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アツモリ、素敵なお姉さんと試合をする

第14話 東方系の剣士(?)

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「・・・いってらっしゃーい」

 翌朝、エポは宿屋のカウンターで敦盛たちを見送ったが、エポは終始ニコニコ顔だった。まあ、他の冒険者や一般の宿泊者もいたから敦盛だけを特別扱いしなかったのかもしれないし、ただ単に昨夜の方が営業スマイルだったのかもしれない。
 そんな敦盛たちは、宿屋を出た後は教会の方向とは逆方向に向かって歩いている。

「・・・おーいエミーナ。冒険者ギルドに行って何をするんだ?」
「ノンノン!まずは武器屋だよ」
「武器屋?」
 敦盛はエミーナの意外な言葉に思わず逆質問してしまったほどだ。
「・・・昨日も言ったけど、ボクもエミーナも制服のままだから新しいのが欲しい。それに、冒険者ギルドに登録するという事は、能力試験を受ける事になる」
「能力試験?」

 敦盛は再びエミーナに逆質問してしまった。というより敦盛の感覚では名前を登録すればそれで終了なのだ。
 敦盛にとって冒険者ギルドとはドナクエⅢ、つまりゲーム『DKQドラゴンナイトクエストⅢ』の最初の町にある『ルイーズの酒場』の事であり、名前と職業を入力すればレベル1の冒険者の出来上がり!だから敦盛も名前を登録するだけで終わりだと思っていたのだ!!

「・・・まあ、能力試験の事を言わなかったボクにも責任があるけど、簡単に言えばギルドの裏庭で魔法生物と1対1で対戦し、それに勝てば入会が認められるのさ」
「マジ!?」
「大丈夫大丈夫!剣をある程度握った事がある人なら勝てるレベルの相手だし、怪我をしたら治療もしてくれるよ」
「はーー・・・俺、昨日の鎧のバケモノみたいな奴を相手に試合をするのかと思ったよ」
「ただし・・・」
 そこでエミーナは言葉を切ってしまった。
 敦盛は「おや?」と思って右にいたエミーナを覗き込んだが、エミーナは深刻な顔をしている。一体、何があったんだ?
「・・・正直に言うが、昨日、あの別荘にボクとルシーダが挑んだことは冒険者ギルド側が知っている。その別荘が既に攻略済になった事もギルド側は知ってる。だから、ボクもルシーダも今日からペーパークラスではなく青銅ブロンズクラスになるのは確実だ」
「それがどうした?」
「アツモリがボクとルシーダの3人でパーティを組むなら、アツモリは飛び級試験、つまり、いきなり青銅ブロンズクラスの入会試験を受けてもらう事になる」
「マジかよ!?」
「スマン・・・初心者を上級レベルのパーティに入れると、そのパーティの足を引っ張るどころか、場合によってはパーティを全滅させる要因になる。だから悪しき前例を作る訳にはいかない」
「まあ、それは当然だよな。剣道の団体戦でも1人だけ初心者を入れて挑むなど有り得ないからな」
「ケンドー?ダンタイセン?何だそりゃあ?」
「ま、俺があっちの世界でやっていた武術の事だから気にしないでくれ。あくまで競技としての武術だから命のやり取りは厳禁だし、禁止技とかも存在する。でも、その説明をすると長くなるから終わりにするけど、ようするに難易度の高い試験を受ける事になるんだろ?」
「そういう事だ。その代わり、青銅ブロンズクラスなら依頼料も多く手に入るし、ギルドで受けられるサービスもペーパークラスより上になる」
「分かった。だから防具を買い揃えて試験に挑めって事だろ?」
「そういう事だ」
 エミーナは最後まで深刻な表情を崩さなかったから、敦盛には腑に落ちない点があったのも事実だ。だが、それを詮索しても仕方ないと思って再質問するのを止めた。
 だが、本当はエミーナはその飛び級試験の内容をのだ・・・ルシーダもそれを知っているから敢えて黙っていたのだ。
「・・・ところでエミーナ、武器屋ってどこにある?」
「ん?もう着いた」
「はあ!?」
 敦盛は思わず大声を上げてしまったが、たしかに敦盛の目の前にある建物には、剣と盾を組み合わせた看板とで何かが書いてあった。
「おいおいー、こーんな身近にあるなら昨日のうちに行っても良かったんじゃあないのかあ?」
「「まあまあ、気にしない気にしない!」」
 敦盛の肩をエミーナとルシーダはニコニコしながら両側からポンポンと叩いてるけど、敦盛としては何となくだが馬鹿にされたような気分になってテンションが下がってしまったのはいうまでもない。

