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プロローグ
第1話 聖騎士(パラディン)よ、出でて我が手足となれ!
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世界最古の歴史書、ベネトン王国成立史によると、光と闇の神による戦乱は千年以上にも及び、天上界、魔界だけでなく地上界、妖精界をも巻き込んだ争いは、神々が放った古代竜たちによって自らの肉体を焼かれ、肉体を失った事で終結し、神は魂だけの存在になった。
その結果、天上界は天使、妖精界は妖精、魔界は魔族、地上界は人間が住む事で確定し、その確定した年を紀元1年とする事になり、神々の戦乱の時代は紀元前と呼ぶ事になった。
1 地上が人間の物となる。
125 ベネトン王国(世界最初の王国)成立。以後、小国が乱立する。
322 エレッセ王国(通称:魔法王国)成立。一部の島国を除き、エウロパ
大陸を支配下に置く。ガニメデ大陸、イオ大陸、カリスト大陸も大半
を支配下に置く。
(全ての大陸を支配下に置いた、最初で最後の王国)
739 十字軍結成、魔法王国に反乱を起こす。
(魔法対剣の争い)
741 エレッセ王国崩壊、魔法の時代が終結する。
剣の時代(混乱の時代)に突入。
925 神聖エルメス帝国成立、エウロパ大陸西側を全てを領有。
990 神聖エルエス帝国、大陸統一を図り、モンゴリア帝国に侵攻
992 カンドゥーマ高原で東西の帝国が決戦を行う
(カンドゥーマ高原の戦い)
神聖エルメス帝国が完敗。神聖エルメス帝国の国内情勢が不安定化
1001 神聖エルメス帝国崩壊、再び混乱の時代に突入。
(20以上の小国に分裂し、以後、戦乱の時代が20年続く)
1022 神聖バレンティノ王国、エルメス王国、ヒューゴボス帝国成立。
(この3か国で大陸西側の8割を支配し、現在の『3強』体制の
元が出来上がる)
1192 神聖バレンティノ王国、12の王国に分裂する。
1193 エルメス王国、西側統一に乗り出す。
同 旧・神聖バレンティノ王国、『神聖バレンティノ公国』として同盟を
結び、エルメス王国に対抗。
1196 エルメス王国、統一を断念。
神聖バレンティノ公国は名前だけの存在となり12か国の主導権争い
が始まる。
1217 ヒューゴボス帝国、魔法王国の遺産を使って西側統一に乗り出す。
同 旧・神聖バレンティノ王国(5か国にまで減少)、再び神聖バレンティ
ノ公国として同盟を結びヒューゴボス帝国に対抗。
1219 魔法王国の遺産が暴走、魔界と地上をつなぐ門が出現する。
魔族の王、魔王ウーノと名乗る者が魔界から現れる。
(魔王ウーノ、全世界の国に絶対的服従か死の2択を迫る)
ヒューゴボス帝国、責任を認め皇帝の退位及び皇太子廃嫡を引換に同盟
を提案。全世界の国々が同盟結成、人間対魔族の全面戦争となる。
ヒューゴボス帝国、臨時皇帝が即位し専制政治から共和制に移行。
1221 ヒューゴボス帝国の帝都クロトが陥落、実質滅亡。
ヒューゴボス帝国が滅亡してから1年、大陸共通歴1222年4月・・・
ここは神聖バレンティノ公国を形成する5つの国の1つ、ドルチェガッバーナ王国
王都ファウナの東、アトロポス山の麓にある魔法王国時代の別荘・・・
当然だが無人になって500年経つが、別荘の主人が留守の間に盗賊たちが別荘を荒らさないよう、様々な魔法の仕掛けをしてあり、魔法生物の守衛たちは500年たった今でも命令を忠実に守っている・・・
その別荘に残された財産を狙って、500年の間に数千回、延べ3万人以上が挑み、まだ誰も手に入れた者はいない。犠牲者の数も数千人に上る。
その別荘を囲む塀のすぐ外を歩く、2つの影があった。
1人は亜麻色の髪を肩まで伸ばした、美しい女性だ。
