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お騒がせデモン娘登場、その名はローズ
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「八百万防衛隊の皆様ですね、どうぞこちらの控え室でお待ちください」
予定時間よりも早く乙府駅に到着した防衛隊一行は、スタッフらしき女性に真剣公像の裏に用意された控え室へと案内される。そこにはお茶やお菓子まで準備されており、本当に戦隊物の撮影が行われそうな雰囲気だ。すると外が何やら騒がしくなったので控え室の扉から覗いてみると、ピチピチの黒い戦闘服を着込んだ男がハンドマイクで周囲の人達にアナウンスをし始める。
「あーあー。あと十五分ほどで、この真剣公の銅像前を舞台に倭方面軍対八百万防衛隊の市街戦を執り行います。安全に十分配慮して行いますが大変危険です、地面に貼ってある黄色いテープの内側には絶対に入らないようにお願いします」
「…………」
一体どんな配慮をしているのか想像も付かないが、ますます撮影の色合いが濃くなっているのは間違いない。周囲の人だかりの中にはスマホを取り出す者まで居て、身バレする恐れまで出てきた。
「こ、これ、顔を撮られたら俺達の住所とか、特定されるんじゃないのか!?」
「……その心配はないよ」
陸が身バレする恐れがあることを口にすると、控え室の外で聞いていたのかライオネルが中に入ってくる。先日訪れた私服ではなく、貴族の正装と呼んでもおかしくない格好をしていた。それがなんという名前の衣装かまでは、服に疎い陸にはわからない。
「たとえ顔を撮られたとしても、認識阻害の結界の効果で顔がぼやけて映るようになっている。むろん我らの方もそうで、傍目には着ぐるみをきた俳優だと思われるだろう。徐々に結界を弱めていって、我らの存在を日常に溶け込ませていくのさ」
これも案外悪くない方法だと天照は一瞬考えた。この方法ならデモンだけでなく八百万の神々の存在も、日本人に再浸透させることが出来る。命がけで戦っていても知っているのは一部の人間だけ、それでは先頭に立って戦っている付喪神の子孫に申し訳が立たないのだ。普段は陸に対して無理難題を押しつける風をよそおっているが、彼女なりに彼には感謝していたのである。
「あと少しだけお待ちください。自己紹介は初めて顔を合わせた時に行うと、ライオネル様が申しておりますので」
「うるさい! こんな連中わたしが一人で、ボッコボコのギッタギタにしてやるんだから挨拶は早い方が良いのよ」
身バレの心配が無くなり一安心していると、外でなにやら口論する声が。すると控え室の入り口が勢い良く開かれ、一人のデモンの少女が飛び込んでくる。羊の角を生やし背中にはカラスを思わせる黒い羽根の翼。そして陸を指差すと、開口一番勝利を宣言する。
「ノコノコとやってきたわね、八百万防衛隊! あんた達なんて、この最初の戦闘で全滅して無駄死にして終わるのよ。この世界はすべてデモンのものとなり、人間なんて生物は皆息絶えて滅ぶの!」
ゴンッ! 少女の頭にライオネルのゲンコツが落ちた。両手で頭を抑える姿を見る限りかなり痛そうである……。
「ローズ! これは侵略が目的では無いと、何度も説明しているだろう。これ以上、私を困らせると家に帰ってもらうぞ!?」
「だってお兄様! 先の戦いでの功で家名を名乗ることを許されましたが、我がグラフ家は新興したばかり。さらに功を重ねないと、他家に侮られてしまいます」
「人間を殺した功を誇って何になる!? おまえが考えているほど、人間は愚かでも弱くも無い。私はそれを国津 神から教わった……」
この一見高飛車なローズという少女は、どうやらライオネルの妹らしい。だがそれ以上に看過できない言葉を、ライオネルは漏らしていた。
