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極道が訳あってアノ戦場へ少女を救出に行きました。

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2月27日 午前8時
『東京都新宿区舞楽町』

古びたビルの前で電子タバコを吸う1人の男、名前は虎次。切長の目に大きな口でこけた頬の怖い顔の男前、身長は約180cm前後の筋肉質痩せ型、黒のスーツスタイルで頭部はリーゼント。年は30代手前くらいであろうか、見るからにカタギには見えない体である。
そんな虎次の元に1人の男がスマナサそうに駆け寄ってくる、名前はサンタ。サーファー頭のスカジャンルック、童顔の気の良さそうなチャライ20代前半の170cm未満のガッチリ体型(しいて言えば元野球部体型か)。こちらもカタギには見えない。
「アニキー、スイマセン遅れました」
サンタは虎次の部下か後輩らしい。
「急な呼び出しとはいえ送れんじゃネーゾ。ギリ許容範囲だがよ」虎次はサンタに軽く肩パンチを当てる。
「こんな朝からなんでしょうねー」
「知らねーよ、金借りた奴の追い込みぐらいじゃねーの。さっ、オヤジが待ってるから行くぞ!」虎次はタバコを消しビルの中の喫茶店に入って行く、ついて行くサンタ。
「オヤジの前だアクビするなよ」
「うっす」

客の9割はヤクザという喫茶店「TEA PARTY」。            
昔ながらの豪華な内装の店内、朝8時にも関わらず満員状態。やはり全員ヤクザで、朝食を摂ってる者、新聞を広げてる者、TVを見ている者がいる。
その店内中程のボックス席に一目で目立つ男が座っている、名前は果汁狂介。スキンヘッドで片目が潰れた筋肉ダルマ、外見だけで人を殺せそうな怖い顔。虎次とサンタが所属する東京果汁組の親分である。
そして果汁親分の横には金髪白人中年女性が座り、果汁の後ろのボックス席には親分を護る東京果汁組組員が2人控えている。
「おうオマエラ来てくれたか、朝からアリガト」果汁が歓待する。
「2人ともコーヒーでいいな?なっ?」
「はい」突然呼び出された事に訝しがるも着座する虎次とサンタ。

コーヒーを啜る2人に話しかける果汁親分。
「時間がないので手短に話すぞ。こちらにいるご婦人はカタリナさん、日本で演奏活動しているエクライナ人チェロ奏者の方だ」
「カタリナデス」鎮痛な面持ちのカタリナ。
「どうも」挨拶する虎次とサンタ。
「エクライナの方ですか」
果汁が虎次に1枚の写真を差し出す。カタリナに似た白人の若い女性。
「カタリナさんの娘さんを救出してこい」
「何処からですか」
「エクライナからだ」
「えっ?エクライナってアレですか?」サンタが指さしたTVには、戦争が始まって3日目の荒廃したエクライナの街並みが映っていた。
「そう、ルシア国が侵入してドンパチしてる戦争中のエクライナから」
「えーっ」2人揃って大声で叫んでしまう。
「ワタシノムスメヲタスケテクダサイ、センソウニマキコマレテ、ワタシハドウシタライイノデショウ」涙ぐむカタリナは拙い日本語で話す。
「そうだもう一度言う、カタリナさんの娘御ワンダさんを戦争中のエクライナから今すぐ救出するのがお前達の任務だ」
「オヤジ、宗教団体やヤクザの事務所からヒト一人を救い出すのとは訳が違うんですよ」
「そうですよ!銃弾や爆弾飛び交ってる場所で・・・」
通常ならヨソの組の者がこの店内で喧嘩してても関わらないのが不文率と無視するヤクザモノの客達が、東京果汁組の特殊案件に耳を注力している。
「うるさいっ!これは命令だ!それにタダでエクライナへ行けとは言わねえ。虎次の3千万円、サンタの3百万円、お前らが組にしてる借金を棒引きにして、無事日本に帰ってきたら2人に5千万円づつボーナスと幹部待遇にしてやる」
「金持ちになって幹部待遇ですか?」
「ああ、それよりも戦地からご婦人を助け出したら1流の俠客、スターヤクザとして日本中から注目されるだろうな」
「1流の侠客ですか」虎次の顔がほころぶ。
「戦地か~」頭を抱え込むサンタ。
「トラジサン、サンタサン、オネガイシマス」
「おいっ」果汁が後ろのボックス席に声をかけ、4つのアタッシュケースを持った男2人が果汁達の席に来る。
先輩組員に会釈する虎次とサンタ。果汁は組員2人に、4つのアタッシュケースを机に置いて開かせる。
「おお」虎次、サンタ、カタリナが驚く。
果汁がアタッシュケースの中身を説明していく「手元にあるありったけのモノを持ってきた。1億円分程のドル札と金塊。PC PAD。拳銃4丁と弾薬。衛星携帯電話2台。無制限のクレジットカード。ボディカメラ、これは体に装着して向こうで行動してくれ」
サンタ「ひえ~」
アタッシュケースの内容に騒然とする喫茶店内。
「それと」果汁が大量のドラッグカプセルの入ったビニール袋を取り出す「10億円分の高純度日本製覚醒剤だ、これでルーシー兵を薬漬けにしてやれ!俺達のクスリ販路拡大だな」
「これが本音ですね」虎次が苦笑する
「足りないモノは現地の調達屋に用意させるから今すぐに出発しろ!」
「今からですか?」驚く2人。
「何でも運ぶ運び屋に発注してる、今から横田に行け。あとな、エクライナにウチの子飼いを現地に直接3人派遣するから、虎次は知ってると思うが東南アジアに潜伏してる殺しのプロだ」
「何となく誰かはわかりました」
「実戦研修も兼ねてるから、虎次の指揮で好きに使ってくれて結構。あと行先だけ俺に細かくメールで送ってくれ」
「わかりました」

虎次とサンタは、他の組のヤクザ達から「頑張れよ!」「任侠の鏡っ!」「俺達の誇りだっ!」と声をかけられながら
着の身着のままアタッシュケースだけを持って喫茶「TEA PARTY」を出ていく。ビルの前には黒塗りのハイヤーが停車して運転手がドアを開けて待っている。2人を見送る果汁とカタリナ。
「オヤジ、行って参ります。ワンダさんの居場所と他の写真もメールで下さい」
「行ってきます」
果汁に深々とお辞儀する2人。
「死ぬなよ」
「トラジサン、サンタサン、オネガイシマス」

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2月27日 午後7時
『米軍輸送機C17内』

軍用機内の巨大な空間、多数の軍用貨物の間に設置されたエコノミーシートに身を沈める虎次とサンタ、疲れ切った表情だ。2人は、新宿から横田基地に来るまでの間に、ハイヤー運転手から渡された装備に着替えている。コンバットブーツに黒のタクティカルウェア、防弾チョッキ、コンバットグローブ、果汁親分から厳命のボディカメラ。
「しかしカタリナさんって組長のオンナか恋人なんですかね」
「いや違うだろ。オヤジは昔ながらの任侠漢で、困ってる人を見たら助けずにはおけないタチだから」
「組長も弱者を助けるにしては金がかかりすぎてると思うんですがね、俺たちの借金棒引きや金塊や飛行機の手引きだけで最低3億はかかっってるでしょう」「確かにな、純粋な任侠道だけでなく政治家や商社相手のビッグビジネスも今回の救出作戦には関係してるのだろう」
「救出するワンダさん、18歳のパツキンで美人。日本で俺の斡旋でキャバでダメですかね」
「ウチのオヤジ案件だからダメだろう」
2人の元にアメリカ兵らしき女性が近づいてきて微笑み、缶コーラとサンドイッチを配り去って行った。
「ビーフ オア チキンって奴ですね」サンドイッチをパクつくサンタ
「いつ着くんですかね?それにこの飛行機どこに到着するんでしょう」
「さあな、いつ寝れるか分からんから取り敢えず寝とけ」
ノートPCで作業してる虎次郎「現在、アフガニスタン上空を通過中だ。あと2時間程でモルダビアの米軍基地に到着、そこから軍用ヘリの低空飛行で国境を超えて4時間でエクライナの目的地近くへ侵入するそうだ」
「あと6時間は空飛んでるんですか。しかし、今回の件はヤクザのカチコミではなくて軍事作戦の領域に入ってますよ?横田基地で落ち合った運び屋の男、ヤクザ業界の運び屋とは違いますね」
「ああ、横田からの軍用機と軍用ヘリを手配できるなんて、米軍かCIAの関係者だろう」
「組長が何を企んでるか、単に顔が異様に広いのか」
微笑む虎次「どうだかな」
「アニキ、今から地獄になるんでしょうか」
「地獄よりキツイだろうな」

