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第1章 ~クリエイト入門編~

第20話 案外、お似合いの2人

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「部下思いの良い人物だと思えるけど、あなたの場合は自分では無くて領主達や国民に判断を委ねるべきだろう。あなたがこれまでにしてきた行いがどう映っていたかで最終的な審判は下されるだろう。あと申し訳無いけど部下達も一応全員調べさせてもらうよ、上司が部下思いでも部下が教会と繋がっている場合も考えられる。自分の知らない所で民を苦しめている部下が混ざっていたら、あなただったらどうするか聞いておこうか?」

「もちろん、その時は部下を裁いて構わない。国を支えるのは民だ、王でも大臣でも無い。国の礎に危害を加える者には相応の報いが有るべきだと私は思う」

キースの即答にゼンは国王の息子の中にも希望が残っていて本当に良かったと思った。そして今まで1度もしていなかった度無しのメガネでキースの部下達を一通り見終わると吐き捨てる様に数人に声を掛けた。

「っだそうだ、じゃあ早速だけどそこのお前とお前とお前。この自分がしているメガネは教会の裏の顔を知った上で協力して何か得ている者を識別出来る様に創った物だ。今更、命乞いされても面倒だから死にたくないならわずかな可能性に賭けて挑んで来い」

ゼンがそう言うなり、言われた3人の内2人は剣を抜くとゼンに斬りかかった。軽く避けながら2人の後頭部を殴ると鈍い音を立てて首の骨が折れ2人は死んだ。残る1人はキースの背後に回りこむと喉元に剣を突き立てて人質にした。

「な、何をするつもりだ!?」

「見れば分かるでしょう、人質ですよ人質。まったく投降する前に小休止を入れるかと思っていたのに休まず進むから隙を見て本陣から離れる事も出来なかった。教会から贈られて兄王子達が使い飽きた女達を回して貰い、女に困る事も無く楽しく暮らせていたのに今日は本当に厄日だよ」

「厄日なのはお前みたいな部下の為に命を捨てようとしていた、こちらの王子様の方だ。まあ、あと数秒で死ぬお前には関係の無い話だけどな」

「なっ!?」

ゼンのセリフに驚く部下の額を赤い光が撃ち抜いた、その赤い光はジャックの機体から放たれた物だった。元ネタの続編ではこの赤いレーザーは地面や敵機に着弾すると爆発を起こすのだがチェーンガン同様に危ないので貫通する様にしておいたのだった。

「ははは・・・信頼していた筈の部下にこんな奴が居たなんて、私も所詮は何も知らない世間知らずに過ぎなかったんだな」

キースの言葉はゼンの心に何か引っかかった、誰かと妙に似ている気がするんだが・・・

「そうか、分かった!彼女に似ているんだ雰囲気が」

「彼女?」

キースはゼンの言っている事が理解出来なかった。

「キース、あなたには審判の日までフォスター公爵の屋敷で幽閉させて貰おうと思う。死んだ部下以外は皆、教会と繋がりが無いのも分かっているし兄王子達との戦いが終わるまではどこかで身を隠して貰うとするよ。加勢されると家族も反逆者の扱いされるかもしれないからね」

ゼンはキースの部下達の身の安全を領主にお願いすると、ジャックの中にキースと共に乗り込み公爵領へ向かう。音速で飛ぶ機内からの空の景色を見て、キースは気を失いそうになったのだった。




公爵の屋敷に到着すると、屋敷からアリスが飛び出してきてゼンに抱きついた。

「ゼン!無事で良かった」

「自分も会いたかったよアリス」

周囲の目も気にせずに口付けを交わす2人を見て、キースは知っている事の一部だけゼンとアリスに話すべきか迷う事となった。

「そうですか・・・上の2人の王子達も出陣されておりますか」

キースから今回派兵された陣容を聞かされてフォスター公爵は言葉に迷った。キース王子と同じ様に投降しておけば、まだ命が助かる可能性も0では無かったが戦いを始めてしまうと助かる見込みは無い。