「おい……おまえは何を、親父から教わったんだ? 親父とおまえの間に何があった!?」
「この話の続きはあとで、そうだな場所を移動する電車の中ででも話そうか」
ライオネルは掴みかかろうとする陸を片手で制止すると、あとで詳しく説明することを約束する。そして申し訳なさそうな顔をしながら、不出来な妹の紹介を始めた。
「彼女の名前はロゼッタ・グラフ、すでに気付いていると思うが私の妹だ。倭方面軍には女幹部の一人として同行している、本来であれば初顔合わせの際に紹介する予定だったが少し早まってしまった。彼女のことは、ローズと呼んでやってくれ……」
残念そうな笑みを浮かべながら、ライオネルは妹の頭を優しく撫でる。それをローズが黙って受け入れている様子を見ると、兄妹の仲は良好らしい。
「……ライオネル様、そろそろお時間です」
「うむ、わかった。では皆さんまた後で、行くぞローズ!」
「はい、お兄様」
ローズが兄の後を追って控え室を出ようとした時、止めが甘かったのか掛けられていた時計が落ちてきた。
「あぶない!」
陸はとっさに庇うように覆い被さると、落ちてきた時計を背中で受ける。背中に鈍痛が走ったが、デモンの少女がケガをせずに済んだので御の字だ。
「大丈夫だったか?」
「はい……あの失礼かもしれませんが、お名前を教えていただけますか?」
陸からの問いかけに、ローズは頬を紅く染めながら答える。そして離れようとする陸の名前を彼女はなぜか聞いてきた。
「俺の名前は、国守 陸(くにもり りく)。陸と呼んでくれ」
「……国守 陸様」
ウミとクゥは女の勘で、ライバルが一人増えたことを直感する。それでもこの時はまだ彼女達も、ローズが積極的な行動に出ないだろうと高をくくっていたが強烈な先制パンチを喰らうこととなった。それはタイミングを見計らって八百万防衛隊一同が控え室を出た瞬間、ナレーション役の戦闘員が持っていたハンドマイクを奪うとローズが大声で叫ぶ。
「国守 陸! わたしと……わたしと今すぐ結婚しなさい!!」
予定時間よりも早く乙府駅に到着した防衛隊一行は、スタッフらしき女性に真剣公像の裏に用意された控え室へと案内される。そこにはお茶やお菓子まで準備されており、本当に戦隊物の撮影が行われそうな雰囲気だ。すると外が何やら騒がしくなったので控え室の扉から覗いてみると、ピチピチの黒い戦闘服を着込んだ男がハンドマイクで周囲の人達にアナウンスをし始める。
「あーあー。あと十五分ほどで、この真剣公の銅像前を舞台に倭方面軍対八百万防衛隊の市街戦を執り行います。安全に十分配慮して行いますが大変危険です、地面に貼ってある黄色いテープの内側には絶対に入らないようにお願いします」
「…………」
一体どんな配慮をしているのか想像も付かないが、ますます撮影の色合いが濃くなっているのは間違いない。周囲の人だかりの中にはスマホを取り出す者まで居て、身バレする恐れまで出てきた。
「こ、これ、顔を撮られたら俺達の住所とか、特定されるんじゃないのか!?」
「……その心配はないよ」
陸が身バレする恐れがあることを口にすると、控え室の外で聞いていたのかライオネルが中に入ってくる。先日訪れた私服ではなく、貴族の正装と呼んでもおかしくない格好をしていた。それがなんという名前の衣装かまでは、服に疎い陸にはわからない。
「たとえ顔を撮られたとしても、認識阻害の結界の効果で顔がぼやけて映るようになっている。むろん我らの方もそうで、傍目には着ぐるみをきた俳優だと思われるだろう。徐々に結界を弱めていって、我らの存在を日常に溶け込ませていくのさ」
これも案外悪くない方法だと天照は一瞬考えた。この方法ならデモンだけでなく八百万の神々の存在も、日本人に再浸透させることが出来る。命がけで戦っていても知っているのは一部の人間だけ、それでは先頭に立って戦っている付喪神の子孫に申し訳が立たないのだ。普段は陸に対して無理難題を押しつける風をよそおっているが、彼女なりに彼には感謝していたのである。