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2月28日 午前1時
『エクライナ 首都カーフ近郊のボイルカ村』

ボイルカ村郊外の山中の広場。無音無灯火で着陸した軍用ヘリから降りた虎次とサンタが、頭を低くして足速にヘリから離れる。
2人が離れるとすぐに、軍用ヘリは浮上し漆黒の闇へ消えて行く。

真夜中、異国の山中へ放り出された2人を暗闇と静寂が襲う。
「来ちゃいましたね」
「来たな」
「職業柄、暗闇の山は怖くないですけど、外国の山は雰囲気が違っておっかないですね」
「ふっ、昔に山で生き埋めした時を思い出すな」
「アニキ、分かってますけど怖い事言わないで下さいよ」
「ハハ」
突然、2人の目を刺す強烈な光。
「?」虎次は即座に光源に向けて拳銃を構える。
「サスガ、サムライノシソン、ジャパニーズヤクザデスネ」光源の方向から日本語が聞こえ影が浮かび上がる。

目が慣れてきた虎次とサンタ、両手を挙げた男の影が近づいてくる「トラジサーン、ウタナイデクダサイ。ワタシハミカタデス」
「セルゲイさんですか?」
身長2m弱、ブルゾンとジーンズに軍用ブーツ姿の白人、影の正体セルゲイが現れ虎次とサンタと握手する「ハイ、サラダサンカラショウカイサレタ、ツウヤクノセルゲイデス。ヨロシクオネガイシマス」
「ビビったー」ホッとするサンタ。
「ササッ、クルマニノッテクダサイイソギマスヨ」
セルゲイのSUVに乗り込む虎次達。
車種に気付くサンタ「この車、ロールスのカリナンじゃないですか!スッゲー」
セルゲイ「サンタサン、アリガトウゴザイマス。タカカッタデス」
深夜の山中に消えていくSUV。

ボイルカ村郊外の小さなホテルに到着して荷解きする虎次達。他に人はいない。
「センソウガハジマッテカラ、ミンナニゲダシテムジンニナリマシタ。ダレモイナイホテルヲミツケマシタ。ヘヤハスキニツカッテクダサイ」
「女と来たいっすね~」
「コラコラ」
「アト、チュウモンウケテタヘイキハ、アチラニオイテマス」セルゲイが大きな木箱を指し示し、武器をチェックする虎次とサンタ。
「おいおい、自動小銃だぞ!こっちには手榴弾。カメラ付きドローンもあるぞ」
「きゃーっ、ジャベリン!ハンドミサイルありますよ!」
虎次が自動小銃をチェックしながら「セルゲイさんは平和時は何を?カタギではないですよね?」
「ハイ、ヤクザデハナイデスガチカイデス、カネニナルコトハナンデモヤリマス。ニホンデムカシハタライテマシタ。トリアエズハシゴトデス」
「そうですか」
「アニキ、ポントウがありますよ。使いますか?」日本刀を掲げるサンタ。
「ニホンジンハ、サムライソードイルダロウトオモイマシテヨウイシマシタ」
虎次が刀を受け取って立ち上がり「よしっ、2時間後の朝4時から行動開始!」

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2月28日 午前4時
『ボイルカ村』

村一帯を見渡せる山の高台、双眼鏡を覗き込む虎次一行。双眼鏡からは戦乱で荒れ果てた道路や家屋が見える。
「ホンライナラ、ターゲットヲムカエニイッテ、コクガイニデルダケダッタノデスガ」               
「すでにルシア軍に占領されてた訳ですね」               
「早く救い出さないと、移送されるか殺されるか、ヤバいっすね。アニキ」
「簡単には入れなさそうだな」
「キャー」虎次達の後方から悲鳴が聞こえる。

2人の兵隊が1人の女性を暴行しようとしている。
「アニキ、北斗の拳みたいですね」
「ああ、ルシア兵みたいだから捕まえて吐かせよう」
「ちょうどイイっすね、殺さないでくださいよ」

嫌がる女性に群がる兵隊2人の元に歩み寄る虎次。
「おい!」小便を兵隊達にかける虎次。
驚いた兵隊達が立ち上がり虎次に詰め寄る。
いきなり虎次の大振りのパンチが1人目の兵隊の顔面にめり込み、その場に兵隊は崩れ落ち倒れ込む。
それを見て逃げ出したもう一人の兵隊が、突然現れたサンタの左アッパーを金的にくらい、くの字に折れ曲がり失神する。
サンタが左手をハンカチで拭きながら「アニキ~、ションベン付いちゃいましたよ」
「ハハハ」
女性にジャケットをかけるセルゲイ「ジャパニーズヤクザハツヨイデスネ」
虎次は日本刀を抜きながら「セルゲイさん、通訳の仕事頼みますよ」

鬱蒼とした森。
救出した女性をSUVに残し、SUVから離れたところで後ろ手に縛られた兵隊2人へ拷問が始まる。
サンタは女性に拷問を見せない様にSUVの外に立っている。
セルゲイが虎次郎の通訳として片方の兵隊Bにだけルシア後で話しかける。
「どの建物に、エクライナ人の人質がいる?ルシア兵の人数はどのくらいいる?どこに配置されている?武器は何がどれくらいある?君に聞く、言わないならこちらの兵隊Aさんを切り刻んでいく。こんな風に」
兵隊Aが絶叫する。
虎次は喋りながら兵隊Aの左耳を日本刀でそぎ取り、その耳を兵隊Bの右頬に貼り付けるがスグに地面に落ちる。
「NO  CRAZY」兵隊B呻く。
「私達はゆっくりしてる暇はない。驚いてないで早く言いなさい。次はこの兵隊さんの目です」セルゲイが兵隊Bに翻訳し続ける。
虎次は兵隊Aの右目を日本刀で抉り出す。
「A XA&O%L!」兵隊Aは再度大声で絶叫。
虎次は、抉り取った目を兵隊Bの後ろ手になった手の平に押し込み握らせる。
「FUCK!」顔面蒼白の兵隊B。
「早く言いなさい。こいつの鼻を切り取っても自白しなかったら、次は君を切り刻みます。鼻」セルゲイの翻訳が続く。
虎次、兵隊Aの鼻をそぎ取り兵隊Bの口に押し込む。兵隊Bは小刻みに震えている。
セルゲイ翻訳「どうですか?」
兵隊Bは口の中の鼻を吐き出しロシア語で捲し立てる「ゴメンなさい!分かったから全部言う!俺は切られたくない、知ってる限りの事を全部言うから切らないで!」
セルゲイからの逆翻訳に応えて、虎次が兵隊Aの首を日本刀で斬首する。
「OH YAKUZA!」セルゲイ驚く
兵隊B「AH!」
「セルゲイさん、翻訳してくれ。嘘を言えばこいつのようにお前の首を斬る!」
兵隊Aの首の切断面を兵隊Bの顔に血塗りつける虎次。
兵隊Bは観念した様子、ロシア語で「分かったよ」

