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EPISODE 3 言い出せず、抱えた思いに、口籠る
嵐の先に
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厚い雲が割り開かれ、陽光が顔を出した。やがて、突き抜けるような青空。雲の層が霧散する。
遠くの水平線には天まで昇る一筋の建物。軌道エレベーター、かつて人類はそう呼んだ。
そして、濡れた荒野。どこまでも、どこまでも続いていた。
「あのーっ‼」
ふと、声がした。か細くも元気な声だった。
「本当に、ありがとうございましたーっ‼」
遠くに唸るエンジン音すら貫いて、その声は高く響くよう聞こえた。
「あらあら」
「フッ……」
珍しく、二人揃って笑えた。機械人が笑うなど、有り得ない。たかが作られた、一事象に過ぎないのだろうが。
きっと、良い思い出になるだろう。記憶装置に刻まれたデータの一部でしかないだろうが。
この星が滅ぶまで。
EPISODE 3 言い出せず、抱えた思いに、口籠る
「何処かに建物はないか……⁉」
荒天の中を駆け抜ける一台の輸送車、エンジンが獣のような唸り声を上げている。泥を弾き飛ばして疾走していた。
運転席に乗っている機械人は忙しなく首を回している。吹き荒ぶ雨風は激しい。その他にも、彼が焦っている理由は助手席に転がっていた。
「ぐ、具合悪い……」
羽根の生えた少女が蹲り、身体を震わせていた。彼女は時折、腹部を手で抑えたり首を伸ばしたり縮めたりしている。身体のやり場がない、そのような様子であった。
「大丈夫か、ウィン⁉」
「さ、寒気が止まらないです……」
「喋るな、横になれる場所を探してやるから」
アンディはアクセルペダルを更に踏み込んだ。揺れの激しい中、ウィンは眉間に皺を寄せて彼を睨んだ。
「喋るなって、聞いたの貴方じゃないですか……」
か細い声はエンジン音に掻き消された。
数分後、凄まじい雨の中に稲妻が落ちる。閃光が嘶くと共に周囲を白と黒のコントラストに包み込む。幾度か続いた時、荒野の果てに小さな影が映った。建物だ。
「見つけたぞ、あともう少しだからな」
「……」
少女は黙って小さく頷いた。片羽根を広げて身体を守るように包み直す。羽根の向こうに嵐が透けて見える。
「……んぅ?」
嵐の雲間、更に向こうの灰色の空に彼女は黒い星を見た。ウィンは思わず身震いをした。具合の悪さからか、黒い星の不気味さからか、定かではなかった。
バイザーに映った影は徐々に細部を明確にする。小さな小屋の上には看板。何かの店であることは間違いないが、看板は所々破れておりインクも滲んでいる。
誰が住んでいても構わない。アンディは輸送車を乱暴に停めると、店の軒先に野営道具を放り投げた。
「着いた。そのままで良いから、掴まれ」
小さな手がコートの襟を握った。それを認めると、アンディは上体を起こす。背中と手足を抱えたまま、ゆっくりとウィンを運ぶ。大きな雨粒がアンディの背中を濡らす。
「おや……お客さんかい?こんな天気に……」
丁度、店の軒先に足を踏み入れた時に扉が開け放たれた。薄暗い店内から顔を出したのは一人の機械人である。女性のような声色で、エプロンをしていた。
「体調不良者がいる。申し訳ないが横になれる場所はないか」
「大変‼すぐに主人を呼んでくるわ‼」
ドタドタと木製の床が軋む。寸刻、大柄の機械人が、ぬっと顔を出した。小綺麗な服を着ている男性型だ。彼は傷だらけの腕を伸ばすとウィンに触れた。少しして、離した指を擦り合わせる。
