こちら私立高天原学園八百万防衛隊~ちょっと変わった神々と付喪神の子孫たち~

いけお

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初めての変身

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 私立高天原学園、それは山梨県K市にある小高い丘の上に建つ学校である。学園長の国守 須佐之男くにもり すさのおが、両親を失った子供達を世界中から集め無償で英才教育を施していた。卒業生からは、著名人を多数輩出している。

 その高天原学園へと続く坂道を、一人の男子生徒が荷物を背負い歩いていた。名前は国守 陸くにもり りく、事故で唯一の肉親だった父を失い友人の須佐之男の養子となったのである。父の国津 神くにつ じんと須佐之男は、陸上自衛隊で上司と部下という間柄ではあったがプライベートでも親しく交流していたそうだ。

「しかし……なんて暑さだ、これでまだ六月って。夏場やばいんじゃないか?」

 向暑の日射しがアスファルトに反射し、六月とは思えない気温になっている。流石最高気温を何度も記録したことがある地域、想像以上の暑さだ。なおも歩き続ける陸の首には、戦車の形をあしらったペンダントがぶらさがっている。現場に遺された父の形見、陸は墓に入れる気にはなれなかった。

 住んでいた家を引き払い最低限の荷物だけを持って山梨まで来たが、周囲は見渡す限りのぶどう畑。シャンシャンと水を撒くスプリンクラーの音が、蒸し暑さを余計に感じさせてくれる。額の汗を拭いながらようやく校門に辿り着くと、短い栗色の髪と蒼い瞳を持つ少女が陸を出迎えてくれた。

「はじめまして、陸。ワタシはクゥ・クニモリ、アナタの義妹の一人」

「こちらこそはじめまして……って義妹!? それにまだ君の他にも居るの!?」

「ワタシ達の間にもう一人、ウミがいる。彼女はいま父様と一緒に、学園長室でアナタが来るのを待ってる」

 突然義妹が二人出来たので、陸は少し緊張する。年も近いので、仲良く出来るのか不安でしょうがない。するとクゥがいきなり陸の手を掴んで、学園の案内を始めた。

「ココでは朝7時の起床から夜21時の消灯まで、学園内で自由に行動出来る。自主自立の精神の元、学園を巣立つまでに一人前のオトナとなれるようガンバっている」

 どうやらこの学園では勉強やスポーツを自由に選べるらしい、バドミントンの強化選手に選ばれた人もたしか居たような……。そんなことを考えているといつの間にか学園長室の前に到着していた。

「父様、陸を連れてきました」

 クゥが扉を開けると、金髪ツインテール美少女がタックルを仕掛ける!陸が頭を打つと同時に、二つの柔らかいメロンが顔に覆い被さり呼吸が出来ない……。

「は~い、リク! 今日からあなたの妹になる、ウミ・クニモリね。仲良くシテネ」

「……ウミ、陸が窒息しそう」

「おぉ~のぉ~! リク、ゴメンナサ~イ!」

 両手で頭を強く押さえつけるウミ、陸はメロンに顔を挟まれながら気を失った……。



「すまんな、ウミの奴が迷惑をかけて。だがお前さんが来るのを、凄く楽しみにしていたんだ。許してやってくれ」

「いえ……。行くあての無い俺を入学させてくれただけでなく、養子にまでしてくれて本当に感謝してます」

「うむ、あいつとは長い間共に戦ってきた戦友だ。理不尽な指揮官の所為で、二人共苦労させられたからな。それに……お前さんにも手伝いを頼まねばならないからな」

「手伝い?」

 すると突然学園長室全体が暗くなり、学園長の顔が映ったパネルが裏返ると黒髪長髪の美女が姿を見せる。

「理不尽な指揮官とは私のことですか、素戔嗚《すさのを》陸将? ところで、そこに居る子が国津神くにつがみ一佐の息子さんですか?」

 一佐? 親父はたしか二慰のはずだが……。そんなことを考えていると、ペンダントが突然光り始める!学園長室にも、けたたましい音量でアラートが鳴り始めた。

「馬鹿な! 前回の出没から日も浅いというのに、また現れたのか!? それで出没が予想されるポイントは……」

 須佐之男は机の上のノートパソコンを操作すると、拳を机に叩きつける。

「まずい。出没予想地点はここから南西の位置にある、勝湖中学校の校庭。クゥ、町全体に緊急放送を流し避難を呼びかけるんだ!」

「ワカッタ」

「……素戔嗚陸将」

 慌てた様子で学園長室を飛び出すクゥ、するとそれまで黙っていたパネルの女性がある命令を須佐之男に下した。

「やむを得ません、彼にも出動要請を。お父上が為してきたことを、引き継いでもらうのです」

「天照司令、彼はまだ何も知らされていないのです! その彼を死地に送るなんて、正気の沙汰とは思えません!?」

 激しく口論する二人、親父が死んだ事故も恐らくこれに深く関わっている……。

「よく分からないですが、俺に出来ることがあるのなら言ってください。何故親父が事故に巻き込まれたのか、俺は何も聞かされていない」

 パネルの先にいる天照は一度だけ瞑目すると、陸に本当のことを話し始めた。

「あなたのお父上は異界から侵略してくるデモンの魔の手から、この国の人々を守る防人をされていました。そしてあなたにもその防人の血が流れている、そのペンダントを握りしめながら『変身』と叫んでください」

「……変身?」

「そう、変身です」

 急に特撮ヒーロー物に物語が変わった気がするのは、気のせいだろうか?言われるままペンダントを握りしめようとする陸の手を、須佐之男が慌てた様子で掴む。

「ちょっと待ったぁ! ここで変身するのだけは止めてくれ、やるなら校舎の外で。修繕費用も馬鹿にならないんでな」

「?」

 意味がさっぱり分からなかったが、とりあえず校舎の外に出た陸。町には緊急放送が鳴り響き、付近の住人が避難を開始している。

「よし、ここなら被害も少ない。変身したらすぐに丘を下って、南西にある勝湖中学校を目指してくれ。ぶどう畑を多少潰しても問題ない」

「何を言ってるのかさっぱり分からないけど……とりあえず、変身!」

 ペンダントを握りしめながら陸は叫んだ。すると身体が光に覆われ内側から、何か強大な力が湧き上がるのを感じる。数秒後に光も収まったが、自分の身体に変化が起きたようには思えない。

「どうやら無事に変身出来たようだな、そこの窓ガラスを見てみなさい。それが君の本当の姿だ」

 須佐之男に言われて窓ガラスに映る自分の姿を確認する、その姿を見て陸は思わず大声を上げてしまった。

「な、なんじゃこりゃあああああ!?」

 陸は陸上自衛隊の主力戦車、10式に変身していたのである……。
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