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2章 Secret Origins

【十七】おとなになってからのが楽しいって

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ジェーンを不老不死に。
そんな野望を謳う美女は続ける。

「君に押された国賊のレッテルは寝耳に水だったけど、
 これは追い風とも考えられるよ。
 良い機会だから、この国の王にまず君を据えよう」

「どうして……?」

クレオを親友、姉として慕っているジェーンでも、
肯定しきれない発言だったようだ。
当たり前のことだ。ジェーンは権力欲がまったくない。
やりたいことしか見ていない。

それに彼女を知る人間なら、
王や神にしてはいけない人間だともよくわかるはずだ。

「私は前世を嫌悪してやまない。
 己が一番特別だと証明して何になる?
 あの男は百万年も己の証明に固執して、そしてどうだ。
 今では誰も奴のことを覚えてはいない」

まずいぞ。このプレッシャー。
この底から来る迫力は、
僕にとっての運命の日そのものだ。

「だから、君なんだ、ジェーン。
 君を全宇宙、宇宙が終わっても消えない不朽の永遠にし、
 僕はその横で束の間の伴侶の座に陶酔したい」

「ちょっ、あたしって、そこまでの人なの!?」

「君ほどに特別な人間はいない」

「たしかに……」

納得してしまった。
ならここで、
僕が唯一抱えていた疑問をぶつけさせてもらおう。

「君は死刑囚の減刑を条件に人体実験しているんだよね」

「そうだよ? 合理的かつ誰も困らない」

「これって……研究が進めば進むほど、
 不老不死の凶悪犯が巷にあふれることにならないか?」

「……あ、そういえば」

「気づきませんでした」

よし。鋭い一言を切り込めた。
これができなかったら、
エルロンド姉弟が揃ってクレオサイドについてしまっていただろう。

「それに、どうして自分に永遠の命を齎そうと考えない?
 君はジェーンを独りにしたいのか?」

先程、クレオは側にいたいと述べていた。
ならば自分も永遠の生命を求めて当然のはずだ。
二人で永遠を生きるという選択を、
あえて避ける理由があるはずだ。

「ジェーンに、愛に尽くしたいんだ。
 前世で、あの男がスゲーマンを殺した瞬間、
 奴の心にどれだけの虚無が広がったか、想像できるか?
 二度と、あんな気持ちを味わうのはごめんだ」

……それは知らなかった。

「スゲーマンを殺した瞬間に、奴の人生も終わった。
 それも全てが無意味な執着だったと、
 受け入れざるを得ないくらいに。
 卑怯だと思うかもしれないけどね。
 私は最高の存在を永遠にしたという多幸感に包まれて、
 今世を終わらせたいんだよ」

「ずいぶんと前世に引っ張られているね。
 君はもっと理性的で、現世重視だと思っていた」

これまでの彼女の振る舞いを見る限り、
浪漫や感傷、ペシミズムとは無縁に思えた。

「二人の思い出を継いでしまったら、どうしてもね」

「少し割り込んでいいですか。
 俺は騎士団長として国防に務めてきましたし、
 今はスゲーマン様を見て、
 汚れ仕事と決別した光の道が見えてきました。
 その上で、貴方の計画はリスクが高いです。
 不死身の重犯罪者を増やされては、国民が困ります」

そうだ。僕に続いてエドガーが良いことを言った。
ジェーンも遅れて追従しようとする。
じわじわと事態を理解できてきたようだ。

「あたしも……それはマズイと思う。
 だってそうなると、シヴィルリーグがやってたみたいに、
 真っ当に頑張ってる人の足を引っ張ることになるわ。
 それは良くないでしょ」

治安向上のために貧民窟で頑張っていた兄弟のことだ。
彼らが襲われているのを見て、
救国の暴君だったジェーンも、
より広範囲に貢献しようと決意していた。

クレオの迫力と語りの前に、
きちんと初心を思い出してくれた。
僕は胸を撫で下ろした。

「まあ、コラテラル・ダメージについては、
 追々考えようじゃないか?」

「事前に考えてください。
 そうでなければ、貴女を止めます」

エドガーの胸板が厚くなる。
戦いを予感してパンプアップしたのか、
それとも威圧なのか。

「ちょっと待ってよ。
 そんなにすぐ争いを選んだら、話が纏まらなくなるわ」

仲裁に入る姉だが、弟は聞かない。

剣を抜き、詠唱を始めると、
エドガーの剣は戦斧へと変わった。
立派な体躯の二倍はあるだろう斧。
“マッスルボディの使い道”と言っていたが、
たしかにこれほどの膂力を有していれば、
そう思っても仕方ない。

