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アツモリ、地上の妖精に会う

第54話 天使殺し(エンゼルキラー)

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「リーザの弱点は『聖』の力だ!」

 エミーナが敦盛たちに向かって怒鳴った!
「どういう意味だ!」
 敦盛はエミーナに怒鳴ったが、エミーナは上空のリーザを見ながら
「アツモリが『天使殺しエンゼルキラー』の技を使えれば、天使だろうと堕天使だろうと致命傷を与える事が出来るが、アツモリが出来る訳がない!」
「悪かったな!そんな訳の分からん技の名前、俺は初めて聞いたぞ!」
「だが、他にも手はある!リーザという名は世界最古の歴史書『ベネトン王国成立史』だけでなくバレンティノ教団やアルマーニ教団の神話の中にも出てくる堕天使だ!詳しい説明は省くけど、あいつは天使軍の正規兵だったにも関わらず自分から魔界に行って堕天使になったという、変り者の堕天使だ!あいつの黒い翼を見れば分かる通り、光の神々の配下から闇の神々の配下になったから属性は『闇』だ!即ち、『聖』の属性の武器は効果抜群だ!!」
 エミーナのその言葉にルシーダは『ハッ!』という表情になった。
「そ、そうか!アツモリの武器に聖属性の魔法をかければ・・・」
「そうだ!まさに即席の聖剣だ!あいつにとってアツモリは天敵になる!!」

 エミーナはそう叫んだが、いきなり敦盛を押しのけるようにして前に出てきた人物がいた!それは・・・シビックだ!
「ちょーっと待った!あいつの相手は、あたしがやる!」
 そうシビックは言ったかと思ったら腰に吊るした長剣ロングソードを抜いた。エミーナはシビックの長剣ロングソードからは魔法の波動を感じないから『あれっ?』と首を傾げたほどだ。
「おいおいー、こんな所で見栄を張る必要は何もない。青銅ブロンズの普通の剣士が風の王ジンを一撃で吹き飛ばすようなバケモノを本気で相手にする気かあ?」
「フン!あたしはこう見えてもヒューゴボス帝国では少しは名の知れた家の出身だ。『天使殺しエンゼルキラー』をあたしは使える!」
「「「「「「「 嘘だろー!!! 」」」」」」
 シビックの想定外の発言に敦盛だけでなくシルフィを含めた全員が驚きの声を上げたが、シビックは上空のリーザを睨んだままだ。
「・・・『天使殺しエンゼルキラー』に魔法の武器は必要ない!天使も堕天使も関係なくダメージを与える為に人間が編み出した、対天使族専用の必殺技!あの堕天使が地上に降りてこないなら、あたしに『飛行フライ』の魔術をかけてくれ!魔術師なら出来る筈だ!」
「わ、わかった。この場はシビックさんに任せる!」
 エミーナはそう言うと右手で持つスタッフをシビックに向けた。

【・・・汝が双脚は地を離れ風を纏う】

 エミーナの呪文『飛行フライ』が完成し、その瞬間、シビックの体が宙に浮いた!

「シビックさん!これであんたが望んだ通りに空を飛べる!」
「おう!任せろ!」
 シビックは右手1本で剣を構えると全速力で舞い上がり、そのままリーザと相対した。
 リーザはシビックが自分の目の前、おおよそ10メートル位のところで宙に舞っているのを見て狼狽するどころか、平然と眺めている。いや、さっきのシビックとエミーナの会話が聞こえていた筈なのに悠然と構えているのだ。
「・・・ほほう、お前、人間でありながら我と一戦交える気か?」
「当たり前だ!魔王軍の四天王の一人の右腕だか何だか知らないけど、お前が堕天使なのは明白だ!『天使殺しエンゼルキラー』で受けた傷は絶対に治せないし、その魂をも消し去る事が出来る!」
「なーるほど、噂には聞いていたが、『天使殺しエンゼルキラー』とやらを使えば天使族が持つ回復力を無効にして魂までも切れるというが、その使い手がここにいるとは思わなかったのは認めるぞ」
「フン!今のうちの神に、あー、神ではなく魔王に詫びを入れておいた方がいいぞ。あたしは既に『天使殺しエンゼルキラー』の構えをしているから、もう止める事は絶対に無理だ!」
「では、我はその『天使殺しエンゼルキラー』とやらが、本当に我を傷付けるのか、見ているとしよう」
 リーザはそう言うと、何を思ったのか右手に持った長剣ロングソードを鞘に納め、そのまま両手を開いてニヤニヤしたから、シビックは頭に血が上った!
「きっさまー!完全に人間を馬鹿にしてるな!」
「当たり前だ。人間如き下等の存在に、我が肉体に傷をつけられるとは思っておらぬ」
「その減らず口、二度と言えないようにしてやる!!」
 シビックはそう絶叫すると、一気にリーザに突進した。右手に構えた長剣を両手に持ち替え、そのまま剣を十字に切って、自身も円を描くようにしてリーザの胸元に突っ込んだ!それでもリーザはニヤニヤしたままだ。

