【完結済み】Re:B earth

藤林 緑

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EPISODE 5  むかしばなし

冷たい記憶

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 これまで生きてきました。
 そして気付きました。
 私は、この宇宙の一事象に過ぎないのだと。
 だからいつか。
 私も。
 忘れられる――。

 EPISODE 5 むかしばなし

 ウィン・リーロンはホシワタリの一族に生を受け、小さな街の外れで幼少期を過ごした。
 彼女の同居人は年老いたホシワタリの祖父と祖母であった。
 ウィンは自身の出生に関して訪ねたことがある。両親はウィンが赤子の時に亡くなった、とだけ聞かされていた。悲しい思いを抱く前に、そうなのか、と思ったことを覚えている。何故なら幸せな日々を過ごせていたから。
 不自由があるとすれば、片方の羽根が形成不全を起こしていたことだけ。そのせいか友達は少なかったが、片羽根を気にしない学友と共に義務教育を受けていた。飛ぶ練習も義務教育の中で学んだが、上手くいかなかった。滑空と安全な着地方法をどうにか学んだところが関の山であった。
 子供の頃のウィンは片方の翼が無いだけの純粋無垢なホシワタリとして、自由を謳歌し、将来を楽しみとし、未来に期待して育っていった。

 
 やがてウィンが成体となる頃、世界の冷たさを徐々に知ることとなる。
 祖父と祖母は亡くなり、葬儀を終えると静かな家だけが残った。丁度、職業訓練を終えた彼女は働き口を探すために近場の役所へと向かった。
 役所で対応してくれたのはメガネを掛けた男性のホシワタリだった。彼はウィンを一目見るなり。
「アンタに紹介できる仕事はコレくらいかな」
 そのどれもが賃金であったり、労働条件であったり、休暇であったり、厳しい条件のものが多かった。
 そしてふと、彼女は別の求職ファイルが有ることに気付く。それを指摘すると。
「……羽根の無いホシワタリは就職が難しいんだよ。このファイルの中は健常のホシワタリに紹介している求職だ。面接を受けに行っても良いが、時間の無駄だと思う」
 最初こそ腹を立て、普通のホシワタリが受けるような企業へ面接予定を取り付けたウィンだったが、数十回の不採用通知を経て、役所の男性は善意で意見してくれたことに気付いたのだった。
 
 また、役所に通う過程で自身の戸籍を調べた際に気付いたのだが、どうやら両親は不明とされているらしい。つまり、何らかの理由で捨て子となっていた自身を老夫婦が拾い育て上げたのだと知ったのだ。
 この事実を知った後の数日間は部屋に籠もって泣いていた。それこそ、他に何もできないくらいに。老夫婦の愛に対する感謝と本当の父母に捨てられた悲しさが折り重なり、心身の不調を起こしてしまった。
 捨てられた理由は分かっていた。片方しか羽根が無いこと。それだけである。既にホシワタリは特定の星に定住することを覚え、宇宙を飛び回る生態は失われていたが、やはり一族からはウィンの姿は異様に映るらしい。
 もはや自身はホシワタリではないのか、疎外感に彼女は悩み、苦しみ、泣き疲れ、眠った。

 
 後日、ウィンは面接の場に立っていた。とある運送会社である。
「……私でも、働かせてもらえるんですか」
「勿論、給与分は働いてもらうけれどね」
「やらせて、ください」
 自身の生い立ちについて知り、数日経ったある日のことである。足繁く通った役所の掲示板に運送業の貼り紙がしてあったことに気付く。
 経歴不問。その言葉に何度騙されてきたか。忌々しい文言の前を通り過ぎようとも思ったが、不思議と書類選考に申し込んでいた。
 久し振りだった。書類で落とされなかったのは。
「ほ、本日からお世話になります。ウィン・リーロンです。……これでも、ホシワタリです。よろしくお願いします‼」
 入職日、様々な眼がウィンを眺め見ていた。
 魚のような顔の男。トカゲのように鱗まみれの女。全身入墨の大男。一つ目の女。
 あらゆる種族が綯い交ぜになって、この運送会社は成り立っているらしい。ちなみに、社長はスライムのような不定形の壮年男性だった。
 そのような環境であったため、ウィンは直ぐに馴染むことができた。最初は先輩である職員と荷降ろしや検品作業。慣れてきたら輸送船運転の練習。
 先輩や同期は皆、優しくウィンを受け入れた。仕事を真面目に取り組む姿勢は適正な評価を受け、昇給もそれなりにあった。
 彼女は新たな生活の場で、自身の幸せを掴めるかもしれないという希望を抱き始めていた。
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