見た目は10代半ばだから女の子と呼んだ方がいいかもしれない。この世界の知識が少しでもある人なら、この若い女性は魔術師だというのが分かる。手にしているのは樫で出来た杖だ。樫の杖を持っているから、この若い女性は導師の資格を得ている・・・筈なのだが、よーく見ると若い女性の着ている法衣は学生、それもヒューゴボス帝国魔術師学校の生徒の制服だ。という事は、導師でもないのに導師の杖を持っている事になる。しかも、帝国滅亡に合わせて魔術師学校も廃校になったはず・・・
もう1人も若い女性だ。美しいブロンドの髪を高く結い上げているが、こちらも法衣のような物を着ているが、どう見ても修道服だ。左胸には白銀の十字架の刺繍がしているとういう事は、この若い女はバレンティノ神に仕える聖職者だ。ただ、この特徴ある修道服はヒューゴボス帝国の帝都クロトにあった修道院の院生の修道服だ。という事は修道女がこんな場所を歩いてる事になるし、修道院そのものは帝国滅亡に合わせて閉鎖されたはず・・・
でも・・・この2人、首にかけている首輪は『ギルドバッジ』と呼ばれる、冒険者の証だ。しかも全く光沢がない青だから、通称『紙クラス』と呼ばれる初級クラスだ。
「・・・あのねエミーナ」
修道服を着た女が右隣を歩いていた魔術師の女に話し掛けたから、その魔術師の女、エミーナは真っ直ぐ向けていた視線を左の修道女に向けた。
「ん?ルシーダ、どうした?」
「やっぱりやめようよ」
「えー、どうしてー。もうこれしか手が無いんだよー」
「借金返済の為に命を賭けるのは、さすがにどうかと思います。バレンティノ神が呆れてるのではないでしょうか・・・」
「だからと言ってさあ、もう1回、借金の返済を猶予してもらうのは無理だよー。ハッキリ言って奨学金なんか借りるんじゃあなかったよー」
女魔術師、エミーナはそう言って「はーー」とため息をついたけど、なぜか隣のルシーダも同じく「はーー」とため息をついている。
「・・・だいたいさあ、ぜーんぶ魔王が悪いんだよー。魔王が帝国を壊しちゃったから就職先どころか学校そのものが無くなったっちゃったんだからさあ」
「それは何度も聞いたわよー。ま、私も同じようなものだけど」
「言いたくもなるよ!あと2か月で卒業っていう時に国も学校も無くなったから、帝国魔術隊どころか魔術師協会も解散してパーになったし、あのケチケチで有名なオッティ商会の会長が『8年分の奨学金を全部払え!』とか目茶苦茶な事を平然と言うんだよー。これって酷くなーい?」
「でも、エミーナは1年の猶予を貰えたんでしょ?中には『今月中に返せ!』とか言われて、泣く泣く娼館に入った子もいたんだから、そう考えればエミーナはマシな方よ」
「そ、それはそうだけど・・・一攫千金を狙った冒険者ギルドに行っても『実績がゼロだから初心者クラスからやってもらいます』とかで、帝国魔術師学校主席のボクが初心者扱いだから、日々の宿賃を稼ぐのが精一杯だなんて、父や母に合わせる顔がありません!」
「あー、たしかエミーナは紛いなりにも伯爵家令嬢だったわねえ」
「元・帝国伯爵家ね」
「あー、ゴメンゴメン」
ルシーダはエミーナに謝ったけど、エミーナは「気にしなくていいよー」と笑っていた。
そんな二人は壁が唯一途切れている場所、すなわち門から数十メートルという場所にまで来た。2人の視線の先には門番が、いや、正しくは魔法兵士が見えている。
「・・・いいルシーダ、もう1回、おさらいするよ」
「うん・・・」
「500年前に作られた物理的なトラップは先人たちの尊い犠牲で何も残ってない。でも、魔法生物や魔法のトラップは一度破壊しても、侵入者が全滅するか敷地の外へ出たら復活するから、今でも500年前のまま。だから魔法兵士が目の前に立ってるのは全然おかしくない」
「うん・・・」
「魔法生物たちをいかにして排除するか、その方法は2つ。1つは目的の場所へ行くまでの間に出現する全ての魔法生物や魔法のトラップを破壊する。でも、500年もの間、それを繰り返しているだけ。だから、もう1つの方法をやる!」
「たしかに誰も気付かなかった方法だけど、それを私とエミーナの2人でやるの?」
