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第80話 反吐が出そうになる歴史
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「そういう訳で、わたしもハジメさんのお嫁さんの一員として加わりました。 今後ともよろしくお願いしますね、皆さん」
ペイン(菊江)がハジメの5人の妻達に挨拶をするが、5人は揃って微妙な顔つきとなっている。
アーシュラさんを殺しに来た彼女の妹が、ハジメに篭絡された上に孕まされた。
起きた事を簡単にまとめるとこんな感じだが、どうにも非常識過ぎる。
「そういえばハジメさんの寝室の両隣は、どなたが入っているのですか?」
ペインが唐突に変な質問を始めた。
「右側はセシリア姉さま、左側がラン姉さまが入っておりますが」
「……そう、分かったわ」
サリーネから聞いたペインが、真っ直ぐにランのもとへ向かう。
一体、何をするつもりなのだろう?
ハジメはもちろん、アーシュラさんも気になって様子をうかがう。
「ランさん、部屋の場所を私と交換しなさい」
「なっ!?」
有無を言わせない口調で、ペインがランに命令した。
異論を唱えようとするランの口を、ペインは右手で掴んで塞ぐ。
「あなた、実の叔母に向かってその態度は何? 身内なんだから、これ位のお願いを聞いてくれたって良いでしょ?」
「ちょっと待って、菊江。 それは少し、横暴じゃないかしら?」
「あら、姉さん。 100年以上苦しんでいた実の妹がやっと解放され、小さな幸せを手に入れようとしているのに、それに口を挟む気?」
諌めようとするアーシュラに対して、軽く微笑んでから姉に返事をするペイン。
だが、その目は全く笑っていない。
そしてペインはその舌が乾かないうちに、今度は姉の切り崩しに移った。
「姉さん。 義理の息子となったハジメさんと私の子供が産まれれば、血縁上は義理になってしまうけど姉さんにとっては初孫になるのよ。 無事に産まれるように、隣の部屋の方が良いわよねお祖母ちゃん?」
「初孫……そうね、初孫なら多少のことは仕方ないわよね」
(いや、その場合だと初孫よりも先に甥か姪になるのでは?)
この当然のツッコミを、ハジメは後が怖くて言えない。
けれども、思わず納得してしまう部分もある。
(実の姉さえ丸め込む話術と、ランに有無を言わせぬ口調。 間違いなくアーシュラさんの妹だ……)
色々と問題が山積みとなっているが、今はそれどころではない。
ハジメはこちらの世界の神を名乗った、ゴルトスに近づくと質問をぶつける。
「ペインを助けてくれてすまなかった、ありがとう。 だがな、システィナと同じ神と聞いてすぐに信用するほどお人好しじゃ無いんだ。 まずは、こうして俺達の前に姿を見せた理由から聞かせてもらおうか?」
「信用出来ないのは当然だ、そして今すぐ信用してくれとも言わない。 こうなった原因は、むしろ私にも有るのだからな」
ゴルトスは、事の発端から話してくれた。
「どれくらい昔のことだろう、私の治める世界とシスティナの治める世界が繋がったのは……。 思えばあの時に私自らの手で塞ぎ2度と繋がらなくすれば、このような事は起こらなかっただろう」
偶然空間に歪みが生じて2つの世界が繋がった時、異なる世界へ渡ろうとする怪物たちをゴルトスは止めようとはしなかった。
2つの世界に新しい可能性が生まれるかもしれないと思い、少し様子を見てみようと考えたのだ。
だがシスティーナに渡ったのは怪物だけではなかった、魔族も異世界に渡り侵略を始めてしまう。
そしてシスティーナの民の力を遥かに上回る存在である魔王を倒す為、システィナが行った事こそ勇者召喚だったのである。
自我を奪われ女神システィナの力を分け与えられた勇者は、その驚異的な力で魔王を討ち滅ぼした。
ゲートを通じて様子を見ていたゴルトスは、そこで信じられない光景を目撃する事となる……。
「魔王を倒し役目を終えた勇者を、システィナはあっさりと殺してしまったのだ」