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2月28日 午前5時

朝日がまだ出ない静まり返った漆黒のボイルカ村中心部をゆっくりと進む虎次達のSUV。サンタが運転席、助手席に虎次、後部座席にセルゲイと救出したエクライナ女性がいる。エクライナ女性はセルゲイからもらったアルコールをやってられないとばかりにラッパ飲みしている。
「サンタサン、アトカラキマシタガ、ルシアヘイハドウシタノデスカ?」
「始末しといたよ。何言われるか判らないもん」運転ん中のサンタ。
「ヤッパリ、プロヤクザデスネ」
「プロヤクザってなんだよ」

そうしてると、もうこの世には居ない兵隊Bからの情報、カタリナの娘ワンダが捕えられている建物が見えてきた。日本で言う公民館の様な平屋の建物の側にジープ2台。
「ミエテキマシタヨ」
「サンタ、あの兵隊の言ってた通りジープ2台が止まってるレンガ造りの建物だったな」           
「ええ、そうですけど兵隊Bの言ってた分隊10人弱しかいないって信用できるんですか?」
虎次「死ぬか生きるかの脅しなら、本当の事言うだろう。フェイクなら出たとこ勝負で行くしな」
サンタ「そんなもんですかね」

建物の入り口に立つ1人の歩哨兵、自動小銃を肩掛けにしてパンを齧ってる。
建物の前にセルゲイが運転するSUVが停車、セルゲイと虎次が車から降り歩哨兵の元に近づいてくる。
自動小銃を構える歩哨兵「何だ?」ルシア語で呼びかける。
セルゲイ笑顔、手早くIDを見せルシア語で話しかける「お疲れ様ですー。中国からのネット取材でーす。ルシア軍の前線を取材しにきましたー。こちらは中国の記者です。エッ」
「パスッ」
眉間に穴が空いた歩哨兵がセルゲイの肩口に倒れかかり崩れ落ちる。歩哨兵の後頭部は爆発した様に抉れている。
セルゲイは振り返る。虎次のサイレンサー拳銃から煙が上がっている。
「トラジサン、ハヤスギ、ビックリシタヨ」セルゲイ小声で抗議する
「急ぎますんで」

建物裏。ジープのシートに座り暇そうにタバコを吸う1人の兵隊。
「シャッ」闇夜に閃光が走り、兵隊の頭部側面、耳より手前に赤い線が浮かび上がり
「ゴボッ」
口から血を吹き出し、顔がお面の様に頭部からずれ落ちて行く。脳と顔面の輪斬りになった兵隊は絶命。
兵隊の服で日本刀の血を拭うサンタ。

2丁拳銃の虎次と自動小銃のセルゲイ、建物へ突入する。
入口近くのソファで眠るルシア兵1人を虎次が一撃で射殺。早足で無人の廊下を突き進み、救出ターゲットがいる予定の部屋前へたどり着く。
扉の前で呼吸を整える2人
「セルゲイさん、バックアップお願いします」
「ハイ」
「行きますよ」

静かにドアを開けた虎次、視界に3人の兵士が入り、2丁拳銃を兵士達に連弾する。兵士達、驚く間も無く銃をとる隙も無く絶命。
部屋の反対側でエクライナ人の人質が20人程固まって震えている、老齢から若年層の女性と数人の子供達。驚いて泣き出す幼児。
人質達の傍に居た1人の兵士が自動小銃を向けようとするが、バックアップのセルゲイに1発で狙撃され崩れる。

「ゼンインコロシマシタネ」
「ええ終わりましたね」
虎次とセルゲイは背中合わせで部屋内を確認しながら人質達に近づく。
「終わりました、私達は味方です」
セルゲイは笑顔で人質達にエクライナ語で話しかけ、虎次はスマートフォンで映像を確認しながら1人の女性を見つける。身長150cm台の金髪ロングヘアの痩せ型の美しい可愛い女性、ワンダ。
「セルゲイさん、この人がカタリナさんの娘ワンダさんだ。翻訳して下さい」
「ワンダさんですね?日本にいるカタリナさんに頼まれ助けに来ました」エクライナ語で話しかけるセルゲイ。
「OH」ワンダの顔がほころぶ。

突然、銃声が鳴る。
サッと身を低くする虎次とセルゲイ、身をすくめる人質達。
入口から部屋に「ドサッ」と倒れ込んでくるルシア兵の死体。
「アニキ、気を抜きですよ」拳銃から煙を出したサンタが部屋に入ってくる。

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2月28日 午前8時

ボイルカ村をあとにしたSUV。
ハンドルを握るサンタが助手席の虎次に話しかける「アニキ、人質だった女性達に幾ら渡したんですか?」
虎次、衛星携帯電話とリンクさせたPCPADをいじりながら「ドル紙幣で1000万円分渡しといた。1人100万円くらいだな」
「1000万円!渡しすぎっすよ」
「OH ヤクザハオカシイネ」セルゲイも驚く
「いいじゃねーか、戦争で子供抱えた女性達なんだから。減るもんじゃねーし」
「減りますよ」
「まあまあ、ヤクザはなんとでもなるからよ!1000万円如き。セルゲイさん、ワンダさんに見せてくれ」
虎次、後部座席のセルゲイにPCPADを渡し、横のワンダに見る様促す。PCPADの画面には東京にいるカタリナが映っている。東京果汁組の事務所からの様だ、画面の端には果汁狂介親分が見切れてる。

「母さん」「ワンダ」画面を通じて歓喜と涙が見える2人は、エクライナ語で会話している。
別携帯で通話する虎次と果汁狂介。
「カタリナさんの娘さんワンダさんは確保しました。速やかにエクライナを脱出します」
「ご苦労。敵さんはどうだい?」
「未熟な兵隊に当たったので楽勝でしたね。運に恵まれました」
「生きて還って来てくれ」
「後で次の座標を送信します。終了します」
東京との通話を終える虎次達。

「セルゲイさん、ワンダさんに翻訳して下さい。改めて自己紹介します」
「私、日本語できますよ」にっこり微笑むワンダ。
「おおー」驚く3人の男達。
「母の仕事の関係で日本にも住んでて日本語できるんです。日本語学科の大学に進む予定でした」
「そうなんですか、それなら楽だ。落ち着いたんで改めて紹介します。俺は虎次。運転してるコイツはサンタ。そして通訳のセルゲイさん。ワンダさん、いずれバレると思うから、隠さずに言っておくが俺とサンタはヤクザだ。怖いかもしれないがよろしく。セルゲイさんも裏世界の人だから」
「いいえ、ヤクザより怖いモノ、戦争を見てきたから虎次さん達怖くないです。私の味方です」
「ありがとう」
バックミラー越しに顔をニヤつかせるサンタ「あっ、オレはサンタ。ワンダさん綺麗ですね~」
「ふふ」口を押さえて微笑むワンダ。
「あっ、でもセルゲイさん。ワンダさんの方が日本語うまいですよ」サンタ、続けて意地悪な目でセルゲイに話しかける。
「サンタサン、ヨケイナコトハイワナクテイイデス」
笑いに包まれる虎次達のSUVは国境を目指し走っていく。