” カランカランカラーン・・・ ”

「へい、いらっしゃーい!」

 鐘のついた扉を開けると、その正面には恰幅のいい親父が一人、店番をしていた。でも、その顔や太い腕のあちこちに刃物で付けれらたと思われる古傷がある。
「おはようっす、タフトさん」
 そう言って武器屋の親父、タフトに挨拶をしたのはエミーナだ。その挨拶に右手を軽く上げて答えたタフトだけど、エミーナに続いて並ぶようにして店に入ってきた人物を見て、タフトは「ヒュー」と軽く口笛を吹いた。
「あれー?ルシーダちゃん、朝からデートかあ?」
「ちょ、ちょっとタフトさん!聖職者を揶揄わないで下さい!」
「おいおいー、『聖職者はデートしてはならない』などと経典に書いてあるのかい?」
 そう言ってタフトは「ガハハハハー」と豪快に笑い飛ばしてるけど、ルシーダは「はーー」とため息をつく事しか出来なかったし、敦盛も「こいつ、何を考えてるんだあ?」と言いそうになったけど辛うじて堪えた。ただ、敦盛は、一瞬だがドキッとしたのは事実なのだ。
「・・・ま、それは冗談として、お客さんを紹介してくれるのかあ?」
 タフトはさっきまでの豪快な笑いが影を潜め、真面目な顔になってエミーナたち3人を交互に見たけど、エミーナは「そうだよ」と言ってニコッとした。
「オレの店に東方系の剣士が来るのは初めてだ!兄ちゃん、名前は?」
「俺の名前ですか?」
「そうだ、さすがに『兄ちゃん』だと、どこの誰の事を言ってるのか分からないだろ?」
「ま、まあ、たしかにそうですね」
「だろ?」
「俺の名は敦盛」
「アツモリさんかあ。たしかにこの国どころか、西方系の名前じゃあないな」

 そう言いながらタフトは敦盛を見てるけど、その眼光は鋭い!どうやら敦盛の事を見極めようとしているとしか思えない。
「アツモリさんよお、オレの見立てだが、あんた、剣士じゃあないな?」
「へ?」
 タフトが口に出した言葉に、思わず敦盛は間抜けな返事をしてしまったが、タフトは今でも大真面目だ。
「・・・オレは元『白金プラチナ』の冒険者だ。さすがに今は『鑑定士』のスキルを活かして商売してるけど、あんたが持ってる武器、1本は間違いなく片手半剣バスタードソードだけど、もう1本の武器は違う!」
「あー、よく気付きましたねえ」
「あたり前だ。オレは鑑定士だ!世界中の武器・防具を知っている!と言いたのだが、半分くらいは書物での知識だ。でも、オレはその武器の実物を見た事が1度だけある!10年以上も前だが、オレがまだ現役だった頃、東方の島国イズモの国の使節団がヒューゴボス帝国を表敬訪問した際、護衛の武人が持っていた武器を見せてもらった事がある。その武器の名前は・・・カタナだ!」
「正解ですよ」
 敦盛はアッサリと自分の持っている武器が刀だと見抜いた事に驚いたけど、この世界にも刀があるのかと思ってビックリしたというのが本音だ。たしかに昨日の別荘で見た武器の中に刀は無かったし、実際、敦盛の視界にも壁一面に剣や槍、戟、戦斧バトルアックスがあるけど刀は無い!
 エミーナもルシーダも「へえー」と感心しながら敦盛の腰に差してある刀を見ていたが、さすがのタフトもこの刀が『大太刀おおたち』である事までは知らないようだし、もしかしかしたら『オオタチ』という名称そのものがこの世界には無いのかもしれないと思い、敦盛もその点については黙っている事にした。
「・・・たしか、その護衛の武人は、自分の事を『モノノフ』だと言ってたよ。イズモの国では武人の事を『モノノフ』と言うらしいが、東方の大国、モンゴリア帝国どころか大陸西方、いや、エウレパ大陸以外の3つの大陸にも『モノノフ』という職業は見当たらない。でも、『モノノフ』は刀を1本しか持ってないけど、アツモリさんは剣とカタナの2本持っている。モノノフでないとしたら、君の職業は何だ?」
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