あなたの隣で

ほろ苦

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サルレルド国に戻り、私はずっと城に軟禁状態となった。
常に監視兵がつけられ、自由に行動できない。
まあ、無理もない。
両親は結婚をはやまったせいもあると感じて、少しは同情してくれたが、
弟達はそうではなかった。
私の部屋に毎日代わる代わるやって来て、文句を言っている。

「お姉様は自覚が無さすぎる」

長男のレイドは私より2歳下で真面目な上、人望も厚く、私より何倍もしっかりしている。
国の将来を見据えて常に最善の選択をしてくれるだろう。
スッとした体格に一見クールなタイプに見られがちだが実は熱く、そして……しつこい。

「レイド……もう一週間も毎日あなたの説教を聴いているの……そろそろ……」
「いいえ、何度でも言います。お姉様がこの国にとってどれ程重要な人物か。我々一族で一番の魔力があり、子孫に伝承する力の影響を考えると即位放棄などあり得ません!」

頭が固い所もたまにキズだ……お付き合いする女性は大変だろう。
私は耳に両手を当ててネチネチと責めるレイドの声を遮った。
わかっている。
私の魔力は多分私の子供に引き継がれる。
私が逃げたら、その力が悪用されるリスクもあることも。
それでも、私はレックスの隣に立ちたかったのだ。
ハンターとして過ごした日々は私の一生涯の宝物。
扉をノックする音がして、次男のアレクが部屋に入ってきた。
アレクはレイドより一つ下で柔らかい雰囲気の爽やか青年
王族では国一番の支持率があるが……

「兄さん、そろそろ交代ですよ。今度は僕がお姉様とお話しする時間です。ねえ、お姉様」
「う……」
「僕たちだけにメンドクサイお国事を任せて逃げようなんて、最後まで僕達一緒ですよ?」

腹黒で心がやんでいる可能性がある。
ふふふと笑っているその表情にお姉さんは心配になる。
だれか、この子の心のよりどころになってくれないだろうか……
二人ともそれぞれ、とても優秀な弟達だ。

「そういえば、お姉様の婚約は白紙になったと聞きました」

アレクが侍女が入れた紅茶を飲みながら教えてくれた。

「なんでも、先方から正式にお断りがあったと。まあ、1年以上行方不明だったから当然ですがね」
「そうね。」
「アレク、お前が裏で手を回したのではないだろうな」

レイドが疑いの目をアレクに向けるとアレクは首を横に振った。

「やるなら最初からしてますよ。お兄さん、ほら公務に行かないと」
「くっ。わかった。お姉様、またきます!」

しばらくは来ないで欲しいと思いつつ微笑み手を振った。

「……婚約候補者に僕らではない他の誰かから圧力があったようです。お姉様、心当たり在りませんか?」
「?ないけど……」
「そうですか。まあ、今後誰かから申し出があった時にハッキリするでしょう」

アレクはまた優雅に紅茶を飲み出した

「あ、アレク。あなた呪いとかに詳しいよね?」
「ええ。僕の得意分野です」

呪いが得意って、お姉さん心配です。

「男の身体を女の身体にした特殊な呪いだけど、解き方わかる?」
「……かなり高度な呪いですね。興味があります」

私はナナンに少しでも恩返しがしたいと思い、アレクにナナンの呪いの解読をお願いした。
アレクは私に貸しが出来ると喜んで承諾してくれた。
私が城に帰って半月が経とうとしていたある日、風の噂でハンターレックスがジン国から称えられ称号を貰ったらしいと聞いた。
それと同時に令嬢との縁談が進んで近々婚約発表があるとかなんとか。
まあ、ドラゴンを討伐したハンターのリーダーだ。
当然の称賛と褒美だろう。
少し落ち込んでいる私を国王は呼び出して、縁談の申し出があった旨を伝えてきた。

