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第84話 計算違い
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「ふぅ、何とかひと段落ついたな」
「そうねハジメ、正直無事に終わるのか不安でした」
ロビーの椅子に腰掛けて、疲れた顔で話すハジメとその労をねぎらうセシリア。
さきほど無事に結婚式を終え、今は2人の披露宴の最中である。
成人したクレアは姉と同様に美しく成長し、多くの参列者の目を奪った。
その夫となるラーセッツもこの数年アーシュラさん自らが徹底的に監視した上で、彼に政治や外交に関する教育を施してある。
『魔王の後継者の地位を辞退してまで、婿入りする価値が果たして有るのか?』
こんな質問をする者も居たが、今日の2人の顔を見ればそれが野暮だと言う事にきっと気付くに違いない。
惚れっぽいラーセッツを兄のように慕いながら、愛情を確かなものとしたクレアの献身には恐れ入る。
「それにしても、こういう場にゴルトスも出るのかと思ったが、まさか欠席するとはね」
「一部の人にだけ特別扱いするのは気が引ける、あの方らしい理由でしたけど」
「婿殿、いつの間にか姿を消しているからどこへ行ったかと。 ヒカリちゃんが寂しくて泣き始めているわよ」
「あらあら、それは大変。 ハジメ、私が先に行ってヒカリと遊んできますね」
セシリアが宴の席に戻るのを見送ると、アーシュラさんはハジメの隣の椅子に座った。
「本当に夢のよう。 システィーナがこんな風になるなんて、誰も想像していなかった。 これも全て婿殿が召喚されたお陰よ、ありがとう」
丁寧に頭を下げるアーシュラさん、色々と込み上げてくるものがあるのだろう。
その目のふちには、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ねえ、婿殿。 ちょっと気になっているのだけど、別の世界に放逐されたシスティナは今頃どんな目に遭っているのかしら? あなたには分かる?」
「さあ、どうだろう? 陽と陰なら分かると思うけど、面白そうな話じゃない限り2人は姿を見せてくれそうもないし……」
「その通り、だからこうしてやってきた訳だ」
突然の声に驚くハジメとアーシュラ、見ると陽と陰が2人の両脇に座っている。
「いきなり現れるな! 心臓が止まるかと思ったぞ」
「ははは、悪い悪い。 こういう登場の仕方が、面白そうだったんでね」
「それで、今日の用件は何だ? この披露宴に、飛び入り参加でもしたくなったのか?」
「まさか!? 今日はね、システィナが今面白いことになっているから、その報告に来たという訳さ」
システィナに関する報告と聞いて、アーシュラさんは身体を強ばらせた。
ハジメは少しでも落ち着かせようと、全員の分の飲み物を貰ってくると陽達からの報告を聞き始める。
「システィナを送った世界は、ちょっと特殊でね。 ハジメに良く似た非常識な日本人が何人も居るんだ、しかもそれぞれが転移だったり転生してたり魔王だったり勇者してたりとバラバラだ。 そして案の定、彼女は力を使って何度も痛い目を見てきた……」
陽が一旦言葉を区切る、ここからが彼の言う面白いことなのだろう。
「っで、ここからがさっき言っていた面白い事だ。 彼女は現在どうしていると思う?」
「お前らが面白いことって言うのだから、毎日金ダライでも落ちているのか?」
ハジメの予想に対して、陽は首を振って否定する。
「実はな、今彼女は1人の人間にベタ惚れしていてな。 おまけに結婚までしてラブラブな毎日を送っているぞ」
ハジメとアーシュラは同時に飲み物を吹き出した、あの自尊心の固まりで人間を見下す女神が、人間と結婚してラブラブな毎日を送っている!?