用済みとなれば元の世界に帰す事無く処分する、同じ神の行う所業とは思えなかった。
魔王が倒されるのを見て、魔族達が次々に魔界へと引き返す。
魔族が引き上げ終えた直後にゲートが閉じたのは、運が良かったと言えるだろう。
もしも先にゲートが閉じて取り残されたとしたら……。
考えるだけでゾッとする光景が、ゴルトスの脳裏に浮かんだ。
「しかし周期はバラバラだが、その後もゲートが度々現れては2つの世界を繋いだ。 その都度新しい魔王が兵を率いて侵攻し、システィナも毎回新たな勇者を召喚しては使い潰した」
ここで一旦呼吸を整えると、ゴルトスは最も重要な事実を語り始めた。
「そして何度目かの勇者召喚の頃から、システィナは勇者の自我を奪わなくなった」
そこからシスティナの狂気が加速していく……。
「最初は何かの実験のつもりだったのだろう、自我を持ったまま神の力を奮って正気でいられるかどうかの」
だがシスティナの期待を裏切り、召喚された勇者は正気を失う事無く魔王を倒す。
いつも通り処分しようとした時に、これまでとは明らかに違う事が起きた。
それは……。
「それまで尊敬と感謝の念を抱いていた勇者の顔が、瞬く間に絶望に染まったのだ。 それを見たシスティナは、狂喜乱舞してその勇者をなぶり殺しにした。 やがて彼女はゲートが開く時を、今か今かと待ちわびるようになる」
(完全に狂ってやがる! 人の命を弄ぶのに抵抗が無かったのは、この出来事が原因だったのか)
ハジメは話を聞いて、反吐が出そうになった。
ペイン(菊江)をその手で殺しておきながら、使い捨ての道具として利用する為に蘇らせる。
またその前にもミシェルの焦る気持ちを利用して、肉親の命を奪わせたりもした。
これ以上放置すれば、更に多くの民の命が奪われ弄ばれるだろう。
ゴルトスは2つの世界の行く末の為に、干渉する事を決意した。
「これまで命を奪われた者には、何度謝罪しても許してもらう事は出来ないだろう。 ならば長い間傍観者で居た事への罪滅ぼしをしたい、自己満足なだけかもしれないが私にも女神システィナを討つ協力をさせてくれ」
ハジメはシスティナに対抗する為の、大きな協力者を得たのだった……。
ペイン(菊江)がハジメの5人の妻達に挨拶をするが、5人は揃って微妙な顔つきとなっている。
アーシュラさんを殺しに来た彼女の妹が、ハジメに篭絡された上に孕まされた。
起きた事を簡単にまとめるとこんな感じだが、どうにも非常識過ぎる。
「そういえばハジメさんの寝室の両隣は、どなたが入っているのですか?」
ペインが唐突に変な質問を始めた。
「右側はセシリア姉さま、左側がラン姉さまが入っておりますが」
「……そう、分かったわ」
サリーネから聞いたペインが、真っ直ぐにランのもとへ向かう。
一体、何をするつもりなのだろう?
ハジメはもちろん、アーシュラさんも気になって様子をうかがう。
「ランさん、部屋の場所を私と交換しなさい」
「なっ!?」
有無を言わせない口調で、ペインがランに命令した。
異論を唱えようとするランの口を、ペインは右手で掴んで塞ぐ。
「あなた、実の叔母に向かってその態度は何? 身内なんだから、これ位のお願いを聞いてくれたって良いでしょ?」
「ちょっと待って、菊江。 それは少し、横暴じゃないかしら?」
「あら、姉さん。 100年以上苦しんでいた実の妹がやっと解放され、小さな幸せを手に入れようとしているのに、それに口を挟む気?」
諌めようとするアーシュラに対して、軽く微笑んでから姉に返事をするペイン。
だが、その目は全く笑っていない。
そしてペインはその舌が乾かないうちに、今度は姉の切り崩しに移った。
「姉さん。 義理の息子となったハジメさんと私の子供が産まれれば、血縁上は義理になってしまうけど姉さんにとっては初孫になるのよ。 無事に産まれるように、隣の部屋の方が良いわよねお祖母ちゃん?」
「初孫……そうね、初孫なら多少のことは仕方ないわよね」
(いや、その場合だと初孫よりも先に甥か姪になるのでは?)