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2月28日 正午

民家や建物がない開けた平原の道路を走る虎次達のSUV。
「何にもないっすね~アニキ」
「ああ、道路沿いに木々があるだけ。地平線が見えるな」
「マダ、ルシアグンハ、キテナイヨウデスネ」
「戦車も何もなくていいですね。早く戦争終わって欲しいです」外の景色を見つめるワンダが呟く。

SUVが平原を走っていると、道路の遥か前方に戦車2台が止まっている。
「アニキ、前に戦車居ますよ、どうします、Uターンしますかヤバイ奴ですかね?」
「サンタ、低速で進むんだ」
「トラサン、ケンモンダカラモンダイナイデショウ」
「いいや、あいつら無差別に砲撃、殺しに来る奴だ。Uターンで逃げたら追って撃って来るだろう。セルゲイさん、武器の用意だ。ワンダさん、俺と助手席へ変わってシートの下で耳押さえて隠れて下さい。アレであいつら潰す」虎次が両手で担ぐ仕草をする。

道路で検問してる2台の戦車。それぞれのハッチから上半身を乗り出し会話してる2人のルシア兵。ルシア語で会話している。
「なあ、あの向こうから来るSUV、あいつら撃っちまうか」
「ああ、そうだなッ!えっ」
シューッと煙幕音を奏でたミサイルが、SUVの方から発射され戦車に向かい一目散に飛んで来る。
「やべッ、ジャベリン!?回避っ、回避っうわっ」
ミサイルが着弾。轟音をたてて爆発、炎に包まれた戦車。

戦車に向かって走行するSUVでは、サンルーフから上半身を乗り出した虎次がジャベリン・ハンドミサイルの発射筒を担いでいる。
「セルゲイさん、次のミサイル下さい」
「アニキ、1回フェイント掛けるんでそれで撃ってください」
シート下に身を潜めるワンダ。

生き残ったルシア兵が絶叫で射撃号令「クッソ!あの車殺すッ!前方、車1台、対榴、集中、前へ!」残された戦車が走ってくるSUVに砲塔を向け前進する。
「照準確定!撃て!」主砲から砲弾が発射。
砲撃の刹那、SUVが突然左前方に道を外れる。SUVではなく道路に着弾爆発する砲弾。
「あの車、逃げやがった。右方向に追跡」SUVを追う戦車。

発射された砲弾を逃れたSUV、サンルーフからセルゲイが乗り出し自動小銃を戦車に向け連射する。

SUVを追う戦車の砲塔が動き「予測砲撃!撃てっ?!」刹那、戦車の側面に衝撃が走る「うわっ」
ミサイルが着弾し装甲を突き破り内部で爆発、戦車が炎に包まれる。

炎に包まれた2台目の戦車を遠くから眺める道路沿いの虎次。担いでるジャベリンミサイルの発射筒からはまだ煙が上がっている。
「虎次さーん」助手席の窓からワンダが手を振り、サンタが運転するSUVが全速力で戻って来、虎次の元へドリフトしながら停車する。
「サンタサン、テイネイニウンテンシテクダサイ」

黒煙をあげて燃え盛る2台の戦車を後に、道路を走るSUV。
「ビックリシマシタヨ、ジュウデエンゴシロッテイイナガラ、トラサンガハシッテルクルマカラトビオリルンダモノ」
「私もびっくりしたー」
「それで後は俺とセルゲイさんが戦車の目を引きながら逃げて、アニキは戦車の死角からミサイルをズドンッ」
「このレベルなら喧嘩の駆け引きと同じだからヤクザにも勝ち目はまだある。ワンダさん、これから今みたいな怖い事いっぱいあるだろうけど我慢して下さい」
「はい、虎さん」笑顔で答えるワンダ。

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2月28日 午後4時
『中堅都市ダイトフォ』

街の中心部に入った虎次達のSUV。
「アニキー、まだ街破壊されてませんね」
「でも、街にいる人は女性や子供や老人ばかりです」
「成人男性は兵役で出払ってるんだろう」
「トコロデミナサン、コノマチデキュウケイシマショウ。トイレヤゴハンヲタベマショウ」

虎次達がカフェで休憩していたら、街の人々がそわそわそわしている様だ。悲しむ老女の姿も見られる。
「みんな騒然としてるが何だ?ワンダさん、セルゲイさん聞いてみて下さい」
セルゲイとワンダが何人かの街の人に聞いて戻ってくる。
「聞いてみたら、郊外の小児病院をルシア兵小隊が占領して大騒動になってるらしいです。それで街には味方の軍隊がいないからどうしようと慌ててるそうです」
「大変ですねー。アニキ、もう少ししてからこの街を出ましょうか?」
「そうだな」

虎次一行のSUVが街を後にしようとするが、浮かない顔の虎次。
「アニキ、さっきからどうしたんですか、調子悪いんですか?」
「イヤ、小児病院を占拠してるルシア兵だがよ」
虎次が3人に話しかける。
「子供を人質にするなんてクソにもならねえゲス野郎じゃねーか。サンタ、ヤクザモンが弱きを見過ごしていいのか?」
「ヤクザモンとしては見過ごせないですね」
「セルゲイさん、ワンダさん。人質を助けに行っていいですか?」
「リョウカイデス、トラサン。ワタシハOKデスヨ」
「私も嬉しいです。お願いします」
ワンダは虎次にOKマークを出す。
「俺はアニキに従いますよ。でもアニキ、本当はヤクザの性分でカチコミしたいだけですよね?ハハ」
「うるさい」
SUVは街へ戻っていく。

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2月28日 午後5時

ダイトフォ郊外の森の中。
ワンダは街に残ってもらい、小児病院の救出に来た虎次達はPCPADでドローンからの映像を確認している。
「ドローンはすごいですね、ルシアの兵隊さんが誰も撮影されてること気づいてないし」
「兵隊50人程で戦車4台、ジープ5台、トラック3台か、多いな」
「オンナコドモガツカマッテルカラ、ヘタナトツゲキハデキマセンネ」
「できる限り人質は無傷で回収したいっすね。1階の大きな部屋に人質が集められてる様です」
「チンアツヨウガスハアリマスヨ」
「暗くなってから行動を開始するか」

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2月28日 午後10時

夜になり小児病院に徒歩で近づく虎次とサンタ、手にはビデオカメラを持っている。セルゲイは遠くの丘からライフルでバックアップを担当する。
「アニキ、あまりにも単純すぎる作戦じゃありません?建物に何とか入り、隙を見て人質を救出するって。他事務所へのカチコミでも丁寧に作戦考えますよ」
「うるさい!時間がないし、外国の軍隊相手の心理状態なんてワカンネーだろーが!」
「まあまあカリカリしないで、やっぱり出たとこ勝負しかないですよね。あっ、兵隊さんが近づいてきましたよ」
歩哨兵が2人に近づいてくる。
日本の運転免許証を素早く歩哨兵に見せ終わる虎次とサンタ。日本語と嘘英語でフレンドリーに話しかける。
「we are japanese TV!」ビデオカメラを見せる虎次
「どうか取材させて下さーい」タバコを1本歩哨兵に差し出すサンタ
「バカっ、日本語は通じないだろう」
「いいじゃないっすかー」歩哨兵のタバコに火をつけるサンタ。
タバコが気に入られたのか「俺について来い」の仕草をする歩哨兵。
「やりましたね、やっぱりタバコですよ」
「ははは」

病院内に入った虎次とサンタは歩哨兵について行き、ある一室に通される。
そこには10人ほどのルシア兵がいて、突然入ってきた2人のアジア人を怪訝な表情で眺めている。相談するルシア兵達。
「無茶苦茶怖いなー」
「やばいですよね」
兵隊達が虎次とサンタの眼前に来て、いきなり自動小銃の銃床で2人の顔面を激しく殴りつける。
意識が薄れてゆく2人。
(アニキ、やっぱりダメでしたね)

