大きくて可愛いあなたと

鈴元 香奈

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そして

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 誰もいない村を呆然と眺めている私を、ヨウトが困ったように見ていた。
「明日香。ごめん。俺しかいなくて」
 この村が無人なのはヨウトのせいではないのに、悲しそうに謝るヨウトを見て、落ち込んでいるわけにはいかないと私は思った。
 ヨウトは大きくて、力も強いけれど、心まで強いわけではない。少年のように私の言動で表情を変えるヨウトを見ていると、自分がしっかりしなければと気になってくる。

「帰ろうか?」
 私のそう促した。
「うん」
 ヨウトは嬉しそうに頷いた。


 再び、ヨウトの家に行く。
 村で一番大きな家だけあって、台所も立派だった。
 外には井戸があったので水道はないと思っていたが、台所にある石で作られた流し台の上には蛇口がついている。 
 ヨウトがその流し台の横で、捕ってきた魚を捌き始めた。大きくて太い指なのに、ヨウトは結構器用で驚いた。塩を振って鉄板で焼く。皮の毒々しい色が褪せて、白身の身が覗いて美味しそうになる。匂いもとてもいい。

「村外れの畑には野菜が生っているから、採ってくる」
 ヨウトがそう言うので、
「私が採って来るよ。それくらいできるからね」
 私にできることは自分でしたいと思っていた。
「大丈夫か? アスカは小さくて心配だ」
 確かにヨウトに比べると子ども並みに小さいけれど、これでも二十歳の成人女性だ。
「平気よ」
 そう言って私は外へ出た。

 小さな村なので、畑はそう遠くなかった。畑は手入れはされていないけれど、雑草に交じってトマトやキュウリがいくつか食べごろになっている。二人で生きていくのには十分な量だ。二人分にしては多めに収穫して、私はヨウトの家に戻った。
 魚は美味しそうに焼けていた。ヨウトは小さな芋を茹でたようだ。
 私はキュウリとトマトでサラダを作る。

 パンも御飯もなく、味付けは塩のみだけど、それでも朝から何も食べていない私にとって、とても美味しい夕飯だった。茹でた芋は少し甘くて、どこか懐かしい味がした。

 食事が終わると、ヨウトが素早く食器を片づける。泡立つ石鹸をようなものまであった。


「明日は、森へ獣を狩りに行く。アスカが来てくれたお祝いだから。森には果物もたくさんあるし」
 夕食が済むと、ヨウトはにこにこしながら明日の予定を決めていた。
「私もついて行っていい?」
 この世界のことを少しでも知りたかった。ヨウトが行くところならば、私も行ってみたい。
「もちろん、アスカと一緒だ。俺が抱えて行くから、森にはすぐに着く」
 そうよね。私が歩いて行くと十倍くらいの時間がかかりそうだから。


「風呂へ入るか?」
 ヨウトは大きすぎて、風呂桶に入ることができないから、今まで井戸のところで水浴びをして済ましてきたらしい。

「お風呂入りたい」
 何だかとても疲れた。ゆっくりと湯につかりたいと思った。
「わかった」
 ヨウトは、お風呂の用意をしてくれた。石鹸で体を洗い、私にはちょうどいいサイズの風呂桶に浸かって、今日の疲れを癒す。良く考えたら、抱きかかえられて運ばれて、サラダを作っただけだったけれど。それでも、お風呂は気持ちいい。


 ヨウトの家の寝室も広かった。
 ヨウトのものらしい大きなベッドの隣に、小さな木のベッドが置かれている。ヨウトはその小さなベッドの上に綿を詰めたマットを置いた。そして、シーツを被せる。

「ヨウトと同じ部屋で寝るの?」
 今日初めて会った人と同室で寝るのはちょっと抵抗があった。ヨウトは一つ目で体も大きく肌は青いが、問題なく意思の疎通ができる。そういう意味では彼が人ではない思うのは難しい。

「俺はセイレンとも一緒の部屋で寝ていた。明日香はセイレンとよく似ている。ベッドも丁度いい大きさだし。同室は嫌か?」
 ヨウトは私に拒否されたと思ったのか、項垂れていた。
 そんなに落ち込まれると、私が酷い女みたいに思えてくる。

「わかった。一緒の部屋で寝る」
 勢いで言ってしまった。でも、ヨウトに嬉しそうにされると、今さら嫌とも言えない。

「アスカは、本当にセイレンに似ている」
「セイレンさんは、私と同じように目が二つあって、牙も角もなかったの?」
「そうだ。そして背中には白くて大きい翼があった」
 それって、天使じゃないの? 天使が青鬼を拾って育てていたの?

「セイレンさんって、女の人?」
「女の人? よくわからない」
 ヨウトは首を横に振った。天使には性別がないのかもしれない。

 シーツは洗濯されていて、石鹸の香りがした。着替えはセイレンさんのものが使えた。
「他の家にも色々な物が残っているから、欲しいものは持ってくればいい」
 ヨウトがそんなことを言ってくれる。
 私はこんな自然の中の暮らしも悪くないと思っていた。これならば生きていけそうだ。もう死んでいるのかもしれないから、生きていけると言うのはおかしいかもしれないけれど。

「一人じゃないって、安心する。アスカが来てくれて、本当にうれしい」
 大きなベッドに腰かけたヨウトが私に微笑みかけた。
「私も、ヨウトがいなかったらと思うと、とても怖い。ヨウトがいてくれて本当に良かった」
 私もヨウトに微笑を返した。
 ヨウトが照れたように笑う。ヨウトの青い肌がほんのり紫色になったような気がした。

「それじゃ、明かりを消す。アスカ、お休み」
 ヨウトが火を吹き消すと、部屋は闇に包まれた。
 隣のベッドには大きな男の人。力ではとてもかなわない。
 求められたらとどうしようと思い、緊張していると、ヨウトの規則正しい寝息が聞こえてきた。

 緊張していた私が馬鹿みたいに思える。ヨウトは小さい時にここへ来て、性別もわからない人に育てられて、男女の事なんか何も知らないことぐらいわかるのに。それでも、女としての魅力がないのかとちょっと悔しいと思ってしまう。

 ここは、天国でも地獄でもない。なぜここに来たかもわからない。でも、もう帰れないのだと思う。それならば、ここでヨウトと生きて行こう。この青くて異形の優しい人と。

 私は、大きなベッドからはみ出ている大きな青い手をそっと握り締めた。その温かさが心を満たすように、私は眠りに落ちた。
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