「それしかないでしょ!」
エミーナは少し口を荒げたけど、ルシーダは「はーー」と軽くため息をついた。
その時、エミーナは左腰にぶら下げていた布袋から、1つの赤く光る物を取り出した。
それを見た時、最初はルシーダは首を傾げたけど、突然「ハッ!」という表情になった。
「そ、それは魔晶石!」
「ぴんぽーん。この魔晶石のクラスから考えたら、3、4人が同時に詠唱するのと同じくらいの威力を発揮できるよー」
「どこで手に入れたのよ!」
「ん?魔王軍が宮殿をぶっ壊した後に宮殿の瓦礫の山で偶然見つけた。まあ、ホントの事を言えば、何かお金になりそうな物がないかゴソゴソやっている時に見付けたからコッソリ持ってた」
「もしかして・・・その杖も」
「ぴんぽーん。誰が使ってたのかは分からないけど、相当高位の導師が持ってた杖だよ。間違いなく魔法力の基礎を底上げする効果がある!」
「その2つがあれば借金が返済できたんじゃあないの?」
「無理無理!せいぜい半分。でも、今回、この別荘のお宝がゲットできるなら、魔晶石を使うだけの価値がある!!」
そう言うとエミーナはルシーダに目配せをしたから、再びルシーダは「はーー」と短くため息をついた。
「・・・はいはい、分かってます。私も同調して5、6人分の魔法力で、魔法王国時代の魔法そのものを壊すんでしょ?」
「そういう事。『魔法解除』で魔法生物たちに与えられた命令を全て無効化すれば、タダの彫像や絵画になる!あとは宝のある部屋、具体的には地下室へ行って秘密の部屋の鍵、いや、これはもう壊されてるから部屋の扉を開ければ、目の前にお宝がある!」
「という事は、お互い、走れる程度の気力を残す必要があるんでしょ?」
「当たり前だよ。この『魔法解除』を使った途端、気絶してしまって気付いたら誰かが宝箱を持ち去った後となれば、単なる馬鹿だよ」
「そうね」
「じゃあ、始めるよ」
そう言うとエミーナは真剣な表情で右手に持った杖を構え、ルシーダは自分の右手をエミーナの左手に当てた。
【・・・・・】
エミーナは何かの言葉を紡ぎ始めたけど、それはこの世界の日常語ではない。
エミーナが唱えているは『古代上位語』という、魔法王国成立前からある、魔法という超常現象を発動させるのに必要な言葉だ。
エミーナの詠唱に合わせて、エミーナの左手にあった魔晶石が少しずつ小さくなり白い結晶になっていく・・・エミーナの魔法力となって吸収され、元の姿に戻りつつあるのだ。
ルシーダはバレンティノ神への祈りを続けている・・・
「・・・正義の至高神バレンティノよ、我が友のために気力を分け与えよ」
【・・・全ての命令を取り消す事を命じる!!】
エミーナが今までで一番大きな声を上げた途端、別荘の敷地全体が光り輝いた!
「行くぞルシーダ!」
「分かってるわよ!」
エミーナもルシーダも肩でゼーゼー息をしている状態で走り出した!
でも、目の前にいた魔法兵士は石像のまま何も反応しない!この瞬間、エミーナは自分の勝利を確信した!!ルシーダも疲れが一気に吹き飛んだ気分になって、歓喜の表情で門を走り抜けた。
庭にあった樋嘴も石像のまま動かないし、玄関扉の獅子頭のノッカーが火を吐くこともなく、玄関ホールの砂丘の絵から暴風が吹き荒れる事もない!二人は歓喜の表情のまま廊下を突っ走ったけど、廊下の向こう正面にある弓兵の木像が矢を放つ事もなく、ギルドでの情報通り、地下室がある秘密の扉を蹴破り、そのまま階段を駆け下りた。階段の壁は永遠に輝き続ける『魔法の光源』と呼ばれる宝玉の照明で照らされているから『光源』の呪文も不要だ!
「あの扉だ!」
「やったわね!」
エミーナとルシーダは歓喜の表情のまま扉のドアノブに手を掛け、そのまま扉を勢いよく開けた!
その時だ!
” 我に聞け、さもなくば我を試せ! ”
いきなり空間中に響くような大声がした。
エミーナもルシーダも一瞬『ギクッ!』という表情をして固まったが、その瞬間、目を疑った!
二人の周囲の景色が変わっていた!
