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第1章 ~クリエイト入門編~

第14話 これまでの戦の終焉を告げる死者の群れ

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向けられた鋼鉄の筒の先が光った瞬間・・・・それが最初に死んだオーク達の目に映った最後の光景である。

たった1発の砲弾によって、連合軍が用意したオークの約40%1000近くが戦闘不能もしくは即死した。今までに見た事の無い巨大な爆発、それが浮かれていた伯爵達が抱いていた勝利の確信も吹き飛ばした。

「な、何なのだ。あの魔法は!?」

「あれほどの爆裂の魔法を使える魔法師が男爵の爵位を得たとでも言うのか!」

厳密に言うと圧縮した魔力の塊を撃ち出し着弾と同時に炸裂させているのだが、伯爵達には爆裂の魔法の系統と思われた様だった。早々に大将旗への道を開け、勝者の座を譲り渡そうと考えたグリード子爵とガルニット子爵がブルーレイク伯爵に近寄ろうとした時にこれまでの戦の歴史が変わる瞬間を迎えた。

パンッ! 遠くから何か音が聞こえ、顔に何か生暖かい液状の物が飛んできたのでグリード子爵がガルニット子爵の方を向くとガルニット子爵の頭部が無くなっていた。そして自分の顔に手をやりそれが頭部が吹き飛んだ際に飛んできた血と肉の混じった物だと気付くとグリード子爵は周囲に居た者が耳を塞ぎたくなる様な大声を張り上げた。

「う、うわああああああああああああああ!!」

突如襲ってきた見えない死神への恐怖心からブルーレイク伯爵の背後に逃げ込もうと走り出すグリード子爵。

「助けて・・・誰か助けてくれ!」

パンッ! また何か音がすると、背後から強い衝撃と共に胸に大きな風穴が開きグリード子爵も即死した。目の前で副官の2人が死ぬ光景を見る事となったブルーレイク伯爵は、見えない敵の姿に怯え護衛の兵士を集めた。

「お前達何をしている!この近くに敵が潜んでいるぞ、私の周囲を急いで囲みその身で守らんか!!」

「・・・伯爵様も、まさか敵本陣から直接狙撃してくるって発想は思い浮かばなかったみたいだな」

長門の甲板上から狙撃を行ったゼンが創り使用した銃は、バレットM82と言う湾岸戦争などで使われた対物狙撃銃である。12.7mm弾を使用し有効射程2,000mを誇るこの銃をゼンが知っていたのも以前趣味でやっていたサバゲーの影響だ。ゼンはこの湖で伯爵達を迎え撃とうと決断した時に伯爵達の本陣の場所を湖近くの岩山に設定した。岩肌を露出させている山の頂上付近は身体強化で遠視能力も強化されているゼンには丸裸も同然。長門の主砲で大将と副官の意識をそちらに向けその間に狙撃準備を整えて実行したのである。

スコープ越しに伯爵に狙いを定めようとしていたゼンは伯爵の隣に立っている人物に見覚えが有った、確か教会の4司祭の1人でヒキタ・テヤークって奴だ。

(本当にこの戦いの引き立て役になってくれたな、けどこれで教会が今回の戦を影で操っていた事が分かったな)

ゼンは狙いを司祭に変えるとおもむろに引き金を引いて司祭を始末した。次が己の番だと悟った伯爵は長門の艦橋付近を見ながら甲板に居るゼンの耳に届く筈の無い命乞いを始めた。3人の者が狙撃され命を落としているのに馬上から降りようともしない伯爵は自分から的になろうとしているとしか思えない。

「平民の人達はお前らがくだらない争いをする度に同じ様な死の恐怖を毎回味わわされてきたんだ、反省してあの世で詫びてこい」

4発目の発射音の後に頭部を失った伯爵の死体が馬から落ちて戦いの流れは決まった。しかし、ゼンはここで戦を終了させるつもりは無い。これまで安全な場所から平民達を死地に送り込んでいた者達を冥府に送る番だった。バレットM82をアイテムボックスに入れるとH&K MP5を取り出して長門の甲板から一気に湖のほとりまでジャンプする。呆けた状態でいる残るオーク達を全て蜂の巣にすると、そこから少し離れた後方で控えていた平民兵士達に近付く。

