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アツモリ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と会う

第108話 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の兄妹

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「ほら、そこに」

 エミーナはそう言うと左手でを指差したけど、その先にいたのは・・・銀髪の女の子だ!
「ちょ、ちょっと待ってよ!あの銀髪の女の子がエミーナちゃんの妹だって言いたいのお!」
「正確には父親違い、要するに異父妹だ。でも、兄貴とボクは父親も母親も違う。簡単に言えば兄貴と、その兄貴より2歳上のコスモは前妻の子だ。ミアータは後妻の子で、もう一人、ミアータより2つ下の弟アンフィニがいる。ボクはロードスター家の後妻がロードスター家に入る前に生んだ私生児だからロードスター家とは全然関係ないし、兄貴とは血の繋がりは全然ない」
「嘘でしょ!?」
「こんな時に嘘を言ってどうする?話を元に戻すけど、歴史上、『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得たのは40人ほどいるけど、人間の歴史二千年以上の間に挑んだ数だけで言えば1万人を軽く超えている。最低でも6名以上で挑んで、少なくとも一人は犠牲者を出しながら古代竜エンシェントドラゴン老竜エルダードラゴンを倒して『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得ている。ロードスター兄妹と一緒に『竜殺しドラゴンスレイヤー』の称号を得た残る三人は、一人目は自由騎士レヴォーグ。要するにヒューゴボス帝国の騎士団長を辞任して自由騎士になっていた時に兄貴と一緒に古代竜エンシェントドラゴンと戦ったのさ。レヴォーグ卿自身は魔王がいなくなったら自由騎士に戻る事を公言しているから、本当は連合騎士団の騎士団長なんかやりたくないけど人間の未来のために引き受けたに過ぎない。二人目が『ヴェルサーチェの聖女』イース。今はリーデル王国の王都ミューズにある『太陽の守護者ヴェルサーチェ』の教団の高司祭をやってるが、次の最高司祭確実とまで言われている聖女だ。三人目が『赤髪の戦士』ギャラン。今はデルヴォー王国に駐屯する連合騎士団の団長をやってるけど、世界で唯一『竜殺しドラゴンスレイヤー』と『魔人殺しデーモンスレイヤー』の2つの称号を持った人間だ。こちらも魔王がいなくなったら元の傭兵稼業に戻ると公言している。他にも『戦の守護者アルマーニ』の司祭と精霊使いがいたけど、この二人は古代竜エンシェントドラゴンの炎に焼かれて命を落としている。四人目と五人目が『熱血の勇者』ユーノスと『氷の魔女』ミアータのロードスター兄妹だ」
「・・・つまり、神をも倒せるほどの力を持ったドラゴンに挑んで生き残った、とてつもなく強い人間・・・」
「マリナの言葉は的を得ている。いくらアツモリがシエナさんに勝ったとはいえ、シエナさんはアツモリを圧倒してたのは事実だし試合放棄の形での勝利だから、もしアツモリとシエナさんが再戦していたらシエナさんが勝っただろうというのは、レクサス支部長自身が言ってるくらいだぞ。レクサス支部長だって中止になったアツモリとシエナさんの再戦には、立会人だったにも関わらずクラウン事務局長に頼んでシエナさんに賭けてたし、今回だってクラウン事務局長の名前で兄貴に賭けてる位なんだから、言い換えれば兄貴に賭けてる人は堅実派、アツモリに賭けてる人はギャンブラーさ」
「・・・(ゴクリッ)・・・」
「シエナさんは金の使い道に困ってるくらいの人だから、アツモリが負けても痛くもかゆくもないだろうけど、アツモリが負けるって事は自分が兄貴より下だって事になるから、アツモリに勝ってもらわないと困るってのもあるだろうね。まあ、試合の場数だけを見たら兄貴の方が圧倒してるんだから、今まで2回しか試合をやった事がないアツモリは経験不足なのは見え見えだ。今回はボクも立場上アツモリに賭けたけど兄貴の勝ちと見てるから、認められている最少額しか賭けてないと言っておくよ」

 試合場の中にいる3人目の人物、アキュラはさっきから左手に持った懐中時計をジッと見ながら試合開始時刻になるのを待っている。左右の中指には異なる輝きをした指輪をはめているけど、右の薄いピンクの輝きの指輪は弓矢などの物理的攻撃をかわす効果がある物で、左の淡い赤の輝きの指輪は炎や冷気といった呪文のダメージを軽減する効果がある。言い換えれば審判員は危険と隣り合わせの命懸けの職業だ。それは同時にのだ。
 そのアキュラが顔と右手をサッと上げた。

「始め!」
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