なぜなら、さっきまで『魔法の光源』と呼ばれる宝玉の照明で照らされた地下空間にいた筈なのに、なぜか荒野のような場所にいた。しかも緩やかに風が吹いていて、二人の髪が軽く靡いている。
「・・・瞬間移動の罠?いや、外は真昼間の筈なのにこの明るさは夕暮れか明け方・・・という事は魔術で作られた疑似空間・・・」
エミーナがそう呟いたのも束の間、自分たちから20歩くらい目の前に1体の甲冑を着た剣士が立っていた事に気付いた。
だが、その剣士は全く気配を感じさせない。しかも全身真っ黒の甲冑を着ていて、左の腰に吊るしている剣の鞘も黒く輝いている。
「・・・暗黒騎士?」
「だろうな。恐らくボクたちは正しい手順で地下室の扉を開けなかったから、番人とも言うべき暗黒騎士の空間というか世界に強制召喚されたという訳だ」
「えーっ!元の世界に戻れるのお!?」
「それはボクの方が聞きたいよ。並の魔術師5、6人分の威力で『魔法解除』をかけたのに、この空間が残っているという事は、この地下室には伝説の大魔導士センチュリーに匹敵するような魔術師が仕掛けた罠があったという事に他ならない」
「だからギルドには地下室の扉から先の情報が無かったのね」
「ああ。過去500年の間に地下室の扉の前まで行ったのは、少なくとも30パーティはあった。だが、どのパーティも生きて戻って来なかった。つまり、この暗黒騎士は500年に渡って財宝を守り続けている、お宝の守護神だ」
「そんなあ。元の世界に戻れるの?」
「自信はないけど・・・暗黒騎士を倒せば」
「勘弁してよー。私でも知ってるけど暗黒騎士は魔法生物の中でも最強クラスよ。騎士団の隊長クラスかそれ以上の実力者並みの腕前と、殆ど魔法が効かなくて超固い甲冑を纏った、いわば騎士の形をした闇属性の鉄人形よ!伝説の大魔導士センチュリーに匹敵する魔術師が作った暗黒騎士を相手にして、どうやって魔術師と神官の2人で倒せって言うのよ!!!」
” もう一度言う、我に聞け、さもなくば我を試せ! ”
再び暗黒騎士は叫んだが、その言葉にエミーナは『ハッ!』という表情をした。
「そ、そうか分かったぞ!ルシーダ、合言葉を正しく言えれば問題ない!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり言われても・・・」
「『さもなくば我を試せ』というのがヒントなのは間違い!」
「じゃあエミーナは答えが分かるの?」
「分からないからルシーダに聞いた」
「こんな時に屁理屈言ってないで考えなさいよ!」
「分かったら苦労しない!」
エミーナもルシーダも必死になって考えたが、他にヒントになりそうな物でもあればいいのだが、それも無しに合言葉を答えられる訳が無い。二人とも焦りの色が濃くなってきた。
” 最終通告だ。あと1分で答えなければ我に敵対するとみなし、強制的に排除する! ”
そう言うと暗黒騎士は腰の剣を抜いた!その剣は暗黒騎士らしく、漆黒だった。
「・・・ルシーダ、頼みがある」
「何?」
エミーナは小声でルシーダに言ったけど、エミーナは右手に持った杖を掲げ、真剣な表情をしていた。
「・・・2分、持ちこたえられるか?」
「はあ!?」
「だーかーら、2分、いや1分でいい!暗黒騎士の攻撃を耐えられるか?」
「・・・『不可視の盾』が暗黒騎士の攻撃にどれだけ耐えられるか分からないわよ」
「・・・奴に直接攻撃の呪文は殆ど効果がない。だけど、暗黒騎士の弱点は『聖』の力だ。この場で聖騎士を召喚する!」
「・・・やった事、あるの?」
「呪文そのものは覚えてるが、こんな切羽詰まった状況で、というより実戦で使った事が無いのは認める・・・」
「やるしかないでしょ?このまま放っておいても私たちは暗黒騎士に切り刻まれてジ・エンド。仮に脱出できたとしても3日後までに借金が返せないなら、魔術の実験台にされるかオッティ商会の用心棒が有無を言わさず娼館に叩きこむかでジ・エンド。どうせジ・エンドになるなら、一か八かに賭けるべきね」
「決まったな」
そう言うとエミーナは額に脂汗を掻きながら呪文の詠唱を始めた。
ルシーダも精神の集中を始めた。かなり精神を高揚させて『不可視の盾』の呪文を唱えないと、暗黒騎士に一撃で破壊される恐れがある!二人とも必死だ!!
” 時間だ!我に敵対するとみなし、生きて帰る事は叶わぬ! ”
暗黒騎士は動き出した!
「正義の至高神バレンティノの名において命じる!盾よ、我らを守れ!」
暗黒騎士の剣が届く寸前にルシーダは呪文を唱え、漆黒の剣は見えない盾に弾き返された!暗黒騎士の漆黒の剣が見えない盾に触れるたびに青白い火花が飛び散っているが、そんな事を見ている余裕は二人には無い!
「エミーナ、まだなの!!」
ルシーダはエミーナの方を見たが、そのエミーナは全身汗だらけになりながら詠唱を続けている!明らかに全身が震えていて、恐怖と戦いながら気力だけ詠唱しているとしか思えない!
” ピシッ! ”
見えない筈の盾に白い筋が1本入った!
その筋は暗黒騎士の漆黒の剣が触れるたびに2本、3本と増えている!暗黒騎士の攻撃に耐えられなくなってきたのだ!