「ゼン君、兄王子達だが今度の戦いで命を奪うつもりなのかい?」

「自分は命を奪うつもりは有りません、王族のケジメとしてキースも含めて3人には審判を受けて貰おうと思っています」

「審判だと?」

「はい、3人には処刑台に向かう道を1人ずつ歩いて頂き国民達の助命嘆願の声が一定数を超えたら助けようと思っております。ただし嘆願の声が出なければその時はこれまでにしてきた行いを悔いながら死を迎えるでしょうね」

「分かりました、部下達を助命して頂いたのでこれ以上望む物は有りません。私の命でこの国の血塗られた歴史に幕を下ろしましょう」

やっぱり似ているなとゼンは思った。

「アリス、済まないけどアーニャをここに連れてきてくれないか?」

「え、アーニャをですか?」

アリスはアーニャがゼンと会う事で恋心に気付いてしまわないか心配だったが、言われた通り部屋まで連れてきた。

「失礼します、お呼びでしょうか?ゼン様」

「うん、急に呼び出してごめんねアーニャ。こちらの方はキースといって国王の3人息子の末っ子だそうだよ」

「初めましてキース様、私の名はアーニャと申します。アーニャという名前は先日ゼン様が名付けて下さいました」

「名付けてもらった?では、今までは何と呼ばれていたのですか?」

「はい、ゼン様と出会うまでは皆が私の事を教皇とのみ呼んでおりました」

キースは鈍器で頭を殴られた様な衝撃を覚えた、異端者と言われ破門された教皇がまさかこんな少女だと思ってもいなかったからだ。

「あなたが誘拐されそして破門された教皇だったのですね、最初は破門される様な者の言葉を信じる気も起きなかったのですが実際本人と会うと教会の言葉が嘘で塗り固められていたと気付かされます」

「どうしてキース様は初対面の私の言葉を信じる気になられたのですか?」

キースは感じたままを素直に言葉で表現する。

「何故って?それはあなたの様に強い意志を感じる澄んだ瞳を持つ美しい少女が嘘を言う筈無いじゃないですか」

「まあっ!?」

アーニャは赤面すると何故かこの場から逃げ出したい心境に駆られた、真っ赤になっている顔をキースに見られるのが急に恥ずかしく思えたからだった。

「そうだ、アーニャには審判の日までキースの身の回りの世話を頼みたい。キースもアーニャと最初に会った時みたいに自分の命で償おうと考えていた。案外、2人は気が合いそうに思うよ」

ゼンが言うとキースとアーニャはお互いが顔を真っ赤にしながら反論する。

「ゼン殿!わ、私はアーニャさんよりも大分年上ですし不釣合いですよ」

「私の方こそ、血筋も分からない先日まで名前も持たなかった娘では王子に相応しくありません!」

「いや、血筋や名前などは大した問題では無い。私の様な世間知らずの方こそあなたの様な魅力的な女性の魅力を奪ってしまうだろう」

「キース様の方こそ、私からすれば凄く素敵な男性に思えます」

2人の問答をニヤニヤしながら見ていたゼンは流石にこれ以上続けられると口から砂を吐きそうだったので間に入る事にした。

「2人共、自分は気が合いそうだとは言ったけどお似合いの恋人だと言った覚えは無いんだけどな」

ゼンの言葉で2人は下を向いて何も言えなくなってしまった。近くで様子を見ていたアリスは

(ゼンも底意地の悪い・・・)

そう思いながら、アーニャに抱いていた不安が解消されている事に気付くと安堵の表情を浮かべる。そして翌日からアーニャがキースの身の回りの世話を始めた、空いている時間でお互いの知っている事を話したり悩みを打ち明けたりして徐々に2人の仲も深まっていくのだった。





明日県外のスーパーの駐車場警備の仕事となり帰宅が遅くなる分更新出来そうも無いので、急遽1日2話更新をさせて頂きました。誤字の確認していないので、もし間違っていたら指摘して頂けると助かります。
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