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行間7 お宝の山(?)

第45話 最高額の鑑定品

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 もう太陽はかなり高い位置まで上っている。
 だが、セレナ王女から朝食に招待されただけでなく、第1王女の指輪まで受け取った。今日はそれだけでも価値があったのだし、だいたい、こんな時間に冒険者ギルドに行っても仕方ないから、敦盛たちが向かった先は・・・タフト武具店だ。

♪♪カランカランカラーン♪♪

「・・・おう、久しぶりだな」

 カウンターにいたのはタフト本人だったけど、右手を軽く上げたから、敦盛たち3人も右手を軽く上げて応えた。
「・・・アツモリさんよお、いつの間にかシエナ以上の有名人じゃあないのかあ?」
「タフトさあん、そのせいで、俺はオチオチ散歩にも行けないんだぜー」
「ま、オレとしては店の売り上げに貢献してくれれば文句を言う気はないけどなー」
 タフトはそう言ってニヤニヤ顔で敦盛を見てるけど、その敦盛は「はーー」とため息をついたし、エミーナやルシーダも苦笑いするしかなかった。
「・・・何か買いたい物があるのか?」
「いんや、その逆。買い取って欲しい物があるから来た」
「ほおー。となるとエミーナちゃん、どこかの遺跡でドデカイ物を見付けたのかあ?」
「ドデカイ物には違いないけど、ドデカイの意味が違うけどね」
「何だそりゃあ?」
 タフトは思わず首を捻ってしまったけど、エミーナは「はーー」とため息をつくしか出来なかった。

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「・・・よくもまあ、これだけのガラクタを集めたと逆に感心するぞー」
「だろ?」

 タフトは「はーー」とため息をついたけど、エミーナだけでなく敦盛やルシーダも一緒になって「はーー」とため息をついた。無理もない、店の奥の小部屋でエミーナが『魔法の巾着袋マジックポーチ』をぶちまけるかのようにして取り出したゴブリンたちが集めたガラクタの山は、小部屋の床一面を埋め尽くしてしまい、それこそ『足の踏み場も無い』どころか、ガラクタで完全に膝近くまで埋まってるのだ(逆にいえば、それだけの量を『魔法の巾着袋マジックポーチ』に詰め込んでいた事にもなる)。
 ゴブリンには金属を集める習性がある。使い道が分からなくても自分たちの巣穴に持って帰る習性があるから、盗賊団はそれを逆手に取ってゴブリンの仕業に見せ掛けた窃盗をあちこちで繰り返していたのだ。もちろん、窃盗団は本物の金銀や宝石にしか目が無いけど、ゴブリンにとっては道端に落ちている錆びた釘1本でも『お宝』なのだ。
「・・・これ、鑑定をお願いしてもいい?」
「オレは別に構わないけど、鑑定手数料として鑑定額の2割をもらう事になるけど、それでもいいか?」
「それでもいいからやってくれ。今夜の夕飯が多少豪勢になる程度の利益だったとしても、ボクたちは文句を言う気はないし、だいたい、今回の依頼は『骨折り損のくたびれ儲け』がピッタリだったから思い出したくもない」
「はーー、オレ1人でやったら明日になっても終わりそうもないから、助っ人を呼ぶしかないな」
「助っ人?」
「そう、助っ人。昼飯を食ってる筈だから、ちょっと呼んで来るから待っててくれ」
 タフトは「はーー」と再びため息をつきながら部屋を出て行ったけど、タフトは直ぐに戻って来た。
 でも、戻って来た時にはタフト1人ではなく3人だった。しかも2人は女性だった。
「・・・アツモリさーん!握手して下さーい!!」
 2人の女性のうち、ニキビ顔の女の子はガラクタを踏み分けるようにしながら敦盛に握手をせがんだから敦盛は苦笑するしかなかったけど、それでも右手をサッと差し出すと、その女の子は両手で敦盛の右手を力強く握った。
「・・・わたし、ルーミーと言います!」
 その女の子、ルーミーは天彦の右手を両手でブンブンと振り回すかのように握ってたけど、そのまま泣き出してしまったから、逆に敦盛が困惑しているくらいだ。
 ルーミーは暫く泣いてたけど、泣き止んだ後に敦盛から理由を聞かれると
「だってー、あのサムライ様に握手して貰えるなんて、これほど幸せな事はありません!これでお友達にも自慢できるから、ホントにアツモリさんには感謝しています!」
 ルーミーはそう言ってまた泣き出してしまったけど、ルーミーに続いて敦盛と握手をしたのはルーミーの母親でタフトの奥様だ。名前はキャスト、年齢は敦盛の母親より相当若そうだ。キャストはルーミーのように泣き出す事はなかったけど、興奮したような表情で敦盛の右手を両手でガッシリ握ったのだから、敦盛も苦笑するしかなかった。