「喰らえ!天使殺しエンゼルキラー!!」

 シビックの剣は正確にリーザの胸を貫き、そのまま剣を十文字に動かしてリーザの肉体を切り裂いた・・・

 筈だったのだが・・・シビックだけでなく敦盛もエミーナも自分の目を疑った!

「ば、ばかな!傷口が塞がっていく!」
 シビックは思わず自分の目を疑ったが、それが油断に繋がった!リーザは目にも止まらぬ速さで長剣ロングソードを鞘から抜いたかと思ったら、それを一閃した!
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 シビックは自身の左腕を切り落とされ、絶叫した!リーザは再びニヤッとしたかと思ったら、何かの言葉を唱え始めた。
 シビックは痛みの中、リーザが何かを唱えたのだけは分かったけど、それが何なのかは分からなかった。だが、この中でただ一人、ルシーダだけはリーザの口から発せられた言葉が神聖語だという事に気付いた!
「そ、その言葉は『天罰パニッシュメント』!どうしてそれを堕天使が・・・」

【・・・我を傷付けた罪、その身を持って償え】

 この言葉をリーザが唱え終わった時、天から凄まじいまでの落雷が落ちて、辺り一面が真っ白に輝いた。
 その落雷はシビックを直撃し、次に敦盛たちが見た時にはシビックの姿はどこにもなかった。ただ、飴玉のように溶けて原型をとどめていないシビックの剣が地面に無残に転がっているだけだった・・・

「オーッホッホッホッホー」

 リーザは本日8回目の高笑いをしたけど、敦盛たちは茫然としたままリーザを見ているしかなかった・・・

(・・・どういう事だ?魔術師学校で習った話と全然違うぞ。シビックさんが使ったのは間違いなく『天使殺しエンゼルキラー』だ。ボクは1回だけだが3年くらい前に練習として実演してくれた技を見た事があるから、ミスをしたとは思ってない。むしろ、リーザが身動き一つしてないから完璧に決まっていた。それなのに・・・で、でも、たしかに変だ。それにルシーダはさっき『天罰パニッシュメント』という言葉を使った。あれは目上の者が目下の者を叱責する時に使う、つまり、上位者が下位者に対して使う呪文であり、シビックさんが『天使殺しエンゼルキラー』の構えを取った時点で、上下関係が逆転してシビックさんの方が上位になってるから、そんな相手に『天罰パニッシュメント』を使っても絶対に呪文は発動しない。だいたい、天使族が『天罰パニッシュメント』を使えるのがおかしい。明らかに変だ・・・)

 エミーナは歯軋りしながらもリーザを見て考えていた。

 何か理由がある筈だ。『天使殺しエンゼルキラー』が単なる攻撃技になってしまった理由があるはずだ。トリックでも何でもない、見落としが絶対にある。それが分からないと、あの忌々しいまでの笑いを止められない・・・エミーナは今でも高笑いを続けているリーザを見ながら考えていた。

(・・・『天使殺しエンゼルキラー』が普通の攻撃技に変わったという事は、シビックさんは堕天使より上の身分になっていなかった。つまり、堕天使以上の存在だったから、シビックさんは堕天使より上位になれなかった。堕天使より上の存在と言えば・・・)

 その瞬間、エミーナは『ハッ!』という表情をした!!

(そ、そう言えばバレンティノ教やヴェルサーチェ教の言い伝えや古い書物には書かれてないけど、アルマーニ教団の言い伝えと、それとアルマーニ教の古い書物に書いてある!たしかリーザという天使は、アルマーニ神から大天使長を経由して聖剣デュランダルを人間の勇者ローレルに手渡すように指示されたけど、そのデュランダルを持って魔界に亡命した。しかも・・・リーザはその理由を・・・)

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
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