49 / 92
2章 Secret Origins

【十九】愚鈍な性根のスゲーマンにはない革新家たるエネルギー

しおりを挟む


「初めて会った感想は、
 “手酷く破滅してほしい馬鹿”だった。
 最初は君が疎ましかった。
 何もかもを持っていて、楽観的で。
 些細なアイデアや原始的な欲求一つでワガママを押し通したがる。
 それに見ていると酷くイライラしてさ。
 いつか殺す機会があったら喜んでやろうと思っていた」

戦いが始まってのカミングアウト。
無毛の人皮の触手がやって来るのをジェーンは避ける。
世界一だろう頭脳による触手はそれぞれが別個の動きをする。
それのどれもが規則性のない独立した動きをする。

「姉さん! 耳を貸しすぎずに戦ってください!」

弟のエドガーが叫ぶが二人の世界には届かない。
しかも彼は彼で触手を相手取っている。
本来はこちらを注意する余裕もないのだ。
その証拠に、攻撃を受けたのを筋肉で耐えた。

大した頑丈さだ。
拳銃程度では針が刺さった程度のダメージしか与えられないだろう。
マッスルボディを持て余していたという彼の談は事実だった。

「君の相手をしたのは、祖父の顔を潰さないための処世術だった。
 だが、君は私の言葉一つ一つを形にし、自分の願望を世に形とした。
 愚鈍な性根のスゲーマンにはない革新家たるエネルギー。
 君の覇道を目にしていると、
 いつしか私の中で君の笑顔は歓びになり、悲しみは絶望になった」

「あたしも、クレオのことは大好きだよ!
 笑ってくれたらあたしも嬉しいもん」

長年の親友によるカミングアウトの濁流。
激しい情熱の吐露を受け続け、
目を回し気味だった。

「ハッキリ言うと君が怖かったなあ。
 前世の在り様を知ってしまっていたからね。
 私も年がら年中、頭の中が誰かのの顔で一杯になるほどの想いを抱くかもしれない。
 どれだけ自分はそうならないと思っても、確信には至らなかった。
 だってね、心では否定しきれないんだよ。あんなときめきを味わいたくないとはね」

……ときめき?
誰が誰にだろうか。
クレオの言葉はどれもうわ言めいている。

「あたしもクレオと一緒ならいつもワクワクしてた!」

ジェーンは細かく相手の言葉を拾って反応した。

「恋の熱情。それに耐えることが我が人生だった。
 君のことを殺すという気持ちは、
 この国から餓死者が消え、君に無垢なハグをされた瞬間、蒸発した。
 ついでに私の理性も焼き消えかけた」

ジェーンは真摯に返事をしているが、
クレオには一切響いていない。マズすぎる傾向だ。

ヒーローとアークヴィランというのは、
アークヴィラン側は闇雲に宿敵に
重く暗い情熱をぶつけ続けるが、
相手からの説得には応じない。

今のクレオはまさにそれだ。

一本の攻撃をジェーンが跳んで躱すと
着地を待って次の触手が着地を狙って伸びかかってくる。
完璧なタイミングだ。
それに角度も、クレオの意識が介在してこそできる
ジェーンの死角をバッチリ突いた一撃。

「いっそ殺してしまえばと……今も思えたらいいのかも」

足を取られて転び、
そのまま足首に巻き付いた触手がジェーンを逆さ吊りにした。
上下逆さになった聖女、親友の顔に
触手をバネにした一足飛びで接近した。

ジェーンの顎を両手で包み込む、
クレオがジェーンを見つめる瞳は、
熱く、愛情がたっぷり満ちている。

殺意をカミングアウトしていたとは到底思えない。
本人の言葉通り、クレオの感情はジェーンへの愛情に満ちている。
やはり僕とセイメイとはまるで違う関係なのだ。

地上に向かって垂れる長い髪を他の触手が丁寧にトリミングし、投げ飛ばす。
空中で身を捩って足から着地したジェーンには、
本来のヘアスタイルとは違う巻き毛になっていた。

「ジェーン・エルロンドのひとつひとつを私の手で
 救国の聖女に押し上げて仕上げていくとね。
 わかるんだよ。君への愛情が積み重なっていくのが」

「あたしもクレオと一緒に何かをすると、
 あなたへの憧れと好意が強くなったのよ!
 特別な人そのものだわ」

ジェーンがどれだけクレオに感謝しているか、
強い好意を向けているのかは僕が知っている。
今はこうして戦うことになってしまったが
彼女に親友を倒すことなど出来ないだろうことはわかる。

この戦いはあくまで相手が望み、
話し合いを徹底拒否して始めたものだ。

「ああ、ジェーン!
 その無垢な好意を晒すのはやめてくれ。
 僕にだって朝露を垂らす蜘蛛の糸を見れば、
 グシャグシャにする衝動に耐えられない時があるんだ」

「なんで蜘蛛?」

この手の感情、殺意めいた重い激情。
それが乗ったやり取りに不慣れなジェーンには、
必死に向き合って対応するにも限度があった。

だが、それなら僕はというと、
僕とセイメイの関係はもっと憎しみと怒りに満ちていた。

こういうのはヒーロー仲間たちが取り合っていた問題だった。
当時の仲間にそういうと「自覚してないだけだ」と言われたが、
本当にそうだっただろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

処理中です...