「痛っ」激しい頭痛で目が覚めた虎次、自身が後ろ手に結束バンドで縛られ床に転がってるのに気づいた。
「なんだ?」
「アニキ、起きましたか?」虎次の後方からサンタの声が聞こえる。
「俺ら捕まったらしいですね」
「サンタ、すまねえな」
「いやいや、トコロデこの部屋の端っこにエクライナ人の例の人質が30人位いますね。アニキの反対側、俺の側にいます。子供達と看護婦さんらしき人達が俺らを見てますわ」
「そうか嫌な形で人質さんとゴタイメーンてか」

「A&#$記j“!≠mV」数人のルシア兵が怒鳴りながら虎次とサンタの元に来ていきなり2人を蹴り出した。
「グフッ」「ゴフッア」ルシア兵達に蹴られまくり苦悶する2人。
「このままじゃ殺されますね」
「やばいな」
虎次とサンタが、蹴り殺されかけるところで部屋の電気が消え真っ暗になった。
「?」
突然、窓ガラスを突き破り何かが部屋に飛び込んで来る。
連射の銃声が部屋中に響き渡り、子供達が金切声の悲鳴を張り上げる。暗闇の中、銃の火花で一瞬だけ部屋が照らし出され、ルシア兵と何者かが乱闘中だと判る。
建物の外でも激しい銃撃音の戦闘状態になっている。
「アニキ、なんかすごい事になってません?」
「あれって?」

乱闘戦の騒音が収まり部屋の電気が点灯した。
暗視ゴーグルをつけた男2人、マシンピストル2丁態勢のスキンヘッドの大男と巨大なサバイバルナイフ2刀流のドレッドがルシア兵を虐殺して全滅させた様だ。
暗視ゴーグルを外した2人。
「虎ちゃーん」2m超えのスキンヘッド戦闘服、年齢は50代前半か、オネエ声で虎次の元に駆け寄ってくる。
「久しぶりー、遅くなってごめんなさーい。武器の調達とか買い物で遅れちゃってー。なんとか生きてるわね」スキンヘッドのオネエが虎次達の結束バンドを解いていく。
「お疲れ様です」
「虎ちゃん、こちらの方カワイイわね。後輩さん?」
「サンタ、こちら任侠果汁組の大先輩ソドムさん、日本有数の殺し屋だ。挨拶しろ」
「任侠果汁組の組員サンタと申します、よろしくオネガイシマス」ルシア兵に蹴られまくったが、痛む体を我慢して大先輩ソドムに挨拶するサンタ。
「アチラでエクライナの人質を解放してる方はゴモラさん、あの方も俺たちの大先輩で殺し屋だ」
人質の拘束を解いてる身長170後半筋肉男、40代前半か、ドレッドの殺し屋ゴモラ、子供達に持ってきた小さなぬいぐるみをプレゼントしている。何故かドラえもんのtシャツを着ている。
「子供用オモチャを大量に買い込んでるのよ、ゴモラは」
「ソドムさん、2人が来てると言うことはボイスさんも来てるんですよね」
ルシア兵の死体が大量に転がってる無人状態の病院の外。ルシア軍の戦車の上に座り自動小銃を立てかけ、長髪長身痩躯のキリスト髭で50代後半か黒づくめの戦闘服、殺し屋ボイスは一服している。

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3月1日 午前0時

「セルゲイさん、あとで街で合流しますんで女性と子供達をお願いします」救出した人質達を乗せた車列を見送る虎次達。
「虎ちゃん、本当にカチコミに行くの?」
「ええ、ボコボコにやられただけで何もしてないんじゃ俺は収まりがつかないんですよ」ルシア兵達に蹴られ顔が傷だらけの虎次。
「ヤクザの血が騒ぐんだろ、虎次くん」グレネードランチャーに弾を装填しながらボイスが呟く。
「アニキと同じで、俺もあいつらぶっ殺さねえとムカつくんですよ!痛っ」サンタの顔にマキロンを塗っているゴモラ。「さっきのルシア兵の隊長からもらったこの辺りの地図だ」ボイスが地図を広げる。
地図にはベットリ血がついているのを見たサンタ(もらったじゃなくて、拷問して殺して奪った地図でしょう)。
「ここから5km程北の森にルシア兵中隊の前線基地がある。虎次くん、そこへカチコミでいいんだな?」
「ハイ、先輩3人の力を貸してもらえるなら100人力です」
「やーねー虎ちゃんが言うなら助けるわよ。東京の果汁親分が虎次くんの指示に従うように言ってたから問題ないわ」
虎次に笑顔のサムアップで同意するゴモラ。
先程からゴモラを観察してるサンタ「ゴモラさん、喋らない人なんですね」

虎次一行、ソドム達が地元で調達したメルセデスの商用バンで移動中。先に飛ばした偵察ドローンからの映像をノートPCで確認してるボイス「中隊200人で戦車50台、ジープ30台」。
「人質はいないんですね?」
「ええ。虎ちゃん、好きに暴れていいわよ。武器はこの車の後部に置いてるから好きなモノ使っていいわ」
「アニキ、作戦はどうします?」
「作戦なし。アドリブで皆殺しでいきます」

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3月1日 午前1時

広場に野営中のルシア軍基地の元に猛スピードのバンが飛び込み数名が跳ね飛ばされる。
急襲に驚いたルシア兵達は銃を構えようとするが、バンがドリフトで暴れ回り近づけない。バンの中から自動小銃が五本突き出され周囲に乱射して行き、ルシア兵達が狙撃されドミノ倒しの様にバタバタ倒れていく。戦車の陰に逃げてバンを遠巻きに眺めるルシア兵達。
「よし、始めるぞ!」虎次が吠える。
バンが突然止まり、車内から虎次、ソドム、ボイス、サンタが躍り出て360度周囲に銃撃を始める。
4人を解き放ったバンは野営地を縦横無尽に走り出し、窓からボイスが自動小銃を片手で打ちながら器用にバンを操作していく。
虎次達4人は散開してルシア兵達を獰猛な野獣の様に殺害していく。

ソドムはグレネードランチャーで目についた車両を兵隊ごと大量に破壊し、ゴモラは火炎放射器と拳銃の二刀流で兵隊を焼き尽くしていく。サンタはマシンピストルの2丁で撃ちまくり、虎次は虎の様に日本刀とショットガンの二刀流で兵隊を斬り伏せ撃ち倒す。

虎次達のカチコミが終わり、ルシア軍の中隊基地は死屍累々と死体で満たされ生きているルシア兵は見当たらなかった。
「ゴモラさん、耳のアクセサリーはダメです。エクライナ人が怖がります」ルシア兵の死体から耳を切り取ろうとするゴモラを諌めるサンタ。ホッペを膨らませて抗議するゴモラ。
「虎ちゃん、終わったわね」
「ハイ、じゃあ街へ帰りましょうか」
虎次、サンタ、殺し屋達を乗せたSUVが街へ帰っていく。

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3月1日 午前10時

翌朝、希望する女子供老人を満杯に乗せた観光バスと共にダイトフォを後にする虎次一行。
観光バス1台、ロールスロイス・カリナンSUV1台、軍用トラック1台で国外脱出のために国境へ向かって進む。
SUVに乗る虎次とセルゲイとワンダ。
「虎次さん、たくさんのエクライナ人をバスに乗せてくれてありがとうございます」助手席のワンダが後部座席の虎次に話かける。
「いえいえ、出来る範囲で皆さんを国外脱出で助けたいだけですよ」
「ワタシカラモアリガトウゴザイマス、トコロデ、3ニンノコロシヤサン、バケモノデスネ」
「俺の居る組の伝説の殺し屋達でね、殺人が3度の飯より好きな悪魔そのままの人達なんですよ。悪すぎて日本からは逃げてまして。でもねドレッドのゴモラさんは子供好きでね、だから自分から進んでエクライナの子供達がいるバスに乗り込んだんですよ」
サンタが運転するバスの中、子供達に向けてマジックをして笑わせてるゴモラ。

