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EPISODE 7 決闘、アナザーセントラル
ホークアイ
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アナザーセントラルに発砲音が響き渡る。機械人同士の戦いが幕を開けた。
初弾は互いに横へ駆けることで躱す。
続く第二射、膝立ちの姿勢となったジーナはライフルを構え狙いをアンディに定める。獲物を狩る狩人のように目標を確認。あとは引き金を引くだけ。
「逃げろっ‼ウィン‼」
アンディはウィンを逃がすことを優先した。彼は拳銃を乱射し、ジーナの狙撃を阻害する。彼の目論見通り、ジーナは一発も撃たずにアンディとウィンを見送った。
一瞬の間に喧騒は再び静寂に変わる。霧の都市、女性型の機械人は標的を追い詰めるべく侵攻を開始した。
建物の影へと隠れたアンディとウィンは姿勢を低くし、声を潜める。それと同時、耳を澄ませた。ジーナの足音を注意深く、聞き逃さないように。
「渡しておく」
「え?はぁ⁉」
ウィンは思わず大きな声を上げてしまう。
手短な説明と共にアンディより渡されたのは小さな拳銃だった。小型とはいえ、言い表しようのない重量感が彼女の両手に伸し掛かった。
「ど、どうやって使うんですか⁉」
気が動転しているウィンに、アンディはゆっくりと人差し指を振りながら拳銃の使い方を指導する。まるで子供に言い聞かせるように。
「落ち着いて、狙って、撃つ」
「……分かりやすい説明、ありがとうございます」
四の五の言っても仕方ない状況なのだろう、ウィンは眉間に皺を寄せつつ、拳銃を慣れない手付きで握り込んだ。
アンディは肩を竦め、ウィンの拳銃を見つめた。
「護身用だ、使わないことを祈る。弾数は十発、覚えておけ」
ウィンは自身の心臓が早鐘を打つ感覚を覚えた。動悸を落ち着かせるように、アンディに語り掛ける。
「ジーナさんを打ち負かすしかないんですよね?」
「マザーのいる施設に入るにはロック解除が必要だ。彼女がおとなしくしてくれれば、問題なく先に進めるが……」
「無理そうですね。愚問でした」
結局、マザーの居場所に向かうにはアンディの協力が不可欠。そして、アンディを阻止するためにジーナが立ちはだかっている。
やはり、ジーナを倒す他にないのだろう。ウィンは何度か、肩から大きく動かすように深呼吸した。
「良し、覚悟決まりました」
「無理するな。自身の安全を優先しろ」
アンディは自動拳銃を自身の上体の前に構える。彼も準備が整ったようだ。
「ウィン」
アンディの落ち着いた声がウィンを呼んだ。
「なんですか」
「不思議と、負ける気がしない」
あまりにもアンディに似つかわしくない言葉にウィンは失笑を漏らした。くつくつとウィンは震える。
ひゅう、と彼女も息を吸い。
「同感です。思い知らせてやりましょうよ」
その時、二人の耳に足音が聞こえた。強敵の歩み寄る音であった。
タイミングはジーナを充分に引き寄せてから。
アンディは身を縮めながら、ジーナが待つ大通りへ駆けた。奇襲である。ジーナの持つ長銃とアンディの握る自動拳銃では、理想となる交戦距離が大きく異なる。アンディは自身の有効射程にジーナを誘い込んだ上で、不意打ちを狙った。彼女の反応速度を超え、撃たれる前に撃ち抜く。
「なっ――⁉」
そのつもりだった。アンディの足元を弾丸が掠める。一瞬でも回避が遅れれば彼の足首が吹き飛んでいた。
アンディはジグザグに走りつつ、拳銃の引き金をジーナに向けて引いた。何発か連続で発射したが、ジーナは地面を転がって回避する。
再び、アンディは建物の陰に隠れた。弾を補給し、攻撃の機会を待つ。
物陰から覗き見た一瞬の攻防に、ウィンは怖気が背中を這い回るのを感じた。まるで別次元。彼女はアンディとジーナ、二人の間に割って入ることは無理だと思ってしまう。
「二人とも速過ぎる⁉いや、にしては……」
ウィンは違和感を覚える。彼女の眼には、ジーナがまるでアンディの動きを予測していたかのように見えたのだ。奇襲を読み切った、そんな動きだった。
戦闘に関われなくても、何か役に立てれば。ウィンはジーナに気付かれないよう、建物を回り込むように位置を変えつつ、彼女を注視し続ける。
ふと、ジーナがとある建物の方へライフルを向けた。数秒後。
「ッ⁉」
ウィンは見た。アンディが建物から飛び出した瞬間に発砲するジーナの姿を。今度は見間違いではない。
「ジーナさんには、私達の居場所がバレてる⁉」
そうとしか思えない動き。いくら機械人と言えど、異常なまでの予測精度があり得るのか?
