妖狐と風花の物語

ほろ苦

文字の大きさ
上 下
16 / 26

16 風花と主様

しおりを挟む
妖狐の祠まで車で夜間でも1時間ぐらいかかる
風花は運転してくれている玲に妖狐の事を話した
子供頃からの大切な存在
玲は余計な事を言わず聞いてくれた

ココが見えなくなるとなんて、考えられない…

妖狐の祠がある山のふもとに車を止めて風花と玲は月明かりを頼りに祠を目指した
夜の山の中は静かで月明かりが差し込み神秘的な光景が広がる

静かすぎる…
虫の鳴き声一つ聞こえない?

祠に着くが妖狐が居る気配がない
風花は妖狐に久々に会えると思っていたので心がシュンと残念がる

「…いないな…」

「せっかく会いに来たのにー!もう!」

風花は腰に手を当てほっぺたを膨らませ怒る
次の瞬間
山風がぶわっと吹き抜けると、玲は体中鳥肌が立ち恐ろしい妖力に襲われ風花をバッと背中に庇い、油汗をじっとりとかきながら妖力を感じる方向を睨む
風花も何があったのかと玲が睨んでいる方向に目をやると森の奥から月光に照らされ、白く長い髪をキラキラ輝かせ、色白い肌が絹の様に美しく、紅い瞳はギラギラと風花を睨んでいる妖怪が姿を現した
風花は妖力うんぬんは全くわからないが、玲の様子からとんでもない妖怪なのだろうと思った

「…お前が妖狐を惑わす人間か…」

その声も透き通るような声だったが、どこか低く怒りを感じる
風花は妖狐とはココの事だろうとすぐに気が付き、先日妖狼がバイト先に来た時、靖に言われた事を少し思い出す

『妖狼が狐に関わるな。もうあるお方のモノだってお前に伝えろってさ』

その時、風花は何言ってるんだろう?とサラッと流していたが、あるお方って…もしかしてこの妖怪?
目の前にいる、美しい妖怪は右手をゆっくりあげると突然空気が渦を巻き玲と風花に襲い掛かった
玲はポケットに入れていた護符を瞬時に構え結界を張る

パリン!!
一瞬で結界と護符が粉々に砕け、美しい妖怪はあげていた右手をフワッと横に切ると、玲が突風に叩きつけられ軽く5mは横に飛んで背中を大木に強く打ち付けた

「ぐはっ…」

一瞬の出来事で風花は目を見開き倒れる玲を見つめる

「人間とはなんと脆く弱い生き物だ。その様な者に妖狐を渡す訳にはいきません…さぁ、消えてしまえばいい」

白い妖怪の紅い瞳は虫けらを見るような目をして風花を見ると顔を歪めもう一度、右手を振ると空気の壁が風花にぶつかり後ろに飛ばされる
突然見えない壁にドン!と押され飛んでいく風花の身体を森の中から飛び込んできた影がバフっと受け止める
風花はその顔を見上げてみると、妖犬が衝撃に耐える苦痛な顔で主様を見ていた

「ワンコ?!」

「主様、おやめ下さい!!」

妖犬は風花を見ずに主様をジッと見つめる
主様は目を細め再度右手を振り渦を巻いた空気を放つ
倒れていた玲が両手に式神をもち、地面に叩きつけ呪文を唱えるとイタチの様な式神が現れ一瞬で主様の放った空気の渦にぶつかり相殺する

「主様!!風花を殺めてしまえば、妖狐はあなたを一生恨みあなたのモノにはなりません!!」

妖犬は風花の肩を強く握り必死に訴えかけた
主様は妖犬の言葉にピクリっと反応をしめすが今までに一番強く右手を横に振った

ブワッ!!!
「グ…」

妖犬が風花を庇い主様の攻撃直撃を受けその場に倒れる
風花は妖犬を抱きかかえ主様をキッと睨む

「ちょっと!!同じ妖怪仲間じゃないの!?なんて事を…」

「犬は人間に懐いてしまったようですからね。少しお仕置きが必要でしょう?」

「何も悪いことしてないじゃない!!」

風花は主様の赤い目をジッと睨みギュッと妖犬を抱きしめる
妖犬は意識はあるが、主様の強い妖力に当てられ体中がギシギシと悲鳴をあげる
何とか出る声で

「ふ、風花…もう…ココを忘れろ」

風花は妖犬を見て悲しい顔をして首を左右に振った

「なんで…忘れられるわけないじゃん…ココは私の大切な人だもん」

自分の口から出た言葉に感極まって目頭が熱くなる
妖犬は風花の頭にそっと手を乗せ

「ココは…風花が消えるのが一番悲しむ」

その様子を黙って見ていた主様がゆっくりと近づいてきた
風花はその足音に警戒して主様を睨み妖犬を抱えたまま構える

「それならば、賭けをしようではないですか?」

赤い瞳から殺意が消えてスッと何かを見据えたような表情に変わる
風花は黙って主様を見ていた

「人間、お前の妖狐の記憶を消します。もし、妖狐が見える間にその記憶が戻れば妖狐とお前の事は何もしない。ただし、記憶が戻らないと解れば私は遠慮なく妖狐を伴侶にします。まぁお前の記憶がないままだから、そんなことも関係なくなりますがね」

妖艶に微笑む主様の話をジッと聞いていた風花は少し首を傾げる

「あの?妖狐を伴侶にって…ココが望んでいるのなら別に…」

風花は主様の地雷を踏んだのかもしれない
さっきまでの微笑みとは一変して物凄く落ち込んだ顔になった
あ…ごめん…
風花は心の中で誤っておいた
主様はギロっと風花を睨みつけ

「ここでお前を殺してもいいのですよ?」

妖力が解らない風花だったが殺気はビンビンに感じる事ができ、顔が引き攣る

「わ、わかった。その賭け受ける!私が妖怪を見れるのはあと2年って梟の妖怪さんが言ってたから、それまでにココを思い出せばいいのよね?」

風花は簡単な事のように思えた。今までの二人の思い出は沢山あるし、今の自分がココを忘れるなんて考えられないと思っていたからだ
主様はふんっといった表情で自分の左腕を噛みつく
その血がタラーっと流れた左腕を風花の前にだし

「さあ、契約です」

風花はその痛そうな腕をみてキョトンっといていた

「…血を飲んでください」

「え!!嫌です!!」

風花は顔をぶんぶん横に振って拒絶したが主様は少しイラッとしながら

「私の血を持って契約することで賭けは成り立つのです。一滴でもいいので口に入れないさい」

「そ、そんなぁ。人の腕から出ている血を舐める趣味はないです泣」

「じゃあコップに入れますか?」

「それもどうかと…指でとって舐めるのは?」

「ダメです。人間の手に触れることにより私の血が汚れます」

じゃーコップはいいのかよ!?
風花は内心突っ込みを入れて主様の腕からぽたぽた落ちていく赤い血を眺め、意を決して口を近づけ飲もうとした時

ガサガサガサ!!
茂みが激しくゆれ、妖狐が飛び出して来た
しおりを挟む

処理中です...