山間の林道を進む車列、無線で通話している。
「虎ちゃん、セルゲイ君に位置状況を聞いてちょうだい」
「ハイ」
「ソドムサン、ゴーランドノコッキョウ200kmマデキテイマス。ヤマミチヲコエタラ、エクライナノシハイチイキ二ハイッテアンゼンデス」
「セルゲイ君ありがとっ」
「サンタ、そっちのバスはどうだい?」
「アニキ、ゴモラさんが大活躍でしてね、子供達と一緒にプリキュアのビデオを見て笑ってますよ」
「ゴモラは子供の心をもった殺し屋だからな」
「わかります。ボイスさん」

その時、頭上からバラバラバラと轟音が聞こえて来る。
「なんか来ましたね」重機関銃を用意する虎次、無線の通話。
「サンタ、軍用ヘリだ。林にバス隠せ。こっちは応戦する。ボイスさん、こっちは目立つ様に車走らせてヘリを引き着けてバスから引き離します。そちらでヘリ撃墜お願いします。ワンダさんはバスへ移って下さい」
ワンダを降ろして走り出すSUV。

「了解です」林の中へハンドルを切りバスを停車するサンタ。スティンガーミサイルを左右に2個ずつ計4個抱えてバスの外へ飛び出すゴモラ。
「虎次くん、敵は軍用ヘリ2機のようだ」停止させた幌トラックの荷台からジャベリンミサイルを取り出すボイス。運転席から重機関銃を持って飛び出すソドム。

林道を走るSUVのサンルーフから虎次が、飛んで来る軍用ヘリ2台に向けて機関銃を乱射する。
2台のヘリが機銃掃射しながら虎次のSUVを追跡していく。SUVの間近をヘリからの銃弾が飛び交い、セルゲイはSUVをジグザグに走らせながらヘリから逃げていく。虎次は車内から素早くAA 12オートショットガンを取り出し連射して行く。
SUVからの攻撃に剛を煮やしたかのようにヘリ2台から同時に数発のミサイルが発射される。
「ミサイル来たっ」
「ターンシマス」セルゲイが急ハンドルを切りSUVをドリフトで180度反対へ向きを変え走り、ミサイルの直撃をすんでの所でかわしヘリ2台の追跡を振り切っていく。
ヘリ2台は急旋回してSUVを追跡する。
SUVがドリフトしようがジグザグに走ろうが虎次の銃撃は止まらない。

ヘリから逃走中のSUVが高木の茂った林道のトンネルへ入り込む。ヘリから部分的に隠れる形となったSUV。木との接触を避けるヘリだがSUVへの追跡はやめずに機銃掃射は続けていく。
「ボイスさん、ヘリがそっちへ向かうのでお願いします」サンルーフから車内に戻り、無線で連絡する虎次。

SUVが林道のトンネルを抜けようとした時、先程のヘリが1台ホバリングしながら目の前に降下し、もう1台のヘリは後方上空で待ち構えている。
目の前のヘリがガトリング銃をSUVに向けようとした時、ヘリが突然爆発して墜落する。
その1秒後、後方上空のもう一つのヘリにも林の中から発射された2発のミサイルが襲いかかる。ヘリは回避行動を取るがすでに遅し、ミサイルが命中爆発して撃墜される。

墜落した炎上してるヘリの残骸に歩み寄る虎次とセルゲイ。
「トラサン、オワリマシタネ」
「ええ、疲れました」
林の中からソドム、ゴモラ、ボイスが出てくる。
「虎ちゃん、セルゲイくんお疲れ様!」
「虎次くん、うまくいったな」
「・・・・」サムアップするゴモラ。
「ハイ、ありがとうございます。兄さん達、国境に向かって走りましょうか」
虎次の無線にサンタから通信が入る。
「アニキ、ゴモラさんに早くバスに戻るよう言ってください。子供達が泣いてて困ってるんですよ」
それを聞いてバスに向かって急ぎ走って行くゴモラ。

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3月1日 午後3時

ゴーランド国境に向かって走る虎次一行。SUV、観光バス、軍用トラックの3台の先頭にバイクが1台増えている。
ボイスが途中の街で拾ったヤマハVMAXを、斥候と趣味を兼ねて走らせている。
無線で通話する虎次達。
「ボイスさん、いいバイク見つけましたね」
「ああ、もしやと思ったらVMAXで調子も悪くないし、ちょっと前見てくるわ」バイクのスピードを上げて一行の遥か前方に走り去っていくボイス。
「サンタ、そっちのバスでは調子はどうだ?」
「ゴモラさんとワンダさんが子供達と親御さんに懐かれてます」
「虎次さーん、ワンダでーす。日本のアニメで見た修学旅行みたいで、たのしいですー」
「ワンダサン、若くていいですね」
子供達と楽しくお菓子を食べているゴモラ。
「虎ちゃーん、早く私も聞いてよ!1人で寂しいのよ。ところで、さっき渡した偵察ドローンはどう?」
「最新の技術は凄いですね、車よりも早く飛ぶし動画もレスなく鮮明に見れるし。今、前を走ってるバイクのボイスさんを見つけました」虎次が見てるノートPCの画面には、長髪をなびかせて自動小銃を背負ったボイスがバイクで疾走しているドローン映像が映っている。
「国境まで残り70
kmね、何もなければ半日以内には国外脱出できるんじゃないかしら」
「そう思います」

数十分後、虎次達の元にボイスのバイクが全速力で帰還しSUVの横に並走する。
無線の通話。
「虎次くん、この先の道沿いに所に大規模なルシア兵の基地を発見してね」
「昼間にバス車の3台で通ったら、バレてロケット砲の餌食でお陀仏だわ」
「オレ達だけならなんとか出来ますが、一般人のバス付きだから下手な事はキツイですね」
「とりあえずもうすぐ見えるアノ町で作戦会議だな」虎次達の前方に町が見える。