「この縁談を受けるかどうかはリーリエ、お前にまかせる」
「お父様。大丈夫です。もう、私は逃げませんから」

国が選んだ相手と私は結婚する。
それが、王女としての務めである。
相手を誰とも確認せず、私は快承した。

それからしばらく経ったある日、夜会への招待状が届いた
我がサルレルド国と一番の貿易国家トマルク国王の誕生会である
本来だったら弟レイドとパートナーが参加して終わりなはずが、何故か私の指名があったのだ。
どうも、トマルク国王子の指名らしい
めんどくさいと思いながらも、レイドと相談して今回は私とレイドが参加することになった
滅多に夜会に参加しない私はこういう場が苦手である
必要最低限挨拶をしたのち、存在を消して会場の隅で楽しむ皇族貴族達をぼんやりと眺めていた
しばらくして、一際視線を集めている来賓が現れた
その姿を見た瞬間、私は固まった
黒と白の礼服をしっかり着こなし金色の髪はオールバックにして整った凛々しい顔がはっきりと見える
間違いない、レックスだ。
どうやらジン国の王族と共に招待されたようだ
周りにはきらびやかに着飾った美女か沢山集まり話しかけている
私は自分の存在がバレてはいけないとコソーっと視界に入らないように柱に隠れた
大丈夫、今の私はハンターじゃなく、一国の王女
それなりに化粧して、それなりに着飾っているのだ、いつも素っぴんボサボサ頭の冒険者服じゃないから、余程の事がないかぎりバレない!
心臓をバクバクさせながら隠れていたが、やっぱりどうしてもレックスを遠くからでも見たい
そんな挙動不審な行動をしている私に一人の男性が声をかけてきた

「どうかなさいましたか?」
「いえ!別に!」
「気分がすぐれないのであれば、二階で少し休みますか?」

二階!
それは好都合だ。
ここの会場は二階の部屋から見渡せる構造になっている

「では、少しだけ」

その男性の姿も礼服でどこかの貴族といった感じで純粋に親切だった
部屋に案内されて、近くのメイドに私の事を頼んで会場に帰って行った
私は部屋の窓ガラスから会場を見下ろすと思った通りレックスが遠目だけど見えた
代わる代わる美しい令嬢と躍りを踊り、少し疲れているようだ
ああ、あの中の誰かとレックスは婚約しているのかも……
私は胸がギュッと締め付けられた
夜も更けて、夜会の終わりが近づきレックスも帰る様子だ
その後を数名の令嬢が追いかけている
私も帰ろうとレイドを探しているとレックスと躍りを踊っていた令嬢が話をしていた

「レックス様素敵だったわ」
「ジン国で時期騎士団長を期待されているらしいわね」
「聞いたわ。現騎士団長の娘と縁談予定とか」
「ハンターを辞めて騎士になりたいと申し出てるらしいわよ」
「あんな野蛮なハンターのまま、終わりたくないわよね」

クスクスとハンターを侮辱する事を言っている令嬢たちに私に腹立たった
彼らハンターが依頼をこなすことでこの世界がどれ程助かっているのか知らないのだ
国や貴族が手をだせない見捨てた事まで、依頼を受けて彼達は命を懸けて挑戦してくれる
私はそんなハンター達を尊敬している
しかし、レックスはハンターから騎士になりたい……
真実は知らないが、正直ショックだった。
騎士になって、令嬢と婚約。
地位も名誉も手に入るチャンス
普通の殿方なら、迷わずそうするとわかっていても、やはり腹が立った。

月日は流れて私の婚約者さまとの面会の日がとうとうはやってきた。
いつもならうるさい弟達が最近妙に静かなのが気になるが、私は自分への被害が少ないので良しとした。
城の一室で婚約者さまが待っているので私付きの侍女と監視兼護衛兵ふたりと訪ねると、部屋の入り口に見覚えのある人物が立っていた。
大きな体格に濃いグレーの髪が特徴的なロッソがハンター服ではなく、騎士の装いをして扉前で待機していた。

「ロッソ?」

私に気が付くと小さく微笑み頭を下げた

「リーリア姫、ご無沙汰しております」
「どうしてここに?それに、その服装」
「申し遅れておりました。わたしクロエ・ロッソは貴族の次男でして、王子護衛についておりました。この度、配属が代わり要人の護衛としてこちらに」

つまり、私の婚約者さまの護衛ということか。
となると、私の婚約者さまはジン国の人なのね。
私は懐かしい顔に逢えて嬉しかった。

「そう……ナナンは元気?」
「……はい。とても」

無口なロッソがなぜか微妙な表情をしたが私は深く聞かない事にした。
ロッソが部屋の扉を開けると窓際に外を眺めている正装をした紳士の後ろ姿が見えた。

「お待たせして申し訳ございません」

私は頭を下げて挨拶をして頭をあげると目の前の紳士が振り返りその姿を見て固まった。
金色の髪はオールバックに整えられ、よく鍛えられた身体に白い騎士の正装がより彼の魅力を引き立てている。
透き通った青い瞳に私は捕らえられ目をそらせなかった。
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