【完結済み】Re:B earth

藤林 緑

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EPISODE 6  不安定な二人

リブート

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 直後、大きな警報が鳴り響く。ウィンは急いで身体を起こす。
「なっ、気付かれた⁉」
 予想していた。エントランスの敷地内に侵入したとて、セキュリティが整っているのではないかと。
「監視カメラ、あるもんね……」
 予想通り、ウィンの視線の先には此方を覗き見る監視カメラ。敷地内に配置された鉄塔や電灯の先から彼女をじっと見つめていた。
 遠方からコンクリートを叩く音がバタバタと聞こえてくる。荒野でも聞いた無限軌道、独特の駆動音だった。焦燥感を掻き立てる言いようのない、まるで統率された部隊の軍靴の音のような。
「とりあえず、逃げなきゃ……‼」
 正門の警備用機械人が反応したらしい。二台の機械人に追われ、ウィンはエントランスに向かい駆け出す。前傾姿勢で、息を荒げ、目の前の空間に縋り付くように。
「痛っ……」
 着地時にあちこち打ったのが響く。足や腕、痛みが走るのを庇いつつも走った。苦痛に顔を歪めつつ、全力で。
 やがて、エントランスに近付いた時。風切り音が後方から走り抜ける。
「なっ……⁉」
 飛来したそれはワイヤーだった。警備用の機械人が発射した逃走者捕縛用のワイヤーは、ウィンの脚と胴体に勢い良く巻き付き、彼女の自由を奪う。
 投げ出されるようにウィンが倒れる。身悶えするように藻掻くが、中々ワイヤーは外れない。
「い、嫌だ……ッ‼」
 一瞬、ウィンは後方の機械人を認めたが、直ぐに前を向いた。エントランスまでの距離は僅か。ここで諦めたくはない。芋虫のように這ってでも、彼女は身体を動かし前進しようとする。
 こんなところで終わりなんて。
「私が、私を許せない……」
 ロジャー、フッド、アンディ。皆が繋いでくれた、ここまでの道程。それを無碍にするなど、私の思いが許せないのだ。間違いない。これは。
 私の感情だ。
「ああああっ‼」
 大声で叫んだ。身動きできなくても、前に進めなくても、声を上げた。
 私は諦めたくない。前に進みたい。それを誰かに知ってほしい。
 この思い、意思だけでも、誰かに届かせたくて。ただ、叫んだ。
 叫び声の奥、無限軌道の足音は直ぐそこに迫っていた。
 遂に、ウィンは振り向いてしまう。二台の機械人が彼女を見下ろしていた。
「あ……」
 絶望に思考を支配されたウィンの視界の中、突如として機械人の上体が揺らいだ。何かが警備用機械人に衝突し、遅れたように轟音が敷地内に鳴り響く。弾けるスパーク、吹き飛ぶ電子部品。
 気が動転したウィンの耳に、声が聞こえた。
「その娘から手を引け……」
 低い声だ。静かに聞こえた声は、更なる銃声を呼んだ。二発、三発。銃弾は機械人の胴体を抉り、喰らい千切るように吹き飛ばした。
 一台の警備用機械人は白煙を上げて沈黙する。一瞬のうちに放たれた数発の弾丸により、その機能は失われたのだ。
「ダレダ……ッ‼」
 残された機械人は既に臨戦態勢、弾丸の飛来した位置から敵の居場所を特定する。放たれる暴徒鎮圧弾、ウィンに放たれたようなワイヤーではない。
 機械人の生命を奪うような、殺意の籠もった榴弾である。
「モクヒョウ――ロスト」
 炸裂。榴弾にて黒焦げになった地面には何も残されていない。コンクリートの破片が散らばるばかり。
「……お前の負けだ。新型」
 警備用の機械人、その胴体に衝撃が走る。機械人の背面に何者かが取り付いている。治安維持部隊、その腕章を付けた軍用コートを羽織った、ヘルメット頭の機械人。
 その姿を、ウィンは目を丸くして認めた。
「アンディ、さん」
 アンディは銃を構える。大型の自動式拳銃だった。傷だらけだが、手入れは行き届いているようだ。
 それを警備用機械人の背面装甲に押し当てる。
「もう一度言う。彼女から手を引け」
 アンディは警備用機械人に言い聞かせるように言葉を紡いだ。警備用機械人は無機質な声で答える。
「シンニュウシャハ、マザー二、チカヅケサセナイ」
「良く言った。君は、正しく機械人だ」
 アンディは拳銃の引き金を引いた。一度、二度、三度。轟音が連続して響く、装甲を貫き、基板を焼き、ケーブルを裂いた。
「……マ、ザー」
 数度のランプの点滅を経て、警備用機械人は崩折れた。
 遂に騒がしかった敷地内は、風音だけが通り抜けるようになった。
 残されたのはショートした回路の僅かばかりの光、大型自動拳銃から立ち昇る硝煙の香り。
 そして捕らわれた宇宙性哺乳類と、傷だらけの旧式機械人だけであった。
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