「エミーナ!」
ルシーダが再び絶叫した時、エミーナの杖が光った!!
【・・・我は汝を召喚す!至高の存在、聖騎士よ!出でて我が手足となれ!!】
その結果、天上界は天使、妖精界は妖精、魔界は魔族、地上界は人間が住む事で確定し、その確定した年を紀元1年とする事になり、神々の戦乱の時代は紀元前と呼ぶ事になった。
1 地上が人間の物となる。
125 ベネトン王国(世界最初の王国)成立。以後、小国が乱立する。
322 エレッセ王国(通称:魔法王国)成立。一部の島国を除き、エウロパ
大陸を支配下に置く。ガニメデ大陸、イオ大陸、カリスト大陸も大半
を支配下に置く。
(全ての大陸を支配下に置いた、最初で最後の王国)
739 十字軍結成、魔法王国に反乱を起こす。
(魔法対剣の争い)
741 エレッセ王国崩壊、魔法の時代が終結する。
剣の時代(混乱の時代)に突入。
925 神聖エルメス帝国成立、エウロパ大陸西側を全てを領有。
990 神聖エルエス帝国、大陸統一を図り、モンゴリア帝国に侵攻
992 カンドゥーマ高原で東西の帝国が決戦を行う
(カンドゥーマ高原の戦い)
神聖エルメス帝国が完敗。神聖エルメス帝国の国内情勢が不安定化
1001 神聖エルメス帝国崩壊、再び混乱の時代に突入。
(20以上の小国に分裂し、以後、戦乱の時代が20年続く)
1022 神聖バレンティノ王国、エルメス王国、ヒューゴボス帝国成立。
(この3か国で大陸西側の8割を支配し、現在の『3強』体制の
元が出来上がる)
1192 神聖バレンティノ王国、12の王国に分裂する。
1193 エルメス王国、西側統一に乗り出す。
同 旧・神聖バレンティノ王国、『神聖バレンティノ公国』として同盟を
結び、エルメス王国に対抗。
1196 エルメス王国、統一を断念。
神聖バレンティノ公国は名前だけの存在となり12か国の主導権争い
が始まる。
1217 ヒューゴボス帝国、魔法王国の遺産を使って西側統一に乗り出す。
同 旧・神聖バレンティノ王国(5か国にまで減少)、再び神聖バレンティ
ノ公国として同盟を結びヒューゴボス帝国に対抗。
1219 魔法王国の遺産が暴走、魔界と地上をつなぐ門が出現する。
魔族の王、魔王ウーノと名乗る者が魔界から現れる。
(魔王ウーノ、全世界の国に絶対的服従か死の2択を迫る)
ヒューゴボス帝国、責任を認め皇帝の退位及び皇太子廃嫡を引換に同盟
を提案。全世界の国々が同盟結成、人間対魔族の全面戦争となる。
ヒューゴボス帝国、臨時皇帝が即位し専制政治から共和制に移行。
1221 ヒューゴボス帝国の帝都クロトが陥落、実質滅亡。
ヒューゴボス帝国が滅亡してから1年、大陸共通歴1222年4月・・・
ここは神聖バレンティノ公国を形成する5つの国の1つ、ドルチェガッバーナ王国
王都ファウナの東、アトロポス山の麓にある魔法王国時代の別荘・・・
当然だが無人になって500年経つが、別荘の主人が留守の間に盗賊たちが別荘を荒らさないよう、様々な魔法の仕掛けをしてあり、魔法生物の守衛たちは500年たった今でも命令を忠実に守っている・・・
その別荘に残された財産を狙って、500年の間に数千回、延べ3万人以上が挑み、まだ誰も手に入れた者はいない。犠牲者の数も数千人に上る。
その別荘を囲む塀のすぐ外を歩く、2つの影があった。
1人は亜麻色の髪を肩まで伸ばした、美しい女性だ。
見た目は10代半ばだから女の子と呼んだ方がいいかもしれない。この世界の知識が少しでもある人なら、この若い女性は魔術師だというのが分かる。手にしているのは樫で出来た杖だ。樫の杖を持っているから、この若い女性は導師の資格を得ている・・・筈なのだが、よーく見ると若い女性の着ている法衣は学生、それもヒューゴボス帝国魔術師学校の生徒の制服だ。という事は、導師でもないのに導師の杖を持っている事になる。しかも、帝国滅亡に合わせて魔術師学校も廃校になったはず・・・
