異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお

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第16話 獣人の里

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「はあはあ、今まで車で通勤してたからやはり運動不足を感じるな~!」

扇状地の葡萄畑を後にして俺達は今、山の峠道を歩いている。元居た世界と違い舗装されている訳でもなく砂利道が馬車が1台通れる位の幅で続いていた。

「徐々に徒歩での移動に慣れる事ね、それにしても馬車に何時も乗れていたってあなたは元の世界ではお金持ちだったの?」

トリーからの質問はこちらの世界での常識からくる物だった。

「違う違う、車というのはねガソリンって言っても分からないよな。堆積した動植物などの死骸が地中に堆積し、長い年月をかけて地圧・地熱などにより変成されて出来た燃料として用いられる物を用いて走る乗り物の事を言うんだ。移動手段として使う車の他にも多くの荷物を運ぶ為の車や人を大勢乗せて運ぶ為の車もある。馬車なんかよりも遥かに早い乗り物なんだ」

「へ~興味深いわね、他にはどんな乗り物が有るのかしら?」

「他には飛行機とかも有るけど・・・」

「ヒコウキ?」

「ああ、ガソリンよりも良い燃料を使って空を飛ぶ乗り物だよ」

「空を飛べるの!?あなたの世界は優れた気の遣い手が大勢居るみたいね」

「それも違うな、向こうの世界の人間に遣い手は居ない。自らの知恵で空を飛ぶ方法を見つけ技術を磨いてきた結果なんだ」

飛行機は特に人をより多く殺す為に技術を磨いてきたなんて言える訳が無い、車にしても軍事利用が可能と分かった物から飛躍的に進歩していく罪深い科学の遺産だよ。

「昼過ぎまで寝ていた所為で、どうやらこの峠道の途中で野宿する事になりそうだ。みんな、すまなかった」

俺は素直に謝る、二日酔いが原因とはいえ皆も葡萄畑を作るのを手伝った所為で疲れも溜まっていた筈だ。

『護さん、朝もお話しましたがあのご主人の為に頑張っていたのは皆承知しております。気にしなくて大丈夫です』

「そうか、有難う天てら・・・す」

彼女の顔を見て、今朝彼女のした事を思い出して顔が急に赤くなってしまった。それを見た天照も俺に気付かれていたと知って赤面してしまう。2人の周りから見ると砂を吐きそうになる空気をすぐに感じ取ったレミアとトリーは

『ねえねえ、奥様。あちらの若いご夫婦は本当に初々しい限りですわね!』

「本当にね~!お子さんが出来るのも近いかも知れませんわね!」

なんて事を言い出した。

「誰が夫婦だ誰が!?」

『決まってるでしょ、あなたと天照よ。傍から見てもラブラブにしか見えないわよ』

「『なっ!?』」

俺と天照はレミアのストレートな物言いに絶句した。

「ロレッツに着く前にどこかの街の教会で式を挙げないといけないかもしれないですね」

トリーまでそんな茶化しを入れてくるので、俺と天照はいよいよ追い詰められた。

『良いんじゃないのか、天照。我輩は別に護とお前が夫婦になっても気にしないぞ』

「おい、オッサン!お前は日本書紀等の伝承では天照と姉弟の関係だったりするのに気にしないのか!?」

『そうです、スサノヲ!いい加減な事を言うのは止めなさい!!』

お、流石に天照も怒ったようだ。

『いい加減な事を言っているつもりは無いぞ、八百万の神の中心に居るかもしれないがここは異世界で高天原では無い。1人の神である前に1人の女としてそれなりの幸せを得ても文句は言われまい』