「あと少しだけお待ちください。自己紹介は初めて顔を合わせた時に行うと、ライオネル様が申しておりますので」
「うるさい! こんな連中わたしが一人で、ボッコボコのギッタギタにしてやるんだから挨拶は早い方が良いのよ」
身バレの心配が無くなり一安心していると、外でなにやら口論する声が。すると控え室の入り口が勢い良く開かれ、一人のデモンの少女が飛び込んでくる。羊の角を生やし背中にはカラスを思わせる黒い羽根の翼。そして陸を指差すと、開口一番勝利を宣言する。
「ノコノコとやってきたわね、八百万防衛隊! あんた達なんて、この最初の戦闘で全滅して無駄死にして終わるのよ。この世界はすべてデモンのものとなり、人間なんて生物は皆息絶えて滅ぶの!」
ゴンッ! 少女の頭にライオネルのゲンコツが落ちた。両手で頭を抑える姿を見る限りかなり痛そうである……。
「ローズ! これは侵略が目的では無いと、何度も説明しているだろう。これ以上、私を困らせると家に帰ってもらうぞ!?」
「だってお兄様! 先の戦いでの功で家名を名乗ることを許されましたが、我がグラフ家は新興したばかり。さらに功を重ねないと、他家に侮られてしまいます」
「人間を殺した功を誇って何になる!? おまえが考えているほど、人間は愚かでも弱くも無い。私はそれを国津 神から教わった……」
この一見高飛車なローズという少女は、どうやらライオネルの妹らしい。だがそれ以上に看過できない言葉を、ライオネルは漏らしていた。
「おい……おまえは何を、親父から教わったんだ? 親父とおまえの間に何があった!?」
「この話の続きはあとで、そうだな場所を移動する電車の中ででも話そうか」
ライオネルは掴みかかろうとする陸を片手で制止すると、あとで詳しく説明することを約束する。そして申し訳なさそうな顔をしながら、不出来な妹の紹介を始めた。
「彼女の名前はロゼッタ・グラフ、すでに気付いていると思うが私の妹だ。倭方面軍には女幹部の一人として同行している、本来であれば初顔合わせの際に紹介する予定だったが少し早まってしまった。彼女のことは、ローズと呼んでやってくれ……」
残念そうな笑みを浮かべながら、ライオネルは妹の頭を優しく撫でる。それをローズが黙って受け入れている様子を見ると、兄妹の仲は良好らしい。
「……ライオネル様、そろそろお時間です」
「うむ、わかった。では皆さんまた後で、行くぞローズ!」
「はい、お兄様」
ローズが兄の後を追って控え室を出ようとした時、止めが甘かったのか掛けられていた時計が落ちてきた。
「あぶない!」
陸はとっさに庇うように覆い被さると、落ちてきた時計を背中で受ける。背中に鈍痛が走ったが、デモンの少女がケガをせずに済んだので御の字だ。
「大丈夫だったか?」
「はい……あの失礼かもしれませんが、お名前を教えていただけますか?」
陸からの問いかけに、ローズは頬を紅く染めながら答える。そして離れようとする陸の名前を彼女はなぜか聞いてきた。
「俺の名前は、国守 陸(くにもり りく)。陸と呼んでくれ」
「……国守 陸様」
ウミとクゥは女の勘で、ライバルが一人増えたことを直感する。それでもこの時はまだ彼女達も、ローズが積極的な行動に出ないだろうと高をくくっていたが強烈な先制パンチを喰らうこととなった。それはタイミングを見計らって八百万防衛隊一同が控え室を出た瞬間、ナレーション役の戦闘員が持っていたハンドマイクを奪うとローズが大声で叫ぶ。
「国守 陸! わたしと……わたしと今すぐ結婚しなさい!!」
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