信じられない顔をしている2人の為に、陽は証拠の映像は見せた。
『お、おいシスティナ。 彼から騒ぎを大きくしないように言われていただろ、おまけにお前は一国の女王なのだから礼節を弁えよ』
システィナに1人の男が話しかけている、服装を見る限りどこかの王侯貴族に見える。
『あら、あなた。 ようやく到着したの? 私たちは所詮陽動なのですから、コレくらいで丁度良いのです。 それと……あなたも王となられたのですから、我が夫に相応しい姿を示してくださいな』
『う、うむ、このベルモンドに任せておくのだシスティナよ。 お前が愛する男の雄姿をその目で見るが良い!』
ベルモンドと名乗ったその男が剣を抜くと、システィナが黄色い声援を贈り始めた。
『きゃあ、あなた~素敵よカッコイイ!』
『ははは、当たり前だ。 こい、雑魚共! ここからは、俺様が相手だ』
「……………」
映像が終わっても、ハジメとアーシュラは開いた口が塞がらない。
これではどちらが罰を受けているのか分からなくなる、それほど2人にはショッキングな光景だった……。
「婿殿……今すぐ菊江を呼んできてくれない?」
「何をするつもりだ?」
「決まっているじゃない。 あいつの居る世界に今すぐ飛んで、往生させてやるわ!」
全身が怒気を帯び、空気は震えロビーのガラス数枚にヒビが入る。
このままでは折角の披露宴が台無しになってしまう、ハジメは妥協案をアーシュラさんに提示した。
「ちょっと待て! 今は、息子の大事な晴れ舞台の最中だろうが!? 2人を送り出せば後は自由に出来るから、もう少しだけ耐えてくれ!」
ハジメは知りたくもなかった情報を持ってきた陽に詰め寄ると、胸倉を掴むとこれからの予定を話す。
「良いか。 披露宴が終わったら数人だけで構わないから、システィナの居る世界に俺達を連れていけ。 アーシュラさんをあのままにしておいたら、後で何が起きるか分かったものじゃない」
「良いよ、多分こういう反応をすると思ったから知らせに来たんだし」
「てめえは、いつか必ずぶっ飛ばす!!」
披露宴が終わりラーセッツ達を送り出すと同時に、ハジメ・アーシュラ・ペインの3人は陽と陰に連れられて、システィナが飛ばされた世界へ現在の様子を見に向かった。
だが現地に着いてハジメ達は、さらに驚かされるものを目にする……。
システィナが豹変した経緯については、ノベルアップ+さんで投稿している
異世界は何でもありだが、この世界は問題児が多すぎる。
をお読み頂ければ分かります。
「そうねハジメ、正直無事に終わるのか不安でした」
ロビーの椅子に腰掛けて、疲れた顔で話すハジメとその労をねぎらうセシリア。
さきほど無事に結婚式を終え、今は2人の披露宴の最中である。
成人したクレアは姉と同様に美しく成長し、多くの参列者の目を奪った。
その夫となるラーセッツもこの数年アーシュラさん自らが徹底的に監視した上で、彼に政治や外交に関する教育を施してある。
『魔王の後継者の地位を辞退してまで、婿入りする価値が果たして有るのか?』
こんな質問をする者も居たが、今日の2人の顔を見ればそれが野暮だと言う事にきっと気付くに違いない。
惚れっぽいラーセッツを兄のように慕いながら、愛情を確かなものとしたクレアの献身には恐れ入る。
「それにしても、こういう場にゴルトスも出るのかと思ったが、まさか欠席するとはね」
「一部の人にだけ特別扱いするのは気が引ける、あの方らしい理由でしたけど」
「婿殿、いつの間にか姿を消しているからどこへ行ったかと。 ヒカリちゃんが寂しくて泣き始めているわよ」
「あらあら、それは大変。 ハジメ、私が先に行ってヒカリと遊んできますね」
セシリアが宴の席に戻るのを見送ると、アーシュラさんはハジメの隣の椅子に座った。
「本当に夢のよう。 システィーナがこんな風になるなんて、誰も想像していなかった。 これも全て婿殿が召喚されたお陰よ、ありがとう」
丁寧に頭を下げるアーシュラさん、色々と込み上げてくるものがあるのだろう。
その目のふちには、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ねえ、婿殿。 ちょっと気になっているのだけど、別の世界に放逐されたシスティナは今頃どんな目に遭っているのかしら? あなたには分かる?」
「さあ、どうだろう? 陽と陰なら分かると思うけど、面白そうな話じゃない限り2人は姿を見せてくれそうもないし……」
「その通り、だからこうしてやってきた訳だ」
突然の声に驚くハジメとアーシュラ、見ると陽と陰が2人の両脇に座っている。
「いきなり現れるな! 心臓が止まるかと思ったぞ」
「ははは、悪い悪い。 こういう登場の仕方が、面白そうだったんでね」
「それで、今日の用件は何だ? この披露宴に、飛び入り参加でもしたくなったのか?」
「まさか!? 今日はね、システィナが今面白いことになっているから、その報告に来たという訳さ」
システィナに関する報告と聞いて、アーシュラさんは身体を強ばらせた。
ハジメは少しでも落ち着かせようと、全員の分の飲み物を貰ってくると陽達からの報告を聞き始める。
「システィナを送った世界は、ちょっと特殊でね。 ハジメに良く似た非常識な日本人が何人も居るんだ、しかもそれぞれが転移だったり転生してたり魔王だったり勇者してたりとバラバラだ。 そして案の定、彼女は力を使って何度も痛い目を見てきた……」
陽が一旦言葉を区切る、ここからが彼の言う面白いことなのだろう。
「っで、ここからがさっき言っていた面白い事だ。 彼女は現在どうしていると思う?」
「お前らが面白いことって言うのだから、毎日金ダライでも落ちているのか?」
ハジメの予想に対して、陽は首を振って否定する。
「実はな、今彼女は1人の人間にベタ惚れしていてな。 おまけに結婚までしてラブラブな毎日を送っているぞ」
ハジメとアーシュラは同時に飲み物を吹き出した、あの自尊心の固まりで人間を見下す女神が、人間と結婚してラブラブな毎日を送っている!?
