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医師を騙る不届き者
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執事は公爵からイドニス男爵の屋敷と共に借金の証文も紙屑となり、効力を失ったことを知らされた。その原因が目の前にいる少女であることを知った執事は、地面に頭をこすりつけるようにしながらミィに感謝を伝える。
公爵は娘を助けた恩人として、この日の夕食にミィを同席させた。慣れない手つきでミィがナイフとフォークを使っていると、執事の妻の診療に向かった医師が渋い顔をしながら報告に来たのである。
「アキレス様。 執事の奥方様を治療した際に、処方されていた薬も少し拝見させて頂いたのですが、なんの効き目もない紛い物でした」
「なんだと!? 執事はその偽医師に、騙されていたことになるのか!?」
「おそらく……。 この男は同様の手口で、他にも数名から金を騙し取っているようです。 どうされますか?」
医師の報告を聞いたアキレスの表情が、笑顔から徐々に殺気立った顔に変わった。その変わり様は、さながら大○神のようである。
「お父様。 我が家の大事な執事を騙すような輩、許すわけにはまいりません。 私が少し懲らしめてこようと思います」
そう言いながら拳の指を鳴らし始めるコバルト、既に武人の顔だ。
「待つのだコバルト、勝手な振る舞いは私がゆるさぬ」
けれども何故か公爵は、娘の行動を許可しなかった。
「身体の弱いお前に、いったい何が出来る? ボアの体当たりを片手で止められる位になってから、そういうことを口にしなさい。 まだ両手でしかボアを止められないのだろう?」
「それはそうですが……」
この父娘はどこかおかしい、ミィは心の底から思った。しかしそれを口にするほどの勇気と度胸を、さすがに持っていない。けれども病人を騙す人を、黙って見過ごす彼女でもなかった。
「あの……公爵様。 その人を懲らしめる役目、私にさせて頂けませんか?」
「当家の問題にあなたは関係ない、何故首を突っ込もうとするのだ?」
申し出に対して拒絶すると同時に、ミィへの不信感も露わにする公爵。実はミィもイドニス男爵の仲間で、偽医師が関わっていたという証拠を消そうとしているのではないか?そう考えているのかもしれない。
しかしミィは公爵からの問いに、すぐに答えを言ってのけた。
「だってお医者様は病人を助けるのが仕事なのに、それをしないで皆からお金だけを取っていくのでしょ? だったらお金を回収して、騙された人に返してあげないと」
ミィは仲間だと疑われていることに、まったく気づいていなかったのである。ただ騙し取られたお金を取り戻してあげたい、それだけを考えていた。公爵と己の身分の差も気にせず言えるのも、その純粋さゆえに為せる技……。
「では、そなたに任せるとしよう。 ただし、その医師を騙る者に逃亡されては困るので、配下の騎士も同行させるがそれで良いか?」
「あっ、ぜひお願いします! 私1人だと、お金持ちきれないかもしれないので」
騎士の同行を快諾するミィ、騙し取られた金額が多ければ1度に持ち帰れないかもしれないのでこの申し出は本当に助かる。一方の公爵は同行を断れば証拠隠滅を図るところを目撃されたくないのだと、そう決めつけていたので逆に彼女が同行を喜んでいることにも驚かされた。
「では善は急げと言いますし、さっそく向かいましょう。 こういう悪い人って高いお酒を買い集めて、戸棚に飾っているはずです。 そのお酒、公爵さんで買い取ってくれませんか? 被害に遭った方に返すお金を少しでも増やしたいので」
「公爵さんって……、まあ良かろう。 それもすべて医師を捕らえてからの話だ」
「はぁ~い」
侍女に案内されて屋敷を出ていくミィを見ながら、アキレスはこれまでの己の常識が音を立てて崩れていくのを感じる。今まで様と呼ばれるのに慣れていたから、余計にさん付けされたことに戸惑いをおぼえるのだ。
「お父様も私も、爵位に囚われすぎていたのかもしれませんわね。 恩人に対しても身分の差を無意識に抱いて行動してしまう、彼女の素直な気持ちを疑ってしまうのも貴族社会では当たり前だけど、本来それは歪んだ慣習。 それと……、彼女がこれを廊下に落としていきました」
コバルトは父の前に一枚のメダルを置いた、それはダスティン侯爵家が身内にしか配らないもの。
「あの娘は……一体何者なのだ!?」
「それはアレクシスあたりを呼び出して聞くとしましょう、叔父様を呼びつけるわけにもいきませんから……」
それからわずか数時間後、公爵の屋敷の庭には暴徒鎮圧弾でボコボコにされた執事を騙した偽医師と、その仲間達が横たわっていた。炸裂弾で偽医師の家の扉を粉々に吹き飛ばし、家の中にいた者を片っ端から無力化していくミィの姿に、同行していた騎士達もドン引きしている。
派手な活躍をしたミィが満足そうに頷いていると、いつのまにかクロが彼女の足下にいた。
「おかえりミィ、どうやら大活躍してきたみたいだね」