「ヒィッ!?」

今度は自分達が殺される番だと平民達は覚悟したが、ゼンは手を出す事はしなかった。

「自分はあなた達を殺すつもりは無い、けれどこのまま領地に戻ると敗戦の責を押し付けられて男性は殺され女性もオークの量産施設に送られるだろう。平民の人達はフォスター公爵の領内まで逃げて匿ってもらうんだ、公爵は教会と縁を切る事を内諾されている。教会に引き渡す事は絶対にしないから安心して欲しい」

ゼンはそう言い残すと平民達の集団を通り過ぎて更にその後ろに居た将校達を襲う、この戦で生き残る事を許された平民達は言われた通り公爵領に逃げ込み匿われる事となる。

義勇連合軍側の死者の総数2553人、オーク2500と逃げ出した夜禽族の獣人を除いた将校49人、ブルーレイク伯爵とグリード子爵・ガルニッチ子爵に随伴で来ていた4司祭の1人ヒキタ・テヤークが今回の戦死者であり平民兵士に死者は居なかった。これまでの歴史上、将校と副官・大将が死ぬ事がまず無かった戦争の時代は終わりを告げた。



 

戦勝に沸く領内の住人達とは対照的に公爵とゼンの表情は硬い、匿っている平民達から聞いた情報によって教会が管理運営しているオークの量産施設が倒した伯爵と子爵領に少なくとも10ヶ所は存在している事が分かったのだ。そこから大量生産されたオーク達が今回の戦での主力となっており、それだけ多くの女性が餌食となっていた事に気付くとゼンは心の底で静かに謝罪した。だがすぐに救出に向かう事が出来ない、何故なら既にこの世に居ないとはいえ他の者の領地で行われていた事でフォスター公爵の領内の様にゼンは自由に行動出来なかった。

(アリスに相応しい男になるだけじゃ駄目だ、教会の連中の資金源となっているオークの量産をまず何とかしないといけない。教会の犠牲者をこれ以上出さない為に自分に何が出来るのだろうか?)

以前破壊したオーク量産施設は警備している人数も少なく防御が手薄だった、けれども今は警戒して防衛している裏信者の数も増えている筈だからそれを突破して鉄の扉さえ破壊出来る攻撃力を持つ車両が必要になるのではないか?ゼンはそう考えると来るべき日の為に自衛隊の総合火力演習で見る事が出来たある車両を1人でも操縦出来る様にアレンジを加えて創造した。

16式機動戦闘車・・・74式戦車と同等の火力を持ち装輪車両の弱点である命中精度の低さを高度な射撃統制機能等によってサポートしている装輪装甲車である。52口径105mmライフル砲・12.7mm重機関銃M2を装備したこの車両は、こちらの世界の者にとっては動く小さな城と呼べるかもしれない。

戦いに勝った功績で場合によっては伯爵まで爵位が上がるかもしれないと思っていたゼンと公爵だったが中央の閣僚が示した反応は2人の予想を裏切った。

【本来死ぬべきでは無い者が大勢死んだ今回の戦はゼン・ミナモト男爵が協定違反を行った可能性が高い。故に速やかに軍事法廷に出頭し、卑劣な行いで戦を汚した罪を己の死で償え】

死ぬべきでは無い者が死んで、死ぬべきだった者が生きている。中央からの書簡にはゼンは無論だが平民達も死ぬのが当然で将校よりも上の者を傷付ける事は許されず殺すなど言語道断と言っているとしか思えなかった。

「アリス、義父上。自分、ちょっと軍事法廷とやらに行ってきます」

「駄目よゼン、行けば殺されるわ!!」

「逆だよアリス、自分を呼び付けた事で教会の息が掛かった連中は死期を早めたんだ」

「ゼン・・・中央で何をするつもり?」

「堂々と中央の中に入れるんだ、支離滅裂な事を言っている連中をその場で始末して教会の本部が在ったらそこの最高指導者を誘拐しようと思う。人質にすれば教会も手出し出来ない筈だから」

流石に教会の最高指導者である教皇を誘拐する事はしないだろうとアリスと公爵は考えたが、出立してわずか2週間後にゼンは教皇を連れて公爵領に無事帰還を果たす。そしてゼン達は教皇の口から教会の闇の深さを改めて思い知らされる事となった。
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