こちら私立高天原学園八百万防衛隊~ちょっと変わった神々と付喪神の子孫たち~

いけお

文字の大きさ
14 / 14

お騒がせデモン娘登場、その名はローズ

しおりを挟む
「八百万防衛隊の皆様ですね、どうぞこちらの控え室でお待ちください」

 予定時間よりも早く乙府駅に到着した防衛隊一行は、スタッフらしき女性に真剣公像の裏に用意された控え室へと案内される。そこにはお茶やお菓子まで準備されており、本当に戦隊物の撮影が行われそうな雰囲気だ。すると外が何やら騒がしくなったので控え室の扉から覗いてみると、ピチピチの黒い戦闘服を着込んだ男がハンドマイクで周囲の人達にアナウンスをし始める。

「あーあー。あと十五分ほどで、この真剣公の銅像前を舞台に倭方面軍対八百万防衛隊の市街戦を執り行います。安全に十分配慮して行いますが大変危険です、地面に貼ってある黄色いテープの内側には絶対に入らないようにお願いします」

「…………」

 一体どんな配慮をしているのか想像も付かないが、ますます撮影の色合いが濃くなっているのは間違いない。周囲の人だかりの中にはスマホを取り出す者まで居て、身バレする恐れまで出てきた。

「こ、これ、顔を撮られたら俺達の住所とか、特定されるんじゃないのか!?」

「……その心配はないよ」

 陸が身バレする恐れがあることを口にすると、控え室の外で聞いていたのかライオネルが中に入ってくる。先日訪れた私服ではなく、貴族の正装と呼んでもおかしくない格好をしていた。それがなんという名前の衣装かまでは、服に疎い陸にはわからない。

「たとえ顔を撮られたとしても、認識阻害の結界の効果で顔がぼやけて映るようになっている。むろん我らの方もそうで、傍目には着ぐるみをきた俳優だと思われるだろう。徐々に結界を弱めていって、我らの存在を日常に溶け込ませていくのさ」

 これも案外悪くない方法だと天照は一瞬考えた。この方法ならデモンだけでなく八百万の神々の存在も、日本人に再浸透させることが出来る。命がけで戦っていても知っているのは一部の人間だけ、それでは先頭に立って戦っている付喪神の子孫に申し訳が立たないのだ。普段は陸に対して無理難題を押しつける風をよそおっているが、彼女なりに彼には感謝していたのである。

「あと少しだけお待ちください。自己紹介は初めて顔を合わせた時に行うと、ライオネル様が申しておりますので」

「うるさい! こんな連中わたしが一人で、ボッコボコのギッタギタにしてやるんだから挨拶は早い方が良いのよ」

 身バレの心配が無くなり一安心していると、外でなにやら口論する声が。すると控え室の入り口が勢い良く開かれ、一人のデモンの少女が飛び込んでくる。羊の角を生やし背中にはカラスを思わせる黒い羽根の翼。そして陸を指差すと、開口一番勝利を宣言する。



「ノコノコとやってきたわね、八百万防衛隊! あんた達なんて、この最初の戦闘で全滅して無駄死にして終わるのよ。この世界はすべてデモンのものとなり、人間なんて生物は皆息絶えて滅ぶの!」

 ゴンッ! 少女の頭にライオネルのゲンコツが落ちた。両手で頭を抑える姿を見る限りかなり痛そうである……。

「ローズ! これは侵略が目的では無いと、何度も説明しているだろう。これ以上、私を困らせると家に帰ってもらうぞ!?」

「だってお兄様! 先の戦いでの功で家名を名乗ることを許されましたが、我がグラフ家は新興したばかり。さらに功を重ねないと、他家に侮られてしまいます」

「人間を殺した功を誇って何になる!? おまえが考えているほど、人間は愚かでも弱くも無い。私はそれを国津 神から教わった……」

 この一見高飛車なローズという少女は、どうやらライオネルの妹らしい。だがそれ以上に看過できない言葉を、ライオネルは漏らしていた。

「おい……おまえは何を、親父から教わったんだ? 親父とおまえの間に何があった!?」

「この話の続きはあとで、そうだな場所を移動する電車の中ででも話そうか」

 ライオネルは掴みかかろうとする陸を片手で制止すると、あとで詳しく説明することを約束する。そして申し訳なさそうな顔をしながら、不出来な妹の紹介を始めた。

「彼女の名前はロゼッタ・グラフ、すでに気付いていると思うが私の妹だ。倭方面軍には女幹部の一人として同行している、本来であれば初顔合わせの際に紹介する予定だったが少し早まってしまった。彼女のことは、ローズと呼んでやってくれ……」

 残念そうな笑みを浮かべながら、ライオネルは妹の頭を優しく撫でる。それをローズが黙って受け入れている様子を見ると、兄妹の仲は良好らしい。

「……ライオネル様、そろそろお時間です」

「うむ、わかった。では皆さんまた後で、行くぞローズ!」

「はい、お兄様」

 ローズが兄の後を追って控え室を出ようとした時、止めが甘かったのか掛けられていた時計が落ちてきた。

「あぶない!」

 陸はとっさに庇うように覆い被さると、落ちてきた時計を背中で受ける。背中に鈍痛が走ったが、デモンの少女がケガをせずに済んだので御の字だ。

「大丈夫だったか?」

「はい……あの失礼かもしれませんが、お名前を教えていただけますか?」

 陸からの問いかけに、ローズは頬を紅く染めながら答える。そして離れようとする陸の名前を彼女はなぜか聞いてきた。

「俺の名前は、国守 陸(くにもり りく)。陸と呼んでくれ」

「……国守 陸様」

 ウミとクゥは女の勘で、ライバルが一人増えたことを直感する。それでもこの時はまだ彼女達も、ローズが積極的な行動に出ないだろうと高をくくっていたが強烈な先制パンチを喰らうこととなった。それはタイミングを見計らって八百万防衛隊一同が控え室を出た瞬間、ナレーション役の戦闘員が持っていたハンドマイクを奪うとローズが大声で叫ぶ。

「国守 陸! わたしと……わたしと今すぐ結婚しなさい!!」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

最前線

TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし 最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、 それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。 使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

処理中です...