妖狐と風花の物語

ほろ苦

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26 またね (完)

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「おい!ココ!」

妖狐は眠りの中で聞き覚えのある声が聞こえる
まさか、ここにいるはずがない声に夢でも見ているのかと思った
薄ら目を見開いて太陽の位置からまだ午前中だと判る

「居るんでしょ?ココ!」

もう一回聞いた声で夢でない事に気付き、バッと起き上がり声が聞こえた方向を見ると風花が息をきらして祠の周りをキョロキョロ見ている
妖狐はいつも座っている岩の上で眠っていたので、風花から見える位置だが、やはり妖怪がわからないようだ
風花はいつも座っていた岩まで行って座るとカバンの中からコンビニのおにぎりを2つ出した
ひとつは自分の横に置き、もう一つは食べ始める

「あれから急いで出で来て、お腹空いてたの」

独り言のような、居るか居ないかわからない妖狐に話しかける風花に妖狐は呆れながらも微笑み背中合わせで座った
おにぎりを一つもぐもぐ食べ終わると風花は空を見上げ森の音に耳を澄ます
鳥や虫の鳴き声に風だ葉が揺れる木々がぶつかる音
風花はここが一番心が安らぐ大好きな場所だった

「ココ。私思い出したよ。ちょっと遅かったけどね」

クスッと笑い、悲しい瞳を浮かべる
風花は存在がわからない妖狐に伝えたい事があって来ていた

「私もココが好き。大好き。ずっと前からココに恋してたの……忘れる訳ないって言ってたのにごめんね」

妖狐は風花の言葉に目を細め顔を赤く染め涙を流す
すぐ後ろにいる風花に手を伸ばすがスっと通り抜ける
拳を強く握りしめ、触る事が出来ない事に顔を曇らせる

『風花……』

「キスされた時に記憶が戻ったんだよ。なんでこんな大切な人の事忘れているのかなってね。だからー賭けは私の勝ちじゃないかな?」

妖狐は昨日の主様を思い出しハッとした
風花の記憶が戻らないと思っていたので、諦めて主様の伴侶になる覚悟は出来ていた
まさかあの古妖怪の主様の妖術を破る人間がいるとは思ってもみなかった
妖術が破れた時、主様も気付いたのだろう
俺は主様の伴侶にならなくてもいいのか……
妖狐は少しホッとしていた
ならば……他に選択肢があるのではないか?
今までに読んだ書物を思い起こし何か可能性を考える

「私、ココの事忘れない。ずっとずっと忘れないからね」

風花は空を見て目を瞑ると妖狐は立ち上がり風花の上から顔を近づけ、口づけをした
風花には妖狐の存在はわからない
それでも、妖狐はゆっくりと唇を離し微笑みかけ

『俺も忘れない。風花、またね』

その言葉は風花の耳には届かない
でも、風花は瞳を開け空をみて太陽のように笑いかける
そして岩から降りて祠を去って行った

「またね……ココ」



おしまい

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[ その後、小話 ]

ばさっ

黒いフードをかぶり、夜の空を自由に飛び回り家路に帰る
部屋に入るとビー玉のような丸い瞳が本を読んでいる長い茶色い髪の妖狐をとらえる

「また来ていたのですね」

「妖梟さん、お邪魔しています。あ、ネズミそこに置いておきました」

妖梟の好物のネズミがお皿の上にピラミットのように置かれている
妖狐なりの手土産だ
妖梟はそのお皿ごと持ち、いそいそと冷蔵庫に直すと妖狐が読んでいる書物に目を向ける

「……変幻だけでは物足りなくなったのですね」

「俺、人間になりたいんです」

ふっと笑う妖狐だが目はいたって真面目だった
妖梟はやれやれといった感じで飲み物を準備しだした
妖怪が人間になるなんて……ばかばかしい
人間なんて薄命に愚かな者だ
自由もなく、強さもなく、醜く、そして儚い
それでも、妖狐は人間になりたいと望む
たった一人の人間の為に……

がたがた
扉が開き、今度は妖犬がぜーぜーしながらやって来た

「妖狐!!おれの獲物どこにやった!?」

妖狐はゲッといった顔をして斜め上を見ると妖梟はさっきのネズミは妖犬が捕ったモノだとすぐに察しがついた
が、返すつもりはない

「妖犬、丁度お茶が入りました。一緒にどうぞ」

「あ、ども」

基本的に一人で静かに過ごすのが好きな妖梟だが、どうも妖狐には甘くなってしまい最近たまには賑やかなのもいいかなっと思っていた
出来れば願いを叶えてあげたい
密かに思い、お茶をすする
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