 タフトは正直ウンザリ顔でキャストは『仕方ないわね』と言わんばかりのサバサバした表情だけど、ルーミーだけはニコニコ顔だ。敦盛は不思議に思って
「・・・あのー、ルーミーちゃん」
「ん?どうかしましたか?」
「鑑定のお手伝いって、楽しい?」
「わたしも鑑定士一家の娘だから、将来の夢は鑑定士よ!今はまだ鑑定士見習いだけど、いずれ鑑定士の資格を取ってお父さんみたいな『財宝発掘家トレジャーハンター』になるつもりだよ。今回はお父さんから『アツモリさんたちの売り物で得られた利益の20分の1を小遣いでくれてやる』って言われたから頑張っちゃいます!」
「ふーん。それで、鑑定士の卵さんのはどの程度ですかあ?」
「うーん・・・正直に言うけど、殆ど鍛冶師さんに引き取ってもらう事になるから、せいぜい来月の小遣いの2、3割アップくらいかなあ」
「へいへい、どーせゴブリンから見たら『お宝』でも、人間から見たらゴミですからね」
「そういう事です」
 敦盛は「はーー」とため息をついたけど、ルーミーだけはニコニコ顔で「さあ、小遣い稼ぎを始めるわよ!」とか言って右手をグーにして突き上げてからから、主に鉄くずを取り分けていった。

 ゴブリンの巣穴にあったお宝(?)の大半は鉄パイプや釘のようなタダの鉄くずだけど、鍛冶師が鍋やフライパンのような生活用品を作る材料として引き取ってくれるから、単価は安いとはいえ量が量だけに結構いい値段がつくのは間違いない。鉄製の剣や盾、さらには短剣やナイフのような物も相当あったけど、殆どは錆びていたり刃が欠けていたりして使い物にならないから鉄くず扱いだ。

 ただ・・・

「・・・ちょ、ちょっとお父さん!何が付与されてるか分からないけど絶対にこれ、魔法の剣よ!」
「ちょ、ちょっとあなた!この指輪リングは魔法王国時代の物じゃないの!?」
「お、おい、これって神聖エルメス帝国銀貨じゃあないか!1枚でバレンティノ金貨3枚に相当するとまで言われるマニア垂涎の代物だぞ!」
「も、もしかしてベネトン王国時代の銀貨!結構傷ついてるけどバレンティノ銀貨3、4枚じゃあ済まない値がつくわよ!」
「お父さん、これ、タダの指輪とは思えない!絶対に何かの『魔法道具マジックアイテム』だよ!!」
「うわー、これ、今となっては貴重な神聖バレンティノ帝国騎士団の徽章じゃあないかよ!収集家コレクターが見たら泣いて喜ぶぞ!」
 タフトもキャストもルーミーも時々本当の『お宝』を見付けては絶叫しているから、さっきまでのウンザリ顔が嘘のように顔を真っ赤にしてガラクタを選り分けているほどだ。敦盛たちも何が出てくるのか興味津々に見てるけど、さすがに30分や1時間で終わるような作業ではないのは鑑定の素人でも分かる。敦盛たちはそのまま一度タフト武具店を出てお昼ご飯を食べに行った。
 だが、昼食を食べ終えてもまだガラクタの選り分けは半分くらいしか終わってなかった。仕方ないから敦盛たちは適当にファウナの街をぶらぶらしてカフェで寛いでから再びタフト武具店に行ったけど、その時になって、ようやく選り分けが終わって、本当の意味でのガラクタの山は鍛冶師の子弟が引き取りに来ていてキャストが鍛冶師と値段交渉してたけど、タフト本人はお宝(?)の鑑定に忙しかった。