「熱があるな。奥の部屋にベッドがある。マリー、案内しろ」
小綺麗な格好の機械人は袖捲りをすると、そのままアンディの横を通り過ぎる。荒れた天気の中、彼は店の外へ出た。
「まったく、主人ときたら……。案内しますので、どうぞ」
エプロンをした機械人は店の奥の戸を開け放した。
「しばらくしたら主人は戻ると思いますので」
ウィンとアンディはベッドのある部屋に案内される。どうやら客室らしく、清掃も行き届いた綺麗な部屋だった。
エプロンをした機械人はウィンの額に水で冷えたタオルを乗せた。清潔なシーツが敷かれたベッドの上に転がされた彼女は不規則に胸を上下させる。
「戻った」
丁度、小綺麗な格好の機械人が部屋の戸を肩で押し開け入って来た。ずぶ濡れのまま、右手に青々とした葉、左手に乳鉢などの器具を握りながら。
「床が濡れちゃうじゃない」
「黙ってろ。家より患者が優先だ」
文句を言う妻を退かし、彼は葉を何枚か乳鉢に入れると擦り潰す。どこからか取り出した水を加えて混ぜると、色味の悪い液体が出来上がる。彼は自身の服を布巾代わりに左手を拭いた。
「背中を起こすぞ、むせないようにな」
冷たい左手がウィンの背中を支えた。彼女の口元に直接乳鉢を寄せ、薬と思わしき液体を流し込んだ。
「……苦っ」
「我慢しろ、しばらくは様子を見るんだ」
乱暴な声色とは違い、ベッドへ身体を戻す様子は緩やかであった。
アンディは処置が終わるのを見届けると、小綺麗な男の機械人に礼を言う。
「助かった。ありがとう」
「……久し振りの客だ。話し相手になれ」
傷だらけの腕がアンディの肩を叩いた。小綺麗な格好の機械人は先に廊下へと向かう。アンディがウィンに顔を向けると、既に側にはエプロンを付けた機械人が座っていた。
「御礼か何か考えているのであれば、主人に付いてあげてください。この娘に何かあれば私が」
「……ありがとう」
アンディは少しばかり不安を覚えつつ、彼もまた廊下へと歩を進めた。
遠くの水平線には天まで昇る一筋の建物。軌道エレベーター、かつて人類はそう呼んだ。
そして、濡れた荒野。どこまでも、どこまでも続いていた。
「あのーっ‼」
ふと、声がした。か細くも元気な声だった。
「本当に、ありがとうございましたーっ‼」
遠くに唸るエンジン音すら貫いて、その声は高く響くよう聞こえた。
「あらあら」
「フッ……」
珍しく、二人揃って笑えた。機械人が笑うなど、有り得ない。たかが作られた、一事象に過ぎないのだろうが。
きっと、良い思い出になるだろう。記憶装置に刻まれたデータの一部でしかないだろうが。
この星が滅ぶまで。
EPISODE 3 言い出せず、抱えた思いに、口籠る
「何処かに建物はないか……⁉」
荒天の中を駆け抜ける一台の輸送車、エンジンが獣のような唸り声を上げている。泥を弾き飛ばして疾走していた。
運転席に乗っている機械人は忙しなく首を回している。吹き荒ぶ雨風は激しい。その他にも、彼が焦っている理由は助手席に転がっていた。
「ぐ、具合悪い……」
羽根の生えた少女が蹲り、身体を震わせていた。彼女は時折、腹部を手で抑えたり首を伸ばしたり縮めたりしている。身体のやり場がない、そのような様子であった。
「大丈夫か、ウィン⁉」
「さ、寒気が止まらないです……」
「喋るな、横になれる場所を探してやるから」
アンディはアクセルペダルを更に踏み込んだ。揺れの激しい中、ウィンは眉間に皺を寄せて彼を睨んだ。
「喋るなって、聞いたの貴方じゃないですか……」
か細い声はエンジン音に掻き消された。