もう1人も若い女性だ。美しいブロンドの髪を高く結い上げているが、こちらも法衣のような物を着ているが、どう見ても修道服だ。左胸には白銀の十字架の刺繍がしているとういう事は、この若い女はバレンティノ神に仕える聖職者だ。ただ、この特徴ある修道服はヒューゴボス帝国の帝都クロトにあった修道院の院生の修道服だ。という事は修道女がこんな場所を歩いてる事になるし、修道院そのものは帝国滅亡に合わせて閉鎖されたはず・・・
でも・・・この2人、首にかけている首輪は『ギルドバッジ』と呼ばれる、冒険者の証だ。しかも全く光沢がない青だから、通称『紙クラス』と呼ばれる初級クラスだ。
「・・・あのねエミーナ」
修道服を着た女が右隣を歩いていた魔術師の女に話し掛けたから、その魔術師の女、エミーナは真っ直ぐ向けていた視線を左の修道女に向けた。
「ん?ルシーダ、どうした?」
「やっぱりやめようよ」
「えー、どうしてー。もうこれしか手が無いんだよー」
「借金返済の為に命を賭けるのは、さすがにどうかと思います。バレンティノ神が呆れてるのではないでしょうか・・・」
「だからと言ってさあ、もう1回、借金の返済を猶予してもらうのは無理だよー。ハッキリ言って奨学金なんか借りるんじゃあなかったよー」
女魔術師、エミーナはそう言って「はーー」とため息をついたけど、なぜか隣のルシーダも同じく「はーー」とため息をついている。
「・・・だいたいさあ、ぜーんぶ魔王が悪いんだよー。魔王が帝国を壊しちゃったから就職先どころか学校そのものが無くなったっちゃったんだからさあ」
「それは何度も聞いたわよー。ま、私も同じようなものだけど」
「言いたくもなるよ!あと2か月で卒業っていう時に国も学校も無くなったから、帝国魔術隊どころか魔術師協会も解散してパーになったし、あのケチケチで有名なオッティ商会の会長が『8年分の奨学金を全部払え!』とか目茶苦茶な事を平然と言うんだよー。これって酷くなーい?」
「でも、エミーナは1年の猶予を貰えたんでしょ?中には『今月中に返せ!』とか言われて、泣く泣く娼館に入った子もいたんだから、そう考えればエミーナはマシな方よ」
「そ、それはそうだけど・・・一攫千金を狙った冒険者ギルドに行っても『実績がゼロだから初心者クラスからやってもらいます』とかで、帝国魔術師学校主席のボクが初心者扱いだから、日々の宿賃を稼ぐのが精一杯だなんて、父や母に合わせる顔がありません!」
「あー、たしかエミーナは紛いなりにも伯爵家令嬢だったわねえ」
「元・帝国伯爵家ね」
「あー、ゴメンゴメン」
ルシーダはエミーナに謝ったけど、エミーナは「気にしなくていいよー」と笑っていた。
そんな二人は壁が唯一途切れている場所、すなわち門から数十メートルという場所にまで来た。2人の視線の先には門番が、いや、正しくは魔法兵士が見えている。
「・・・いいルシーダ、もう1回、おさらいするよ」
「うん・・・」
「500年前に作られた物理的なトラップは先人たちの尊い犠牲で何も残ってない。でも、魔法生物や魔法のトラップは一度破壊しても、侵入者が全滅するか敷地の外へ出たら復活するから、今でも500年前のまま。だから魔法兵士が目の前に立ってるのは全然おかしくない」
「うん・・・」
「魔法生物たちをいかにして排除するか、その方法は2つ。1つは目的の場所へ行くまでの間に出現する全ての魔法生物や魔法のトラップを破壊する。でも、500年もの間、それを繰り返しているだけ。だから、もう1つの方法をやる!」
「たしかに誰も気付かなかった方法だけど、それを私とエミーナの2人でやるの?」
「それしかないでしょ!」
エミーナは少し口を荒げたけど、ルシーダは「はーー」と軽くため息をついた。