「そんなの……」
あり得ない。ウィンは頭を抱える。思い出せ、何かないか。
「……あ、ああ‼」
自身も、地上のセントラルで居場所がバレてしまったことがあった。それは、高いビルから滑空した後。その物体は私を認めると、警報を鳴らした。
ウィンは霧の暗がり、都市の壁に目を向ける。ホシワタリは宇宙を飛び回る性質上、夜目が利く。地下都市の薄闇、その程度なら簡単に見破れる。
「――見つけたっ‼」
彼女は遂に見つけ出した。アナザーセントラルの街並みに配置された鈍色の目玉、監視者の眼。
「すぅ――はぁ――」
ウィンは息を細く吐き、両の目で目標を真っ直ぐ捉える。
落ち着いて、狙って。
震える手、鉄の棒のように固くなった臆病な腕を上げる。上下左右に揺れる小型拳銃の照準が、ぴたりと定まった瞬間。
撃つ。
ウィンは初めて引き金を引いた。
「……また隠れたか」
アンディとの戦闘を幾度か交わしたジーナは弾の補給を行う。連射に不向きな彼女のライフルは弾切れが命取り、余裕のあるうちにリロードをする。
「さて」
先程から妙な銃声が聞こえるのが気になるが……。アンディのものではない。彼の拳銃に比べて、音があまりにも軽過ぎる。
「まぁ良い、確認すれば分かること」
ジーナのカメラアイ、複眼のそれが幾つか光る。目元から情報が流れ込む。
「……見つけた」
カメラアイに映り込んだのはアンディの姿。彼は大通りの裏路地に潜伏しているようだ。
ジーナの複眼は各所に配置された監視カメラとリンクしている。多少の映像の歪みはあるが、機械人程度であれば視認できる。いくらアンディが奇襲を仕掛けようとも、予測は可能であった。
今にアンディが飛び出て来る。彼女はライフルを構えた。
「ッ⁉」
ジーナの反応が遅れる。彼女は一瞬、顎を持ち上げた。
その隙にアンディが身を曝け出し、銃撃を放つ。一発はジーナの右肩へ命中した。飛び散る火花と聴覚デバイスを裂く金属音。
「当たったな‼」
アンディは手応えを感じ、攻めの姿勢に入る。彼は逃さないとばかりに銃弾を乱射し、ジーナを追う。
対するジーナは体勢を立て直すために大通りから細い路地に身を隠す。
「気を取られたな……」
ジーナは自身の損傷を確認、軽微なものだと判断すると次いで顔面に手を伸ばした。複眼を撫でるよう指を這わす。
「監視カメラが破壊されている?」
何故、ジーナに弾が当たったか。それは突如カメラアイにノイズが走り、視界を一部奪われたからであった。
複眼カメラアイのうち、幾つかにノイズが掛かった画面が表示されている。灰色をした砂嵐状の画面の奥、風景は勿論、その音さえも耳障りな雑音で掻き乱される。
ジーナは忌々しげに別の監視カメラの映像に切り替えるが、その瞬間に映ったのは片羽根の人に似た哺乳類。そして、再び雑音とノイズが訪れる。
「やるじゃあないか。ウィン・リーロン」
アンディと接敵する前に聞こえた軽い発砲音は、ウィンが監視カメラを破壊する音だったのだ。
ジーナは小さく笑うと同時、油断していた自身を恥じる。
気を改め、大通りへ向かうよう足を向けた瞬間。足元に何かが転がり込んできた。それは円筒形であり、手のひらにすっぽりと収まるくらいのサイズ感。
「アイツもやるじゃないか」
小型の殺意の塊、爆発物、手榴弾。ここぞとばかりにアンディは取っておいたのだ。
ジーナの複眼は炸裂する紅と橙を映し、爆炎に身を包まれた。
初弾は互いに横へ駆けることで躱す。
続く第二射、膝立ちの姿勢となったジーナはライフルを構え狙いをアンディに定める。獲物を狩る狩人のように目標を確認。あとは引き金を引くだけ。
「逃げろっ‼ウィン‼」
アンディはウィンを逃がすことを優先した。彼は拳銃を乱射し、ジーナの狙撃を阻害する。彼の目論見通り、ジーナは一発も撃たずにアンディとウィンを見送った。