この当然のツッコミを、ハジメは後が怖くて言えない。
けれども、思わず納得してしまう部分もある。
(実の姉さえ丸め込む話術と、ランに有無を言わせぬ口調。 間違いなくアーシュラさんの妹だ……)
色々と問題が山積みとなっているが、今はそれどころではない。
ハジメはこちらの世界の神を名乗った、ゴルトスに近づくと質問をぶつける。
「ペインを助けてくれてすまなかった、ありがとう。 だがな、システィナと同じ神と聞いてすぐに信用するほどお人好しじゃ無いんだ。 まずは、こうして俺達の前に姿を見せた理由から聞かせてもらおうか?」
「信用出来ないのは当然だ、そして今すぐ信用してくれとも言わない。 こうなった原因は、むしろ私にも有るのだからな」
ゴルトスは、事の発端から話してくれた。
「どれくらい昔のことだろう、私の治める世界とシスティナの治める世界が繋がったのは……。 思えばあの時に私自らの手で塞ぎ2度と繋がらなくすれば、このような事は起こらなかっただろう」
偶然空間に歪みが生じて2つの世界が繋がった時、異なる世界へ渡ろうとする怪物たちをゴルトスは止めようとはしなかった。
2つの世界に新しい可能性が生まれるかもしれないと思い、少し様子を見てみようと考えたのだ。
だがシスティーナに渡ったのは怪物だけではなかった、魔族も異世界に渡り侵略を始めてしまう。
そしてシスティーナの民の力を遥かに上回る存在である魔王を倒す為、システィナが行った事こそ勇者召喚だったのである。
自我を奪われ女神システィナの力を分け与えられた勇者は、その驚異的な力で魔王を討ち滅ぼした。
ゲートを通じて様子を見ていたゴルトスは、そこで信じられない光景を目撃する事となる……。
「魔王を倒し役目を終えた勇者を、システィナはあっさりと殺してしまったのだ」
用済みとなれば元の世界に帰す事無く処分する、同じ神の行う所業とは思えなかった。
魔王が倒されるのを見て、魔族達が次々に魔界へと引き返す。
魔族が引き上げ終えた直後にゲートが閉じたのは、運が良かったと言えるだろう。
もしも先にゲートが閉じて取り残されたとしたら……。
考えるだけでゾッとする光景が、ゴルトスの脳裏に浮かんだ。
「しかし周期はバラバラだが、その後もゲートが度々現れては2つの世界を繋いだ。 その都度新しい魔王が兵を率いて侵攻し、システィナも毎回新たな勇者を召喚しては使い潰した」
ここで一旦呼吸を整えると、ゴルトスは最も重要な事実を語り始めた。
「そして何度目かの勇者召喚の頃から、システィナは勇者の自我を奪わなくなった」
そこからシスティナの狂気が加速していく……。
「最初は何かの実験のつもりだったのだろう、自我を持ったまま神の力を奮って正気でいられるかどうかの」
だがシスティナの期待を裏切り、召喚された勇者は正気を失う事無く魔王を倒す。
いつも通り処分しようとした時に、これまでとは明らかに違う事が起きた。
それは……。
「それまで尊敬と感謝の念を抱いていた勇者の顔が、瞬く間に絶望に染まったのだ。 それを見たシスティナは、狂喜乱舞してその勇者をなぶり殺しにした。 やがて彼女はゲートが開く時を、今か今かと待ちわびるようになる」
(完全に狂ってやがる! 人の命を弄ぶのに抵抗が無かったのは、この出来事が原因だったのか)
ハジメは話を聞いて、反吐が出そうになった。
ペイン(菊江)をその手で殺しておきながら、使い捨ての道具として利用する為に蘇らせる。
またその前にもミシェルの焦る気持ちを利用して、肉親の命を奪わせたりもした。
これ以上放置すれば、更に多くの民の命が奪われ弄ばれるだろう。
ゴルトスは2つの世界の行く末の為に、干渉する事を決意した。
「これまで命を奪われた者には、何度謝罪しても許してもらう事は出来ないだろう。 ならば長い間傍観者で居た事への罪滅ぼしをしたい、自己満足なだけかもしれないが私にも女神システィナを討つ協力をさせてくれ」
ハジメはシスティナに対抗する為の、大きな協力者を得たのだった……。
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