「ただいま~。 って、そういえばクロのこと、すっかり忘れてた!」
幸いなことにネコにスリッパで頭を叩かれる少女の姿を目撃した者は居なかった、それまで何でも赦すことが当たり前となっていた1人の女神をのぞいて……。
公爵は娘を助けた恩人として、この日の夕食にミィを同席させた。慣れない手つきでミィがナイフとフォークを使っていると、執事の妻の診療に向かった医師が渋い顔をしながら報告に来たのである。
「アキレス様。 執事の奥方様を治療した際に、処方されていた薬も少し拝見させて頂いたのですが、なんの効き目もない紛い物でした」
「なんだと!? 執事はその偽医師に、騙されていたことになるのか!?」
「おそらく……。 この男は同様の手口で、他にも数名から金を騙し取っているようです。 どうされますか?」
医師の報告を聞いたアキレスの表情が、笑顔から徐々に殺気立った顔に変わった。その変わり様は、さながら大○神のようである。
「お父様。 我が家の大事な執事を騙すような輩、許すわけにはまいりません。 私が少し懲らしめてこようと思います」
そう言いながら拳の指を鳴らし始めるコバルト、既に武人の顔だ。
「待つのだコバルト、勝手な振る舞いは私がゆるさぬ」
けれども何故か公爵は、娘の行動を許可しなかった。
「身体の弱いお前に、いったい何が出来る? ボアの体当たりを片手で止められる位になってから、そういうことを口にしなさい。 まだ両手でしかボアを止められないのだろう?」
「それはそうですが……」
この父娘はどこかおかしい、ミィは心の底から思った。しかしそれを口にするほどの勇気と度胸を、さすがに持っていない。けれども病人を騙す人を、黙って見過ごす彼女でもなかった。
「あの……公爵様。 その人を懲らしめる役目、私にさせて頂けませんか?」
「当家の問題にあなたは関係ない、何故首を突っ込もうとするのだ?」
申し出に対して拒絶すると同時に、ミィへの不信感も露わにする公爵。実はミィもイドニス男爵の仲間で、偽医師が関わっていたという証拠を消そうとしているのではないか?そう考えているのかもしれない。
しかしミィは公爵からの問いに、すぐに答えを言ってのけた。
「だってお医者様は病人を助けるのが仕事なのに、それをしないで皆からお金だけを取っていくのでしょ? だったらお金を回収して、騙された人に返してあげないと」
ミィは仲間だと疑われていることに、まったく気づいていなかったのである。ただ騙し取られたお金を取り戻してあげたい、それだけを考えていた。公爵と己の身分の差も気にせず言えるのも、その純粋さゆえに為せる技……。
「では、そなたに任せるとしよう。 ただし、その医師を騙る者に逃亡されては困るので、配下の騎士も同行させるがそれで良いか?」
「あっ、ぜひお願いします! 私1人だと、お金持ちきれないかもしれないので」
騎士の同行を快諾するミィ、騙し取られた金額が多ければ1度に持ち帰れないかもしれないのでこの申し出は本当に助かる。一方の公爵は同行を断れば証拠隠滅を図るところを目撃されたくないのだと、そう決めつけていたので逆に彼女が同行を喜んでいることにも驚かされた。
「では善は急げと言いますし、さっそく向かいましょう。 こういう悪い人って高いお酒を買い集めて、戸棚に飾っているはずです。 そのお酒、公爵さんで買い取ってくれませんか? 被害に遭った方に返すお金を少しでも増やしたいので」
「公爵さんって……、まあ良かろう。 それもすべて医師を捕らえてからの話だ」
「はぁ~い」
侍女に案内されて屋敷を出ていくミィを見ながら、アキレスはこれまでの己の常識が音を立てて崩れていくのを感じる。今まで様と呼ばれるのに慣れていたから、余計にさん付けされたことに戸惑いをおぼえるのだ。
「お父様も私も、爵位に囚われすぎていたのかもしれませんわね。 恩人に対しても身分の差を無意識に抱いて行動してしまう、彼女の素直な気持ちを疑ってしまうのも貴族社会では当たり前だけど、本来それは歪んだ慣習。 それと……、彼女がこれを廊下に落としていきました」
コバルトは父の前に一枚のメダルを置いた、それはダスティン侯爵家が身内にしか配らないもの。
「あの娘は……一体何者なのだ!?」
「それはアレクシスあたりを呼び出して聞くとしましょう、叔父様を呼びつけるわけにもいきませんから……」
それからわずか数時間後、公爵の屋敷の庭には暴徒鎮圧弾でボコボコにされた執事を騙した偽医師と、その仲間達が横たわっていた。炸裂弾で偽医師の家の扉を粉々に吹き飛ばし、家の中にいた者を片っ端から無力化していくミィの姿に、同行していた騎士達もドン引きしている。
派手な活躍をしたミィが満足そうに頷いていると、いつのまにかクロが彼女の足下にいた。
「おかえりミィ、どうやら大活躍してきたみたいだね」
「ただいま~。 って、そういえばクロのこと、すっかり忘れてた!」
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