一瞬の間に喧騒は再び静寂に変わる。霧の都市、女性型の機械人は標的を追い詰めるべく侵攻を開始した。
建物の影へと隠れたアンディとウィンは姿勢を低くし、声を潜める。それと同時、耳を澄ませた。ジーナの足音を注意深く、聞き逃さないように。
「渡しておく」
「え?はぁ⁉」
ウィンは思わず大きな声を上げてしまう。
手短な説明と共にアンディより渡されたのは小さな拳銃だった。小型とはいえ、言い表しようのない重量感が彼女の両手に伸し掛かった。
「ど、どうやって使うんですか⁉」
気が動転しているウィンに、アンディはゆっくりと人差し指を振りながら拳銃の使い方を指導する。まるで子供に言い聞かせるように。
「落ち着いて、狙って、撃つ」
「……分かりやすい説明、ありがとうございます」
四の五の言っても仕方ない状況なのだろう、ウィンは眉間に皺を寄せつつ、拳銃を慣れない手付きで握り込んだ。
アンディは肩を竦め、ウィンの拳銃を見つめた。
「護身用だ、使わないことを祈る。弾数は十発、覚えておけ」
ウィンは自身の心臓が早鐘を打つ感覚を覚えた。動悸を落ち着かせるように、アンディに語り掛ける。
「ジーナさんを打ち負かすしかないんですよね?」
「マザーのいる施設に入るにはロック解除が必要だ。彼女がおとなしくしてくれれば、問題なく先に進めるが……」
「無理そうですね。愚問でした」
結局、マザーの居場所に向かうにはアンディの協力が不可欠。そして、アンディを阻止するためにジーナが立ちはだかっている。
やはり、ジーナを倒す他にないのだろう。ウィンは何度か、肩から大きく動かすように深呼吸した。
「良し、覚悟決まりました」
「無理するな。自身の安全を優先しろ」
アンディは自動拳銃を自身の上体の前に構える。彼も準備が整ったようだ。
「ウィン」
アンディの落ち着いた声がウィンを呼んだ。
「なんですか」
「不思議と、負ける気がしない」
あまりにもアンディに似つかわしくない言葉にウィンは失笑を漏らした。くつくつとウィンは震える。
ひゅう、と彼女も息を吸い。
「同感です。思い知らせてやりましょうよ」
その時、二人の耳に足音が聞こえた。強敵の歩み寄る音であった。
タイミングはジーナを充分に引き寄せてから。
アンディは身を縮めながら、ジーナが待つ大通りへ駆けた。奇襲である。ジーナの持つ長銃とアンディの握る自動拳銃では、理想となる交戦距離が大きく異なる。アンディは自身の有効射程にジーナを誘い込んだ上で、不意打ちを狙った。彼女の反応速度を超え、撃たれる前に撃ち抜く。
「なっ――⁉」
そのつもりだった。アンディの足元を弾丸が掠める。一瞬でも回避が遅れれば彼の足首が吹き飛んでいた。
アンディはジグザグに走りつつ、拳銃の引き金をジーナに向けて引いた。何発か連続で発射したが、ジーナは地面を転がって回避する。
再び、アンディは建物の陰に隠れた。弾を補給し、攻撃の機会を待つ。
物陰から覗き見た一瞬の攻防に、ウィンは怖気が背中を這い回るのを感じた。まるで別次元。彼女はアンディとジーナ、二人の間に割って入ることは無理だと思ってしまう。
「二人とも速過ぎる⁉いや、にしては……」
ウィンは違和感を覚える。彼女の眼には、ジーナがまるでアンディの動きを予測していたかのように見えたのだ。奇襲を読み切った、そんな動きだった。
戦闘に関われなくても、何か役に立てれば。ウィンはジーナに気付かれないよう、建物を回り込むように位置を変えつつ、彼女を注視し続ける。
ふと、ジーナがとある建物の方へライフルを向けた。数秒後。
「ッ⁉」
ウィンは見た。アンディが建物から飛び出した瞬間に発砲するジーナの姿を。今度は見間違いではない。
「ジーナさんには、私達の居場所がバレてる⁉」
そうとしか思えない動き。いくら機械人と言えど、異常なまでの予測精度があり得るのか?