その時、エミーナは左腰にぶら下げていた布袋から、1つの赤く光る物を取り出した。
それを見た時、最初はルシーダは首を傾げたけど、突然「ハッ!」という表情になった。
「そ、それは魔晶石!」
「ぴんぽーん。この魔晶石のクラスから考えたら、3、4人が同時に詠唱するのと同じくらいの威力を発揮できるよー」
「どこで手に入れたのよ!」
「ん?魔王軍が宮殿をぶっ壊した後に宮殿の瓦礫の山で偶然見つけた。まあ、ホントの事を言えば、何かお金になりそうな物がないかゴソゴソやっている時に見付けたからコッソリ持ってた」
「もしかして・・・その杖も」
「ぴんぽーん。誰が使ってたのかは分からないけど、相当高位の導師が持ってた杖だよ。間違いなく魔法力の基礎を底上げする効果がある!」
「その2つがあれば借金が返済できたんじゃあないの?」
「無理無理!せいぜい半分。でも、今回、この別荘のお宝がゲットできるなら、魔晶石を使うだけの価値がある!!」
そう言うとエミーナはルシーダに目配せをしたから、再びルシーダは「はーー」と短くため息をついた。
「・・・はいはい、分かってます。私も同調して5、6人分の魔法力で、魔法王国時代の魔法そのものを壊すんでしょ?」
「そういう事。『魔法解除』で魔法生物たちに与えられた命令を全て無効化すれば、タダの彫像や絵画になる!あとは宝のある部屋、具体的には地下室へ行って秘密の部屋の鍵、いや、これはもう壊されてるから部屋の扉を開ければ、目の前にお宝がある!」
「という事は、お互い、走れる程度の気力を残す必要があるんでしょ?」
「当たり前だよ。この『魔法解除』を使った途端、気絶してしまって気付いたら誰かが宝箱を持ち去った後となれば、単なる馬鹿だよ」
「そうね」
「じゃあ、始めるよ」
そう言うとエミーナは真剣な表情で右手に持った杖を構え、ルシーダは自分の右手をエミーナの左手に当てた。
【・・・・・】
エミーナは何かの言葉を紡ぎ始めたけど、それはこの世界の日常語ではない。
エミーナが唱えているは『古代上位語』という、魔法王国成立前からある、魔法という超常現象を発動させるのに必要な言葉だ。
エミーナの詠唱に合わせて、エミーナの左手にあった魔晶石が少しずつ小さくなり白い結晶になっていく・・・エミーナの魔法力となって吸収され、元の姿に戻りつつあるのだ。
ルシーダはバレンティノ神への祈りを続けている・・・
「・・・正義の至高神バレンティノよ、我が友のために気力を分け与えよ」
【・・・全ての命令を取り消す事を命じる!!】
エミーナが今までで一番大きな声を上げた途端、別荘の敷地全体が光り輝いた!
「行くぞルシーダ!」
「分かってるわよ!」
エミーナもルシーダも肩でゼーゼー息をしている状態で走り出した!
でも、目の前にいた魔法兵士は石像のまま何も反応しない!この瞬間、エミーナは自分の勝利を確信した!!ルシーダも疲れが一気に吹き飛んだ気分になって、歓喜の表情で門を走り抜けた。
庭にあった樋嘴も石像のまま動かないし、玄関扉の獅子頭のノッカーが火を吐くこともなく、玄関ホールの砂丘の絵から暴風が吹き荒れる事もない!二人は歓喜の表情のまま廊下を突っ走ったけど、廊下の向こう正面にある弓兵の木像が矢を放つ事もなく、ギルドでの情報通り、地下室がある秘密の扉を蹴破り、そのまま階段を駆け下りた。階段の壁は永遠に輝き続ける『魔法の光源』と呼ばれる宝玉の照明で照らされているから『光源』の呪文も不要だ!
「あの扉だ!」
「やったわね!」
エミーナとルシーダは歓喜の表情のまま扉のドアノブに手を掛け、そのまま扉を勢いよく開けた!
その時だ!
” 我に聞け、さもなくば我を試せ! ”
いきなり空間中に響くような大声がした。
エミーナもルシーダも一瞬『ギクッ!』という表情をして固まったが、その瞬間、目を疑った!
二人の周囲の景色が変わっていた!