信じられない顔をしている2人の為に、陽は証拠の映像は見せた。
『お、おいシスティナ。 彼から騒ぎを大きくしないように言われていただろ、おまけにお前は一国の女王なのだから礼節を弁えよ』
システィナに1人の男が話しかけている、服装を見る限りどこかの王侯貴族に見える。
『あら、あなた。 ようやく到着したの? 私たちは所詮陽動なのですから、コレくらいで丁度良いのです。 それと……あなたも王となられたのですから、我が夫に相応しい姿を示してくださいな』
『う、うむ、このベルモンドに任せておくのだシスティナよ。 お前が愛する男の雄姿をその目で見るが良い!』
ベルモンドと名乗ったその男が剣を抜くと、システィナが黄色い声援を贈り始めた。
『きゃあ、あなた~素敵よカッコイイ!』
『ははは、当たり前だ。 こい、雑魚共! ここからは、俺様が相手だ』
「……………」
映像が終わっても、ハジメとアーシュラは開いた口が塞がらない。
これではどちらが罰を受けているのか分からなくなる、それほど2人にはショッキングな光景だった……。
「婿殿……今すぐ菊江を呼んできてくれない?」
「何をするつもりだ?」
「決まっているじゃない。 あいつの居る世界に今すぐ飛んで、往生させてやるわ!」
全身が怒気を帯び、空気は震えロビーのガラス数枚にヒビが入る。
このままでは折角の披露宴が台無しになってしまう、ハジメは妥協案をアーシュラさんに提示した。
「ちょっと待て! 今は、息子の大事な晴れ舞台の最中だろうが!? 2人を送り出せば後は自由に出来るから、もう少しだけ耐えてくれ!」
ハジメは知りたくもなかった情報を持ってきた陽に詰め寄ると、胸倉を掴むとこれからの予定を話す。
「良いか。 披露宴が終わったら数人だけで構わないから、システィナの居る世界に俺達を連れていけ。 アーシュラさんをあのままにしておいたら、後で何が起きるか分かったものじゃない」
「良いよ、多分こういう反応をすると思ったから知らせに来たんだし」
「てめえは、いつか必ずぶっ飛ばす!!」
披露宴が終わりラーセッツ達を送り出すと同時に、ハジメ・アーシュラ・ペインの3人は陽と陰に連れられて、システィナが飛ばされた世界へ現在の様子を見に向かった。
だが現地に着いてハジメ達は、さらに驚かされるものを目にする……。
システィナが豹変した経緯については、ノベルアップ+さんで投稿している
異世界は何でもありだが、この世界は問題児が多すぎる。
をお読み頂ければ分かります。
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ノベルアップ+での作品名
異世界は何でもありだが、この世界は問題児が多すぎる
ではなくて
異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。
ですよね?
ノベルアップ さんの方のタイトルが連載当初のタイトルです、なろうとアルファポリスに関しては作品名を試しに変えてあります。
タイトルの違いで読者の反応も違うので。
戸惑わせてしまったようでしたら御免なさい
システィナ変わり過ぎ(^◇^;)
まあ、今後の大ドンデン返しに期待ですね( ^ω^ )
結論的には、システィナが1番チョロかったとw
ファンタジー小説大賞は諦めましたが、ノベルアップ さんの方で応募しているので結果が楽しみです。
\\\\٩( 'ω' )و ////
31話の醤油に関してですが、
濃口と薄口とは味では無く色のことであり、
薄口醤油の方が塩分濃度が高く塩っ辛い味になります
その件については過去の感想でも同じ意見が出ております、ただティターニアの血が餃子のタレだったりする世界なので多少の違いはご容赦ください。
m(_ _)m