと、新しい薬草畑ができており、薬草も植えられている。
「え? なんだ、これ? 俺用の畑? お前らが作ってくれたの?」
毛玉はぴょんぴょん跳ねる。
「お前ら、すげーな! 本当に何でもできるのな!」
ありがとう、と大感激しながら、ティムは屋敷ごと治癒をかけた。
そして、今さら基本的なことに気づいた。
(治癒をかけた薬草を送って薬師に作ってもらったほうが、俺が作った薬を送るよりいいんじゃないのか?)
「俺は聖女。薬師じゃねぇもんなぁ」
シンシアにも、シェリルとヴェロニカにも許可をもらって、ティムはハーゲン王国に薬草を送ることにした。
::::::::::
ハーゲン王国。王の執務室。
「王太子殿下に魔女国から連絡があったようです。転移魔道具で荷物も届いています」
近衛騎士から報告を受けた王は、にやりと笑う。
「ティム・ガリガを派遣して間違いなかったな」
魔女国から聖女派遣の打診があったとき、宰相たちが何やら画策しているのは知っていたが、ティム・ガリガで問題ないと思ったから王は彼らに任せたのだった。
祖国に連絡を取ったり物を送ったりできるなんて、予想通り、ティムは早々に魔女たちの信頼を得たらしい。
「せっかく神秘の魔女国を探れるのだ。使えない令嬢を送っても意味がない。その点、ティムは何も指示しなくともヴィンセントの助けになろうとする」
「ええ。聖女のときは、殿下に教会の内部情報を提供していたようですしね」
近衛騎士がうなずいた。
「あやつはティムを手元に置いておきたかったようだがな」
ティムの治癒力は、国境の街モナオのころから、王も把握している。ヴィンセントが北国境伯領に行きたがるから、何が目的か当然調べた。
ヴィンセントが己の側近にティムを引き込もうとしているのを知って、王は黙って見守ることにしたのだが……。
(寸前で教会に取られたときは、悠長に構えているからだ、とヴィンセントを笑ったものだ)
ティムの存在や計画を王が知っていたことに、ヴィンセントは嫌な顔をしていたが、それもまたおかしかった。
今回は面と向かって反対されたが、ヴィンセントの希望は却下し、王はティムの魔女国行きを決めた。
ヴィンセントだって本当はティムが適任だとわかっていただろう。
「さて、ティムは我が国に何をもたらしてくれるのか。ヴィンセントが聖女や王太子妃の件をどう収めるのか。楽しみだな」
そう言って、王は呵呵と笑った。
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