「ふう……やれやれ。
 “お楽しみの時間”ってわけか?」

「クレオも乗らないで!」

聖女が声を荒げた。

「残念。手遅れだ。私はもうワクワクしている」

空間の四方八方から、収容者の扉が開く。
クレオの言葉に応じて、治験参加者が現れた。
だが、その中にこれといった強者は見えない。
肉体は頑健で病もない。だが、それだけだ。
戦いのプロではない。

「不老不死を作る上で、
 私は何が一番手っ取り早いか考えた。
 それはテロメアを克服することよりも、
 人でいる軛を消すことだと思ったわけだ」

投薬実験を受けていた人々の形が溶け、
ぶよぶよとした肉塊へと変わる。
骨や内臓がある通常の人間にはありえない動きだ。
熊ですら肉の塊になっている。

どういうことだ。
戦いに入るのが急すぎる。
まるで最初から、こうするつもりだったかのようだ。

「まあ、ジェーンはこの路線を嫌がるかもしれないけどさ。
 物事って、一つを極めたら次の分野にも応用が効くし、
 今のところは、ってことで満足してよ」

クレオの体に不定形の肉塊が群がり、
スラリとした美貌の女性が埋まった。
親友が声を上げようとするが、
それよりも速く、触手が襲いかかる。

「これは!?」

「とりあえず肉体不定形者──シェイプシフターにしてみたんだ」

戦斧で叩き落としたエドガーが、
その手応えに眉を顰める。
硬度はさほどではないが、
断ち切った瞬間から再生していく。
再生を上回る攻撃で両断しても、
すぐに主の元へ戻っていった。

シェイプシフターとは、
魔法や技術ではなく、
肉体そのものを変形・変質させ、別の姿になる者たちだ。
戦いにおいては変幻自在の攻撃と移動が厄介で、
おまけに超怪力と超速度を併せ持つ。

クレオは、そのシェイプシフター十人分を
自分の肉体に接続させていた。

「凄いだろう。触手は十本。
 切っても戻って来るし、自己再生もするから消えない。
 私の意志が電気信号として通るから、
 言葉のない命令と操作もできる」

エドガーは攻撃を察知し、即座に叩き切った。
だが、親友に攻撃されても、
即応できないのが人というものだ。

ジェーン・エルロンドは、
弾丸も通さない体を肉塊に絡め取られ、
壁へ押し付けられていた。
普段なら押し返せるはずの力が、今は出ない。
親友が触手になっているという事実が、
彼女の力を奪っていた。

「それと、私の肉体に繋がっているからね。
 こうして無敵の肉体にも攻撃が通る。
 君たちでも勝てないんじゃないかな?
 だってスゲーマンの弱点って、愛なんだからさ」

生前、弾丸も毒ガスも光線兵器も跳ね返した僕の肉体に、
覿面に効いたのが“縁”だった。
深い関係を持つ相手に攻撃されると、
僕は普通の人間同然になる。

家族に殺されかけたばかりのジェーンの心は、
クレオが大部分を占めていた。
だからこそ、愛を向ける親友の存在が、
致命傷として響く。

「ジェーン。事前に言ったよね。
 ここは僕が代わる。君は休んでいていい」

「ううん……!! あたしがやる!」

藻掻くが、抜け出せない。
やり方はわからないが、
ここで僕が再び主導権を握れれば、
クレオの攻撃にも怪力が通るはずだ。

だがジェーンは、それを選ばない。
親友と向き合いたいのだ。

戦略的には最善ではない。
それでも、僕は否定しない。

ヒーローは時に、
個人的なワガママにすべてを賭けるものだからだ。

少女の首元に展開されたマント。
今の僕そのものが動き、
肉の触手を斬った。

予想通り、ジェーンには無理でも、
僕ならクレオに攻撃が通る。

「よかったよかった。
 それなら私とも勝負が成立するね。
 じゃあ、ヒーローとヴィランのごっこ遊びの始まりだ。
 僕たちが出会ったのは、少し大きくなってからだったからさ。
 こういう無邪気な戯れは、できなかったもんね」

彼女の両手の特殊なグローブが魔力光を放ち、
それが触手へと伝播していく。
正体は不明だが、危険なのは明白だ。

「でも子どもの遊びって、
 おとなになってからのほうが、
 本気になれて楽しいって言うしさ」

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