いつになく真面目に答えるオッサン、その所為で外堀を半分近く埋められた状態にされてしまった。

「え~!?スサノヲさんと天照さんは姉弟の関係だったんですか!?」

トリーが驚いている。

『姉弟とも兄弟とも呼べるな』

オッサンが天照の性別について語りだした。

『天照はな、男性神説と女性神説の両方を持つ神だ。性別は曖昧でどちらの性別にも自由に変えられる、最初に護の前に男性の姿で現れた時は単に照れくさかっただけだろう。現に今は女性の姿のままで過ごしているだろ?護の事を必要以上に意識している所為だと我輩は考えるがな?』

『そんなっ!?』

天照もオッサンに真顔で言われ答えに窮してしまった。

「とりあえず、天照さんとスサノヲさんが姉弟の関係だと分かったし今日はこの位にしておきますか。あと少しだけ進んで少し広い所を見つけたら今日は寝る事にしましょう」

トリーがそう提案してきた、この話題を終えられるチャンスだと思い提案に賛成しようとした時

「このまま先に進むのは勧められねえな、夜になると山賊達の貯まり場となる。夜が明けるまで、俺達の里で過ごすのはどうだ?」

声の方向を向くと、そこには全身を毛で覆われた顔が狼の人が立っていた。

「あなたは!?」

思わず聞いてしまった。

「ああ、俺か?俺の名はガリア、狼と人の亜種で獣人だ。このちょっと先に俺達獣人の里が在るからそこで寝ると良い。お礼に少しだけ水と食料を分けてくれると助かる」

どうやら、この辺りで野宿を考えている旅人に声を掛けて水や食料を分けてもらう事で生活している様だ。それなら折角だし話に応じてみるのも悪くないな。都合良く、俺と天照を茶化すのも止まったし。

「それじゃあ、お願いしようか。その分、お金も出すからベッドとか有る宿を紹介して貰えると更に有り難い」

「話が分かる人で良かったよ!信用して貰えずそのまま先に進んで山賊達のカモにされる奴も居るからな」

「まあ、別にこのまま先に進んでも良かったんだけどね。山賊達がもし出てきても隣に居るオッサンが1人で倒しちゃうだろうし」

『それよりも護よ、その山賊を放置していても良いのか?』

「どうしたんだ、オッサン?」

『いやな、我輩達が獣人の里で過ごして山賊達に襲われずに済んだとしても他の者がいずれ襲われる事になるだろう。悪い芽は事前に摘んでおいた方が良いと思うのだが?』

「はあ・・・要するにオッサンが戦いたいだけだろ?」

『そうとも言う!!』

「じゃあ、今から5分以内に倒しておいで。5分以内に倒せたら今晩は酒の神から幾らでも酒を出して貰って飲んでいいから。ただし、5分過ぎたらお猪口1杯だけな」

『よ、よし分かった。時間を見ていてくれ、では行ってくるぞ!!』

そう言い残し、オッサンが猛ダッシュして行く。土煙まで上げて本当に酒が欲しいらしい。

「お、おい!あの男1人で大丈夫なのか!?助けに行かないと!!」

「ああ、大丈夫大丈夫。脳みそカラだけど強いから」

そんな返事をしていると、先の方から何やら爆発音らしき物が聞こえ火柱が上がっている。最初の野盗の時と同じ様に力を抑えられなかったみたいだ。そして、ドドドドドド・・・・・!!と煩い音と共にオッサンが帰ってきた。

「どうだ護!5分経っていないだろう!?我輩の力を以ってすればこの通りだ!」

ここからでも見える火柱だ、山賊の連中も運が悪かったな。ガリアはというと、口を開いたまま動けずにいた。

「あなた達、一体何者ですか!?」

「え、ただの旅の者だけど?」

「ただの旅の者がものの数分で山賊達を壊滅させたりしません!!」

ガリアからツッコミを言われてしまったが、とりあえずスルーしてガリアの住んでいる獣人の里に向かう事にした。食料を渡すのもそうだが、状況次第で何か手助け出来る事もあるだろう。獣人の里に向かう途中で天照は誰にも聞こえない小さな声で呟いていた。

『私が幸せを選んでも良いのね?スサノヲ』
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