なぜなら、さっきまで『魔法の光源』と呼ばれる宝玉の照明で照らされた地下空間にいた筈なのに、なぜか荒野のような場所にいた。しかも緩やかに風が吹いていて、二人の髪が軽く靡いている。
「・・・瞬間移動の罠?いや、外は真昼間の筈なのにこの明るさは夕暮れか明け方・・・という事は魔術で作られた疑似空間・・・」
エミーナがそう呟いたのも束の間、自分たちから20歩くらい目の前に1体の甲冑を着た剣士が立っていた事に気付いた。
だが、その剣士は全く気配を感じさせない。しかも全身真っ黒の甲冑を着ていて、左の腰に吊るしている剣の鞘も黒く輝いている。
「・・・暗黒騎士?」
「だろうな。恐らくボクたちは正しい手順で地下室の扉を開けなかったから、番人とも言うべき暗黒騎士の空間というか世界に強制召喚されたという訳だ」
「えーっ!元の世界に戻れるのお!?」
「それはボクの方が聞きたいよ。並の魔術師5、6人分の威力で『魔法解除』をかけたのに、この空間が残っているという事は、この地下室には伝説の大魔導士センチュリーに匹敵するような魔術師が仕掛けた罠があったという事に他ならない」
「だからギルドには地下室の扉から先の情報が無かったのね」
「ああ。過去500年の間に地下室の扉の前まで行ったのは、少なくとも30パーティはあった。だが、どのパーティも生きて戻って来なかった。つまり、この暗黒騎士は500年に渡って財宝を守り続けている、お宝の守護神だ」
「そんなあ。元の世界に戻れるの?」
「自信はないけど・・・暗黒騎士を倒せば」
「勘弁してよー。私でも知ってるけど暗黒騎士は魔法生物の中でも最強クラスよ。騎士団の隊長クラスかそれ以上の実力者並みの腕前と、殆ど魔法が効かなくて超固い甲冑を纏った、いわば騎士の形をした闇属性の鉄人形よ!伝説の大魔導士センチュリーに匹敵する魔術師が作った暗黒騎士を相手にして、どうやって魔術師と神官の2人で倒せって言うのよ!!!」
” もう一度言う、我に聞け、さもなくば我を試せ! ”
再び暗黒騎士は叫んだが、その言葉にエミーナは『ハッ!』という表情をした。
「そ、そうか分かったぞ!ルシーダ、合言葉を正しく言えれば問題ない!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり言われても・・・」
「『さもなくば我を試せ』というのがヒントなのは間違い!」
「じゃあエミーナは答えが分かるの?」
「分からないからルシーダに聞いた」
「こんな時に屁理屈言ってないで考えなさいよ!」
「分かったら苦労しない!」
エミーナもルシーダも必死になって考えたが、他にヒントになりそうな物でもあればいいのだが、それも無しに合言葉を答えられる訳が無い。二人とも焦りの色が濃くなってきた。
” 最終通告だ。あと1分で答えなければ我に敵対するとみなし、強制的に排除する! ”
そう言うと暗黒騎士は腰の剣を抜いた!その剣は暗黒騎士らしく、漆黒だった。
「・・・ルシーダ、頼みがある」
「何?」
エミーナは小声でルシーダに言ったけど、エミーナは右手に持った杖を掲げ、真剣な表情をしていた。
「・・・2分、持ちこたえられるか?」
「はあ!?」
「だーかーら、2分、いや1分でいい!暗黒騎士の攻撃を耐えられるか?」
「・・・『不可視の盾』が暗黒騎士の攻撃にどれだけ耐えられるか分からないわよ」
「・・・奴に直接攻撃の呪文は殆ど効果がない。だけど、暗黒騎士の弱点は『聖』の力だ。この場で聖騎士を召喚する!」
「・・・やった事、あるの?」
「呪文そのものは覚えてるが、こんな切羽詰まった状況で、というより実戦で使った事が無いのは認める・・・」
「やるしかないでしょ?このまま放っておいても私たちは暗黒騎士に切り刻まれてジ・エンド。仮に脱出できたとしても3日後までに借金が返せないなら、魔術の実験台にされるかオッティ商会の用心棒が有無を言わさず娼館に叩きこむかでジ・エンド。どうせジ・エンドになるなら、一か八かに賭けるべきね」
「決まったな」
そう言うとエミーナは額に脂汗を掻きながら呪文の詠唱を始めた。
ルシーダも精神の集中を始めた。かなり精神を高揚させて『不可視の盾』の呪文を唱えないと、暗黒騎士に一撃で破壊される恐れがある!二人とも必死だ!!
” 時間だ!我に敵対するとみなし、生きて帰る事は叶わぬ! ”
暗黒騎士は動き出した!
「正義の至高神バレンティノの名において命じる!盾よ、我らを守れ!」
暗黒騎士の剣が届く寸前にルシーダは呪文を唱え、漆黒の剣は見えない盾に弾き返された!暗黒騎士の漆黒の剣が見えない盾に触れるたびに青白い火花が飛び散っているが、そんな事を見ている余裕は二人には無い!
「エミーナ、まだなの!!」
ルシーダはエミーナの方を見たが、そのエミーナは全身汗だらけになりながら詠唱を続けている!明らかに全身が震えていて、恐怖と戦いながら気力だけ詠唱しているとしか思えない!
” ピシッ! ”
見えない筈の盾に白い筋が1本入った!
その筋は暗黒騎士の漆黒の剣が触れるたびに2本、3本と増えている!暗黒騎士の攻撃に耐えられなくなってきたのだ!
「エミーナ!」
ルシーダが再び絶叫した時、エミーナの杖が光った!!
【・・・我は汝を召喚す!至高の存在、聖騎士よ!出でて我が手足となれ!!】
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