ルシア兵に破壊された廃墟で無人になった町に虎次一行が着き、ノートPCとPCPADを見ながら会話している。ゴモラは子供達と廃墟の街でかくれんぼしている。何故かワンダはエクライナ人とではなく、サンタの横に居る。
「ゴモラさん呼ばなくていいんですか?」
「サンタちゃん、ワンダちゃん、ゴモラはほっといていいわ。アンタ達、仲良いわね。ワンダちゃん、こんなヤクザモノは彼氏だめよー」
「ソドムさん、大先輩ですがほっといて下さい」「違いますっ」顔を赤らめるサンタとワンダ
「ボイスさん、基地はどうだったんですか?」
「ああ、偵察ドローンの映像をみてくれ。ソドム」
「ええ」ソドムがノートPCでドローンを操作し、画面上には大規模なルシア軍の駐留基地が見える
「場所はこの先約10km、人数は1000人程。戦車、戦闘車両、ミサイルシステム、軍用トラック、ヘリコプター多数、施設コンテナ。人員、武器豊富」
「キツいっすね、アニキ簡単には抜けられませんよ」
「コノアタリハ、ルシアグンイナイハズダッタンデスガ」
「それが戦争よ、エクライナの裏をかいてルシア軍は侵入したんじゃない」
「ソドムさん、ルシア兵が密かに侵入したのならエクライナには簡単にバレたくは無いはずです」
「そうだな、それならコチラにも勝機はあるかもしれない。虎次くん、ルシア側も細事で事を荒立てて大きな軍事作戦を潰したくはないはずだ」
「この状況なら博徒であるヤクザの本域、相手を騙すペテンならなんとかルシア兵を出し抜けるかもしれませんね」
ルシア兵が駐留してる地域の地図を拡大する虎次。
「作戦としてこれならどうでしょう。決行は今日の真夜中。観光バスには、エクライナの方々とワンダさん、セルゲイさんが運転。セルゲイさんにはこのまま国境までバスを突っ切ってもらいます」
「ワカリマシタ」
「俺たちが暗視ゴーグルを持ち込んでるから、ドライバーはゴーグルつけて無灯火で暗闇の道を進行する」
「ボイスさんには、バイクでこの道と正反対の場所へ回り込んで、そこからルシア兵基地へ攻撃してもらいます」
「アニキ、ボイスさんに気を引いてもらう事で、その隙に観光バスには基地横を素通りして国外脱出してもらうんですね」
「ああ、そうだ。観光バスを俺とサンタのSUV、ソドムさんとゴモラさんのトラックが防御しながら援護する」
「それだけじゃバレるから、秘密兵器を使ってルシア兵を混乱させてやりましょうよ」ソドムが軍用トラックの荷台に入りゴソゴソする。
「果汁親分が高いお金出して武器商人から高級なオモチャを買ってくれたのよ。でも親分がね、あたし達にボディカメラつけて映像は記録して戦うようにって命令されてるのよ」
「ソドムさん達もですかー、俺らもボディカメラ言われてるんですよ」
「親分、戦闘映像を政府とかに売るつもりですかね?」
「あの方はスナッフビデオ好きだから自分で残虐シーンを楽しみたいんだろう」
「悪趣味よねー」
「ソドムさん、あなたは言えないです」
「えー」

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3月1日 午後11時

漆黒が覆い尽くす夜
暗闇の道路を進む虎次一行の車列。
どの車両も暗視ゴーグル装着の無灯火で走っている。
無線の会話。
「軍用ドローンの映像どうかしら?」専用ゴーグルとコントローラーでドローンを操作中のソドム。
虎次のPCPADには、ルシア軍の基地上空を無音で旋回してる軍用ドローンからのライブ映像が映っている。
「鮮明に映ってます、ルシア兵の顔の表情まで判りますね」
「すごいでしょ、この軍用ドローン。映像だけでなく、爆弾やミサイル発射も出来るのよ。爆弾はもちろんクラスター爆弾で1万粒の極小金属がルシア基地へ炸裂するわ」
「そうですか。ソドムさん、基地向こうのボイスさんとの合同作戦、もうすぐ時間になるのでお願いします。セルゲイさん、大きなバスですが目立たないようルシア軍基地の真横を通って下さい」
「リョウカイデス、トラサン」
虎次達と正反対の場所、ルシア基地横の森林の中、VMAXを横に置いたボイスがスティンガーを構えグレネードランチャーを足元に置き手元の時計を確認している。

時計を確認する虎次、無線で呼びかける「行きます、1、2、3、GO!」
ボイスが、目立つように斜め上空へ基地に向かってスティンガーミサイルを発射し、手早く砲身を捨てると足元のグレネードランチャーを基地へ向かって連発する。
真夜中、突然の複数爆発に騒然とするルシア兵達は右往左往し、砲弾の発射源に向かって反撃をしようとする。
しかしその時、ソドム操作のルシア基地遥か上空からの軍用ドローンからミサイルが1発発射される。発射されたミサイルは、地表10m付近で炸裂し1万発もの金属粒、クラスターがルシア基地全体に激しく降り注ぐ。注がれたクラスターは兵士の肉体を切り裂き、ヘリコプターや戦闘車両にめり込む爆発する。
死傷者が出てきたルシア基地は混乱の極み、戦車に乗り込み逃げようとする兵士も出てくるが、ボイスが発射するスティンガーミサイルとグレネード弾の餌食となる。
基地上空を飛んでる軍用ドローンは、ミサイルではなくミサイルを基地上空から発射し戦車とヘリコプターを破壊して行く。
「それじゃあ、俺もいきますよ」虎次もPCPADから偵察ドローンを操作し、軍用ドローンより低空から霧状のモノを噴霧する。噴霧された霧に触れたルシア兵達が、突然もがき苦しみ口から泡を吹き出し倒れて絶命して行く。
「アニキ、ソドムさんから渡された簡易サリン噴霧キットはエグいですね」
「ああ、世界中の悪人がこんなの作りまくってるんだろうな」
「こんなの東京の空からやられたら溜まったモンじゃないですよ」
「とにかく、この偵察ドローンはサリン汚染されてるから、サリンを使い切って廃棄だな」
偵察ドローンはその後もサリンを噴霧しルシア兵を大量に殺害、身体不随にしていった。

基地横の道を走る虎次一行。ルシア兵に気づかれない様に暗闇を無灯火の低速で走っている。
しかし、ソドムとボイスの攻撃により爆発炎上した明るさでバス、SUV、トラックのシルエットがルシア基地側に浮かび上がる。
襲撃で混乱の中、暗闇に浮かんだ車列に気づいた幾人かのルシア兵達が虎次達へ向かって銃撃を開始する。

車列に向かって多数の銃弾が飛んでくる。
「ヤッベ、兄貴気づかれましたね」
無線で通話する虎次達。
「やっぱり700人も兵士がいたらバレるわね」
「ソドムさん、こちらに攻撃してる兵隊をドローンで撃ち尽くしてしてから地上戦に移って下さい。ゴモラさん、照明弾お願いします。セルゲイさん、バスを道路の向こう側、俺達の後方に動かして下さい」
一同「了解」
虎次とサンタとゴモラは車から降りそれぞれ重機関銃、グレネードランチャー、自動小銃を使いルシア兵達と応戦する。
ゴモラが上空に向かい照明弾を打ち上げる。基地反対にいて連絡できないボイスへの帰還の為の合図だ。
上空の照明弾の光が虎次達とルシア軍基地を真昼の様に煌々と明るく照らしだす。ボイスとソドムがかなりの数のルシア兵を屠りヘリや戦車なども破壊したが、多数のルシア兵が生き残っているのが目に見える。兵隊全員が虎次達に向かってくる。
「アニキ、こちらに気づいたルシア兵がアリの様に湧いてきますね」
「ああ、まだ300名程残ってるんじゃないか」
照明弾の一瞬の昼間が終わり、暗闇の中。虎次達に向かって銃撃しながら向かって来る多数のルシア兵達。
軍用トラックの幌内で、ドローンのコントローラーを操作するソドム。トラックの幌内にも銃弾が飛び込んでくる。
「あいつら鬱陶しいわねえ、これでもくらえ」
ソドムのドローンが上空から数発ミサイルを発射する。発射された爆弾は、虎次達に向かってるルシア兵達の中心部に着弾すると爆発し熱い空気で半径100mものルシア兵を焼き尽くす。
「ソドムさん、今の爆弾の爆風は熱すぎっス!こっちも焼け死んでしまいますよ」ソドムに抗議するサンタとゴモラ、ゴモラはほっぺを膨らましてる。
「あーらごめんなさい。気化爆弾の小さいヤツよ。アレでも威力凄いのね。あと残りのミサイルとドローンのカミカゼアタックも全部ルシア兵にぶっ込んでやるから」
続けてソドムのドローン攻撃が虎次達バックアップの中、ルシア兵達に容赦ない攻撃を上空から行う。クラスター爆弾の炸裂、ミサイルによる爆発、気化爆弾での灼熱燃焼。圧倒的な攻撃に逃げようとするが死ぬしかないルシア兵達、武器の手を止めてそれを見入る虎次達とサンタ。ゴモラは淡々と重機関銃ルシア兵掃射している。
「戦争とはいえ、敵さんが可哀想になってきました」
「サンタ、ドローンあったら俺たちのドンパチがバカらしく思えるな」
ドローンの弾が尽きたのか、ソドムはドローンをルシア軍基地の中心にカミカゼアタックで突っ込ませる。ドローンには大量の火薬を積んでいたのか今までにない大きさの爆炎がルシア基地を覆い尽くし全てを燃やし尽くす。爆風と熱風が道路側の虎次達にも吹きかかる。