数分後、凄まじい雨の中に稲妻が落ちる。閃光が嘶くと共に周囲を白と黒のコントラストに包み込む。幾度か続いた時、荒野の果てに小さな影が映った。建物だ。
「見つけたぞ、あともう少しだからな」
「……」
少女は黙って小さく頷いた。片羽根を広げて身体を守るように包み直す。羽根の向こうに嵐が透けて見える。
「……んぅ?」
嵐の雲間、更に向こうの灰色の空に彼女は黒い星を見た。ウィンは思わず身震いをした。具合の悪さからか、黒い星の不気味さからか、定かではなかった。
バイザーに映った影は徐々に細部を明確にする。小さな小屋の上には看板。何かの店であることは間違いないが、看板は所々破れておりインクも滲んでいる。
誰が住んでいても構わない。アンディは輸送車を乱暴に停めると、店の軒先に野営道具を放り投げた。
「着いた。そのままで良いから、掴まれ」
小さな手がコートの襟を握った。それを認めると、アンディは上体を起こす。背中と手足を抱えたまま、ゆっくりとウィンを運ぶ。大きな雨粒がアンディの背中を濡らす。
「おや……お客さんかい?こんな天気に……」
丁度、店の軒先に足を踏み入れた時に扉が開け放たれた。薄暗い店内から顔を出したのは一人の機械人である。女性のような声色で、エプロンをしていた。
「体調不良者がいる。申し訳ないが横になれる場所はないか」
「大変‼すぐに主人を呼んでくるわ‼」
ドタドタと木製の床が軋む。寸刻、大柄の機械人が、ぬっと顔を出した。小綺麗な服を着ている男性型だ。彼は傷だらけの腕を伸ばすとウィンに触れた。少しして、離した指を擦り合わせる。
「熱があるな。奥の部屋にベッドがある。マリー、案内しろ」
小綺麗な格好の機械人は袖捲りをすると、そのままアンディの横を通り過ぎる。荒れた天気の中、彼は店の外へ出た。
「まったく、主人ときたら……。案内しますので、どうぞ」
エプロンをした機械人は店の奥の戸を開け放した。
「しばらくしたら主人は戻ると思いますので」
ウィンとアンディはベッドのある部屋に案内される。どうやら客室らしく、清掃も行き届いた綺麗な部屋だった。
エプロンをした機械人はウィンの額に水で冷えたタオルを乗せた。清潔なシーツが敷かれたベッドの上に転がされた彼女は不規則に胸を上下させる。
「戻った」
丁度、小綺麗な格好の機械人が部屋の戸を肩で押し開け入って来た。ずぶ濡れのまま、右手に青々とした葉、左手に乳鉢などの器具を握りながら。
「床が濡れちゃうじゃない」
「黙ってろ。家より患者が優先だ」
文句を言う妻を退かし、彼は葉を何枚か乳鉢に入れると擦り潰す。どこからか取り出した水を加えて混ぜると、色味の悪い液体が出来上がる。彼は自身の服を布巾代わりに左手を拭いた。
「背中を起こすぞ、むせないようにな」
冷たい左手がウィンの背中を支えた。彼女の口元に直接乳鉢を寄せ、薬と思わしき液体を流し込んだ。
「……苦っ」
「我慢しろ、しばらくは様子を見るんだ」
乱暴な声色とは違い、ベッドへ身体を戻す様子は緩やかであった。
アンディは処置が終わるのを見届けると、小綺麗な男の機械人に礼を言う。
「助かった。ありがとう」
「……久し振りの客だ。話し相手になれ」
傷だらけの腕がアンディの肩を叩いた。小綺麗な格好の機械人は先に廊下へと向かう。アンディがウィンに顔を向けると、既に側にはエプロンを付けた機械人が座っていた。
「御礼か何か考えているのであれば、主人に付いてあげてください。この娘に何かあれば私が」
「……ありがとう」
アンディは少しばかり不安を覚えつつ、彼もまた廊下へと歩を進めた。
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