「そんなの……」
あり得ない。ウィンは頭を抱える。思い出せ、何かないか。
「……あ、ああ‼」
自身も、地上のセントラルで居場所がバレてしまったことがあった。それは、高いビルから滑空した後。その物体は私を認めると、警報を鳴らした。
ウィンは霧の暗がり、都市の壁に目を向ける。ホシワタリは宇宙を飛び回る性質上、夜目が利く。地下都市の薄闇、その程度なら簡単に見破れる。
「――見つけたっ‼」
彼女は遂に見つけ出した。アナザーセントラルの街並みに配置された鈍色の目玉、監視者の眼。
「すぅ――はぁ――」
ウィンは息を細く吐き、両の目で目標を真っ直ぐ捉える。
落ち着いて、狙って。
震える手、鉄の棒のように固くなった臆病な腕を上げる。上下左右に揺れる小型拳銃の照準が、ぴたりと定まった瞬間。
撃つ。
ウィンは初めて引き金を引いた。
「……また隠れたか」
アンディとの戦闘を幾度か交わしたジーナは弾の補給を行う。連射に不向きな彼女のライフルは弾切れが命取り、余裕のあるうちにリロードをする。
「さて」
先程から妙な銃声が聞こえるのが気になるが……。アンディのものではない。彼の拳銃に比べて、音があまりにも軽過ぎる。
「まぁ良い、確認すれば分かること」
ジーナのカメラアイ、複眼のそれが幾つか光る。目元から情報が流れ込む。
「……見つけた」
カメラアイに映り込んだのはアンディの姿。彼は大通りの裏路地に潜伏しているようだ。
ジーナの複眼は各所に配置された監視カメラとリンクしている。多少の映像の歪みはあるが、機械人程度であれば視認できる。いくらアンディが奇襲を仕掛けようとも、予測は可能であった。
今にアンディが飛び出て来る。彼女はライフルを構えた。
「ッ⁉」
ジーナの反応が遅れる。彼女は一瞬、顎を持ち上げた。
その隙にアンディが身を曝け出し、銃撃を放つ。一発はジーナの右肩へ命中した。飛び散る火花と聴覚デバイスを裂く金属音。
「当たったな‼」
アンディは手応えを感じ、攻めの姿勢に入る。彼は逃さないとばかりに銃弾を乱射し、ジーナを追う。
対するジーナは体勢を立て直すために大通りから細い路地に身を隠す。
「気を取られたな……」
ジーナは自身の損傷を確認、軽微なものだと判断すると次いで顔面に手を伸ばした。複眼を撫でるよう指を這わす。
「監視カメラが破壊されている?」
何故、ジーナに弾が当たったか。それは突如カメラアイにノイズが走り、視界を一部奪われたからであった。
複眼カメラアイのうち、幾つかにノイズが掛かった画面が表示されている。灰色をした砂嵐状の画面の奥、風景は勿論、その音さえも耳障りな雑音で掻き乱される。
ジーナは忌々しげに別の監視カメラの映像に切り替えるが、その瞬間に映ったのは片羽根の人に似た哺乳類。そして、再び雑音とノイズが訪れる。
「やるじゃあないか。ウィン・リーロン」
アンディと接敵する前に聞こえた軽い発砲音は、ウィンが監視カメラを破壊する音だったのだ。
ジーナは小さく笑うと同時、油断していた自身を恥じる。
気を改め、大通りへ向かうよう足を向けた瞬間。足元に何かが転がり込んできた。それは円筒形であり、手のひらにすっぽりと収まるくらいのサイズ感。
「アイツもやるじゃないか」
小型の殺意の塊、爆発物、手榴弾。ここぞとばかりにアンディは取っておいたのだ。
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どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
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