 結局、全ての鑑定が終わったのは店の閉店時間直前だったのだ。

 敦盛たちが閉店時間直前に店に戻ってきたとき、店にはタフトとルーミーの二人がいて、キャストは店にいなかった。夕飯の支度をしているとのことで、たしかに店内には美味しそうな匂いが漂っていた
 店の奥の小部屋にはお宝(?)が整然と並べられ、品物の名称と鑑定額がリスト化されていた。
「・・・おーいエミーナちゃんよお、自分たちで使う物があったら鑑定料だけ貰って返すけど、どうする?」
 タフトさんはリストをヒラヒラさせながら豪快に笑ってエミーナに尋ねたけど、そのエミーナも扱いに困りそうな物が沢山あるのだ。
「・・・あれっ?こんな箱、あったのかあ?」
 エミーナは呟くと金属の箱のような物を左手で触った。一見すると宝箱のようにも見えなくもないが・・・ただ、表面はさびだらけだ。
 だが、その錆びだらけの箱を右手で指差しながらルーミーはニコニコ顔だ。
「あー、それね。わたしも『もしかして!』と思って錆だらけの箱をゴシゴシ磨いてみたらビンゴ!俗にいう宝箱!」
「「「マジ!?」」」
「そう!500年以上前の物だから錆だらけで鍵も壊れてるし、魔術のロックも掛かってなかったから頑張って開けたけど、開けるというよりは壊すが正しかったかな。恐らくゴブリンも何が入ってるのか気付かないまま見付けたんでしょうけど、逆に箱が開けられなかったから中身が捨てられずに済んだと思うよ。でも、その中身、うちの店が開業してから最高額の鑑定品よ!」
 ルーミーはニコニコ顔だし、タフトもニヤニヤしている。エミーナは思わずその言葉を聞いてリストと睨めっこしたけど、それが何なのかに気付いた!

「キングヒドラの手袋グラブ!」

 エミーナがそう叫んだ時、ルシーダが「嘘でしょー!」と絶叫した程だ。敦盛には『キングヒドラの手袋グラブ』というのが何の事かサッパリ分からないけど、2人の態度からして相当貴重な品物だというのは分かった。
「キ、キングヒドラといえば魔法王国時代に魔術師が腕試しとか言って乱獲したから、今は絶滅して見る事も出来ない魔獣だぞ!本当にキングヒドラなのかよ!」
 エミーナはルーミーの顔に唾がかかるんじゃないかという位に近付いて絶叫してるけど、それをルーミーは「まあまあ、落ち着いて」と言ってエミーナを少し(?)遠ざけてから
「間違いなくヒドラじゃあなくてキングヒドラ。うろこの輝きがヒドラとは明らかに違うからね」
「じゃ、じゃあ、最低でも500万グッチは下らないとまで言われる『キングヒドラの手袋グラブ』が150万グッチの鑑定になったのは何だ?ボッタクリだぞ!」
「エミーナさーん、お父さんだって本当は状態がいいから1000万グッチ、バレンティノ金貨で言えば1000枚をつけたいって言ってたけど、装備したら確実にわよー」
「へっ?」

