妖狐と風花の物語

ほろ苦

文字の大きさ
上 下
9 / 26

9 兄弟

しおりを挟む
タタタタタ
はぁはぁはぁはぁ

風花は全速力で走っていた
入学して4ヶ月経った大学の校舎の中を逃げ回っている

どこか隠れる所は?

辺りを見回すと少し扉が開いている普段使わない教室があった
急いでその部屋に入り扉を閉めるが鍵が壊れている
教室は物置ように使われているらしく大小様々な箱と道具が散乱しており、その中の箱で特別大きな箱に目が止まる
あの中なら隠れられるかも!
中を見ると古ぼけたウサギの着ぐるみが入っていたのでそれを出し、風花はその中に身を隠した
荒くなる呼吸を最小限に鎮め息を殺す

ガラガラ…

扉が開く音に風花は体を震わせた
トコトコと部屋の中に入る足音

「…いないか…」

聞き覚えのある男の声
風花は背中に冷や汗をかき、両手を口に当て呼吸をするのを忘れていた
この声の主は風花のひとつ上の先輩、竹内孝たけうちこうである
風花は4月から親元を離れ大学に通い、経済学を勉強していた
そこで知り合った優しい?先輩…のはずだったが…
子供と大人の間の大学生の男女問題は風花の脳みそにはついていけず
まさか、勉強を教えてあげると言われサークル部室に行ったのに大人の勉強を教わりそうになった訳で…
風花は逃げて来たのだ
しばらくして足音が遠のき扉を閉める音がする

(よ、良かった…)

風花はへなへなっと箱の中で力が抜けた
怖かった、本当に怖かった
なんなの!いったい?どういう事だ!どうなってるんだ大学生!!
頭の中でいいようのない怒りが込み上がってくる
風花は高校の時から周りの異性から言い寄られるようになっていた
それでも気の強い風花は男の子に負けることなく接して来たのだ
なのに、大学生はそんな簡単にいかないっという事か…
断っても身を引かない異性は初めてで恐怖を感じたのだ

(もう暫くしたら帰ろう…)

そう思っていると再び扉が開く音がする
ガラガラ
まさか…戻ってきた?
風花に緊張が走る
扉を閉める音と二人の足音
風花が入っている箱のすぐ近くまでやってくる

「なぁ、ここならいいだろ?」

風花が聞いた事がない男の声がした
竹中先輩じゃない?
目を丸くして、風花は箱から出ようかどうか悩んでい


「あぁ。ん…」

もう一人も男?ん??

「う…ん…」

クチュクチュと卑猥な音と艶めかしい声
風花は顔を引き攣られ頬を赤くして油汗がでた

な、な、な、な、なにしてるんですか???

出るに出れない状況になっている風花は両手で耳を塞ぎうずくまる

もう勘弁して下さい…

箱の外で行われているであろう行為が終わるのを待つしかないっと諦めていた
するといきなり、どか!!っと思いっきり箱が押され倒れる
風花は驚き箱からはみ出る

恐る恐る箱の外の世界?を見るとそこには衣服の乱れた男が二人
風花を見て固まっていた

「…おい、お前ここでなにしてんだ?」

同じ学生のようでちょっと長めの茶色い髪に片耳についているピアスが目を引くイケメン?が風花を睨み、低い声で威圧してくる
風花は困惑した表情を浮かべ

「す、すみません。追われてここに隠れていました…」

正直に答えてしまった…が、その男は全く信じてない様子

「追われて?は、鬼ごっこでもしてたのかよ?」

鼻で笑われた
すると、もうひとりの男が身なりを整えメガネをかけて風花を見る

「経済学科の矢野さんだよね?」

風花はその賢そうな顔に見覚えがあった
風花と同じ経済学科の安倍玲あべれいだ

「なんだ?玲、知り合いか?」

「あぁ、兄さん。同じ学科の子」

兄さん!?
風花はバッと茶髪の男を見る
男同士でも驚きなのに兄弟であんな事…
茶髪の男は目を細め風花を睨みつける

「でーその玲の同じ学科の子が俺たちの盗み見てたって事か?」

「ち、違います!私が先にいましたし、後から入ってきて勝手に…は、始めたのはそちらじゃないですか!?」

風花ももう色々いっぱいいっぱいだったので早くこの場を立ち去りたかった
キッと茶髪の男を睨み返し、立ち上がり部屋を出ようとしたが
ぱしっと手首を掴まれる

あーやっぱり…すんなり帰してくれないよね…と風花は少し涙目になった

風花の腕を掴んだのは茶髪の兄の方だった

「矢野さん、ちょっと待って」

玲が優しい声で話しかける

「…はぁ」

「この事、あまり言いふらされると…」

兄弟でいちゃいちゃしていた事でしょうか?
とは聞けず、黙り頷く風花
そんな風花をみて茶髪兄が苛立ったように

「あぁ?そんなのこいつも周りに言えないような事をすれば脅される事もないんじゃね?」

っと乱暴に風花の腕を引き教室の壁に叩きつける

いった…

「ちょっと兄さん!!」

怜が止める声を無視して茶髪兄は風花の腕を壁に押し付け、無理やりキスをしようと顔を近づけてきた

風花は何かがプツンっと切れた

ゴン!!

その近づいてきた顔に思いっきり頭突きをしたのである
茶髪兄は鼻から血を出し後ろにヨロめいた

風花は顔を真っ赤にして額を右手で押さえながら涙目で

「んなもん!誰にも言わないわよ!バーカ!!」

捨て台詞を吐き教室を走って出て行った

ばかばっか!!ホント男ってばかばっかだ!!
風花は頭に血が上り自分の情けなさにも怒りを感じながら家に帰る
あぁ、ココに会いたいな…

あの優しいココの笑顔を恋しく思った
しおりを挟む

処理中です...