ルシア兵との戦闘から1時間後。
虎次達とルシア兵の戦争は終了し静寂が訪れ、ルシア軍大隊の基地は原型を止めず、死体と武器の残骸が辺り一面を覆い尽くした。電子タバコを吸いながらそれを眺める虎次とサンタ。
「やっと終わりましたね」
「そうだな、ドローンがなかったら1000名の軍隊と喧嘩なんて無理だったろうな」
「フー、終わったわ」トラックの幌から降りてきたソドム。
「敵さんには悪いけど楽な戦争ね。体が鈍って太ってしまうわ。ドローンがあれば軍隊なんて要らないわね」
バスから出てきた子供達へ、楽しそうにお菓子を配るゴモラ。
虎次の元にセルゲイとワンダがやってくる。
「トラジサーン、オツカレサマデシタ」
「サンタくん大丈夫?」
ワンダがサンタの元に寄り、サンタの手を握る「大丈夫だよ!」。
「良かった!」親愛の情でサンタに返すワンダ。
「サンタ、ワンダさんは果汁組長案件だから、手をつけるなよ」虎次はサンタに軽く肩パンチをして笑いながら諌める。
「へへ」

束の間の平和を満喫する虎次一行の元に、ヒューと飛来音が鳴り砲弾が着弾し爆発する。
直撃はなかったが爆風で吹き飛ばされた虎次達。
「みんな大丈夫か?動けるか?女子供はバスへ戻って」
子供達をバスへ戻すゴモラ。
「アニキ、さっきの戦いが本隊とかに連絡されたんでしょうね」
「やっぱりアレで終わらなかったな」
混乱の中、VMAXに乗ったボイスが虎次一行の元に戻ってきた。
「虎次くん、次の軍隊がきたか」
「はい、ボイスさん、ソドムさん、ゴモラさん、サンタ。俺たちは今からここにとどまってルシア兵を迎え打ちます。お願いします。とにかくエクライナの人達を国外に脱出させます」
「了解!」一同、手早くジャベリンやスティンガー、重機関銃、グレネードランチャーを軍用トラックから取り出し始める。
「セルゲイさん、ライトつけて全速力でここから逃げ切って国外に行って下さい。ワンダさんを東京までお願いします。果汁親分に連絡したらなんとかなりますので」
「ワカリマシタ、シナナイデクダサイ」
「俺らヤクザは簡単には死にませんよ、悪くて渋といんですから」
「サンタさん、東京で会いましょう」
「竹下通りを俺が案内しますからね」
「では行ってください」バスへ走って行くセルゲイとワンダに声をかける虎次。
窓越しに虎次達に、サヨナラと手を振る子供達。大泣きして手をふり返すゴモラ。
ライトを点け虎次達から走り去って行く観光バス。

バスを見送った虎次一行達に、ルシア軍からであろう多数の銃弾や戦車の砲弾が飛び込んでくる。
「戦車が50基、歩兵が500人、もっといるかもよ」
手早くノートパソコンで偵察ドローンを操作するソドム、足元にはスティンガーミサイルを山の様に積んでいる。
「了解ですソドムさん」
「虎次くん、戦う前のハッパかけてくれ」重機関銃を構えるボイス
「アニキ、お願いします」ジャベリンミサイルの準備をするサンタ。
グレネードランチャーの左右2丁持ちで話を聞くゴモラ。
「はい、最初の目的のワンダさんは東京へ行けるでしょう。もう俺たちがここへ居る意味はもうありません。俺たちは縁もユカリもない所で戦う理由はありません。俺たちに正義はないです。でもね、俺たちはヤクザなんです。ただ単に喧嘩がしたいだけなんですよ。もうすぐ目の前にルシア軍が来ます。好き勝手に暴れて下さい。喧嘩して下さい」
一拍おき、

叫ぶ虎次「始めー」

号令と共に射撃を開始する虎次達。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

半年後
『新宿』

新宿東口を歩くカタリナとワンダと3歳の白人の男の子が1人。
「ルシアが分割消滅して良かったわね。あなたはエクライナへ帰らないの?」
「ううん、日本で大学に入ろうと思ってる」
「頑張ってね」手を繋いでる幼児の頭を撫でるカタリナ。

「アレっ?」雑踏の中から何かを見つけたワンダが走り出人混みをかき分けていく。
「ちょっとワンダ、どうしたの?」

ワンダが見つけた先には虎次とサンタがいる。平和な新宿には異質な血で汚れた戦闘服姿、5体満足の様である。
「サンタさーん」汚れてるにもかかわらずサンタに抱きつくワンダ、喜びの涙を浮かべている。
「ワンダさん、ただいま」ワンダにキスするサンタ。
キスし終わり、サンタの首に両手を回したまま虎次を見たワンダ「虎次さんもお帰りなさい」
「どうも」やっぱり外人さんは恋愛に積極的だなと感じた虎次だった。
「おお、お前ら!」果汁親分が2人の護衛を従え、カタリナと男の子と共に虎次達の前に現れる。
「只今帰ってまいりました」果汁親分に挨拶する虎次とサンタ。しかし、サンタはワンダと手を繋いだまま。それをチラ見した果汁親分。
「サンタの手を繋いでるのは、今日はまあ許すとして。生きて帰ってきて御苦労だった。しかし、半年間もどうしてたんだい」
「はい、暴れたりなくて、渡世の義理でエクライナ各地を転戦してルシア兵と戦ってました。それで1区切り付いたところで日本に帰って来ました」
「親分、そのチビッ子は誰ですか?」サンタがカタリナと手を繋いだ男の子を指差す。
「ワンダさんが一緒に連れて来たエクライナ孤児だ。こんな時だから受け入れてな」
「サンタさん、この子あのバスに乗ってたのよ。置いてく訳にも行かなくて日本に連れて来ちゃった。ところで虎次さん、ゴモラさん達怪物トリオは居ないの?」
「ああ、ウチの殺し屋トリオは日本に戻ったらスグ捕まるから、ギリシャで別れたよ。アフリカ辺りで暴れてるんじゃないかな。あとセルゲイさんは、ゴーランドとエクライナの間を行ったり来たりして武器商人で儲けてるよ」ほくそ笑む虎次。
「虎次、あとなオマエラが拾って来たモバイル通信コンテナ、アレなクラスハ4と判ってアメリカへ売却でpして収支が黒字になったよ」果重狂介親分がスキンヘッドをペチペチ叩いて喜ぶ。
「はあ」
果汁親分がニコニコしながら虎次とサンタに近づき。
「ところでな、虎次くん、サンタくん。もう一度エクライナ、と言うよりもエクライナからルシアへ連れ去られた人を救って欲しい依頼なんだが、どうかな?」
「遠慮しときますー」アルタ前を走って逃げる虎次とサンタ、それを見てわ笑ってるカタリナとワンダであった。


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