 エミーナは思わずキングヒドラの手袋に手を伸ばしたけど、触れようとしたその瞬間、『ハッ!』となった。
「そ、そうか、最初から呪われてるのか、途中から何らかの理由で呪いを受けたのかは分からないけど、使えなかったから逆に状態がいいんだ・・・」
「ぴんぽーん、その通り。これだけの年代物の品物で、これだけの呪いだと、教会で呪いを解くのに50万グッチは請求されるからねー」
「た、たしかに・・・」
「買取で150万、呪いの解除に50万かかっても最低でも500万、いや、オークションに出せば1000万確実だから200万でもいいって言ってるわよ」
「ルシーダ!これは絶対に売らないぞ!!お前が呪いを解いてから売れば鑑定料で金貨30枚取られても大儲け確実だ!絶対にお前がやれ!」

 エミーナはルシーダの法衣ローブの襟をつかみながら絶叫してるけど、敦盛もエミーナの言ってる意味が分かって興奮している!最低でも金貨500枚で売れる物を30枚の出費で済むなら超お得なのは誰でも分かる!
「ちょ、ちょっとエミーナ、本気で私にやれって言うの?」
「あったり前だあ!ボクらがこの1年間頑張って稼いだ金額を考えて見ろ!1年以上は遊んで暮らせるぞ!」
「ちょ、ちょっと、どうでもいいから手を離してよー」
「あー、わりーわりー」
 エミーナはルシーダから指摘されて襟から手を離したけど、そのルシーダは「はーー」とため息をついた。
「・・・私も呪われてるのには気付いたけど、恐らく、それを解いたら3、4日は寝込むわよ」
「「「「 マジ!? 」」」」
「当たり前でしょ!相当強い呪いなのは肌に突き刺さる感覚で分かるからね。一人でやったら5日は確実ね。エミーナ、あんたと二人がかりで挑んで、二人とも最低2日間寝込む覚悟が必要よ」
「マジかよ!?」
「そこまでの覚悟があるなら解呪してもいいけど、どうせバレンティノ教団だろうがアンテプリマ教団だろうが、どの教団へ持ち込んでも解呪担当の神官が3、4人掛かりで解呪する位のレベルだから、2日で済めば安い方ね」

 結局、エミーナの意見が通り『キングヒドラの手袋グラブ』は売らない事が決まったけど、エミーナから言わせれば「2日寝込んでも金貨500枚なら安い方だ!」と鼻息だけは相当荒かった。

「・・・えーとー、トラップを検知する護符アミュレットは貴重品だし、魔法が付与された2つの短剣ショートソードは欲しいな。その2つの指輪リングは炎系のダメージを弱める効果があるし、何といっても、今は幻の指輪とまで言われている『毒見の指輪テスターリング』は逆に売るのが惜しいくらいだよ。『光源の指輪ライトリング』は幾つあっても全然問題ない必需品だし、何だかんだで魔法の指輪マジックリングは使い道があるから売らない方が絶対にいい。骨董品レベルとはいえ『野営小屋キャンピングコテージ』の魔法道具マジックアイテムは『キングヒドラの手袋グラブ』に次ぐお宝だ。それ以外は売ってもいいと思うけど、アツモリはどうする?」
 エミーナは敦盛を振り返ったけど、敦盛に言わせれば『チンプンカンプン』な品物ばかりなのだ。何をどうするとか言われてもサッパリ分からない。
「エミーナに任せるけど、その『キングヒドラの手袋グラブ』の鑑定手数料の金貨30枚、持ってるのかよ!?」
「あー、大丈夫大丈夫!骨董品マニアが泣いて喜ぶ魔法王国時代や、その前のベネトン王国時代の品物がゴロゴロ出てきたから、今のままでも30万グッチ、つまりバレンティノ金貨30枚の利益だよー」
「うっそー!」
「「「「 ホントだよー 」」」

 敦盛は思わず絶叫したけど、エミーナとルシーダはタダで手に入れた物が金貨30枚に化けたのだし、ルーミーは信じられない額の小遣い稼ぎが出来てニコニコ顔だし、タフトも骨董品をオークションに出せば鑑定額以上の値が付く物がゴロゴロあるからウハウハ状態だ。

 結果的にゴブリンたちが巣穴にため込んでいたガラクタの山は、本当の意味で『お宝』の山になったのだ!
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